「ところで、部室はどちらにあるのでしょうか? できる限り、デカグラマトンにハッキングされない場所が良いと思うのですが」
「それに関しては安心してほしい。学校内でも知る人はあまりいない、秘密の場所にある」
秘密の場所ですか……何だかワクワクする響きですね。早速向かおうと思ったのですが、真嶋先生はどうやら仕事の途中だったようです。真嶋先生は夕方の六時ごろから案内が可能とのことです。待ち合わせ場所は職員室の前ということになり、私達は一度解散することになりました。
「さて、どうやって時間を潰しましょうか」
「俺はこの後、戸塚達と遊びに行く約束をしているんだが、良かったら来ないか?」
「いえ、申し訳ありませんが遠慮させていただきます。男の子同士で羽目を外して遊びたいでしょうし、私はいない方が良いと思います」
「気を使わせてしまって悪いな」
そう言うと、葛城君は戸塚君達のところへ歩いて行きました。さて、私は生活用品でも買いに行きましょう。確か、コンビニに売っているとか言っていましたね。そう考えて、コンビニに向かっていると道中で一之瀬さんを発見しました。向こうもこちらに気がついたようで手を振ってくれています。
「また会えたね、明星さん!」
「えぇ、クラス分け以来ですね。それにしても、一之瀬さんはこんなところで何をなさっていたのですか?」
「私? 私はね、これから日用品でも買いに行こうかと思って」
なるほど、目的は一緒でしたか。よろしければ、一緒にコンビニに行きませんかと尋ねたところ喜んでついてくることになりました。いよいよ、コンビニに到着すると言う時にコンビニの前でちょっとしたトラブルが発生しています。
「聞いたか? Dクラスだってよ。見た目通りの『不良品』だな」
「あ? そりゃどういう意味だよ」
上級生と思われる方々と一年生と思われる方が言い争っていました。Dクラスが不良品? 何を言っているのか分かりませんが、一之瀬さんの前ですし騒ぎを起こしている彼らを放置できません。いざ、止めに入ろうとしたところ上級生と思われる方が去り、一年生と思われる方もイラついた様子でどこかに行ってしまいました。彼らが去った場所には散乱したカップ麺が転がっています。
「ちょっと片付けてくるね」
「かしこまりました」
私は車椅子に座っているので、しゃがんで拾うことが難しいのです。なので、ここで待機することになりました。一之瀬さんが片付けようとした時、一人の男の子がカップを拾い上げて後片付けをしようとしているではありませんか。どんな理由であれ、私一人だったら放置してしまいます。片付けを終えると、一之瀬さんが自己紹介を始めていました。
「オレの名前は綾小路清隆だ。よろしくな」
どうやら、彼は綾小路君というそうです。同じ学年のようですし、覚えておいても損はないでしょう。私も自己紹介をした方が良いのでしょうか? そんなことを考えているうちに綾小路君は立ち去ってしまいました。残念ですね、せっかく仲良くなれるチャンスでしたのに。
「じゃあ、行こっか」
一之瀬さんと一緒にコンビニに入り、シャンプーなどの日用品を籠の中に入れていきます。十万ポイントしか貰えなかったので、節約する必要が出てきました。来月の一日にポイントが支給されるそうですが、何ポイント支給されるかは分かりませんからね。実際、来月にどのくらいのポイントが支給されるかは明言していませんでした。
「一之瀬さん、歯ブラシなどの日用品はこちらのワゴンから買った方がいいかもしれません」
「どのくらい値段が違うの?」
「実際に見ていただいた方がお分かりいただけると思います」
そこのワゴンに書かれていた値段は無料というものでした。但し、一ヶ月三点までという条件付きではありますが。
「どういうこと? これって明らかにおかしいよね」
「おそらくですが、ポイントを使い切ってしまった人への救済措置だと思われます。でなければ、このようなものが置いてあるはずがありません」
問題はどうして使い切ってしまうのかということでしょうけど。一之瀬さんは私の答えに納得した様子で頷くと無料のワゴンから三つの商品を手に取りました。そのまま会計を終わらせるとまだ六時までは時間があったので一度、寮に帰ってから一之瀬さんと遊ぶことにしました。
◇
時刻は午後5:50。そろそろ集合時間だと思いましたので、職員室に来ました。とはいえ、集合時間までまだ時間があるので、何をして時間を潰そうかと考えていると葛城君が来るのが見えました。葛城君と話すことで多少の時間は潰せそうですね。
「お久しぶりです、葛城君。戸塚君達との遊びは楽しめましたか?」
「あぁ、これが人生の最後でも良いと思うくらいには楽しんださ」
