「今日は月末だからな。小テストを行うことになった」
英語の授業。つまり、担任の真嶋先生の授業が始まった時にいきなり言われました。所謂、抜き打ちテストというやつですね。授業についていくことが出来ているかどうかの確認でしょうか。特に文句が出ることもなく、テストが配られていきました。
「今回のテストはあくまでも参考用だ。成績表には反映されない。だから、安心して受けてくれ」
成績表に反映されないテストというものがあるのでしょうか。それに先生は成績表『には』反映されないと言っていましたね。すると他のものには反映されるということなのでしょう。まぁ、私の考えすぎかもしれませんが。
「それでは、始め!」
真嶋先生が言葉と共に小テストが開始されました。まずは問題に目を通しますか。各教科が四問ずつの合計二十問。問題自体は驚くほど簡単なものなので拍子抜けしてしまいます。これで何の参考にするのでしょうか?
そう考えながらも問題を解いていき、最後の三問でペンが止まります。解けない問題ではありませんが、かなり難しい問題ですね。高校一年生で習う範囲ではないでしょう。私はミレニアムから別の高校に再入学という形で入ってきているので何とかなりますが、他の人には無理だと思います。これを解けるか解けないかで何かを見極めるつもりなのでしょうか。それから授業の終了のチャイムが鳴り、小テストは終了となりました。
「小テストは以上となるが、明星に葛城、神室は放課後職員室に来るように。何かしたというわけではないから安心しろ」
そう言うと、真嶋先生は教室から出ていきました。カンニングはしていませんが、少しドキッとしてしまいますね。おそらく、忍者が持ってきた報告の件なのでしょうけど。
「明星、テストはどうだった?」
「最後の三問が少し難しいと感じたくらいですね。まぁ、解けましたが」
「へぇ、あの問題を解けたんだ」
「ということは、あの問題は今の段階で解けるような問題ではないのですね」
「当たり前じゃん」
私以外の誰も解けないような問題を出した意図は何でしょうか? 解けるか解けないかで何かを見分けたいわけではなさそうですし。まさか、簡単な問題が解けるかどうかで見分けようとしたのでしょうか。まさか、あの簡単な問題が解けない人がこの学校にいるはずありませんし、考えすぎですかね。
◇
「いよいよ、俺も前線に行くのか」
「怖いなら、無理しなくてもいいよ」
「その言葉に甘えるようでは鍛えた意味がない」
私達は現在、職員室に向かっています。神室さんも葛城君も呼び出された理由に察しがついているようで、しっかりと覚悟が出来ているようですね。
「まぁ、でも呼び出されたのはちょうど良かったですね」
「ちょうど良かったというのはどういうことだ?」
「元々、ケテルの調査は先生に許可をとった上で行うつもりでした。ですので、予定が早まっただけなのです。それに別件で聞きたいこともありますしね」
「別件っていうとやっぱり、あの小テスト?」
「何の目的であんなことをやったのか気になりませんか?」
「それは確かに。何かの参考にするとは言ってたけど、何の参考にするとまでは言われてないもんね」
そんなことを言っているうちに職員室の前まで来てしまいました。葛城君は緊張して手が震えています。やっぱり、ケテルと戦うかもしれないことが怖いのでしょう。しかし、ここでじっとしているわけにもいきません。意を決して職員室の扉を開きます。
「失礼します」
「おぉ、来たか。要件は分かっていると思うが、忍者からの報告についてだ。その真偽を確かめに行く。水没地区にケテルがいると言っていたが、それがどこにあるのかが分からなくてな。立入禁止区域の場所を調査した結果、水没地区と思われる場所を発見した。それが昨晩のことだ」
「それでは早速、調査に行くのですね」
「あぁ。ただし、何の成果がなくとも夜になる前に帰還してもらう。ただでさえ、水没している危険な地区だ。夜になると視界も悪くなる。そうなる前に帰還してもらう」
