「ビナーが最初に発見されたのは今から数十年前?」
私は寮にある自分の部屋に帰った後、葛城君から渡された資料を読んでいました。記載されているのは当然、デカグラマトンのことについてです。この資料を読んで知らなかったことをいくつも知ることができました。
例えば、デカグラマトンとは神の証明を行うために作り出されたAIであったということですね。このAIは自らが新たな神になろうとしていることがデカグラマトンとの接触により、分かっています。調査班は何度もデカグラマトンにハッキングをされては拠点を移していたことも分かりました。
そんな新しい発見の中で最も驚くべきことがありました。それはビナーについてです。最初に発見されたのは今から数十年前のことであり、この高育の外に出現していました。具体的に言えば、砂漠があるところです。ちなみに、ビナーは元々が何だったのかということや何を目的に動いているのかということが一切不明と書かれていました。そんな存在が何故、高育に姿を現すようになったのかは正確には分かっていないようですが、一説によりますとデカグラマトンがこの地にいることに関係があるのだとか。
そういえば、この地にデカグラマトンがいることが分かっているのにも関わらず、デカグラマトンを見つけたという話は聞きませんね。デカグラマトンに辿り着けない何かがあるのでしょうか。少なくともこの資料には載っていませんね。書いてあるのは、デカグラマトンとビナーについてのことだけです。明日、部室でその辺のことを調べてみますか。
◇
翌日。ビナーとの戦闘や資料を読んでいた私は見事に寝不足です。しかし、私は生徒として振る舞う必要がありましたので、寝不足でも登校しなければなりません。今日は授業の初日ということもあり、授業の大半は勉強方針等の説明だけだったので退屈でした。しかし、私以外の生徒はしっかりと授業を聞いており、さすがはエリート校です。中には退屈だったのか会話をしている生徒もいましたが、それでも授業は聞いているようでした。
昼休みになると皆さんは昼食をとるため、食堂や購買に向かったようです。葛城君なんかは既にチームのリーダーになっているようで、そのチームで食堂に向かいました。これだけまとめるのが早いのであれば、クラスのリーダーになるまであっという間でしょうね。私が手助けするまでもありません。私も食堂に向かおうとした時、一人の少女が声をかけてきました。
「ねぇ、ちょっと話したいことがあるんだけど。今って時間空いてる?」
「えぇ、空いていますよ。お話なら食堂で伺いますが」
「誰にも聞かれたくない話なの。私についてきて」
何やら怪しい匂いがプンプンしますが他にやることもありませんし、大人しく着いていきますか。そんな彼女について行って辿り着いた場所は校舎裏でした。確かにここなら誰にも聞かれる心配はないでしょう。例え、暴力を振るわれたとしても誰も気が付かないでしょうね。そうなった場合は逃げるだけですが。
「私は神室真澄。一応、軍の人間よ。早速で悪いけど、私を特異現象捜査部に入れてほしいの」
「なるほど、それが聞かれたくない話でしたか。聞かれたくない話というのは口実で私に何かするのだと思っていました」
「怪しかったのは謝るよ。で、どうなの?」
「その前に一応とはどういうことですか?」
「あぁ、それについては簡単よ。私、まだ訓練生だもの」
訓練生まで導入しているのですか。確かに高校生の身分で潜入するとなると近い年齢の訓練生から選ぶのは妥当ですね。もっとも、この作戦に参加しているのは軍の足を引っ張らない優秀な訓練生だけでしょう。神室さんはその優秀な訓練生というわけですか。
「軍の方であれば、特異現象捜査部に入らずとも独自の活動があるでしょうに。何故、わざわざ部活に入ろうと思ったのですか?」
「特異現象捜査部の活動をする上で戦闘員は必要不可欠。だけど、今のところ戦闘がまともにできるのは顧問である真嶋先生とあんたしかいない。しかも、あんたは本来は後方支援が向いているときた。実質的な戦闘員が顧問しかいないんじゃ、部活は顧問がいない時はまともにできるわけがない。もっと戦闘員を増やすべきだっていうのが上からの指示よ」
「なるほど、それで私に接触したのですか。私は構いませんが、入部の件は真嶋先生に聞いてからでもよろしいですか?」
「えぇ、それで構わないわ」
話は終わったようで、神室さんは背中を向けて去っていきました。今からだと食堂に行っても席は埋まっていそうですね。仕方ありません、購買でパンでも買ってきますか。その後、真嶋先生に神室さんのことを相談したところ無事に入部の許可を得ることができました。
