昨日、綾小路君がケセドに襲われたそうで部室で寝泊まりをするそうです。メールでそのことについてと疑問に思ったことについて送られてきました。特に二つ目に関しては自分では分からないので、一緒に考えてほしいとも。
「店員が騒がなかった理由ね。騒いでいたけど、綾小路が気が付かなかっただけじゃないの?」
「いえ、逃げる騒ぎ声というものは大きいものですから気が付かないというのは少し無理があるかと」
キヴォトスの外の人は銃声が聞こえた場合、身を隠すか逃げようとするらしいということは知っています。それにキヴォトスでも怪我人を見かけたら普通に驚きますよ。怪我をすることが少ないだけで。
「ところで、今回は何の騒ぎですか? 主に男子生徒が騒いでいるようですが」
「女子のいる階には伝わってこなかったか。夜遅くに寮内で銃声が聞こえたそうだ。目撃者によると全身白い格好の女が誰かの部屋に入って、その後何発も銃声が聞こえたらしい」
「目撃者がいたんですね」
その人物はケセドで確定でしょう。おそらく、寝静まった頃に綾小路君を殺そうとしたのでしょうが、そのことに気がついた綾小路君によって失敗に終わったということですか。いるかどうかの確認もしなかったというのは、よっぽど急いでいたんでしょうね。
「それにしても目撃者も気にしないとは。豪胆というやつでしょうか」
「だが、これで綾小路が何処にいるのかが分からなくなったのは良かった」
「いえ、授業の最中は同じ教室にいるわけですから放課後に尾行すれば何処にいるのかは分かるでしょう」
「なら、どうすれば良い?」
真面目な葛城君には思いつかないことですが、私のような人間には思いつくことがあります。おそらく、Dクラスの人でも思いつくことでしょう。
「部長として綾小路君を死なせるわけにはいきません。そのため、部費を使って彼をサボらせました」
「なるほど、確かにずっと部室付近に留まっていれば、ケセドは尾行できない。命がかかっている以上、やむを得ないか」
「ですが、部費も無限ではありません。いつかは彼を登校させないといけない時が来ます。その日がタイムリミットとなるでしょう」
「つまり、それまでにケセドを倒せということか」
そのためにはケセドを追い詰める必要があります。そのための絶好の機会となるのが、CクラスとDクラスの事件。これでケセドは佐倉愛里だと証明できれば、佐倉愛里としてこの学校にいることはできなくなるでしょう。もっとも、ケセドとして留まり続けることになると思いますが。
「堀北さんには悪いですが、私達も事件に介入させていただきましょう。Dクラスの佐倉愛里を裁くために」
「だけど、どうやって裁くの? 今のところ、佐倉愛里を見たっていう葛城の証言しかないのよ」
「それについては、綾小路君が襲われたということを先生方に告げています」
「それで本当に追い詰められるのか?」
訴えた者勝ちであるこの学校では追い詰めることはできると思います。一応、綾小路君の怪我は証拠になりますし。捏造した証拠を挙げられでもしない限り、退学させることができるでしょう。
「一応、念のためにケセドが過去に起こした事件について調べたいのですが、それは放課後にしましょうか」
資料にはケセドの特徴が書かれているだけで何の事件を起こしたのかまでは書かれていませんでした。学校側に聞けば何か分かると思いますが、また部費を使うことになるのでしょうね。
◇
私は確認のために放課後の職員室にまで足を運んでいました。葛城君と神室さんにはショッピングモールであることをしてもらうため、一人で行くことになりましたが。
「ケセドが過去に起こした事件か。どうして、それを?」
「今まで預言者が何か事件を起こしたという話は聞いたことがありませんでしたが、よく考えてみると妙だと思いまして」
「妙?」
「目撃者であるかもしれない綾小路君を躊躇なく襲うような連中ですよ。人に配慮するわけがないじゃないですか」
そのため、一度も事件を起こしていないとは考えにくいでしょう。おそらく、事件は何度か起きており、その度に隠されてきたはずです。その予想は当たっていたようでため息と共に話してくれました。
