島民達が殺し屋を差し向けてきて、終わりであるはずがない。そう考えた私達は現在、船を出発させて無人島からかなり離れた場所にまで来ていました。勿論、生徒や先生だけでなく、ペンションのスタッフも一緒です。
「爆弾は爆発しなかったわね。少しは爆発するかと思っていたのだけど」
「八月七日になったら爆発させるという予告でしたから、まだ爆発していないだけという可能性はあります。それ故、五日目までは船内の徹底的な確認が行われたのですから」
「厳密に言えば、今も行われている最中だけど、七日目に爆発しない保証でもあるの?」
「島や船に爆弾を仕掛けたのはオカルト側であることは櫛田さんが暴露しています。本物ではありますが、時間稼ぎに過ぎないということも。であれば、我々は安全な場所に移動した方が良い。実に単純なことでしょう?」
もっとも、我々は日本全土に火山の冬がやってきてしまわないためにも、軍の上層部が企画しているコクマーの討伐または撃退を果たす必要はあります。
大変なことではありますが、茶番だと言っていたので、すぐに終わる可能性はあるでしょう。
「それで、この船はどこに向かっているの?」
「本土ですよ。そこで他の生徒達を降ろして、私達は別の船でコクマーのいる離島に向かうことになっています」
「なっているってことは準備は済ませたってこと? いつの間に?」
「爆弾が仕掛けられてからこのことは考えておりました。まぁ、実行するには先生方の協力が不可欠だったわけですが」
「……そんな素振りを見せなかったのは、犯人にバレると爆破される恐れがあるからってわけね。でも犯人側が時間稼ぎであることを暴露した以上、その恐れも無くなったから実行に移した、と」
「そういうことです。流石は神室さん」
唯一の心配事は櫛田さんが離れてしまったことですが、人助けという名目がある以上は反対することもできません。私が反対したところで先生が許可を出しているのであれば、罰せられることもないでしょうしね。
「それにしてもよく先生達も許可したわね。コクマーを倒した後、一週間ほどある船旅で何かをするんじゃないかと睨んでいたんだけど」
「豪華客船が爆発しなければ、そのまま利用し続けられますから。作戦に参加しない方々は爆発しないことが確定した後、船旅を楽しんでもらう形になります。もっとも、先生達は私達と同行する形になるので、その何かは私達が船に戻るまでお預けでしょうが」
「その間、船は停泊しているんだから船旅とは言わないと思うけど。それよりもタイムリミットまでの間、他の生徒はどこで宿泊するの? そこまで、ちゃんと考えているんでしょうね?」
「ご安心を。高育行きのバスを呼んでおきましたので、そちらを使って少しの間だけですが、高育に帰ってもらいます。ホテルに泊まらせるのには懸念事項がありますから」
「懸念って……まさか、島民?」
「正解です。ちょうど、下船する場所の近くにあるホテルに避難してきた島民が宿泊しているようでして。出発した以上、攻撃してくることはないと思いますが、念のため」
本当は島民のいない港で生徒達を下船させたかったのですが、そこ以外だと高育行きのバスを手配できません。それにホテルに泊まらせる案は懸念事項以外にも、大人数がいきなり泊まれるホテルがないという現実がありますから。
「そういえば、葛城は? こういう話をする時には大体いるじゃない」
「葛城君はクラスを纏めてくれています。クラスのリーダーは彼ですからね。心配しなくとも、既に連絡すべきことはしていますよ」
「そんなことは心配してない」
「あら、そうでしたか。さて、そろそろ連絡が来ると思ったのですが、来ませんね」
「連絡?」
「作戦会議をする場所の連絡です。私達は全く作戦が練れないままだったので、作戦会議を本格的にしたいのですが、爆弾探しに忙しいのでしょうか?」
先生達は引き続き、この豪華客船を使いたいと考えているはずです。ということは、爆弾探しに必死になるのは必然。会議場所を探す暇などないのかもしれません。作戦は離島に向かう時に立てるしかありませんね。と言っても、案自体は既にあるのですが。
「仕方ない。私が連絡してみる……ってなにこれ?」
「どうかしましたか?」
「今はコクマーが出現しているから、携帯の通知音を切ってたんだけど、近くにコクマーとは別の預言者が近づいているみたい」
「なら、間違いなくホドですね。彼女を置いてきてしまいましたから、間違いなく私達の乗っている船を探しているでしょう。しかし、こんなにすぐ見つかったということは、誰かがホドに位置情報を知らせていたということでしょうね」
