上からの意向でふざけたゲームが開催されることになった翌日。私達は話し合いのため、釣りをした桟橋に集まっていました。
「全員集まりましたね」
「いや、Cクラスの軍人が来てない」
「Cクラスの忍者もです。まぁ、こちらのクラスの橋本君もいないのですが」
神室さん達がそのように告げると、龍園君に一斉に視線が向きます。彼は恐怖でクラスを統率するリーダーだと聞いていますし、嫌われているのでしょうか。
「俺のクラスにもそんな奴がいるのは知らなかった。忍者はともかく、軍人は前回の作戦でもそれらしい奴は参加しなかったからな」
「クラスを恐怖で支配している割にはクラスの事情に詳しくないようだな」
「あぁ? 誰だ、お前?」
「自己紹介が遅れたな。Bクラスの軍人、神崎隆二だ。暴力や策略で成り上がってきたようだが、俺達にそれが通じると思わない方が良い」
「喧嘩売ってんなら、いつでも買うぜ」
神崎君と龍園君は相性が悪いようで、早くもいがみ合っています。本格的な喧嘩に移行する前に本題に入った方が良さそうですね。
「集められた理由はおおよそ察していると思いますが、ロケットランチャーなどの高火力で使用するポイントも高い武器をどのクラスが負担するのかについて、話し合おうと思いまして」
「悪いが、ウチのクラスは負担できそうにない。クラスの奴らが暴動を起こしそうだからな」
そうおっしゃるのは綾小路君のいるDクラス。確かにこのゲームはクラス内での統率が取れているクラスほどこの試験は有利ですからね。それが例え、恐怖によるものであっても。
「そんなことを言ったら、俺のクラスだって負担したくねぇな。どのクラスもそうだから、話し合いの場なんて設けたんだろ?」
「えぇ、その通りです。それと昨晩のDクラスで起きたことは聞いています。ウチのクラスの忍者がご迷惑をおかけしました。お詫びと言っては何ですが、私のクラスが買っても良いですよ。ただし、五十ポイントも負担はしませんが」
「……もしかして、ポイントを分担しようってこと?」
「ロケットランチャーに限ってですけど……どうですか?」
私の意見に皆さんは考える姿勢を見せました。五十ポイントの商品を四クラスで買うのであれば、それぞれの消費は十ポイントか二十ポイントだけです。誰かに押し付けるよりも話はスムーズにまとまるでしょう。
「一クラス十ポイントずつだとして、二十ポイントを負担するクラスが必ず出てくる。そこはお前のクラスで引き受けるのか?」
「えぇ、葛城君や神室さん達とも相談した結果です。このくらいしなければ、失った信用は取り戻せそうにありませんからね」
「それにしては妙にケチだが、今回の試験は協力型だ。足を引っ張る理由もねぇ」
「では、ロケットランチャーの件はそのようにしておきましょう。では、次の話題になりますが━━」
コクマーについてどのように戦うべきかという作戦会議を開こうとしましたが、ヘリコプターの音が聞こえてきたので、通り過ぎるのを待ちます。おそらく、報道用でしょうから、こことは別の火山島に行こうとしているのでしょう。
「通り過ぎないね」
「あぁ。それどころか、ここを巡回しているように感じるな」
「何か事件が起きているのかもしれませんね。携帯でこの島の情報について調べてみますか」
私は持ってきていた携帯でこの島のことを調べようとしたところ、圏外という文字が見えて断念しました。ペンションでは使えていたので、一度ペンションに戻る必要がありそうです。
「コクマーについての作戦会議がしたかったのですが、八月七日までまだ時間がありますし、後日にしましょう。それよりも今はこの島で何が起きているのか調べた方が良さそうです」
「何もなければ、今日の午後……いえ、私達も先生と作戦を立てたいから明日、集合するメールをちょうだい」
「勿論、何かあったらすぐにメールをすることが前提だがな」
堀北さんと綾小路君の言葉に頷き、この場は解散となりました。さて、この島で何が起きているのか、少し楽しみです。
◇
私達がペンションに戻ると、生徒達はリラックスしているとは言いがたい状況にありました。
「葛城さん、戻ってきたんですね! 今から呼びに行こうと思っていたんです!」
「何があった?」
