審議の当日。私達は先生方と相談して、作戦を実行に移すために証人として審議に参加することになりました。
「話は聞いている。今回はDクラスの真犯人を追い詰めるために参加したそうだな」
「えぇ。Dクラスには申し訳ありませんが、人の命がかかっている以上、追い詰めなければなりません」
そのように話していると、隣の席から笑い声が聞こえました。笑い声の主は机に足を乗せ、こちらを見てきます。確か、Cクラスの生徒でしたか。
「可哀想だな、Dクラスも。結局、身内が犯人なんだからよ」
「龍園君、机の上に足を乗せるのはやめなさい。Dクラスに作戦がバレてしまいます」
へいへい、と言いながら龍園君は足を下ろします。彼はCクラスのリーダーで仲間が瀕死の重症を負ったことを理由にDクラスを訴えたらしいですが、仲間思いだったりするのでしょうか。この作戦にも乗ってくれましたし。
「それよりも、Dクラスにまともな反論できる奴はいるのか? あの不良品共に証拠を用意できるとは思えねぇな」
「できなかった場合は私の方でフォローしますよ。この作戦はまず、須藤君の無罪を証明しなければなりませんから」
真犯人を追い詰めるためにはまず、須藤君にかかっている疑いを晴らす必要があります。ですが、そのためにDクラスにこの作戦のことを事前に伝えたとしたら佐倉さんを庇うために動き出すでしょう。そんなことをさせるわけにはいきません。
「遅くなりました……明星さんが何故ここに?」
ちなみに今回の作戦については堀北さんにも伝えていないので、彼女は私を睨みつけてきます。彼女には伝えておいても良かったかもしれません。絶対に作戦には乗ってくれるでしょうから。
「今回、明星には事件の証人として参加してもらっている。何か不満があるのか?」
「いえ、別に……!?」
突然、強烈な殺気がこの部屋の人達全員に向けられます。軍人の堀北さんや先生方も思わず、たじろぐほどの殺気。そんな殺気を龍園君は冷や汗をかきながらも笑っているようです。
「
殺気の主に視線を向けるとそこには今にも人を殺しそうな勢いのある橘先輩が堀北さんを睨みつけていました。何か因縁があるのでしょうかと堀北さんを見ると、困惑した様子です。
「貴女とは初めて会ったと思うのだけれど」
「……いいでしょう」
橘先輩は殺気を引っ込めました。先ほどの質問には何かしらの意味があるようでしたが、私にはピンときていません。ただ、答えを間違えていたらここにいる全員を殺しにきていたということは分かります。
「一体……何だったん……だ?」
須藤君と思われる人が汗をかきながら、質問をします。しかし、それに答えられる人は橘先輩を除いていません。堀北先輩も橘先輩の異様な殺気に驚いていた様子でした。
「ではこれより、先日起こった殺人未遂事件について、生徒会及び事件の関係者、担任の先生を交え審議を執り行いたいと思います。進行は生徒会書記、橘茜が務めます」
先ほど、軍人すらもたじろぐほどの殺気を出していた人とは思えないほど明るい口調で言い、軽く会釈をする。その変わりように驚かされますが、作戦を遂行する必要があるのでこのことは後回しにしましょう。
「被害者である小宮君達バスケットボール部二名は須藤君を特別棟に呼び出してそこで銃撃されたそうですが、それは本当ですか?」
「俺はやってねぇが、その経緯は本当だ。何のつもりでかは知らねぇが、あいつらが俺を特別棟に呼び出したんだ」
須藤君は戸惑いながらも実際にあったことを話しているようです。Cクラスも呼び出したことは事実であると語っているので、そこで争いはないでしょう。
「そして、そこで何が起きたのか説明して頂けますか?」
「特別棟に入った時に急に機械兵みたいな奴らが現れてよ。俺は隠れるので精一杯だったが、知らない間に誰かが倒してくれていたみたいでな。それで俺は一目散に逃げたってわけだ」
「逃げたんじゃなくて、銃を持って石崎達のところに向かっていったんだろ。そして、無抵抗の石崎達を撃ったってとこか?」
「俺はやってねぇ!!」
どうやら、龍園君は仕掛けるつもりのようですね。須藤君が上手く挑発に乗ってくれたようですし、ここからどうやって着地させましょう。