既に二人も生徒の中に預言者が混ざっていたのです。これ以上、いても不思議ではありません。位置情報は人間の状態でも送れるのでしょうから、この時点で誰が預言者なのかは分かりませんが。
「迎撃準備は必要?」
「ただこの船に乗るだけだと思いますし、必要はないでしょう」
しばらくして、巨大な物体が海の中から姿を見せるとその物体は縮小し、人型になって私達の目の前に降り立ちました。
「移動したことを伝えなかったことは申し訳ありませんでしたが、聞きたいこともあります。無人島の様子はどうでしたか?」
「そのことについて答える代わりに、こちらの要求にも応じてほしいかな」
「要求次第ですね。オカルトの味方をするということは一般市民を見捨てるのと同義ですから」
「安心して、私の要求はとても簡単。むしろ、応じないとそっちが後悔しちゃうかもね」
オカルトの味方をしないと後悔するということは、島民関係でしょう。預言者達が自分達の計画を台無しにされたことに腹を立てないはずがありませんから。
◇
「他の生徒がいない場所を確保することが難しくてな。そのため、連絡するのが遅れたわけだが、何故ここにホドがいる?」
「それは彼女の口から説明してほしいことがあるので、私が呼びました。彼女には説明が終わり次第、退出してもらうつもりです」
ならば、早速説明してもらおうというように視線が櫛田さんの方に向きます。櫛田さんは用事を早く済ませるために無人島で起きていたことを余すことなく説明しました。
「なるほど、島民はキヴォトスの技術を手に入れていたのか」
「何かしてくると思ったが、警官に手を出すとはな。これで島民は警官という後ろ盾をなくすどころか、敵にしたわけだ。それだけの力を持っているんなら、当然の判断だがな」
真嶋先生と龍園君がそのように言うと、葛城君から今回の任務とは別件で島民を拘束しておいた方が良いのではないかという意見が出ます。
「正義感の強い葛城君らしいね。話そうと思っていたのはちょうどそのことなんだ。私は上からの命令で島民を始末しなくちゃいけなくなったの。だけど、それは阻止したいでしょ? 拘束だけで済ませるためにも使わない兵を貸してほしいんだ」
「それは……無理な話だな。軍が独断で島民を拘束するわけにもいかん。現行犯でもない限りな」
「でも排除すると言われた以上、無視することもできない。そうでしょ? 心配しないでも軍の上層部には確認してあるから。連絡して確かめてみても良いよ」
「では、失礼する」
真嶋先生は確認のために席を外しました。上層部がオカルトに乗っ取られているというのは問題ですが、今回はスムーズに話が進みそうですね。
「少し聞きたいことがあるの。貴女が私が通っていた中学の生徒をほとんど皆殺しにした事件があったけど、そんなことをした理由は聞いたことがなかったわ。だから、この機会にその理由を教えてほしいの」
「……あぁ、あの一件か。理由自体はとても簡単だよ。堀北さんも知っていると思うけど、あの学校にいた奴らはクズばっかでね。一言で表せば、犯罪者ばかりだった。そいつらには消えてもらおうと思っての行動だったんだ。これで納得した?」
「いいえ、納得はしてないわ。あの人達がクズだったのは間違いない。でも、警察に調べさせれば終わった話よ。貴女ならそれも出来たはずだけど?」
「それは━━」
「待たせたな、確認が取れた」
櫛田さんが続きを話そうとしたタイミングで真嶋先生が入って来ました。櫛田さんはまた後で話してあげると告げて、真嶋先生に質問をします。
「それで、どうだった?」
「あぁ、出動許可が出た。警察と共にな」
「なら、余りの兵も貸してくれる?」
「あぁ、と言ってもAクラスは余りなんていないぞ」
調べた結果Dクラス以外はコクマーとの戦いに全戦力をぶつけようとしていたようで、Dクラスの追加されなかった四人が櫛田さんのところで動くことになりました。
「結局、Dクラスは統率が取れなかったんですね」
「申し訳ないわね」
「いえ、謝ることではありませんが、後で大変なことになりますよ。そのことだけは頭の中に入れておいてください。もっとも、お二人の能力なら何とかなるのでしょうが」
今後の特別試験では自分達だけの利益を優先したクラスとして悪名が残るでしょうが、それをさせてしまったのはAクラスです。少しくらいはフォローをしてあげましょう。
「では、何もないのであれば、櫛田さんには退出してもらいますが」
「そうだね。じゃあ……と言いたいところだけど、最後に殺し屋の引き渡しについて聞かせてもらおうかな」
「あぁ、殺し屋については作戦が終わった後、島民と共に警察へ引き渡してほしい」
「分かった。じゃあ、今度こそ失礼させてもらおうかな」
