一之瀬 side
あの後、ケセドがいた場所や屋上を訪れてみたものの、これといった発見はできなかったな。何か痕跡があったわけでもないし、仕方ないのかもしれないね。だけど、ケセドの情報なら綾小路君達との話し合いで得られたし、これで良しとしておこっか。
それにしても、ケセドの狙いって何だろうね。ケセドは罪をなすりつけるために須藤君って人の指紋を残したのに、自身の目撃者である葛城君に危害を加えないなんてどう考えても矛盾している。誰だって自身の計画の邪魔になる目撃者は消しておきたいはず。もしかしたら、それをしないんじゃなくてできない理由があるのかも。
そうとしか思えないけど、できない理由って何なのかというところが分からない。理由さえ分かれば、ケセドの弱点みたいなものも分かるのにな。まぁ、私の任務は預言者の討伐ではないし、考えても仕方ないか。細かいことは明星さんが考えているだろうからね。そんなことを考えながら寮の廊下を歩いていると、協力関係にある人が見えた。
「あれ、綾小路君だ。早いんだね」
「今日はちょっと早く目が覚めてな。そういう、一之瀬こそ明星の護衛はしなくていいのか?」
「今の時間は別の人が護衛をしているよ。登校から授業が終わるまでの間は同じクラスの人が護衛に向いているからね」
「そうなると一之瀬は下校から寮に帰るまでだから意外と短くないか?」
「それがそうでもないんだよ。明星さんは部活に通っているから、その間も護衛する必要があるの。それに休日の護衛も私の任務だしね」
実際、授業中よりも放課後の方が明星さんにとっては危険だと思う。部室は秘密の場所にあるし、立入禁止区域も部室からは近い。時間の割に気を張らなきゃいけないのは私の方だ。
「そういえば、何で明星の護衛をしているんだ? あいつは頑丈なんだろ?」
「これは国に聞かないと分からないよ。多分だと思うけど、客人を傷つけないためじゃないかな」
「なら、オレ達生徒にも護衛をつけてほしいもんだ」
「多分、綾小路君には必要ないと思うよ。それにオカルトは護衛がいてもどうしようもない。それこそ、逃げるしかないんだよ」
綾小路君にはそう言ったけど、それくらいのことをした方がいいとは私も思う。気休めにしかならないとしてもオカルト的存在が高育にいると分かっている以上、それくらいの措置は必要かな。よほど、デカグラマトンがいるって気づかれたくないみたいだね。
「オレには護衛が必要ないってどういうことだ?」
「だって、綾小路君は特異現象捜査部に所属しているんだよね。だったら、軍人の足を引っ張らない程度に鍛えられているんじゃないかな?」
「流石にそこまでではないと思うが、そういう評価になるのか」
特異現象捜査部とは預言者と戦うための部活だということは聞いている。つまり、そこに所属している綾小路君は、預言者と戦うだけの身体能力を持っているということ。おまけに忍者である私の存在にも気づけるとなると、私では多分勝てないだろうね。
「あ、そうだ。綾小路君は夏休みのこと聞いた?」
「あぁ、バカンスがどうとかってやつか。信じていないんだが、本当にバカンスなんてあるのか?」
「正直なところ、やっぱり怪しいよね。私はそこで何か起きるんじゃないかって睨んでいるの」
「その何かって、クラスポイントに関係することか?」
「それもそうだけど、それ以外の何かが起きる気がするんだよね」
実際、クラスポイントに影響を与える何かは存在すると思う。じゃないとクラス間のポイントの差は埋まらないどころか変わることもない。だけど、私が危惧しているのはそのことじゃなくて、もっと別のこと。
「例えば、預言者関連のこととか」
「それはどういうことだ?」
「生徒の中にも預言者はいたんだよね。だったら、教師の側にも預言者がいてもおかしくないと思う。その教師が毎年行われているであろうバカンスを餌にして、生徒達を襲うとかありそうじゃない?」
「恐ろしいことを思いつくな。確かにないとは言い難いが、教師は軍人で全員の身元が分かっているんだろう? そこまで警戒する必要はないんじゃないか?」
「それもそっか」
私が口にしたのはあくまでも可能性の話。それでも可能性がある以上、疑ってしまうのが普通のことだと思う。実際、身元の確認ができている佐倉さんだって、預言者の内の一つであるケセドだったわけだし。そうだ、佐倉さんのことを綾小路君にも聞いておかないと。
「綾小路君、佐倉さんのことをどうするつもりなの?」
「その話か。前にも言っただろう。無罪にしてみせるってな」
「そっちじゃなくて、最終的にデカグラマトンは排除するんだよね? じゃあ、佐倉さんのことも殺さなきゃいけないわけだけど、明確な意思を持って殺せる?」
「それは……難しい話だな」
「難しい話だけど、必要な話だよ。とりあえず、放課後にまた聞きに行くから」
学校に近づいてきたこともあって、話しにくくなってきたので、一旦はお開きにする。明星さんは倒す意思はありそうだったけど、殺すっていうのがどういうことなのか分かっているのかな?
