櫛田 side
基本的に人と協力することはないから上手く瞬間移動できるか不安だったけど、無事に到着することができて安心したよ。
殺し屋は……うん、無事みたいだね。肉体が耐えられずに燃えてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしたけど、賭けは無事に成功したかな。
「ここが家族のいる場所で合ってる? 随分と大家族なんだね」
「家族は妻と子の二人だけだ。後は拉致した奴らだと考えれば良い」
「一つ言っておくけど、気まぐれで貴方を殺すかもしれないってことは考慮しておいてね」
「あぁ、万全なオカルト相手に心を許したりはしないから、大丈夫だ」
殺し屋の拘束は解いてあげたし、心を許しているのかもしれないから警告したけど、必要なかったみたいだね。私もやっぱり甘いな……ケセドの優しさが移ったかも。
「じゃあ、中に入るよ」
殺し屋の返事を待たずに私達は中に瞬間移動で突入した。扉を開けるのは手間だし、中に入るまでに撃たれちゃう可能性があるもんね。
「誰だテメェら!?」
「誰でも構わねぇ、殺せ!」
私達はすぐに銃弾を凌げる場所に移動する。ホドとして戦っても良いんだけど、そうしたら人質も多分死んじゃう。折角、助けるのだからそんなミスはしないように気をつけないと。
「家族はここから見える?」
「……あぁ、あそこで縛られている二人で間違いない」
「じゃあ、私はすぐに救出しちゃうから。しばらくの間、耐えててくれる? あっ、敵は殺しても良いから」
「分かった」
私は縛られている家族のところに瞬間移動をすると、その人達の肩を触ってこの建物の外に瞬間移動をする。
「ちょっと、ここで待っててね」
私は再び、建物内に瞬間移動をして殺し屋と合流。殺し屋は既に半分以上は倒している様子だった。低ランクとはいえ、殺し屋には変わりない、か。
「じゃあ、残りは遠慮なく殺しちゃおう!」
「テンション高いな」
「そりゃそうでしょ! 久々に人を殺せるんだよ! 私達みたいな存在にとっては楽しい時間でしかないって!」
私はヘイローを展開して、人型の預言者に変身すると、銃を撃っている人達をビームで焼き払う。相手は防具も着けていないため、真っ二つになって絶命した様子。やっぱり、ただ武装しただけの人を殺すのはあっという間だなぁ。
「もう、終わったのか?」
「屋内の生体反応も貴方を除いてほとんどないし、終わったんじゃないかな」
さてと、聞きたいことがあるからここにある死体はあの子に任せようかな。高育にはいない子だから簡単に来ることができるだろうし、私にはオカルトにするだけの知識と技術はないからね。
殺し屋と共に外に出ると、殺し屋は家族との再会を喜んでいる様子だった。ここに留まるのも危ないので、すぐに移動するように促す。仲間が来たら大変だし、警察が来たら事情聴取が面倒だからね。
◇
明日までに戻ってこいと言われてから、一日が経過した。つまり、今日が六日目の八月六日になる。
その間、私は殺し屋が捕まる前の最後の時間を過ごさせていた。こいつが余計なことをしたのは事実だけど、私にだって感情はある。だから、そのくらいのことはしてあげるつもりだ。
殺し屋の家族と別れた後、殺し屋と共に無人島に到着。船の近くに瞬間移動をしたので、誰か待っているかと思ったが、予想と違って誰も待っていなかった。
「警察船はまだ来てないみたい。茶柱先生に戻ってきたっていう連絡をしなきゃいけないから、ちょっと待っててくれる?」
「構わないが、ちょっと違和感がないか?」
「……確かに誰もいないっていうのは変かも。殺し屋の脅威がないなら、誰かここら辺で遊んでいても不思議じゃないもん。それに私の故障かな? この島に生体反応がほとんどない」
「ほとんど?」
「うん、十何人かが島にいるだけで、他は全くない。それにその人達も遊んでいるって感じではなさそう」
もしかしたら、船の中にいるのかもと思って船を見回してみると、大きさは私達の乗ってきた豪華客船と変わらないけど、見た目は全然違うことに気づく。つまり、何らかの理由で出発したんだ。それもこの船が来るより前に。
「どうする? うろついている人に接触するか、船の中を調べるか」
「ここは船を下手に調べるよりも接触した方が良いだろ。ここが違う島でも最悪、逃げれば良いしな」
「私のことは信用しないんじゃなかったの?」
「心を許しているわけじゃないが、便利なものは利用するだけのことだ」
「あっそう。じゃあ、行こっか」
私達は生体反応のあるところの近くに瞬間移動をして、そこにいた人の様子を見る。どうやら、警察官みたいだけど……明らかに様子がおかしい。
生気がないっていうか、まるで何かに操られているみたいな。生体反応はあるんだし、生きた人間ではあるんだろうけど。よく見たら、銃も構えてる。下手に声をかけるのは得策じゃないかも。
「作戦は変更、貴方は隠れてて。私が声をかけるから」
「大丈夫か? 殺し屋の勘がヤバいって言ってるぞ」
「私でも分かるよ、そのくらいは。だから、オカルトである私が話しかけるんだよ」
殺し屋の返事を聞かない内に私はヘイローを展開して、目の前にいる警察官に話しかける。話しかけられたことで振り返った警察官の目からは血が流れており、まるでゾンビのようだった。
「えっと……ここにいた人達はどこに?」
「アァァァ!」
警察官はそのように叫び出すと、銃を向けて発泡してきた。私にはヘイローがあるから無事だったけど、これは同族以外は撃ち殺すという気迫を感じる。