「俺から伝えるよりもテレビを見た方が早いと思います! 変わる前に急いで見てください!」
戸塚君の慌てようから只事ではないと判断した私達は、急いでテレビのある場所に移動しました。
『この無人島に仕掛けられた爆弾ですが、いくつ仕掛けられているかは分かっておらず、最悪の場合、島全体が吹き飛ぶ可能性があるとのことです』
「爆弾だと!?」
「大変なことになりましたね。すぐに生徒達を安全な場所に避難させた方が良さそうです。少なくとも、爆発物処理班が来るまでは」
「残念だが、それは無理だ」
近くでニュースを見ていた真嶋先生からそのように言われます。無理だと言うのは脱出をさせたら、爆発させるなどと言った脅しでもされたのでしょうか。
だとしたら、犯人はここに私達がいることを知っている人になりそうですね。その考えを真嶋先生に伝えるとそのことに頷き、追加の情報を話してくれます。
「爆弾は無人島だけでなく、船に設置されていることも分かっていてな。船に生徒を避難させることもできんのだ。爆発物処理班が到着するのは八月三日。つまり、明日になる。爆破が予告されていた八月七日まで充分、間に合う。だから、安心しておくと良い」
「爆弾が嘘という可能性は?」
「犯人は爆弾を仕掛けたことの証明のために都会にあるビルを一つ爆破している。無人のビルだがな。だが、これで相手が爆弾を持っていることの証明になってしまった」
「なるほど、これで結果的にではありますが、昨日の船でのアナウンスは誤ったものではなくなってしまいましたね」
もしくは意図的にやった可能性もありますね。私達に島の地形を把握させる目的であったことは説明がありましたし、私達に爆弾探しをさせるつもり……というのは考えすぎでしょうか。まぁ、情報共有をして、話を聞きますか。
「神室さん、私は部員のアドレスしか持っていないので、軍人の方への連絡は任せても良いですか?」
「爆弾騒ぎのこと? 分かった」
「忍者への連絡は私にお任せください」
神室さんと忍者の方に部員以外への連絡を任せ、私は部員への連絡を行います。文章が変わってしまうのも面倒なので、一斉送信にしますか。私のことをおばあちゃんみたいとかいう方がいますが、機械類の扱いは得意なんですよ。
「犯人に心当たりはあるのでしょうか?」
「船の方は知らんが、無人島に仕掛けられるのはここに来ていたオカルトしかいない。人の立ち入りはそれまで確認されていないからな。おそらく、我々への妨害が目的だろう」
「船に仕掛けたのも同一犯なのでは?」
「いや、船の爆弾に関しては今朝の清掃中に見つけたらしい。昨日、その場所にはなかったそうだから内部からの犯行だろうな」
「つまり、船の従業員の誰かがオカルトと繋がっている可能性があると?」
「それか、この間のように高育の者の仕業か。どちらにせよ、犯人探しは警察の仕事だ。我々の仕事ではない」
葛城君と真嶋先生の話を聞いていましたが、従業員の仕業であるとしたら、アナウンスをした人が一番怪しいですね。もっとも、そのことには気づいているでしょうが。
「ん? すまない、電話だ。少し、席を外す」
ただの電話であれば、席を外す必要はありません。つまり、生徒に聞かれたくないこと、つまりは軍の上層部からの電話でしょう。
「爆弾の解体は、素人の私達にはどうしようもありません。ここは爆弾処理班に任せて━━」
「ふざけるな!!」
私の声を遮るように真嶋先生の怒声が聞こえてきます。軍の上層部との間で揉め事でも起きたのでしょうか。
「くそ……」
「何があったのですか?」
「上が無人島にいる者が我々だと分かった途端、爆弾処理班は送らないと言ってきてな。『お前達で解体しろ。その方が経費が安く済む』とのことだ」
「なるほど。それはふざけるな、と言いたくなりますね」
私ですら島が吹き飛ぶほどの爆発が起きたとしたら、生きていられるのかは不明なのです。キヴォトスの外の人達は間違いなく、生きてはいられないでしょう。
そして、爆発が起きて責任を問われるのは動かなかった爆発物処理班とそれを巻き込んだ高育でしょう。軍の上層部は何の責任も取る必要はありません。表向きは関係ないのですから。
「何だか、私達を始末するための口実みたいに聞こえてくるわね」
「ここまで露骨に仕掛けてくるのは予想外でしたが、神室さんの予想通りだと思いますよ」
