「あ、部長帰ってきたー」
「お疲れ様でーす」
「お前達何故助けてくれなかったんだ!ここ1週間は像を磨きすぎて手がおかしくなりそうだったぞ!」
懲罰期間が終わった翌日、モモは部員達の待つテントへやって来ると同時に不満を盛大に漏らしていた。
「あれは部長が勝手に行っただけです、私達のせいにしないでくださいよ」
「めんどくさいしねー」
「くっ、薄情な奴らめ...ああ言う時に身を挺して守ることこそ我らの絆ではないのか!」
「だってそれをしたら私達まで粛清対象になっちゃうじゃないですか、そんなの嫌ですし....部長こそ立場が逆だったら一目散に逃げますよね?」
「.......」
「そこはハッキリそんなことはしないって言って欲しいんですが」
「まあ部長らしいしーいいんじゃない?」
口をつぐんで顔を背けるモモに呆れ溜息をこぼす部員達。
疲れを癒そうとテントの中に入ろうとするモモに、部員の1人が思い出したかのように告げた。
「あ、部長。折角戻ってきたなら唐揚げ作ってくださいよ!」
「唐揚げだと?懲罰を終えて帰って来たばかりの私を働かせようというのか!」
「だって部長がいないから食べられてませんでしたし...」
「食堂では何回か出てたけどー、あんまり美味しくなかったしー」
「そうそう!やっぱり部長が作る唐揚げが1番だなって!だからお願いしますよ〜」
「よっ、唐揚げ名人ー」
いきなりの事に文句を言うモモだったが、2人から次々飛び出す褒め言葉にだんだんと固い態度が崩れていく。
「むふふ....全く仕方のない奴らだ、そこまで言うのなら私渾身の唐揚げを味合わせてやろう!よし、ならば早速準備に取り掛かるぞ!」
「了解ー」
部長の一声にいそいそと道具を運び始める2人、やがて全てのセッティングを終えたのを確認したモモは意気揚々と唐揚げ作りを開始した。
用意したテーブルの上に置かれた鶏肉を大まかに分割し、そこから更に食べやすい大きさかつどれも均等になるように切り分けていく。
「よし、そこにしまってるものをいくつか渡してくれ」
「はい!」
その後部員達から受け取った醤油や料理酒をボウルに入れた肉へと加え、更にそこへ磨り下ろした生姜なども追加しよく揉み込んでいく。
そうして少しの間染み込ませながら片栗粉と小麦粉を混ぜたものの中に肉をつけて丁寧に塗し終えると、カセットコンロの上にあるクッカーの中へ肉を投入した。
油の中へと潜った肉はジュゥゥゥッという音と共に勢いよく揚げられていく。
「はぁぁぁぁ...!これだ、この音だ!やはりこれさえ聞ければどんな疲れだろうと癒されていくな....」
「だいぶ大袈裟な気がしますけどね、まあ否定はしませんけど」
「良い音だねー」
やがて揚げた肉を一度取り出して網の上に置き、余熱を使って休ませる。
そこから再度油へと入れ二度揚げを行なっていく。
「よし、出来たぞ!」
その言葉と共にカラカラに揚がった唐揚げが3人の前に現れた、表面にはしっかり衣がついており色味も完璧な仕上がり....漂ってくる匂いに刺激され彼女達はお腹が鳴るのを感じていた。
「ふふん、まあ私にかかればこの程度造作も....」
だが。見事な出来栄えを前にモモが手を腰に当てながらドヤ顔を披露していた時だった。
「あっ、元部長じゃないですか」
「何?....あ、お前達は!」
「こんな所で寂しく唐揚げ作りですか〜」
突然かけられた声にモモが顔を向けると、そこには何人もの生徒が列をなして立っていた。
彼女達は現在モモが率いる集団の元メンバー達、あの日進むべき道を違えた者達だった。
「ふん!今更何をしに来た、謝罪にでも来たか?」
「謝罪?そんなのする訳無いですよ、アレは元部長が私達の思いを認めてくれなかったのが悪いんです!」
「認めないのは当たり前だ!よくもあれ程の愚行を堂々と出来たものだな!そのせいでどれだけの宝が犠牲になったことか...!」
モモは拳を強く握りしめ無念さに震える。
そしてキッと目の前の元部員達を睨みつけると、張り裂けんばかりの声で叫んだ。
「何故だ!何故あの様なことを....あの唐揚げにレモンをかけた!!!」
『よし、出来たぞ!』
『待ってましたー!』
『美味そー』
『じゃあいただきまーす!』
『あ、私レモンかけますね』
....彼女の脳裏に浮かぶのはあの日の出来事、その会話を後に激しい争いが起こったことをモモは思い返していた。
「理由なんて1つです、だってレモンをかけた方がさっぱりして美味しいからです!」
「そうだそうだー!」
「ええい!お前達は何もわかってない!レモンをかけたら唐揚げ本来の味が損なわれ、食感も変わってしまうだろう!」
「そんなに頑固だから私達は離れたんです!そして離れた子達をまとめて、レモンを自由にかけても構わない..."唐揚げにレモンをかけ隊"を結成したんですよ!」
「何だと!....とうとう堕ちる所まで堕ちたのか...」
「何とでも言えばいいです、今の元部長に比べて私にはこんなにも同志がいる...既に私達の勝ちは決まっています!さあそこの2人もどうですか?今なら歓迎しますよ」
元部員達は勝ち誇った様子でモモを見下ろしている、人数差も歴然...もはやモモに勝ち目は無い.....