◇
教室に行っても彼はいなかった。おそらく、すでに帰っちゃったんだろう。まぁ、どこで集合とか言わなかったからね。仕方ないから帰ろうと学校の玄関前まで行くと、人混みの中に綾小路君を見つけた。靴を履き、綾小路君に近づく。
「綾小路君、質問の答えを聞きにきたよ。でも、ここじゃ人が多いから私についてきて」
「お、おい」
私が綾小路君の腕を引っ張ると、そのまま学校の裏側にある体育館裏に到着。途中、色々な人にジロジロと見られたけど、噂にはならないと思う。私はリーダーだけど、名前は知られていないし。これは悲しくなる事実だけど、仕方ない。
「じゃあ、今朝の質問の答えを聞かせてもらおうかな?」
「流石に一日も時間がなかったんだから、結論がそう簡単に出せるわけがない」
「そう? 時間的余裕は結構あったと思うけど」
「殺すか殺さないかの話だぞ。そんな簡単に決めて良いことではない」
私は正論を言われているんだろうね。確かにそんなものは一時の感情で決めて良いものじゃない。だけど、相手は預言者。迷っている内にこちらが攻撃されて死ぬことになる。だから、迷っている暇はない。
「まぁ、安心して。あくまで覚悟の話が聞きたかっただけで、殺す方法はまだ分かっていないから」
「これから先、その覚悟が必要になるってことか。肝に銘じておこう」
それだけでも分かってくれたなら、私は嬉しいな。というか、これって余計なお世話ってやつだよね。これはやらかしちゃったな、どうしよう?
「そういえば、放課後は明星の護衛を担当するんだよな? オレと二人でここにいて良いのか?」
「そのことに関しては山村さんにメールで伝えてあるから問題ないよ。まぁ、借りができちゃったから何か返さないといけないね。何を返せば良いのかは本人に後で聞いてみるよ」
「あぁ、そうしてくれ。それに、ここに来たのはさっきのことだけが理由じゃないんだろう?」
「なんでそう思うのかな?」
「なんとなくじゃダメか?」
「ううん、別にいいよ。正解だし」
確かに綾小路君をここに連れてきたのは覚悟を聞くためだけじゃない。覚悟を聞くだけなら、明日の朝や昼休みにでも聞けばいい話だからね。多分、同じことを綾小路君は気づいているんだろうな。
「私、ここで告白されるみたいなの」
「それ、オレはここにいない方が良いんじゃないか?」
「私、忍者だから告白された経験なんてなくて。どう答えれば良いのか分からなかったから」
「オレも恋愛経験なんてないぞ。同じ忍者の仲間にでも聞けば良いんじゃないか?」
「他の人達も恋愛経験なんてないから。ただ、山村さんには相談したんだけど、指定の場所には行くようにとしか言われなくて」
私宛ての手紙を見た時は結構、驚いちゃった。私は忍者だからそういうことには縁がないと思っていたから。それだけ、熱心に私のことを考えてくれていたってことだよね。
「だから、どうやったら傷つけないように済むのか教えてほしいの。彼氏のフリをするわけにもいかないし」
「まぁ、後でバレる嘘なんて最悪だからな。ところで、相手はあとどれくらいで来るんだ?」
「もうすぐ、来るよ」
「なら、オレから言えることは一つだけだ。断りたいなら、相手を傷つけない方法なんてない。正直に伝えることだな」
「正直に……か。分かった、正直に伝えるよ」
綾小路君は体育館裏から去っていくのとすれ違いで一人の女の子がやって来た。名前は白波千尋。同じBクラスの人だ。
「あの……手紙、読んでくれたんですね」
「うん、読んだよ。それにしても、よく私のことを覚えていたよね。クラスの皆は忘れちゃっているのに」
「当たり前じゃないですか。一之瀬さんのことを忘れるはずがありません。皆、失礼なんです。一之瀬さんにリーダーを押し付けた挙句、名前を忘れているんですから」
私が忍者だから忘れているとは言えないよね。でも、正直に話さないといけないから、話せる限りのことは伝えるよ。
「それで、その……私、一之瀬さんのことがずっと好きでした! 付き合ってください!」
「嬉しいな。私のことが好きな人がいて。でも、今はダメなんだ。やらなきゃいけないことがあるから」
「それじゃあ……」
「あっ、誤解しないで。別に嫌だったってわけじゃないから。ただ、やらなきゃいけないことが終わって私のことがまだ好きだったら、その時にもう一度告白してほしいの。私も誰かに好きになってもらえたのは初めてだから」
「はい、分かりました! あの、ありがとうございます! やらなきゃいけないことが終わったら、私に必ず伝えてください!」
少しだけ濁して伝えたけど、これで良かったのかな? ちょっと、変だったりしていないよね? 千尋さんは涙交じりの笑顔を見せた後、体育館裏から立ち去った。
ちなみに一之瀬さんは仲間が大切なので、白波さんを傷つけたら石崎達のようになります。