「そうなると、あまり時間はありませんね」
「大丈夫だ。今日は水没地区の場所さえ分かってもらえれば良い。本格的な調査は明日以降になるだろう。俺達が調査できれば良いのだが、教師の仕事が思ったよりも忙しくてな。その合間を縫って調査するとなるとどうしても夜になってしまう」
「だから、私達が調査をするということですか。構いませんよ。それも部活動のうちですから」
いよいよ、デカグラマトンの預言者が常にいるとされている場所に調査に行くわけですか。少しだけですがワクワクしてきますね。まぁ、他の人はそれどころではないのでしょうけど。
「それと葛城、お前が神室から訓練を受けている話は聞いている。これからの任務は死ぬかもしれないほど危険なものだ。その上であえて聞くぞ。前線に行くか?」
「はい、俺は前線で神室達と戦いたいです!」
「よく分かった。では、これから改めてよろしく頼むぞ」
「はい!」
元気のいい挨拶ですね。実際はやる気を示すために大声で話しているだけでしょうけど。それにしても葛城君はそのままの格好で前線に行くつもりでしょうか。
「先生、防護服などはどこで揃えればよろしいのでしょうか?」
「葛城ものだろう。一応、用意はしてある。サイズが合うかどうかは分からないがな」
そう言って先生は机の側にあった袋を葛城君に渡しました。随分と用意がいいですね。どこで防護服を手に入れたのでしょうか?
「ありがとうございます」
「礼には及ばん。前線に行く人に必要最低限の物資を支給するのは当然のことだ。ただし、銃はまだ渡せんがな」
「いえ、充分です。それで水没地区にはどうやって行けば良いのでしょうか?」
「そろそろ案内人が来るはずだ。そいつに案内を任せることになっている」
「失礼します」
案内人の話をしていたところで一人の少女が入ってきました。この人が水没地区まで案内をしてくれる人でしょうか?
「おぉ、来たか。紹介しよう。1-Dの堀北鈴音だ。今回、水没地区まで案内をするように頼んである」
「よろしく。葛城君に明星さんね、話は聞いてるわ。正直な話、素人に出張ってほしくないのだけど、戦力が足りないのも確かだもの。一応は認めてあげる」
随分と気難しそうな人が来ましたね。この人を説得するのは大変だったのではないでしょうか。少なくとも、私達の同行に簡単に頷いてくれたようには思えません。まぁ、常識的に考えれば、堀北さんの言うことが正しいのでしょうね。
「おっと、忘れるところでした。先生、小テストの件で質問があるのですが」
「何を聞きたいのかは分かっているつもりだ。だが、今は詳しく話せないとだけ言っておこう」
「分かりました。今はそれで充分です」
今はということは、いつか話すタイミングが来るというだけでしょう。それまでに知りたいという欲はありますが、先生の話し方から推測するとそう遠くない日でしょうね。
「私達は防護服を持って部室に行くから、明星さんと葛城君は先に部室に行ってちょうだい。場所は分かるから大丈夫よ」
「部室で着替えるのか?」
「えぇ、そうよ。防護服姿を見られたら、言い訳をするのが面倒だもの」
確かにその通りですね。私は防護服に着替えたりはしないので、考えたことがありませんでした。私も防護服を買った方が良いですかね?でも、どこで売っているのでしょうか。
「真嶋先生、防護服はどこで買っているのですか?」
「明星に防護服は必要か?」
「葛城君、皆が防護服を着ているのに私だけ違う服なのは何か恥ずかしいじゃないですか」
「そういうものなのか」
「今は用意できないが、個人で仕立て屋をやっている者がこの高育に入学している。葛城の物を用意してくれたのもそいつだ」
仕立て屋をやっている人が入学してきているのですか。おそらく、その人は軍の関係者でしょうね。でなければ、軍人が防護服を仕立てるように頼むはずがありません。