「充分な覚悟が出来ているようですね。少し安心しました」
戦いに行く前の人によく見られる顔つきですが、今回はおそらく案内だけで終わると思いますよ。ですが、それを言ってしまうと彼の覚悟を崩してしまいかねないので、案内が終わったあとにネタバラシをしますか。
「ところで、明星は今回の件以外にもオカルトと呼ばれるものを見たことがあるのか?」
「それは、キヴォトス由来のものという意味ですよね?」
「そうだ」
「それならば、見たことはあります」
キヴォトスの外では一般的にキヴォトスから流れてきた不思議なものをオカルトと呼ぶそうです。まぁ、流石に全てのオカルトがキヴォトス由来のものというわけではありませんが、キヴォトス由来のものとして有名なものがミメシスですね。銃火器を所持する実体を持つ幽霊みたいなものですから、発見された時は軍が出動するそうですよ。
「知っていると思いますが、キヴォトスにもオカルトというものはあります」
「それは、そうだろうな」
「そのオカルトの基準はキヴォトスの外と大差ありません。つまり、ミメシスですらキヴォトスにとってはオカルトなんです」
そう言うと、葛城君は驚きの表情を浮かべました。キヴォトスの不思議なところの一つはそのオカルトが実在してしまうということです。それに気づいている人はそこまで多くはありませんが。おや、もう六時になりましたね。職員室に入りましょうか。
「失礼します。1-Aの明星ヒマリと葛城康平です」
「逃げずによく来たな二人とも。最終確認だが、本当に覚悟はいいんだな」
「えぇ、もちろんです」
「はい、覚悟はできました」
私と葛城君の返事を聞いて嬉しそうに頷くと約束通り、秘密の場所に案内をしてくれるようです。その場所は複雑に入り組んだところにあるので、逸れないようにと言われました。ますます、どんなところにあるのか楽しみになってきましたね。
先生の後を追うと迷路のように入り組んだ路地に入りました。こんな場所が高育の敷地内にあったのですね。葛城君もこの場所には来たことがないようで、辺りを見回しています。やがて、目的地である建物に着くと地下へと続くエレベーターを何度も乗り換えてようやく到着しました。ここが特異現象捜査部の部室ですか。室内にはいくつものモニターが設置されており、デカグラマトンの調査に関係すると思われる資料があちこちに山積みになっています。
「まずはここにある資料、一つ一つに目を通さなければなりませんね」
「ここにあるものを全部か。大変な作業になりそうだな」
「まぁ、調査で行き詰まったことがあれば相談してほしい。いつでも相談に乗るぞ」
真嶋先生がそう言ってくれたので、いつでも相談いたしましょう。丁度、聞きたいこともありますし。
「では、いくつか質問をさせてください。デカグラマトンの預言者の名前はどうやって分かったのですか?」
「あぁ、そのことか。なんて言えばいいのだろうな。奴らが出現した際に信号を発するのだが、その信号を解析することで名前が分かったのだ」
なるほど、つまりここには預言者の信号をしっかりとキャッチできる機械があるということですか。まぁ、そうでなければ場所など分かりませんよね。出現ということは普段はどこかに身を潜めているということですか。
「続いての質問ですが、この調査への協力者は私達を除いてどのくらいいますか?」
「教師は基本的に協力者だと考えてくれて大丈夫だ。俺たちは元々軍に所属していたからな。弾が当たれば致命傷にはなるが、それなりに動ける連中ばかりだぞ。それと生徒にも数名の協力者を潜り込ませている。いずれ、接触してくるだろう」
まぁ、デカグラマトンの調査はただの教師には無理ですよね。教師ができる人を軍から選んで、高育に元々いた教師の代わりにしたのでしょう。なるほど、つまり私が呼ばれたのは軍が調査できないからではなく、軍でもどうしようもないからというわけですか。なおさら、生徒を避難させなかった理由が分かりませんね。
「では、最後の質問です。最終的な目標はデカグラマトンの調査ではなく、排除ですか?」
「その通りだ。調査はあくまで過程にすぎない。最終的にはデカグラマトンを排除して一刻も早く安全な環境を取り戻さなくてはならない」
私の潜入期間はかなり長くなりそうですね。調査をするだけでも相当時間がかかるというのに、排除するとなれば何年かかるか分かりません。私は高育を卒業してしまっている可能性が高いと思います。そうならないように急ぎつつも冷静に調査をしなくてはなりませんね。
質問も終えましたので、資料に目を通しますかね。そう考えていた時、部屋中にアラーム音が響き渡りました。何事かと問いかける前に真嶋先生はモニターを操作し始めます。
