「それは確かなのか?」
「いいえ、あくまで可能性の一つです」
今、私達はビナーから隠れるために別の場所に移動している最中です。ちなみに先ほど真嶋先生と話していた方は足止めのためにその場に残りました。流石は軍人、素晴らしい覚悟をお持ちのようですね。今の私にできることはことはそう多くはないので、亡くならないことを祈るばかりです。
「ですが、今はこれしか考えられません。まさか、気まぐれということもないでしょうし」
「いや、どうだろうな。明星は知らないかもしれないが、ビナーは気まぐれを起こす。そのせいでこれまで何度も苦労させられた」
「あら、そうだったのですか」
まさかの気まぐれという説が浮上してきました。こうなってくると論じることもできませんね。大人しく戦車部隊を待つとしますか。
「ここまで来れば、安全だろう。ビナーが俺達の場所を分かっていない限り、戦車部隊が来るまで見つかることはない」
「えぇ、そのようですね」
ようやく、ビナーから隠れることができる場所へと辿り着いた私達は物陰に隠れてやり過ごそうとしたその時でした。
『すみません……ビナーが……そちらに……ゲホッゲホッ……向かいました』
「何だと!? それより、そちらは大丈夫なのか!」
『こちらは……命に別状……ありません。奴は……ミサイルで煙幕を……その隙に』
「分かった後はこちらで何とかしよう! だから、そちらはしっかりと休め!」
『ありがとう……ございます』
通信の向こうの人は息も絶え絶えの様子だったことから、ビナーの足止めはできていたのでしょう。
しかし、ビナーが戦いを無理にでも中断をしたということは放置できない何かが私たちのいる方向にあったということです。やはり、私の仮説が正しいのでしょうか?
「明星、すまないが一人だけで移動できるか? 俺はここに残ってビナーの足止めをする」
「そうは言いますが、武器はお持ちですか? 見たところ、何も持っていないように見えますが」
「何も持たずに出撃するわけがないだろう。拳銃を二丁ほど持ってきている。一つは明星が持っていけ。使い方は分かるか?」
「はい、勿論です。では先生、ご武運を祈ります」
「あぁ、ありがとう」
私は真嶋先生と別れ、立入禁止区域から出ないように気をつけながらビナーが元々いた場所を目指して移動を開始しました。
もしも、私の仮説が正しかった場合は私のいる場所に向かってくるはずです。その行動を利用しない手はありません。
私がビナーの元々いた場所に誘導できれば、そこに元々いた軍の方が支援なりしてくれるはずです。
他人に頼る策になりますが、これ以外に時間を稼ぐ策は思いつきませんでした。これでは、超天才清楚系病弱美少女ハッカーの名が廃りますね。
まだ、ビナーは来ていないようです。ビナーは遠目から見た程度ですが、かなりの巨体でした。重量のことも考えると移動速度もそこまで速いというわけではないでしょう。
もしも、かなりの速度があった場合はビナーの姿が見えた時点でどんなに急いでも追いつかれていたはずです。その際にビナーから発せられた風圧で私達は吹き飛んでいたでしょう。
そろそろ、ビナーが元々いた場所に着くはずですが……あれは、大穴? 何故、このようなところに大穴があるのでしょうか?
近くから見てもそこが見えません。まさか、ビナーが開けたのですか? そうだとすれば、納得ですが。おや、大穴から何か出てきますね……何だか嫌な予感がします。
その予感が的中するように大穴からビナーが出てきました。見た目は大蛇と鯨が混ざったような機械で、頭上にヘイローがあります。
何故、大穴から出てきたのでしょうか? 私の予想では後ろから来ると思っていたのですが。
まさか、私が向かう先を察知して先回りをしたと言うことですか。してやられましたね。
『我が異名は「違いを痛感する静観の理解者」、我がパスは「理解を通じた結合」……我が名はビナー』
ビナーが喋った!? 預言者が会話をすることができるなんて情報はなかったはずです! いや、今はそんなことよりも時間稼ぎの方を優先しなければ。
「あら、話すことができたのですね。会話が出来るだなんて情報はどこにもなかったので、少し意外でした」
『我は生きている。ただ、それだけだ。何故、汝らは我を攻撃する』
「簡単な話です。貴方が生きて人のいるところに出ようとする限り、人に被害が及ぶからです。私達は貴方をどうにかしなくてはならないんです」
『生きるということはそういうことだ。我や汝らのためにも我慢してもらいたい』
その言葉が出てくる時点で自分が及ぼす被害のことを理解しているみたいですね。その上で何故悪いのかを理解していないということは、和解することなど到底不可能です。潜伏しながら暮らすこともできるでしょうに。
『どうやら、我と汝らとでは相入れないようだ』
「それは、こちらの台詞です」
どうやらこれ以上話しても無駄のようですね。私の銃の腕前では当てることは難しいですが、何とか時間稼ぎをしてみましょう。懐にある銃を構えた途端、辺り一面が砂塵に包まれました。
これではビナーを狙いにくいではありませんか。このいきなり出てきた砂塵は偶然のものとは思えません。おそらく、ビナーの能力なのでしょう。狙いにくいですが仕方ありません、攻撃開始です。
確か、ヒットアンドアウェイで行けとのことでしたね。であれば、まずは一発。
「くっ……」
外しましたか。悔やんでいても仕方ありません。とりあえず、どこかに移動しなくては。