だが膝をついて項垂れていたモモは、徐にフラフラと立ち上がると元部員達に背を向ける。
「....ふふふ、そうかお前達の勝ちか...甘いな」
「...何ですか?まさかまだ自分の方が正しいと?」
「どんなに人を集めた所で、口が立った所で勝つことは出来ない.....結局は納得出来るだけの結果が伴って初めて勝てる...そう言うものだ!」
そう言いモモは右手に箸を持ちながら振り返ると勢いよく元部員の元へと駆け出した。
何かを仕掛けてくると察した元部員は慌てて下がろうとするが、既にモモは懐に潜り込み持っていた箸を素早く相手の顔へ突き出す。
「この味を喰らえぇ!!!」
「っ!一体何を...んむっ!?」
そして箸に摘まれていたものが元部員の口へと押し込まれた瞬間
サクッ....
そんな感触と共に溢れんばかりの肉汁が元部員の少女の口に広がった。
「────ッ!」
目を大きく開きその場に固まる元部員...
「ぶ、部長!どうしたんですか!」
唐揚げにレモンをかけ隊の者達が動かなくなった部長の少女を心配して声を上げる。
そうして数十秒後、ガクリと膝から崩れ落ちた少女の顔には涙が浮かんでいた。
「....美味しい...どうしてこんなに....」
絞り出すような声で呟く少女にモモは何も言わずしゃがみ目線を合わせる。
そのままモモの顔を見つめた元部員にモモは口を開いた。
「....おかわりもあるぞ」
「っ!...うぅ.....ぶ、部長!すみませんでした...!私が、私が....」
とうとう泣き出してしまった少女をモモは抱き止める。
その日、レッドウィンターの広場の端には暫くの間泣き声が響いていたのだった。
「.....何ですかねこの茶番」
「さあー?とりあえず唐揚げ食べよー」
──────────
「ふわぁ...」
「お目覚めですか?会長」
「ああ、トモエか...うむ!体力もバッチリだ、これで午後のプリン試食にも全力で臨めるな!」
「未来を据えての行動、流石です」
レッドウィンター事務局内にて、その日のお昼寝タイムを終えたチェリノは午後の予定を傍にいたトモエに尋ねながら過ごしていた。
「しかしこの前はよくわからん奴が来て大変だった、えーっと...唐揚げになんちゃら集団だったか...?」
「唐揚げにレモンをかけることを許さない革命家集団の方ですね?」
「そう、それだ!全く...あの時は驚いて折角おいらが食べていたプリンを落としてしまったのだからな....それに早すぎて言ってることがよくわからなかったし...」
ぶつぶつと呟くチェリノだったが、不意に扉の向こうから聞こえてくる足音に思わず顔を上げた。
「む?今日は誰か来る予定でも入っていたのか?」
「いえ、特にその様な予定は...」
足音は複数の様で、どんどんチェリノ達の部屋へと近づいてきている。
不思議そうに扉を見つめていた2人だったが、やがて扉が勢いよく開かれると部屋の中に何人もの生徒が傾れ込んできた。
「ぬおっ!?な、何事だ!」
「会長!今日こそ私達、"唐揚げはそのままが至高団"の意見を理解してもらいに来たぞ!」
「おおおおお!部長に続けぇぇぇぇぇ!」
「この前の奴か!?何故そんなに数が増えてるんだ!ひっ、こっちに来るな!と、トモエ!?」
「チェリノちゃん!こっちに!」
「はははっ!これぞ私のカリスマの力だ!さあ会長!会長も私達の仲間にしてみせようじゃないか!」
────粛清対象者、【唐揚げはそのままが至高団のメンバーの殆ど】
事務局内に集団で侵入し、チェリノ会長を怖がらせた為粛清対象とし以下の懲罰を与える。
"レッドウィンター内に積まれた雪の除雪1ヶ月、全生徒が問題なく通れる様にすること"
情報②
・部員A
レッドウィンター学園1年生、唐揚げを沢山食べられると聞いて当時のモモ率いる部活に加入。
その後色々あり大半のメンバーが離れる中、もう1人の部員と共にモモの元に残った。
何となくモモをほっておけないと思っている、尊敬はしていない。
・身長:151cm
・武器:アサルトライフル
・部員B
レッドウィンター学園2年生、部員Aと共にモモの元に残った1人。
どこか語尾が伸びがち、先輩であるモモへは当然の様に敬語を使わない。
小さいものが好きで夜中はテントの中でモモを抱いて寝ている、内心可愛がっているが尊敬はしていない。
・身長:163cm
・武器:ハンドガン