櫛田さんはそう言って部屋を後にしました。さて、早いうちに作戦について話し合うといたしましょう。
◇
櫛田 side
私は人のいない場所に行くと、携帯を取り出して指示を出している預言者に連絡を入れる。本当はメッセージを頭の中に送るというのも良いんだけど、誰かに見られたら怪しまれるだろうしね。
「約束通り、軍とは手を組めたよ。こっちの要求は飲んでくれるってことで良いんだよね?」
『えぇ、構いませんよ。しかし、良いんですか? 貴女が交流をした殺し屋の命はともかく、島民の命まで助けても』
「他の預言者なら間違いなく、島民は殺していただろうね。でも、オカルトに襲われた可哀想な被害者として終わらせないためにも、彼らには生きて捕まってほしいんだ」
『その後、死刑が待っているとしてもですか?』
「島民は仕方ないんじゃないかな。力に溺れたとはいえ、あれだけのことをしたんだもん。殺し屋の方は島民の被害者だから、こっちから手を回して不起訴にしてもらう。警察内部にもあの殺し屋の味方がいるっぽいしね」
あの殺し屋には家族がいる。それも好感が持てる家族が。私にはまともな家族がいないから羨ましいと思う。そう言えば、ケセドの家族らしき人達はどうしているんだろうか。
「要件はそれだけだから。じゃあ、切るね」
『少々、お待ちください。気づいていると思いますが、尾行されていますよ。相手が誰かは分かりませんが、処分は任せます』
そう言って、向こうは電話を切った。それにしても周囲に生体反応はないけどな。念のため、出てきてもらおうかな。
「特に何かしたりするわけじゃないから出てきてもらっても良いかな?」
「分かった。何かするにしてもお前じゃ何もできないだろうしな」
物陰から出てきたのはショートヘアの女の子だった。それも微妙に体が透けている気がする。ミメシスってわけじゃなさそうだけど。
「それで貴女は?」
「伊吹澪、元忍者だ。もう死んでいるから幽霊って言ったところか」
「なるほどね。ミメシスと違って、実体を持たないなら、生体反応がないのも納得だよ」
逆にあっちはよく気づけたね。成仏できない魂なんてそこら中にいるだろうに。特に私達を呪う怨霊とか。
「それで、伊吹さんはこんなところで何をしているのかな?」
「幽霊なんだから、何したって自由だろ。私はお前らの死んでいく様が見たいってだけなんだけどな」
「私は?」
「あぁ、お前には見えてないのか。ここには私以外にも幽霊が多くいるよ。一つの学校分くらいはね。お前、何したんだよ?」
「その人達に聞いてみたら? でも、そっか。そのくらいの人数が成仏できていないんだ。なら、それは私の殺した怨霊なのかな?」
私は機械だからその呪いは届かないけど、怨霊がいるってだけでも分かって良かった。もしかしたら、生き残った彼女にも目をつけているかも。早いうちに何で殺したのかは話しておかないと。
「でも、何で伊吹さんは私に見えるのかな? 怨霊って感じのおどろおどろしさがないから、ひょっとしてそれに関係する理由?」
「確かに私はお前達を恨んじゃいない。それどころか、成仏できなくて結構、暇しているのさ。見える理由は知らないないが」
「善良な幽霊だから見えるってこと? それだったら、もっと多くの幽霊を見ても不思議じゃないけど。もしかして、伊吹さんの幽霊としての力が強いってことじゃないの? それだったら、見える理由にも納得がいくけどね」
「私の力が強い? それはあるかもな。幽霊になってから暴れ足りないと思っていたところだ。どっかで暴れる機会をくれないか? そしたら、成仏できるかもしれないな」
「貴女がどれだけ物理に干渉できるのかは知らないけど、だったら元忍者ということを活かして調べてほしいことがあるんだ。それで良いかな?」
私はこれから行う作戦を話すと、伊吹さんは楽しそうに笑った。暴れられる場所を見つけたからだと思う。
「それで、調べてほしいことは何だ?」
「おそらく島民はオカルトを使ってくると思う。その場所を調べてほしいの。ただし、島民は殺さない方向で」
「ちょっとぬるい気がするが、暴れられるなら何だって良い。もしかしたら、暴れることで成仏できるかもしれないしな」
「契約成立だね。言い忘れてたけど、オカルトの機械は壊さないで。証拠品だから」
「それくらいは分かっている。じゃあ、暴れようか」
もう少しで港に到着する。殺さないようにっていうのが面倒だけど、私が言い出したことだし、仕方ないか。それじゃあ、港から旅館までどれくらいかかるかくらいは調べておこうかな。
少し長くなりましたが、次回からは戦闘に入ると思います。島民との戦いとコクマーの制圧のどちらを先にやるかは分かりませんが。