「諸君!この世で最も素晴らしい料理は何だと思う?」
「カレー?否、ラーメン?否、刺身?....否だ!」
「確かにどれも素晴らしいのは認めるが、私が尋ねているのはそれらを遥かに超えた高みの地に存在するものだ!」
ここキヴォトスにおいて一年中雪が降り積もるという厳しい僻地に存在する学園──レッドウィンター連邦学園。
その広大な土地の内部に存在する食堂にて、多くの生徒達が食事をしている真っ最中に一際声を上げて演説する少女がいた。
名は唐衣モモ、彼女は多くの生徒達を見渡しながら演説を続ける。
「その料理は天が与えたと言っても過言ではない....まさに奇跡が如く代物だろう...それを実際に味わえる我々は幸福以外の何ものでもない!」
「あー部長?熱い語りは良いけど早く本題に入らないと、皆どんどん出ていっちゃってるよー」
「え?」
熱く"何か"への思いを語る少女だったが、周りの反応はあまり良くなく食べ終わった生徒達は次々と席を立ち食堂を後にしようとしている。
「あ、ま、待て!もう少し話を聞いてくれ!ほら、私と部員達の分のプリンをあげるから!」
「え、勝手に人のプリンを交渉材料にしないでくださいよ!?」
「あー、私の今日のプリンがー...」
「よし皆席についたな、コホン....では正解を言おうか」
自分と部員達のプリンを犠牲にした少女は咳払いをすると、座る生徒達へ向けてついにその言葉を発した。
「最も素晴らしい料理、それは......"唐揚げ"だ!」
唐揚げ──揚げ油を使用した調理方法やそれを使って作られた料理のことである。
唐揚げひとつとっても様々な種類があるが、少女が言っているのは鶏肉を使った唐揚げのことだった。
「唐揚げは完璧だ....味は勿論、口に含んだ瞬間のあの染み出る肉汁...カリっとした食感....そして香ばしい香りに美しい造形!目で、口で、鼻で楽しめる...いや、料理している時のあの揚げている音も含めれば耳でも楽しめる!」
「これ以上の料理はあるか!いや無い!!!」
少女は大きく腕を広げながら食堂全体に響き渡る程の声量で告げた、そんな少女の後ろではパチパチと部員達による拍手が巻き起こっている。
「皆もそう思うだろう、きっと私の話を聞いて大いに共感してくれた者が沢山いる筈だ...そこでだ!」
そう言うと少女は部員達に目配せをし、持ち込んでいたある看板を周りの生徒達へ掲げた。
【唐揚げにレモンをかけることを許さない革命家集団】
【部員大募集!唐揚げこそ至高!今こそ唐揚げの力を見せる時!】
「現在我々は新しい同志を募っている!」
「今なら美味しい唐揚げ食べ放題だよー」
「絶対病みつきになること間違い無し!」
「さあ熱い思いを抱いた同志達よ!その気持ちを是非我々と共有し合おうじゃないか!」
数十分後。
「何故だ!何故誰も加入希望を出さない!」
彼女達は食堂から離れた場所にある小さな活動拠点へと帰ってきていた。
...活動拠点といっても実際は改造された2ルームテントが野ざらし状態になっているものだったが。
「あんなにも真面目に布教したんだぞ!少しくらい興味を持ってもいいじゃないか!」
「んープリンが足りなかったんじゃないかなー?」
「それより部長!結局私のプリンどうするんですか!今日のプリンは凄く美味しそうだったのに!」
「う、うるさいうるさい!それなら私だって同じプリンを捧げたんだ!上に立つ者が犠牲を払うなら下の者もそれに続くのは当然だろう!」
「ただ部長が先輩なだけでそんな大袈裟な差なんてないですよ!それに元はと言えばこの状況になったのは先輩のせいじゃないですか!」
現在部長を含めて3人しかいない部員の1人が指摘した通り、彼女達を取り巻く状況は以前までとは違っていた。
唐揚げにレモンをかけることを許さない革命家集団──、この名前も幾度となる話し合い兼言い争いによって最近変更されたものではあるが、唐衣モモ率いるその集団は今よりも多くの同志がいた。
だがある時部員の1人による"唐揚げレモンかけ事件"が起こった事により、唐揚げにレモンを"かけたい派"と"かけない派"の戦いが勃発、その結果部長の元ではやっていけない!という者達が次々と離れていき.....
「今は私達だけになっちゃったー、まあ完全に部長が意地を張りすぎたのが一因だからなー」
「なっ私のせいか!大体アイツらはわかっていないんだ!唐揚げにレモンをかけるという行為は唐揚げの纏う神聖さを損なう行為に等しい!それに....おい!無視して寝ようとするんじゃない!」
既に空には夕焼けが広がり始めた時間帯、部員達はモモの言葉を聞き流しテントの奥へと潜っていってしまう。
そんな中モモは1人立ち上がるとテントから離れて歩き出した。
「部長ーどこ行くのー?寝ないのー?」
「今日はもう私達はついて行きませんからね」
「ふんっ、問題無い。お前達がいなくとも私だけで十分だ」
部長の行動にテントから顔だけ出した2人の部員が声をかけると、モモは振り返りながら口を開く。
「今から事務局へ行き、会長をこちらへ引き込む」
「えっ!?チェリノ会長を!?...あれ、今の会長ってチェリノ会長でしたっけ?」
「うん、確かこの前また会長の座を取り戻してた筈ー」
「そうだ、事務局はこのレッドウィンターの要...そしてそのトップであるチェリノ会長を我々の味方に出来れば一気に我々の信念が正しかったと証明出来る!それに上手くいけば我々専用の部室を作れるかもしれない」
「おお!ついにこのテント生活からおさらば出来るんですね!頑張ってください部長!」
「ファイトー」
「ふっ...」
部員達の声援を背にモモは歩いていく、輝かしい未来を夢見て....
────粛清対象者、【唐衣モモ】
事務局内にて支離滅裂な主張を展開しながら会長に詰め寄った所を取り押さえた。
その後も抵抗を続けた為粛清対象とし以下の懲罰を与える。
"レッドウィンター内に設置された偉大なるチェリノ会長像の清掃1週間"
情報①
・唐衣モモ。
レッドウィンター学園3年生、(現在名)"唐揚げにレモンをかけることを許さない革命家集団"の部長。
唐揚げには何もつけない、そのままの味を楽しむ派。
・身長:140cm
・武器:ショットガン