綾小路 side
ついに七日目の朝を迎える。無人島やあの船は無事だろうかと気にしてしまうのは、何故だろうか。オレにはもう関係のない場所のことなのに。
「おはよう、綾小路君」
「あぁ、おはよう……ってもう準備しているのか」
「すぐに突入することになるのだもの。当然でしょう?」
「島が見えてからで良くないか? 少なくともお前以外、まだ誰も着替えてないぞ」
「別に良いじゃない。それにこっちの方が涼しいもの」
堀北の言う通り、耐熱性の防護服の中は涼しい。こんな便利なものがあるのなら、最初からこっちにしてほしいものだ。普段のやつは暑苦しいからな。
「それで、オレに何か用か?」
「緊急の招集よ。すぐに集まってほしいらしいわ」
「分かった。どこに向かえば良い?」
「チャートルーム……と言っても分からないわよね。ついてきてちょうだい」
堀北の案内に従い、連れられてきた場所にはほとんどのメンバーが集まっていた。オレ達で最後といったところか。
「それでは、全員揃ったので始めましょうか」
「作戦の修正案か?」
「いえ、そうではありません。昨夜、軍からの連絡があったそうです。私は既に聞いていますが、皆さんにもお伝えした方が良いと考えたので、こうして招集いたしました」
軍からの連絡、それもオレ達の作戦に関わってきそうなことなのだろう。でなければ、明星が作戦前にわざわざ招集するはずがない。
「まず、第一に昨夜の作戦は失敗しました。合体したジャイアントゾンビなる者には逃げられ、ホテルも倒壊したそうです」
「……それと今回の作戦がどう関係してくる?」
「そのオカルトが我々の向かっている離島に逃走した可能性が高いのです。黒幕とされる人物が離島をコクマーから取り戻すことに協力していたそうですから」
「要は島民と契約をしていたってことか。だが、その契約を破棄する可能性はねぇのか?」
「それはないと思います。黒幕はキヴォトス人だそうですから」
確かにキヴォトス人であれば、契約は守るだろうな。キヴォトスの中で契約は重要な意味を持つそうだから。ただ、穴をついてくることはあるみたいだがな。
「それで、黒幕の正体は分かっているのか?」
「えぇ、似顔絵が送られてきていますから。そして、その人物は私の知り合いでした」
「そうか……まぁ、気を落とさないようにな」
「知り合いであったというだけで仲良くはありませんから、落ち込んではいませんよ」
葛城の慰めにそのように答えた明星であったが、動揺してはいるようだ。向こうが離島を取り返すために行動しているのであれば、こちらは漁夫の利を狙えば良いのではないかと考えてしまう。
だが、明星はそんなことに気づいていないとは思えないので、漁夫の利を選択できない何かがあるのだろう。案の定、龍園がその提案をしたところ、明星は無理だと告げた。
「その提案は魅力的ではありますが、軍からの通達がありまして。ゾンビが離島に到着する前にコクマーの討伐もしくは撤退がされない場合、特別試験は失敗したものとみなし、取得できるポイントは無くなるそうです」
「なるほど、見せ物として成立しなくなるからか」
「加えて、コクマーは我々と戦うためにあえて火山を噴火させていない可能性があります。そこで我々よりも脅威度の高いゾンビ相手なら、遠慮なく噴火させて日本中に火山の冬が到来するでしょう」
「つまり、オレ達の任務はゾンビが到着する前にコクマーを撤退させること。ただそれだけということか」
言葉にしてしまえば簡単だが、タイムリミット付きでオカルトと戦ったことなんてない。そのため、正攻法では間違いなく特別試験は失敗するだろう。つまり、正攻法じゃなければ良いということだ。
「まぁ、ご安心を。コクマーに関してはゾンビが到着する前にどうにかして、撤退させることはできますから。そのため、問題はゾンビにどのような対処をするのかといったところですね」
「放置で良いんじゃねぇか? ゾンビの相手まですることは任務に含まれてねぇんだからよ」
「私としても放置して軍に任せても良いと思いますが、軍の上層部がそれを許しませんでした。彼ら曰く、ゾンビが離島に上陸しないようにするために海上でゾンビの動きを抑える役割を増やせ、とのことです」
「つまり、ゾンビの件も見せ物にしようって魂胆か」