「じゃあ、銃に付いてたお前の指紋は何だ? あれこそ、お前が銃を持ったっていう証拠じゃねぇか」
「銃の指紋? 何のことを言ってんだ! 俺は銃に触ってねぇって!」
「少し落ち着いてください、須藤君。今は当時の状況について聞いているだけです。龍園君も途中で口を挟む行為は謹んでください」
「クク……分かった」
さてと、この矛盾はどうやって覆しましょうかね。須藤君は銃に触っていないと言っていますが、銃に指紋が付いています。まぁ、この矛盾は考えれば分かることですが。
「それでは銃に付いてた指紋についてですが、須藤君はあくまでも触っていないのですよね?」
「あぁ、それは間違いねぇ」
「でしたら何故、指紋が付いていたのか説明できますか?」
「それは……」
まぁ、できないでしょうね。須藤君からすれば、初めて知った事実でしょうし。綾小路君がこのことを話すと言っていましたが、話す前に銃撃されてしまったのでしょう。
「一つ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「許可します」
「先生方は須藤君から指紋を採取しましたか?」
「いや、してないな」
「では、須藤君はどう?」
「俺もされた覚えがねぇ」
堀北さんの問いにDクラスの担任の先生がそう答えます。当たり前のことですが、指紋は採取しなければ同一のものであると断言することはできません。となると、指紋が出てきたという話自体がおかしなことであることが分かります。そのことを堀北さんは主張しました。
「では、あの指紋は一体?」
「話は簡単ですよ。そもそも指紋が出てきたという話自体が嘘っぱちだったのです。データの改竄なんて機械兵を呼び出した人物であれば簡単だったでしょうから」
「お前の言う犯人というのは須藤が見たという白い女のことか? 須藤が見たってだけでその女がいた証拠はないんだぜ」
「それに関しては一つ写真がございます。こちらをご覧ください」
私は真嶋先生から貰った写真を机の上に置きました。それをこの場いる人……特に須藤君に見えるようにしておきます。
「間違いねぇ、俺が見たのはこの女だ!」
「この写真はどこで?」
「先日、綾小路君の部屋が銃撃されたのですが、その時に目撃者がいまして。これはその時に撮影されたものなのです」
「綾小路が銃撃!?」
どうやら、綾小路君が銃撃されたことについてはDクラスで広まっていないご様子ですね。もしかして、ただのサボりだとでも思っているのでしょうか。だとしたら、後でフォローをしておかなければいけませんね。
「お前がこの女を見たって話はよく分かった。だがな、もう一度言うがこの女がその日、特別棟にいたって証拠はないんだぜ」
「また証拠か」
仕方ありません。白い女の存在自体は証明されましたが、その人が本当にその場にいたのかは証明できていませんから。
「あの場にいたのは須藤君に石崎君達、そして私を除いた特異現象捜査部とケセドくらいです。その方がケセドだと証明できれば何とかなるかもしれませんね」
「私は特異現象捜査部には入ってないわ」
「そういえば、そうでしたね。すっかり、忘れていました」
堀北さんは私達とよく行動を共にすることもあって、部員だと勘違いしてしまいました。今からでも入ってくれませんかね。
「ケセドって何だよ?」
「簡単に言ってしまうとキヴォトス産のオカルトです」
その言葉だけでピンときているようなので、キヴォトスのオカルトに関する脅威は知っていて当然のことなのかもしれません。
「一応言っておくが、学校側は預言者がどこに現れたのかと言うものを全て記録に残している。当然、綾小路の部屋が襲われた時にも一瞬だけではあるが、ケセドの反応が出た。つまり、こいつがケセドで間違いないだろう」
「何故、一瞬だけでも反応を出した?」
「おそらくですが、ケセドとしての能力を使う以上、出さざるを得なかったのでしょう。預言者は攻撃をする時にはヘイローを出し、そのヘイローに反応するのです」