しょうがない……私が殺そう。そう思っていると、後ろから発泡音が聞こえ、警察官の眉間に風穴が空く。そして、そのまま塵となって消えた。
「ありがとう」
「俺まで危なかったから、ついな。それよりもこいつはなんだ?」
「オカルトだよ。多分、キヴォトスから流れてきた技術が使われている」
「オカルトってお前と同じ?」
「キヴォトスの外ではオカルトって一括りにされているけど、私達は機械をベースに作られているのに対して、このオカルトは人をベースに作られている。それも生きた人間をベースに」
私達も死体をベースに作ることはあるけど、生きた人間をベースにすることはない。何故なら、反抗される恐れがあるから。
反抗されないようにするためには反抗心を消せば良いだけだけど、そんなものをオカルト化する時に利用したら……考えるだけでも恐ろしい。
「とにかく、話は変わった。私がこの島に残ったオカルトを殲滅するから、貴方には帰って家族を守ってもらう」
「……お前を置いて行きたくはないが、それしかなさそうだな。だが、終わったら戻ってこい。俺を引き渡す役目があるんだろ」
「自分のケジメはしっかりしてるんだね。とりあえず、全ては終わってから考えようか」
私は瞬間移動で殺し屋を家族のところにまで送り、再び無人島に戻ってくる。殲滅するのは大変だけど、たった十何人だし、さっさと片付けるか。
◇
??? side
ホドからの命令……お願いを済ませて、一日が過ぎましたが、こんな情報を手に入れてどうするのでしょうか。
「ホドのやっていることに意味があるとは思えません。結局は人間の手助けじゃないですか」
「いや、あれで良い。計画の邪魔になるものは排除するように言ってあるからね。それに状況はどうやら、変化しつつあるようだ」
「どういうことですか?」
「敵は軍人やその傘下の特異現象捜査部だけじゃなくなった、ということだよ」
我々の敵は我々に反抗できるもの全てです。今の人間に私達をどうこうすることができるとは思えません。私相手には特に。
「それで、調査結果はどうだった?」
「あの死体からミメシスを作り、全てを吐かせてみましたが、特に有力な情報は持っていませんでした。強いて言えば、コクマーが出た場所の島民達の一部だったってことくらいですかね」
「やはりか。となると近々、島民が何かをしてきそうだね」
もしかしたら、ホドが何かに遭遇しているのかもしれません。ちょっとだけ覗いてみますか……これは、私に対抗できるものではありませんが、面白いじゃないですか。
「何か面白いものを見つけたようだね」
「えぇ、ホドの中を覗いただけなので、詳しいことは分かりませんが、生者を愚弄するとても面白いものです」
「生者を愚弄……か。あまり良いものではないね。私達の目的にとっても」
「私達の目的?」
「おや、もう忘れたのかい? 私達の目的を」
「いえ、その目的のために何がダメなのかが、分からないのです」
苦しみや絶望が消えるあの方法は私達の目的にとっても悪いとは思えないのですけど。そんな私を諭すように優しい口調で告げます。
「私達は理不尽が押し付けられ、弱者が見捨てられ、善意が報われないこの社会を、あるべき姿にするために動いているのは分かるね?」
「それがあの方の目的のためですから」
「そして、それの障害になる人物は排除しなければならない。だけど、それ以外の人間達には真っ当に生きていてほしいんだ。光の当たるところで真っ当にね」
「ホドが助けている殺し屋は障害にはならないのですか?」
「ならない。それだけは断言できる」
「理由をお聞きしてもよろしいですか?」
殺し屋は武器を持っています。それだけでなく、身のこなしは軍人並みの人間だって存在するでしょう。そういう意味では警戒対象となると思うのですが。
「彼らは金で雇える傭兵のような存在だ。敵にもなり得るし、味方にもなり得る。そういう曖昧な存在なのさ」
「敵になり得るということは、障害にもなるということでは?」
「一つ勘違いをしているようだが、敵が必ずしも障害になるわけではない。軍人や特異現象捜査部が敵であっても障害ではないように」
「それは……確かに障害になるのであれば、非武装の時を狙えば良いだけですね。では、新たに出てきた敵は障害にはならないということでしょうか?」
「いや、彼らは我々の理想を邪魔する敵であり、人の道を外れた障害となった。厳密に言えば、彼らの背後にいる存在だけどね」
それは生者を愚弄する技術を生み出した者のことでしょうか。間違いなくキヴォトス内の技術だと思いますが……まぁ、警察官に手を出したのです。島民達はいずれ捕まるでしょう。
「それにしてもコクマーどころではなくなってきましたね。本人に伝えていないとはいえ、ただの懲罰がここまで大きくなるとは」
「まぁ、後ろに何者かがいるということを割り出せたことだけでも上々と言うべきだろうね。ホドには追加の指令でも出そうかな」
「ホドの不満が大きくなるだけなのでは?」
「その対価に彼女の願いは叶えてあげている。今回のミメシス化もその内の一つだろう? 多分、彼女は追加の指令が出ることを待っているはずだ」
大変なことをすぐに済ませたいというのは基本的な考えですからね。もっとも、彼女がそのような考えを持っているかどうかは疑わしいところではありますが。
デカグラマトン編ではデカグラマトン関係以外は出てきませんでしたが、この作品では出していこうと思います。オリジナルではありますが。