櫛田 side
ゾンビを突破して、大広間に辿り着いた私は酒を飲んでいる人達を発見する。酔っ払っているようで、この人達は簡単に拘束することができた。
「おい、こんなことしてどうなるか分かってんだろうな!」
「どうなるっていうの? 貴方達、拘束されて身動き一つ取れないよね?」
「トワイライトは無敵だ。こうなった時のために音声入力ができるようにしてある」
「そのトワイライトっていうのはどこにあるの? 私にも見えない極小のものなのか、それともまだ状況を理解していないのか。どっちなの?」
トワイライトっていうのは島民達が持っているゾンビ化させる機械のことだと仮定すると、伊吹さんは随分と上手くやってくれたみたいだね。
誰かしら気づいているものだと思ったのだけど、まさかここまで間が抜けているとは思わなかった。
「あとは貴方達を軍に引き渡して終わりかな。もうそろそろ来るだろうし、私はここでおさらばということで」
「おい、待て!」
私は彼らの言葉を聞くことなく、大広間から出て行こうとしたその時、大広間のテレビに突然、映像が表示される。
『ご苦労様、よく働いてくれたわね』
画面に映るのは長い黒髪の女性。いや、ヘイローがあるから女子生徒かな。とにかく、その人の話を聞いた島民は救世主が現れたかのような顔つきになった。
「いえ、我々は自分達の島を取り戻したい一心でやっただけです。それで、我々を助けてくれるという約束を果たしていただきたい」
「えぇ、約束は果たすつもりよ」
そいつの声が聞こえたのは画面からではなく、島民のすぐ側からだった。つまり、私がテレビに注目している間にこの部屋に入って来ていたということか。
「ありがとうございます。早く拘束を解いていただきたい」
「そう焦らないでちょうだい。貴方達の最後の役目が残っているわ」
「最後の役目?」
「今こそ、貴方達に預けたトワイライトの最大の力を発揮する時よ」
「申し訳ありませんがあれは手元になくてですね」
「あれは遠距離でも使えるの。対象にマーキングさえしておけばね」
何だか、嫌な予感がする。こいつはこの場で気絶させておくべきだ。そう考えて、手にした銃でそいつを撃つ。
「貴方はキヴォトス人をあまり知らないようだけど、キヴォトスでゴム弾なんて使っている人はいないし、ゴム弾で気絶する人はいないわ」
そいつは弾に当たっても涼しい顔をしていた。キヴォトス人まで出張ってくるなんて想定外も良いところだ。ビームを撃ちたいところだけど、爆発でここにいる島民は死ぬ可能性が高い。だから、私にできることは一つ。そいつを格闘技で締め落とすことだけ。
「おぉ、これはどうなってんだ?」
私がそのような決意を固めたところで、軍人がやって来た。私の意識が軍人に逸れたタイミングでそいつはいつの間にか取り出したスイッチを押す。
「あ……アァァァ!!」
「ギィァァァァ!!」
捕まえられていた島民達が一斉に騒ぎ始める。いや、島民だけじゃない。後ろからも声が聞こえてくる。
「さっき、あの女はゾンビ化する機械であるトワイライトの最大の力を発揮するって言ってた。つまり、島民達をゾンビ化させるつもりだと思う。けど、多分それだけじゃない」
「あぁ、同感だ。ここは一度、外への避難を優先するべきだな。と言っても、後ろから悲鳴が聞こえたってことは警官隊もゾンビ化しているってことだ。さて、どう切り抜けるか」
「心配には及ばないよ。私に捕まって。瞬間移動をするから」
私が借りてきた兵は四人だけ。それだけなら、一度に瞬間移動をさせられる。一人だけなら、ともかく四人も一緒に瞬間移動をさせるとなると、座標がズレるかもしれないけど。
「しっかりと捕まったね。いくよ!」
私は瞬間移動をし、四人は無事にホテルの前まで戻すことができたが、一方の私は膝をついて倒れそうになっていた。
「どうした?」
「撃たれたみたい。油断したなぁ」
私が瞬間移動の際に、ヘイローを展開していない必要があるということを見破られていたようだ。気づいたのはあの無人島のゾンビとの戦いを見ていたからだろうね。
「それにしても、結構早い段階で捕まっちゃったなぁ。逃げ続けるつもりだったのに」
「戦えそうか?」
「私は機械だよ。不具合を起こすことはあっても痛みとは無縁なんだ。だから、動くことはできる」
「つまり、倒れそうにしていたのは不具合が起きていたということか?」
「そういうこと。心配しないでも人の姿で動くのが難しいだけで元の姿になったら、この程度の損傷でも簡単に動くことができる。でも、弾の摘出だけはさせて」
私は弾を摘出するための道具を受け取り、自分で処置を済ませる。こういう時に痛みがないのは楽で良い。
「出てきたのは良かったが、また突入するんだよな」
「そうだね。あのままだと全滅していたかもしれないから出てきただけで、ゾンビを全滅させるのは変わらない。そういう意味ではやりやすくなったかも」
