やってしまいました。
「忍者ですか?」
授業も終わり、私達は部室に来ています。そこで私は忍者という軍とは別組織の人が学校に潜入していることを知りました。協力することはできないのでしょうか? まぁ、反応から察するに難しいのでしょうね。デカグラマトンの預言者と戦っている最中に妨害が入るかもしれません。本当に目的が分かれば対処しやすいのですけどね。
「それで誰か分かっているのですか?」
「それは……ごめん、どんな奴だったのか忘れた」
「俺もだ」
忍者の性質を考えたらこの結果は仕方がないことでしょうか。それにしても忍者がいるという記憶だけを残すというのは中々の凄腕ですね。その人ごと忘れるというのなら、忍者がいたということも忘れそうなものですけど。というよりも、何故その人が忍者であると認識できたのでしょうか? 確か、あまりにも身体能力が高いことや今まで認識できていなかったことから忍者だと判断したと聞きました。ですが、少し引っかかることがあります。
「神室さん、葛城君。確か、忍者の名前を知らなかったではなく、忘れたと言っていましたよね。どこで知る機会があったのですか?」
「それは……あれ、どこでだっけ?」
「確か、誰かが名前を口にしていたことは覚えているぞ。名前が何だったのかは忘れたが」
おっと、葛城君は少しおかしなことを口にしましたね。クラスの中心にいて、名前を覚えることに慣れている葛城君ですら知らなかったその人の名前を知っていた人がいたと。同じ疑問には神室さんも気がついたようで、考え込んでいました。
「二人ともいきなりどうしたんだ? 考えだして」
「葛城は疑問に思わないの? 覚えることを意識していた私達でさえ、名前を覚えられなかった人よ。どうして、名前を覚えている人がいるの?」
「それは、確かに疑問に思うが。その人と繋がりがあった人とかじゃないのか? 例えば、友達とか」
「あのねぇ、忍者っていうのは記録からも記憶からも忘れられる存在なのよ。そんな存在が普通の友達なんて作れるわけないでしょう。でも、繋がりがあったのは間違いないと思う。そうでなければ、名前なんて覚えられない」
「なら、一体……まさか」
葛城君も気がついたようですね。忍者との繋がりはあるのですが、友達でもない存在。当然、恋人でもないでしょう。なら、その人は何なのか。その答えはとても単純なものです。
「多分、そいつも忍者だよ。忍者は二人いたんだ。葛城、そいつの名前分かる?」
「いきなり言われても覚えていないとしか言えんな。そもそも、声を聞いただけで顔を見たわけではないし。だが、男だったのは覚えているぞ」
「それだけでも充分な収穫だよ。これで男女の両方に最低でも一人ずつ忍者がいる可能性が出てきた。早速、真嶋先生に連絡をしないと」
二人いた可能性を報告するということは、忍者が潜入しているということは真嶋先生に伝えているのでしょうね。私よりも先に伝えていたことに何か思うところがないと言えば嘘になりますが、真嶋先生と神室さんの関係上仕方ないのでしょう。ですが、これはある意味チャンスでもあります。真嶋先生は少なくとも全ての生徒の名前を覚えているようでした。その先生が見覚えのない生徒がいれば、その人が忍者で確定でしょう。私がハッキングして調べる必要もありません。
「先生から返信が来た。『名簿を見たが、認識できない生徒が二人いた』だそうよ。名簿を写真で送ってきてくれたわ」
「おぉ、それはありがたい。早速、見させてもらう」
「私のところに群がられても面倒だから、写真は共有しておくね」
そう言うと端末に名簿の写真が送られてきました。個人情報の流失のように思えますが、この程度であれば問題ないと先生も判断したのでしょう。クラスの人数は四十人。そのうちの三十八人が認識できるとのことなので、見つけることは容易ではないでしょう。一人ひとり見ていますが、特に認識できない生徒はいませんね。おっと、最後まで来てしまいました。念のため、認識できる生徒を数えますか。一、二、三……三十七、三十八、これで全員ですか。確かに二人ほど認識できませんね。それが、誰なのかは分かりませんが。
「念のため、生徒の数を数えてみたけど確かに二人ほど認識できなかった。そっちはどう?」
「私も同じです」
「俺もだ。違和感なく飛ばせてしまっているのが不気味だな」
「一応、この名簿は座席表でもありますから、座席から割り出してみますか」
認識できないのなら、そのことを利用しましょう。座席の縦と横の人数は同じはず。縦と横の人数が違ったりすれば、そこの列にいる人が怪しいということです。その方法で割り出してみましょう。確か、縦が五人、横が八人だったはずです。早速、やってみました。すると二人ほど認識できなかった人の位置を特定することができました。もっとも、名前は分かりませんが。
「あんたの言った方法で場所は分かったけど、認識はできないままだね。何だろう、ボヤけて見える」
「物理的に名前が認識できないのであれば、もはや打つ手はありません。まだ、向こうも何もしてきていないことですし、その座席にいる人を注意するという形で終わりましょう」
「そんなことをしても無駄だと思いますよ。どうせ、認識できないのですから」
「「「!?」」」
誰ですか、この人は!? いつの間に部室に入ったのでしょうか。それよりもここは秘密の場所というだけあって、複雑に道を通らないと入ることができないはずです。場所を知らない人が入るためには、誰かに道を聞くかついていくしかないはず……まさか。気づかれないように私達についてきていたということですか。それも見失わないようにずっと近くで。やられましたね。念のため、質問しておきますか。
「いつから、ここにいたんですか?」
「気づいているのに聞くのですか? おかしなことをしますね」
「何のことでしょうか?」