砂塵でビナーのことは捉えにくいですが、それはビナーも同じはずです。
私がビナーを狙える距離には遮蔽物がありませんね。仕方ありません、大穴の周りを移動するだけにしますか。
少しだけ移動し、再び攻撃をしようとしたところビナーがこちらにミサイルを発射してきました。
直撃は避けましたが、爆風で吹き飛ばされそうになってしまいます。うっかりしてました。ビナーはこちらの位置が分かるのでしたね。であれば、移動をしても無意味。ならば、こちらは移動をせずに戦います。
仮にミサイルやビームが直撃したとしてもキヴォトス人である私なら数発は耐えられるでしょう。逆に言えば、数発程度しか耐えられそうにありませんが、仕方がありません。
そのように覚悟を決めて再び攻撃をしようとした時、どこからか砲撃音が聞こえてきました。どうやら、時間稼ぎは終わりのようですね。戦車部隊が来たようです。
戦車部隊はビナーを休ませることなく砲撃を浴びせ続けています。ビナーに攻撃する隙を与えないつもりでしょう。これは、ビナーが撤退するのも時間の問題ですかね。
キヴォトスの機械でも戦車部隊から砲撃を浴びせ続けられたら、ボロボロになるでしょう。ビナーはヘイローを持っているとはいえ、所詮はキヴォトスの外にある機械。キヴォトス製のものより頑丈であるはずがありません。
おや、ビナーが大穴の中に潜っていきますね。どうやら、撤退するようです。完全にビナーの姿が見えなくなった時に電話がかかってきました。これは、葛城君からですね。
『ビナーの反応が消えた。どうやら、撤退したようだ』
「そのようですね。お疲れ様でした」
それにしても、ビナーは自由に生きたいと発言しておきながら、何故反応を出しているのでしょうか。撤退する時に反応を消していたことから、反応を消しながら地上に出現することもできるでしょうに。それをしない理由が何かあるのでしょうか。
おや、いつの間にか戦車部隊も撤退していますね。生徒に見つからないように素早く行動する必要があるからかもしれません。私も真嶋先生と合流しましょう。
◇
「そうか、ビナーが。とにかく、お疲れ様だったな」
現在は真嶋先生と合流して、特異現象捜査部に戻っている最中です。そういえば、真嶋先生のところにはビナーが来なかったみたいですよ。私の先回りをしたのですから当然ですね。
「それにしても、ビナーが喋ることができるとは予想外だったぞ」
「やはり、そちらでも会話したことはありませんでしたか」
ヒットアンドアウェイに徹していれば、会話をする気配などないでしょう。それにビナーは自己主張をするためにわざわざ、私に話しかけたのだと考えられます。そうでなければ、あんなに一方的に話したりはしないでしょう。
「ところで、ビナーは普段どこにいるのでしょう? あの大穴の中でじっとしていられる性格ではないと思うのですが」
「一度、我々がビナーの出現した大穴を調査したことがある。だが、不思議なことに大穴がどこかに繋がっている形跡がなかった。つまり、ビナーが地下を移動している可能性は低いと考えられる」
「それなのに出現するまでは姿が見えないということですか?」
「あぁ、そうだ」
つまり、ビナーは反応を消して地下に潜っているのではなく、反応がない時は存在していないということでしょうか。どういうことなのか分からなくなってきましたね。そんなことを考えているうちに特異現象捜査部の部室に到着しました。
「ただいま、戻りました」
「お疲れ様だったな。何か手助けになればと思って資料を一通り見たが、無駄だったようだ」
「いえ、そんなことはありません。何か役に立とうとしてくれただけで嬉しいです」
「そう言ってくれると助かる」
私が頼んだのはあくまで、反応の消失を確認するという仕事でした。それだけでも充分に果たしてくれたというのに、オペレーターとして役に立とうとしてくれていたなんて。私も葛城君に負けないようにしっかりと資料を読み込まなくてはなりませんね。
「真嶋先生、資料をいくつか持って帰ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないぞ」
「それなら、これから持っていけ。どうやら一番最初に書かれた資料らしい。基本的なことはここに一通り書いてある。一度に何冊も持ち運びできないだろう?」
「ありがとうございます」
資料を読み終えたら、今回のビナーのことについて私なりにまとめなくてはいけませんね。新発見のものが多いでしょうし、資料を書くことも部活動の一環でしょうから。そういえば、ずっと気になっていたことがあったのでそれも聞いておきますか。
「先生、デカグラマトンとは関係のない質問なのですが、Dクラスが不良品というのはどういうことですか?」
「何?」
先生の眉間に皺が寄りました。おや、聞いてはいけないことでしたでしょうか?
「それをどこで聞いた?」
「コンビニの前で上級生と思わしき人が一年生に向かって話していました」
「そうか、分かった。その質問の答えだが、いずれ必ず話す。だが、今は答えられないとだけ言っておこう」
「ありがとうございます。今はそれだけでも充分です」
気になったことを質問してみましたが、どうやら答えられないようなので、後で自分で考えてみることにします。それにしても入学初日だというのに大変な一日でしたね。寮に帰って風呂にでも入りましょう。
この小説の預言者は会話をします。そのため、皆様の想像と違うことを言ったりするかもしれませんが、ご容赦ください。