軍の上層部はオレ達のことを金儲けの道具としか見ていないようだ。確か、奴らはオカルトの道具に成り下がっていたはず。であるのならば、茶柱先生をどうにか利用して排除できないだろうか。そのために話は通しておかないとな。
「話は以上です。では、これからメンバーを地上班と船上班に分けますが、どちらが良いという希望はありますか?」
「Dクラスは地上班を希望する」
「綾小路君、こういうのは話し合ってから決めるのが常識よ。こういう時に言うべき言葉は話し合う時間をくれってことなの」
そういうものなのか……って納得してしまったら、オレが常識のない変人みたいじゃないか。一応、地上班を希望したしっかりとした理由もあるんだぞ。
「かしこまりました。では、Dクラスは地上班ということで。では時間もありますし、堀北さんの言う通り、話し合う時間を三分ほど差し上げます。Dクラスも変更がしたいのであれば、話し合ってもらっても構いませんよ」
その言葉に甘える形でオレ達は話し合いを始めた。オレとしては地上班で不満はないのだが、堀北を納得させる必要があるからな。山内は特に何も言ってこなかったから、どっちでも良いんだろう。
「どうして、勝手に決めたのか聞かせてもらおうかしら」
「オレとしては茶柱先生の身体のことを考えてだな……」
「身体って……あぁ、そういうことね」
茶柱先生の身体は機械で出来ていることが判明している。つまり、水は危険なのだと推測している……それも海水は特にな。
「茶柱先生には今後も生きてもらう必要がある。死なせるわけにはいかない」
「貴方が何を企んでいるのかは分からないけど、その考えには同意ね。あの人には上層部の動きを抑えてもらわないといけないもの」
堀北もオレと同じ考えだったようだ。今後の行動のためにも役に立ってもらう必要がある。まぁ、学校をクビになるような人が上層部の動きを抑えられるかと言われれば、微妙なところではあるが。
◇
「議論の結果、地上班はAクラスとDクラス。船上班はBクラスとCクラスで決定いたしました。ただし、私は地上での活動に向いていないので、船上班に入れてもらうことになりますが」
人数の少ないDクラスを人数の多いクラスがカバーした方が良いということで、Aクラスが地上班になり、足止めだけならそちらの方が楽で良いという理由でCクラスが船上班になった。
Bクラスは空いているところであれば、どちらでも構わないとのことだったので、船上班に割り振られたようだ。
「それで、ロケットランチャーはどちらのチームが持つ?」
「私としては地上班で構わないかと。この船は見て分かると思いますが、軍艦ですから大量の武器があるんです」
確かにオレ達の乗っている船は軍艦だ。軍が借りるのに一番費用のかからない船となるとこれしかなかったらしい。だが、そのおかげで上層部の無茶振りにも対応できる。
「では、離島に到着するまで解散ということで」
「ちょっと待て。まだ、黒幕のことを教えてもらってねぇ。お前の知り合いなら、どういうことをしてくるかも分かるだろ? それが分からなきゃこっちとしても対策のしようがないからな」
「……そうですね。私の判断ミスでした。彼女の名前は調月リオと言ってミレニアムサイエンススクールの生徒会長を務めている人物です。合理主義を極めた人と言っても過言ではありません。また、自分の考えを絶対視しているマキャベリストでもあります」
「マキャベリスト……目的のためなら手段を選ばない人間ってことか。何の目的だか知らねぇが、ゾンビを作り出した奴の思考としては妥当だな。それで、奴は次に何をしてくる?」
「櫛田さんの話によれば、彼女が何かをするという段階は既に終わっています。ゾンビに関することであれば、何かをしてくるということはないでしょう。強いて言えば、観察くらいでしょうか」
「……なるほどな。科学者らしいと言えば、らしいが」
龍園は納得できたようだ。黒幕のことを話さなかったのは話したくなかったのではなく、話す必要がなかったからか。少なくとも、この作戦においては。
今度こそ解散ということになり、オレ達はこの部屋を後にするのであった。離島に到着するまでまだ時間はあることだし、軍艦の中を探検してみることにする。勿論、立ち入りが許可されているところまでだが。
何故、リオがあんな行動を取ってしまったのかは今後、語っていこうと考えています。