購買でパンを買い、教室に戻ってきたところ、神室さんも購買で買ったであろうパンを食べていました。神室さんに入部が認められたことを報告し、自分の席に戻ったタイミングで放送が流れてきました。
『本日、午後五時より第一体育館にて部活動の説明会を開催いたします』
部活動の説明会ですか。この学校は兼部はできるのでしょうか? コンピューター系の部活があるかもしれないので、見に行ってもいいかもしれません。とは言っても、どのように活動しているのかという点に興味があるだけですが。私も部活動で忙しいですが、多少の時間を作るくらいは許されるでしょう。そうでなければ、生徒として入学できていないはずです。もっとも、預言者が出現しなければという条件付きでしょうけど。
「神室さん、部活動の説明会に行きませんか? 面白いものが見れる予感がします」
「明星、あんた正気? そもそも、私達はもう部活に入っているじゃない」
「だからこそ、他の部活動も知りたいのです」
「私、時間があるなら自主トレをしたいんだけど。いつ、あいつらが来るのか分からないし」
「いつ来るのか分からないからこそこういう日常を楽しみたいんです。お願いします」
預言者が来たとしても私には知る方法が部室に行く以外にありません。ですが、軍の方であれば話は別だと思います。昨日の戦車部隊もそうでしたが、部室にいなくても状況を察知していました。おそらく、軍の方には個別で預言者の出現を知ることのできる機械か何かが配られているのでしょう。
「分かったよ。ただし、あいつらが来たらすぐ部室に行くこと。これが条件」
「はい。その辺りは分かっております」
「なら、いいけど」
実のところ、面白いものが見れる予感というものはありません。部活動の説明会に行きたい本当の理由は私も一応は特異現象捜査部の部長ということもあり、来年度は説明会に出るように言われる可能性があります。その勉強をするために行きたいのですが、それを説明してしまったら神室さんに一人で行くように言われてしまうでしょう。それでは預言者が出現した時に気が付かないので、神室さんを強引に誘いました。もしも、何も面白いものがなかったら謝らないといけませんね。
◇
放課後、私と神室さんは第一体育館に来ていました。理由はもちろん、部活動の説明会を聞くためです。説明会の会場には既にほとんどの一年生が座っており、私達の座れる場所は無さそうですね。仕方なく、椅子のない後方の位置に陣取ることにしました。神室さんを立ちっぱなしにしてしまいますが、そのことは後で謝りましょう。
「それにしてもすごい人ですね」
「そうね。普通の人は高校生活では部活をしたいでしょうけど、私達には縁のない話だもの」
私も一応、興味はあるんですけどね。ですが、この高育に来ている理由は調査をするためであって学生としての生活を送るためではありません。それは神室さんも同じだと思いますが、せっかくの学生という身分を少しくらい楽しんだとしても罰は当たらないはずです。
「それにしてもここの部活は全国クラスに行けるところも多いみたいですね」
「えぇ、いざという時に役に立ちそうね」
「まさか、徴兵する気ですか?」
「流石にそこまでのことはしないと思う」
預言者は死ぬかもしれない相手であるため、徴兵をすることになれば高育から反対されることは目に見えています。なのに何故、避難させないのでしょうか。理由を説明すれば、一時的にこの高育を閉鎖することくらいできるでしょうに。まぁ、それは今考えても仕方のないことだとは思いますが。
『一年生の皆さん、お待たせしました。これより、入部説明会を始めます。司会を務めます、生徒会書記の橘と言います。よろしくお願いします』
おや、もう始まるみたいですね。さて、どんな部活があるのでしょうか。体育館の舞台上に様々な人達が並んでいます。私も来年はあそこに並ぶことになるのでしょうか。おや、眼鏡をかけている方は何やら雰囲気が違いますね。とても、部活を紹介しに来ているとは思えないほどピリピリとしています。そのことに神室さんも気がついたのか興味深そうに見ています。というか、コンピューター系の部活はありませんでしたね。絶対に一つくらいはあると思ったのですが。特殊な事情でもない限り外と連絡を取ることは禁止というのがあるからでしょうか。
そんなことを考えていると最後の一人になっていきました。最後の一人は私が注目していた眼鏡をかけている方ですね。どんな説明をするのかと考えていましたが、予想外というべきかその生徒は一言も発しませんでした。緊張して声が出ないなどということもないでしょうに。先ほどまでの部活動紹介で盛り上がっていたのか笑い声や応援する声が聞こえてきました。それでも喋らないので場の空気は盛り下がっていき、段々と静まり返っていきました。いえ、静まり返っただけではありませんね。誰も話すことができないほどの張り詰めた空気へと変わっていきました。