「確かに事件は何度か起きている。この学校の中でも外でもな。その度に政府が隠してきた。それで、知りたいのはケセドが起こした事件だな。念の為に聞くが何故、知りたいんだ?」
「綾小路君から聞いたことなのですが」
私は綾小路君から聞いた二つ目の疑問について話しました。それを聞いた先生は確かに不思議がってはいましたが、同時にそれがどう繋がるのか疑問に思っているご様子。
「荒唐無稽な話ですが、ショッピングモールの店員はケセドに何かをされているのではないかと思いまして。例えば、入れ替わりだとか」
「入れ替わり?」
「人間に擬態することができるのですから、人間にそっくりな機械兵を作ることもできると思います。特にケセドなら。店員が入れ替わるようなことが起きたことはありますか?」
「……ある」
真嶋先生は少し考える素振りを見せた後、肯定の返事を口に出しました。何個も事件がある中で覚えているということはよほど大きな事件なのでしょう。
「それで、その事件はどのようなものだったのですか?」
「ある日、ショッピングモールにケセドが現れたそうでな。そこにいた店員が皆殺しにされたらしい」
「らしい、というのは?」
「まだ、軍がこの学校に着任する前のことだからな。その事件で店員がいなくなったので、新しく補充に入ったらしい。入れ替わるとしたらその時だろう」
そんな大事件が起きていたというのに知られていないというのは恐ろしさを感じてしまいますね。国の主導で非人道的なことが行われていたとしても隠し通せそうです。
「それにしても、資料を見ずによくこの事件を思い出せましたね」
「あぁ、この事件がきっかけで軍が派遣されたからな。俺たちが派遣されてからは皆殺しになるような事件は未然に防ぐことができている。それでも多少の犠牲は出してしまうがな」
今回のCクラスが襲われた事件も多少のうちの一つに入ってしまっているのでしょう。だから、学校の対応もあまり慌てていないのですね。
「それで、仮に入れ替わっているとしてもどうやって調べるつもりだ?」
「現在、神室さんと葛城君にはショッピングモールでサーモグラフィーカメラを使ってもらっています」
「そんなものをどうやって?」
「最近は簡単にサーモグラフィー機能のあるアプリをダウンロードできるのですよ」
校則ではアプリのダウンロードに関しては特に禁止されていないため、怒られはしませんでした。ただ、そんなアプリがあったのかと驚いている様子でしたが。
「このアプリがあれば、機械兵なのかどうかはすぐに分かるでしょう」
「それが分かったとして、どうするつもりだ?」
「もしも、機械兵なのだとすればケセドを追い詰めることができるかもしれません」
「どういうことだ?」
「実は綾小路君が撃たれた時の監視カメラの映像をハッキングして見てしまいましてね」
真嶋先生は驚いたような顔をしていますが、私としては当然の行動です。部員が殺されかけた証拠となる映像を確認しないわけがありません。
「その映像によると綾小路君を撃ったのは店員でした。おそらく、ケセドが自分ではないことを証明するためにやったのでしょうが、むしろ逆効果になってしまったというわけですね。あまり、頭は良くないのでしょう」
「俺としては勝手にハッキングしたことについて怒りたいが、そうは言ってられない状況だろうから見逃すとしよう」
学校側がこの映像を確認しても店員が撃っただけの証拠になり、佐倉さんの無実を証明することになるでしょう。しかし、佐倉さんがケセドであり、店員が機械兵であるのならば話は別です。機械兵を操ることができるのは今のところはケセドしかいません。つまり、店員を操って撃たせたのは佐倉さんということになります。
「状況証拠から佐倉さんをケセドだとすることはできるのですが、もっと追い詰める証拠が欲しいところですね」
「実はだな、深夜に起きた銃撃事件の写真が学校に提出されている。これなんだが、白いだけで佐倉にそっくりじゃないか?」
写真を見ると確かに佐倉さんに顔は似ています。いえ、瓜二つと言ってもいいかもしれません。しかし、これは全身白い少女の存在を証明しただけであって佐倉さんへの決定打にはならないと思います。いや、映像……少しだけ仕掛けてみるのもありですかね。