やっぱり、私達についてきたのですね。なるほど、これは軍の方々が忍者を警戒するわけです。すぐ側にいても気づけないわけですから、情報などは抜き放題でしょう。ですが、そんな状況にも関わらず、彼女が私達に姿を見せた理由とは何でしょうか。
「あんたの目的は何? どうしていきなり、姿を見せたの?」
「答えると思いますか?」
やはり、簡単には答えてくれませんか。どうやって答えさせましょうか、と考えたところで忍者と思わしき女子生徒から笑い声が聞こえます。
「ふふ……冗談です。私の目的は簡単に言ってしまえば、貴方達と協力関係を結ぶことですかね。今回に限っては協力できる気がするので」
「私達と協力? ふざけないで!」
「神室さん、落ち着いてください。それよりもそこの方。何故、軍と協力関係を結びたいのですか?」
話を聞くかぎり、忍者が軍と協力関係を結んだことはないようです。協力関係を結ばずとも、単独で任務を果たすことができるので必要なかったのでしょう。そんな忍者が協力関係を結びたいとは相当な事態であることが予想できます。
「あぁ、それはですね。今回の任務の依頼主が国なんですよ」
「依頼主を話しても大丈夫なのかしら?」
「えぇ、ここまでは言ってもいいことになっていますので。軍と手を組めというのも国の意向だったりします。話を戻しますが、私と手を組むつもりはありませんか?」
「悪いけど、私の一存じゃ決められない。上に確認してもいいかな?」
「どうぞ」
神室さんの反応からすると、軍は忍者と手を組むことを拒否するでしょう。目的も分からないうちに手を組むようなことはしないはずです。
「嘘でしょ!?」
「神室さん、どうされましたか?」
「手を組むって。忍者と軍が」
「おや、目的も分からないうちは手を組まないと思っていたのですが」
「私もそう思ったけど……まさか、あんた何かしたの?」
神室さんが何かをしたであろう忍者を睨みつけました。しかし、忍者は涼しげな表情をしています。今まで敵対関係に近い者達がいきなり、協力関係を結べるはずがありません。間違いなく、何かしたのでしょう。すると、忍者は涼しげな表情から一転して笑い始めました。
「何もせずに貴方達のところに来るわけがないじゃないですか。もしも、断られたりしたらそれだけで大変ですからね。なので、あらかじめ国から軍の方に伝えてあります。それも、命令という形で」
「なら、何で私には伝わっていないの?」
「訓練生の方には忍者だと気がついたら私達の方から伝えろと言われているんです。軍の上の方も訓練生の訓練になると納得されていましたよ。まぁ、気付けるようにしなさいとも言われましたけど」
「つまり、上に泳がされてたってことか。通りでプールの授業の時、先生が驚かなかったわけだ。忍者がいることを知ってたんだから」
神室さんは緊張が抜けたようで脱力し始めました。まさか、忍者がいるというところから全て茶番だったとは。まぁ、訓練なら仕方ないような気もします。今回限りの協力と言っていたこともあって、基本的には敵対関係にあるのでしょうから。
「これ、訓練ってことはさ。他の訓練生にはこのこと言えないってことでしょ。大丈夫? 戦いになったりしない?」
「それは別に構いません。忍者が負けるつもりはありませんので」
「よく言うよ」
おや、早速バチバチとしてきましたね。おそらく、今は協力関係を結んでいたとしても本当は忍者も軍と協力をしたくないのでしょうか。まぁ、今回限りの関係ということで仲良くして欲しいですけどね。
「ここに来た理由はもう一つあります。詫びのようなものですが、とある預言者の情報を手に入れたので、共有しておこうかと思いまして」
「それは、ビナーやケセド、ホド以外のものですか?」
「はい、その通りです。今から私達の知っている預言者、ケテルについてお話しいたします」
ケテルですか、聞いたことのない預言者ですね。一応、記録に残しておくためにメモを取った方がいいのでしょう。メモの準備を終えたところで、忍者は話を始めました。
「ケテルは立入禁止区域の水没地区の奥の方に行こうとすると現れます。見た目は四足の多脚戦車で、私達が撤退すると同時に姿を消します。まるで、水没地区の奥に行かせたくないようでした」
「つまり、水没地区の奥の方に何かがあるということですか?」
「その可能性は高いと思います。ただ、戦車が大量に通れるほどの広さはないので、戦車部隊での突破は難しいかと思います」
「戦車部隊のことまで知っていたのですね」
「えぇ、私もビナーの現場にはいましたから。まぁ、すぐに撤退しましたが」
あの現場にいたのですか。危険だったと思いますが、その程度くらい何とかなるほどの運動能力を持っているということなのでしょう。やはり、忍者というものは恐ろしいですね。
「それと預言者達の名前ですが、セフィロトの樹から取られていると思います」
「やはり、ですか」
「セフィロトの樹というのは旧約聖書の生命の樹と言われるものか?」
「えぇ、その通りです。全てで十のセフィラがあり、預言者もそれだけの数がいるのではないかという予想をしていました。軍の方々もそのことには気がついていると思いますが、三つほどしか見つけられなかったことから確信は持てなかったのでしょう」
「全てで十体いる可能性があるということか……全てを処理するとなると気が遠くなるな」
私達の最終的な目的はデカグラマトンや預言者達を排除することです。一体だけでも撤退させることがやっとですが、それが十体いるとなれば一年やそこらでは終わらないでしょう。もしかしたら、卒業することになるかもしれませんね。ですが、上限が分かったのは良いことです。
「伝えたいことは以上となります。それでは失礼いたします」
そのことを告げると、忍者は部室から去って行きました。忍者によって忘れてしまわないうちに正式なケテルの記録を残しておきましょう。
三体しか判明していないという設定はデカグラマトン編に沿っているのですが、これで良かったのでしょうか。もう一人の忍者は一応、決めてありますのでご安心ください。