「私の知っている人でしょうか?」
「鬼頭だよ。仕立て屋っていうのは」
「鬼頭が仕立て屋だと!?」
「あの人、鬼頭っていうのね。名前を覚えようとも思わなかったわ」
鬼頭君といえば、水泳の授業の際に葛城君よりも速いタイムを残した人ですよね。その人が軍の関係者だと言われれば、驚きはありませんが。
「水泳の授業でタイムを見た教師が驚いていたようですが、あれは何だったのでしょうか?」
「一応、軍の関係者ではあるんだけど、あいつ自身はただの仕立て屋なの。そりゃ、ただの仕立て屋があんなに運動神経が良かったら驚くでしょ」
「そういうものですか」
とりあえず、私の防護服は今すぐには用意できないということで決着しました。今度、鬼頭君に頼んできますかね。
◇
「おぉ、意外とピッタリだな」
「多分だと思いますが、今月の中旬に行われた健康診断の記録を見て作ったのではないでしょうか? 先生が頼んだのですからその記録くらい持ち出せるはずです」
「あぁ、あの時か。俺だけ体周りも測られたそうだから何か変だとは思ったが、このためだったか」
そこまでされているのなら、流石に気づいてください。もしかしたら、気づいていても言い出しにくかったことかもしれませんが。おや、神室さんと堀北さんが来ましたね。
「早速、着替えたようね。その防護服は多分、かなり頑丈に作られているはずだよ。銃弾では傷一つできないけど、痕は残ると思う。ただし、その分動きにくいと思うけど、そこは我慢してほしい」
「大丈夫だ。思ったよりも動きやすい」
「あらそう、それは良かった。なら、ここで着替えるからさっさと出ていってくれる? まさか、私達を部室の外で着替えさせるつもりはないわよね?」
「あぁ、分かった着替え終わったら呼んでくれ」
葛城君は一人で部室の外に出て行きました。私は堀北さん達と同性なので出ていく必要はありません。着替え終わるまで何をしようか考えていると、堀北さんから質問が飛んできました。
「ねぇ、どうして葛城を仲間に加えたの? 確かに他の人よりは動けそうだけど、仲間にした理由ってそういうのじゃないでしょう?」
「それは……彼が自分の正義をしっかりと持った人だったからでしょうか。彼ならこのことを知らせておけば、きっと立ち向かう道を選ぶだろうと思っていました。まぁ、私に何かあったとしても後を託せる人が欲しかったというのもありますが」
「正義ね……そんな曖昧なもので死地に送り込まれることになる葛城君が不憫ね」
葛城君を巻き込んでしまったことは今でも申し訳なく思っています。私が徴兵したようなものですからね。まぁ、葛城君はそんなことは気にするなどでも言ってくれるのでしょうが。
「葛城、着替え終わったから入ってきていいよ」
「分かった。では、失礼する。随分と着替えるのが早いな」
「早く着替えることは軍人として常識的なことよ。一秒でも遅れたら、それだけで何人犠牲になるのか分からないもの」
そういうものですか。キヴォトスでは防護服なんて着ている人の方が少数ですから、着替えをなるべく早く済ませるという考えはあまり浸透していません。
「さて、夜になるまであまり時間は残されていないわ。さっさと出発するわよ。水没地区自体がここから結構離れているから着いた時にはもう夜かもね」
「そんなに遠いのか?」
「当たり前じゃない。じゃなきゃ、先生達がもっと早く見つけているわよ」
流石、高育ですね。真嶋先生に伺ったことではありますが、人が出入りできる場所は小さな街ほどの大きさですが、立入禁止区域を含めると小さな都市ほどの大きさがあるそうです。何でも、立入禁止区域は気づいたらできていたらしく、今でも拡大を続けているのだとか。恐ろしいですね。さて、そんなことを考えている間に堀北さんは出発してしまいました。私達も出発しますか。
堀北鈴音さんが仲間に加わりました。軍人という設定なので、棘が少しだけ無くなります。私が棘のある性格を書けなかっただけなのですが。