『私は生徒会会長を務めている堀北学と言います。生徒会もまた、上級生の卒業に伴って一年生から立候補者を募ることになっています。立候補に資格は必要ありませんが、もしも立候補を考えている者が居るのなら部活への所属は避けて頂くようお願いします。生徒会と部活の受け持ちは原則受け付けていません』
口調こそ柔らかいですが、この場にいる大多数の生徒を黙らせてしまうこの迫力は素晴らしいですね。軍人の方ならこの空気感を出せるのでしょうかと考えて神室さんの方を見ますが、彼女は堀北先輩を見ながら笑っています。この空気感を楽しんでいるというよりは堀北先輩のことを気に入り始めているようですね。
『私たち生徒会は甘い考えによる立候補を望まない。そのような人間は当選することはおろか、学校に汚点を残すことになるだろう。我が校の生徒会には規律を変えるだけの権利と使命が学校側に認められ、期待されている。そのことを理解できる者のみ歓迎しよう』
堀北先輩の重苦しい演説が終わると部活動紹介をしていた方々は一斉に部活申し込みの受付を始めていきました。それにしても本当に面白いものが見れましたね。預言者も途中で現れたりしませんでしたし、今日は運がいい日です。説明会も終わったことですし、部室に行きますかね。そう考えていると帰ろうとしている生徒の中に葛城君を見つけました。葛城君も部活動の説明会に来ていたんですね。誰かに誘われたのでしょうか。せっかくなので、声をかけてみましょう。
「葛城君、貴方も部活動の説明会に来ていたのですね」
「あぁ、戸塚達に誘われてな。他にどんな部活があるのかも興味があったから見に来たのだが、最後の生徒会長の迫力が凄まじかったな。明星は何故、ここに?」
「私は来年の部活動の説明会で呼ばれるかもしれないので、その勉強にというのが一つの理由ですね」
「あら、そうだったの。それならそうと言ってくれればいいのに」
「言ったところでついてきてはくれないでしょう?」
私の質問にまぁねと言いたげな表情で神室さんは頷きました。これは預言者が来るかどうかの判別のためについてきて欲しいと言ったとしてもダメだったかもしれません。そういえば、葛城君に神室さんのことを紹介しなければいけませんね。
「葛城君、紹介いたします。こちらは神室真澄さんといって、新しくうちの部に入ることになった方です。あまり、大きな声では言えませんが、真嶋先生と同じところから来た方だと言えばご納得できると思います」
「なるほどな。知っているかどうか分からないが、俺の名前は葛城康平だ。よろしくな」
「えぇ、よろしく。安心して、勿論知っているわ。ところで葛城、戦えるようになりたいとは思わない?」
「あぁ、戦って役に立ちたいと思ったことはあるが、今の俺には出来そうにもない。それがどうかしたか?」
「顧問を除いた戦闘員が私だけっていうのは少なすぎるから、少しでも戦闘員は増やしたいわけ。あんたが望むのなら、あんたを戦えるようにしてあげる。どうする?」
この提案は簡単に言ってしまえば、徴兵のようなものです。民間の人を軍と一緒に前線で戦わせるというのですから。神室さんもその辺りのことは分かって言っているのでしょう。普通だったらこんな提案は引き受けないと思いますが、葛城君はどうでしょうか。個人的には断って欲しいところですが。
「どんな方法でも役に立てるというのなら、俺はやろう」
「そう来なくっちゃ。じゃあ、行くよ」
「今からか?」
「当たり前じゃん。じゃなきゃ、今ここで誘わないよ。何か不満でもあるの?」
「いや、戸塚達と来ているからあいつらに一言、言ってこようと思っていたのだが」
「そのくらいの時間なら待つよ。ただし、私もついていくから。万が一にも逃げ出さないようにね」
どんな形であれ役に立ちたいと思っている葛城君だったら、逃げ出さないと思いますけどね。それにしても、引き受けてしまいましたか。葛城君には私のように後方支援をしてもらおうと思っていたのですが。まぁ、葛城君が選んだ道であれば、私は認めなければいけませんね。例えそれが茨の道であろうとも。私は葛城君達と違って前線の戦闘員として鍛えるつもりはありませんから、部室に行って昨夜調べていたことの続きを調査しようと思います。そのことを神室さんと葛城君に伝えて、私達は解散することになりました。
多少、強引ではありましたが、新しいメンバーが加入しました。こうでもしないと、神室さんを出せそうになかったので。