「この反応、間違いない! ビナーだ!」
「ビナーということはビームやミサイルを打ってくる奴ですよね?」
葛城君が真嶋先生に問いかけると肯定の返事が返ってきました。問題はビームやミサイルを打ってくる存在がどこに出現したのかということです。寮の付近や街のある場所に出てきたら避難誘導とかもしなくてはいけません。
「幸いにもビナーが出現した場所は誰も人がいない立入禁止区域だ。だが、預言者は移動する性質を持っている。街のある方に移動したら一大事だ。俺はこれから出動するが、明星はどうする?」
「勿論、私も行きます。葛城君はここに残ってください。ビナーの反応が消失したのかを確認していただく人が一人必要なので」
「あぁ、分かった。反応が消失したら連絡を入れておこう」
葛城君と連絡先を交換すると私は真嶋先生と一緒に部室を出ました。まさか、このタイミングで預言者に遭遇することになるとは思わなかったです。それにしても立入禁止区域までどこくらいの時間がかかるのでしょうか? 着いた頃にはビナーが既に移動してましたというのでは最悪すぎます。
「安心しろ。立入禁止区域には見張りが何人かいる。その人達が足止めをしていてくれるはずだ」
「だとしても急ぎましょう。ビナーにどれくらい持ち堪えられるかは分かりませんから」
「あぁ、全くその通りだ」
そうやって話しているうちにエレベーター迷路のような路地を抜けて、廃墟だらけの場所へとやって来ました。おそらく、ここから先が立入禁止区域なのでしょう。所々、手入れがされていないのか道路が荒れています。おそらく、ここでも戦闘があったのでしょう。ヘイローもないのによくここまで抑え込めましたね。おや、人影が見えてきました。
「戦況はどうなっている?」
「ビナーを抑えることには成功しているのですが、決定打に欠けるようで撤退させることはできていません」
「よし、分かった。連絡によると、まもなく戦車部隊が来るそうだ。もう少しの辛抱だぞ」
「かしこまりました」
この学校は戦車まであるのですか。まるで一つの軍事施設のようですね。私も前線に行った方が良いのでしょうか?
「ところで、どのように戦われているのかをお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、ビナーを相手にする時は基本的にはヒットアンドアウェイだな。いくら、下に防弾チョッキを着ているからと言ってもビームやミサイルはどうしようもない。だから、歩兵は遠くから攻撃を仕掛けて移動するということを繰り返している」
「なるほど、私ならその作戦の手助けくらいはできるかもしれません」
「どういうことだ?」
遠くから攻撃を仕掛けていると言っても、体力が尽きて見つかってしまえば意味がありません。そこで、見つかっても大丈夫なように囮を用意します。囮さえいれば、まずはそこを集中的に狙ってくるでしょう。当然、その囮はミサイルにもビームにも耐えられる頑丈なキヴォトス人……つまり、私です。そのことを真嶋先生に伝えると難色を示しました。
「いくら、頑丈だと言っても君は生徒だ。俺が教師である以上、生徒にそんな危険な真似はさせられん。それにもう少しで戦車部隊が来るんだ。そんなことをする必要はない」
「あくまで手段の一つですから。必要になったら私が囮になるというだけです」
「それならいいが……」
それにしてもここからではビナーの姿を確認することができませんね。ここまで来たのですから預言者の姿くらいは目にしておきたかったのですが、仕方ありませんね。
『大変です、ビナーが移動を開始しました! 繰り返します、ビナーが移動を開始しました!』
「何だと!?」
無線から知らされた連絡に私たちは驚きを隠すことはできません。抑え込むことはできていたのに何故、いきなり移動を開始したのでしょうか? 何か突然の変数でもない限りそんな行動をしたりはしないと思うのですが。今まで、なかった変数といえば……まさか、私ですか?ヘイローを持つ者とそうでない者の違いは神秘の有無です。その神秘を注視してこちらに来るのだとしたら、先生方が危ない! そのことを口に出すよりも早く、ビナーと思われる物体が目で見える範囲にやって来ました。
「真嶋先生、すぐに退避を! ビナーらしきものが目で見えるところまで来ています!」
「あぁ、どうやらそのようだな。一旦、別の場所に身を隠すか。明星、着いてこい」
「かしこまりました。移動中にお話ししたいことがあります。よろしいでしょうか?」
「あぁ、構わん。気がついたことがあれば何でも言ってくれ」
一番初めの預言者と言ったら、やっぱりビナーですよね。ただ、ビナーが一番分からないので、苦労していますが。