周辺住民の避難誘導をするのも面倒だ。早いところ片付けたいところだけど、警察官までゾンビ化したとなれば、すぐに終わるかどうか。
「おい、あれを見ろ!」
軍人が指した先にあるのは先ほどまでいたホテルだが、先ほどと違うことがある。いや、現在進行形で変わっているというべきかな。
「ホテルにヒビが」
「このままだと倒壊する可能性が高い! 急いで避難を!」
「ホテルの中にいる人達はどうするんですか!」
「いや、心配する必要はないんじゃないかな」
生体反応を見てみると、面白いことに一つの場所に集まっていることが分かる。個室にいた島民達も含めてね。それも速度は一定でパニックになっている様子もない。つまり、個室にいる島民達もゾンビ化しているってことになる。
そのことを軍人達に伝えると、とにかく安全な場所まで離れることになった。伊吹さんは幽霊だから心配いらないと思うけど、証拠品は無事かどうかだけ心配だ。
「動けるか?」
「運んでくれると助かるかも」
「仕方ない。俺は頭の方を持つから、手が空いている者は足の方を持ってくれ」
引越し業者みたいな指示をするね。背負ってくれても良いのに警戒は続けているってことか。あと持ち上げるなら、頭の方より肩を持ってくれると助かるかも。
安全な場所に運び終えたところで、ホテルが倒壊し、中から巨大なゾンビが姿を現した。確か、ジャイアントゾンビって言うんだっけ。
「ホテルが倒壊して、中にいた奴らのほとんどがゾンビ化か。こりゃあ、始末書じゃ済まなそうだ」
「来るよ!」
ジャイアントゾンビは私達を見ることなく、その巨体に見合わないほどの速度で走り、そのまま海に向かって飛び込む。
「あいつはどこに行ったんだ?」
「ゾンビは命令通りに動くだけの知能はある。そんな奴が私達を見ることなく、走り去った場所なんて一つしかない」
「……まさか」
「島民達は自分達の島を取り戻そうとしてた。つまり、その島に行ったということになる。私達はその島に向かう手段がない。だから、私達がやるべきことは、その島に向かった人達にそれを知らせること。後は倒壊した建物の中からゾンビ化する機械を探さないと」
「機械だからかは知らんが、相変わらず頭の回転が速いんだな。分かった、役割分担をするぞ」
軍人達は集まって、役割分担を始めた。さて、私は伊吹さんと何とか接触しないと。そうは言っても自己修復が完了するまでもう少し、時間がかかりそうだ。伊吹さんが状況を理解して合流してくれると良いんだけど。
◇
伊吹 side
私は建物が倒壊する前に窓から飛び降りたから、何とか埋もれずに済んだけど、機械の方は無事か?
いきなり作動した時は驚いたが、それから何も反応しなくなった。まぁ、壊れたのなら、これ以上ゾンビ化する心配はないから良いんだが。
「あら、こんなところにあったのね」
誰か分からない女性の声が聞こえて、振り返ると長髪で黒髪の女がそこにはいた。ヘイローがあって、預言者とも違う格好だから多分、キヴォトスの人間だと思うけど。
「なるほど、ちゃんと壊れているわね」
こいつがここで何をしているのかは知らないが、この機械を持っていかれるのはダメだ。最悪、気づかれても良いからあいつのところに持っていかないと。
「誰だか知らないけど、そこにいるのは分かっているわ。どうして見えないのかまでは分からないけれど、この機械は置いていくから安心しなさい。その代わり、見逃してくれると助かるのだけど」
「お前が誰だかは知らないが、私は暴れ足りないんだ。それに重要参考人をわざわざ逃すわけないだろ」
「あぁ、そこにいたのね。姿が見えない特徴から推察すると、貴女が噂の忍者という存在?」
「元、だけどな!」
私は目の前の女に蹴りかかった。だが、その蹴りは受け止められる。目の前の女ではない、別の相手に。
「誰だ、お前は」
「ミレニアムサイエンススクール、C&C所属、コールサイン04、飛鳥馬トキです。以後、お見知り置きを」
「コールサイン04だと? 聞いたことがある。凄腕のエージェント集団、C&C。00〜03しか存在が確認されていないが、04という生徒会長専属のエージェントで名前が秘匿されている存在がいると。つまり、お前はミレニアムの生徒会長、『ビッグシスター』の調月リオ」
「否定はしないわ。でも、その油断が良くないわね」
私は大物が目の前にいたことによる驚きのあまり、トキから目を離してしまい、急所に一撃を入れられてしまった。幽体でも急所は同じなのか。
「お前達、何が目的でこんなことを?」
「今の貴女に語る必要はないわ。その油断する癖を治してから、改めて私に質問しなさい」
待て……ダメだ、声に出せない。急所をやられたからか。幽霊でも……気を失うことが……ある……
今回はかなり短い話でしたが、区切りが良かったので、この短さになってしまいました。