一応、人間に擬態している時はヘイローもないので反応はしないのですが、このことを話す必要はありません。余計に話がややこしくなってしまうでしょうから。
「この流れじゃ、あの女をケセドとかいう奴だと認めざるを得ないようだな」
「やっとか」
「だがな、須藤。まだ、お前の疑惑が晴れたわけじゃねぇんだよ。あの指紋が偽物だったとしても情報そのものが改竄されている以上、本当の情報は分からねぇままだ。お前が本当に触ってねぇって証拠はまだ出てきてない」
「ふざけんな! 俺は触ってねぇって言ってんだろうが!」
まぁ、話はそこに戻りますよね。今回の話の根本的な部分は須藤君が銃を撃ったかどうかということなのですから。仮に証拠が捏造されていたとしても真の情報はないままなのですから。
「何だったら、俺の指紋を採って調べてくれてもいいぜ。どうせ、俺の無実が証明されるだけなんだからよ」
「須藤君、おそらくそれは悪手よ」
「あ? 何でだよ?」
「分からないの? ケセドは捏造するだけの能力があるってことなのよ。今回やってまた捏造されたら、今度は捏造を証明することすら難しくなるわ」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!」
どうすれば良いのか。その答えは実に簡単です。どうしようもないというだけでしょう。しかし、それでは須藤君の無実は証明できません。私が助け舟を出すしかありませんね。
「なら、やったとされる人に聞くしかありません」
「あん? 俺じゃねぇぞ」
「須藤君のことではありません。やった可能性のあるもう一人の犯人。それはケセドです」
「それがどこにいるのか分かっていりゃあ、俺らは苦労してねぇって」
「なら、どこにいるのか分かっていると言えばどうしますか?」
「嘘じゃねぇだろうな」
須藤君が疑わしそうにこちらを見てきます。一週間探して見つからなかった人物を初対面の人が知っているというのですから、仕方がありません。確かな証拠があるわけでもありませんが、これは学校側も同じ認識でしょう。
「実は葛城君が人間の姿に擬態したケセドを目撃しているのです。しかし、顔が隠れていたので誰か分からなかったケセドは綾小路君を襲撃しました。これが綾小路君が学校に来ていない理由です」
「また、命が狙われるかもしれないからか」
「というよりも、今も狙われているでしょうね」
「御託はいい。さっさとその正体を話せ」
「分かりました。ケセドの正体はDクラスの佐倉愛里さんだと思われます」
そのことを聞いた須藤君はあまりピンときていない様子でした。しかし、同じクラスであるということだけは理解しているようでした。堀北さんはこちらを睨みつけているご様子。堀北さんは佐倉さんも無罪にして、Dクラスの損害を減らしたかったのでしょう。前回、お会いした時にそのようなことを言ってらっしゃいましたし。
「容疑者がいなければ、話は進まないからな。一度、審議は中断しよう。再審議は明日の四時に行うことにする。それまでにDクラスは佐倉愛里を連れてくること。以上だ」
「明日、ですか?」
「あぁ。証拠を改竄できる以上、あまり時間を与えるわけにはいかない。そのため、明日にしたのだろう。流石に今日、もう一度やるわけにはいかないからな」
Dクラスの担任は堀北先輩の意を汲み取るかのように発言します。審議は終わったので、速やかに退出するように言われ、生徒会室を後にしようとすると私は残るように呼び止められました。私以外が退出すると橘先輩は作戦が上手くいったことを安堵した様子でほっと胸を撫で下ろします。
「明日で良かったのですか?」
「本来なら、もう少し猶予を与えても良かったのだが、逃げられては面倒だからな。それに明日までに決着をつけるのだろう?」
「えぇ。今頃、綾小路君が佐倉さんを呼び出している頃です」
この作戦のことを堀北さんにも送った方が良いのかもしれませんね。彼女なら綾小路君が無茶をしないようにできるかもしれませんし。彼はピンピンしていましたが、割と重症ですからね。
橘さんが殺気だっていたのにはきちんとした理由があります。その部分は今後、書けていけたらと思います。