「なるほど、納得がいった。今回の特別試験も我々を始末できれば良し。そうでなくとも見せ物にして儲けようという算段だったのだろうな。軍がここまで黒いとは思わなかったが」
「……このことに生徒を巻き込んだのは我々の責任だ。爆弾の解体は我々、教師だけでやろう」
「いえ、人手はあった方が良いでしょう。私も参加いたします」
私がそう言うと、後に続くように神室さんと葛城君が参加を表明しました。それを見た真嶋先生は渋々と言った様子ではありますが、参加を認めてくれます。
「爆弾を解体する際には防護服を着用すること。また、配布したマニュアルで必要な道具を購入することができるから、忘れずに購入しておくように」
「あら、そちらで用意してくれないのですね」
「マニュアルにあるものを使用する際には、どんなことが起きても購入させるようにとのことだ。これを守らなかったら、上の息がかかった人物と交代になるかもしれん。今の状況でそれだけは避けたい」
私達を罠に嵌めて始末することを躊躇わない人物と、ですか。確かにその人に命を預ける気にはなりません。
「爆弾のマニュアルは一つにつき、一ポイント。爆弾の解体セットは五ポイントですか。随分と安く感じますが、このクラスで使うのは忍者を含めて五人。合計で三十ポイントも使うことになりそうです。追加の人員に関しては装備は万全にしてあると書いてありましたし、爆弾の解体のための装備も整えてあると解釈しますが、よろしいですか?」
「構わない。そのことはこちらから言うつもりだったからな」
三十ポイントにこれから使う費用を足すと、全部で二百ポイント。残りは百ポイントになりますね。かなりの痛手ですが、討伐か撃退ができなければ、ゼロポイントになるのですから仕方ありません。
「では、早速購入してしまいますか?」
「一応、クラスメイトからの許可を取った方が良いんじゃない? 使われなかった分はクラスポイントに還元されるわけだしさ」
「では、昼食のタイミングで私から聞くことにしましょう」
「俺からでも良いんだぞ」
「この行為は支持率を下げるだけです。何せ、助かりたければ同意してほしいという脅迫じみたものですからね。そういう汚れ役は私が引き受けます」
葛城君の言うことを聞かない生徒が出てきてしまったら、勝手に行動する人が出るかもしれません。犠牲者を減らすためにもそれだけは避けたいのです。
「なら、昼食までは何もしないという方針で良いのだな? 俺はそれぞれのクラスに方針を伝えてくる」
真嶋先生はそう言うと、携帯を取り出して再び席を外しました。私達ではなく、他の生徒に聞かれたくないのでしょう。
「あの、葛城さん。今の話、聞いちゃいけないやつなんじゃないんですか? 俺、ずっとここにいましたけど、大丈夫ですよね?」
「大丈夫だ、弥彦。どのみち、話していたことは説得のために昼食時に話す予定だったことだ。上が俺達を始末しようとしていることまで含めてな」
「ですけど、何で始末されるんですか? 葛城さん達はオカルトを倒した実績があるんですよ!」
「それだ。俺達がオカルトを始末したという実績があるから、上は始末したいと考えているのだろうな」
預言者は発見されてから、今まで一体も討伐されたことはなかったのです。討伐した者が現れた現在ではその人の発言権が強くなるでしょう。その人は軍の上層部にとっては邪魔な存在でしかありません。たったそれだけの理由ですが、始末するには充分な理由です。
「お前達を巻き込んで申し訳ないと思っている。だがな、俺達が生きて帰るために協力してほしい」
「葛城さん……やっぱり、今のことは葛城さんが説明するべきですよ。配慮してくれた明星には悪いですけど、こういうのはリーダーの口から説明すべきです」
「そうか、分かった。聞いていたか、明星。俺から話すことにする。例え、支持率を下げることになったとしてもな」
「えぇ、構いませんよ。良い友達を持ちましたね」
これで、昼食時に私がやるべきことは無くなりました。ですが、部長としてやるべきことはやっておくとしますか。
見てくれている人がいるという事実が私にとってはモチベーションになります。ここまでついてきてくださった人には感謝しかありません。