「ありがとうございます。おかげで解決方法を思いつきました」
「本当か!?」
「えぇ。ですが、グレーなことなのであまり公にはできませんが」
綾小路君も昨日、そのようなコーナーにいたらしいので同じことを考えているでしょう。あとは部室に戻って綾小路君と作戦会議ですかね。
◇
部室に戻ると綾小路君の他に神室さんと葛城君が戻ってきていました。二人とも撮影が終了したようですね。早速、二人の撮ってきた映像を見てみると予想通り、普通の人と店員は明らかに体温が違っていました。
「二人から聞いたが、Aクラスも介入するんだって?」
「えぇ。Dクラスには悪いですが、佐倉さんを排除しない限り、綾小路君に平穏は訪れませんから」
「部員のことを優先してくれるのはありがたいが分かっているのか? 佐倉を排除するということの意味を」
えぇ、分かっていますとも。しかし、それをやらなければ綾小路君は死んでしまいます。キヴォトス人にとって人の死とは何よりも避けたいものですから。一部の例外を除いてですけど。
「ところで綾小路君としては佐倉さんをどうするつもりですか?」
「Dクラスとしては佐倉を庇った方が良いんだろうな。だが、オレの個人的な意見としてはこのまま野放しにしておく方が危険だ。排除すべきだと思う」
「まぁ、今のターゲットは綾小路と葛城だからね。確実に殺せるまでまた何かやらかしそうではあるか」
「そして、綾小路が隠れているのなら次に狙われるのは俺だろうな」
つまり、神室さんと離れるタイミングを狙っているというわけですか。神室さんは訓練生であるとはいえ、軍人ですからね。おそらく、気を抜かない限り葛城君の側を離れることはないでしょう。とはいえ、寮に入る時には別々になるでしょうが。
「葛城君も寮ではなくここで寝泊まりをしてもらいましょうかね?」
「いや、それは逆に危険だと思う。葛城を一人にするということだからな。葛城に迂闊に手を出せないのは神室が一緒にいるからだ。わざわざ、それを捨てる必要はない」
「では、寝る時にはどうしましょうか?」
「防護服を着れば良いんじゃないか? 暑苦しいだろうが、生存率は上がると思うぞ」
その手がありましたか。息苦しいでしょうが、酸素を取り入れるための小さな穴は空いていますし、問題ないですかね。
「まぁ、そもそも場所がバレていない限り安全だとは思いますけどね」
「逆に言えば場所がバレればすぐにやられるだろうな。綾小路の部屋のように」
「その話は初耳だぞ」
そういえば、綾小路君は今日休んでいたので寮の中での銃声は聞いていないのですね。私達は教室で騒ぎになっていたことも含めて綾小路君に話しました。
「なるほどな。なら、むしろオレは死んだと思われているということか」
「部費でサボるためのポイントを払っているので、それは難しいでしょうね。そのことも担任から言われているでしょうし」
「そうか。まぁ、死んだことになっているよりもオレが見えないところで何かをしていると思わせた方が相手に恐怖を与えられるだろうな。もっとも、恐怖をする相手なのかは疑問だが」
綾小路君としては死んだことになっている方が都合が良かったのでしょうが、その場合だと除籍されてしまうかもしれません。なので、こちらのやり方にせざるを得なかったのです。
「ところで綾小路君、ケセドを追い詰める作戦なのですが、こういうのはいかがでしょうか?」
綾小路君も気づいていたであろう案を告げると彼はニヤリと笑いました。ただ、同時に追い詰めた後はどうするのかという問題があり、それを問われます。
「まぁ、ケセドとの最終決戦になると思ってください。教師陣にもこの話はしてあります」
「つまり、一番危ないのはオレということか」
「そうなりますね。ですが、安心してください。貴方のことは私達が必ず守ります」
「そこまでされるほど弱くもないが、分かった。その役割、引き受けよう」
この計画を実行するのは事件についての擦り合わせが終わった後で良いでしょう。そのため、実行日は明日以降となります。それまでに色々と準備しておく必要がありそうですね。
今回もサブタイトル通りの話でした。サブタイトルを考えるのって大変ですね。