「全く、何故私がこんな事を....!」
レッドウィンター連邦学園の片隅に位置する古びた空き教室、その中でモモは雑巾を握りしめながらぶつぶつと文句を呟いていた。
「部長が無理に会長を襲撃したからですよね?私達は止めたのに...」
「襲撃とは失礼な!始めはちゃんと話し合うつもりだったぞ!....あの時は護衛が手薄でチャンスだと思っただけだ」
「手薄というか、普通にトモエ秘書室長が背後に立ってましたよね?確か前も同じ様に返り討ちにされてたと思うんですけど」
「ぐっ...か、果敢に前進した者を後ろからとやかく言うのはよくないぞ!」
「部長ー、そこ拭き忘れてるよー」
「何、まだ取れんのかこの汚れは...」
モモは苦しい言い訳をしながら床の汚れを無理矢理拭き取ろうと手を動かす。
何故彼女達がこんなことをしているのか、それは数日前のこと....もはや何度目かになるかわからないほどの直訴を事務局に試みたモモが適当に遇らわれた結果、腹を立て突撃したのだ。
当然そのまますぐに拘束され、チェリノ会長のおやつ時間を邪魔したという罪により空き教室の掃除を命じられ今に至る。
「はぁ...というか部長、もう少し真面目に掃除してください。さっきから同じ場所を拭いてるだけで残りは殆ど私達がやってるじゃないですか」
「仕方ないだろう、最近はあの雪山の奥まで唐揚げを届けにいくために莫大な体力を使っているんだぞ、その疲労を回復させるためには多少の手抜き....いや力の温存は許されるべきだ!」
「それも帰りは私達が部長を運んでますよね?」
「そーそー、おかげで最近は体力ついてきたけどねー」
「くっ...もういい!今日の掃除は終わりだ、どうせまた明日もやらなければならんのだ」
「まだ半分も終わってませんけど...あ、待ってくださいよ!」
結局そのまま掃除を切り上げたモモ達は、そのまま自分達のテントを目指して歩き始める。
丁度お腹も空き始めた頃だ、戻ったら今日の分の唐揚げでも作ろう...そうモモが考えた時。
「今こそ労働者の権利を!」
『『『労働者の権利を!!!!』』』
「我々にプリンを!」
『『『プリンを!!!!』』』
学園の中央広場の方向からまるで地鳴りのようなシュプレヒコールが聞こえてきた。
声の発生源の方を見てみるとそこには何十人もの生徒達が身を寄せ合っており、全員が壇上に上がってメガホンを手に持つ少女を見上げている。
「んーよくやってるデモだねー」
「凄い人数ですね、旗まで立てて...先週のストライキ以来ですかね?」
2人は僅かに驚きながらも特に気にすることなく通り過ぎようとする。
あの程度のデモや抗議活動はここレッドウィンター連邦学園においては朝の挨拶と同じくらい日常茶飯事の光景なのだ、そんなことに気を向けているよりも早く帰って休んだ方が良い。
...だがそんな2人とは違い、モモだけはじっと彼女達の方を見つめていた。
「部長?どうかしたんですか?」
「...あれだ」
「え?部長...あ、ちょっと!」
突然デモ隊の方へと歩いていくモモに声をかける部員だったが、モモは止まることなく突き進んでいく。
「我々を酷使する現会長を許すなー!」
『『『現会長を許すなー!!!!』』』
「我々を酷使する現会長を許すなー!」
そしてデモ隊の先頭集団に紛れ込んだモモは誰よりも高く右の拳を突き上げ、誰よりも甲高い声を張り上げてシュプレヒコールに加わっていた。
「...わぁ、部長が加わっちゃいました」
「あれはもうダメだねー、帰ろっかー」
「そうですね、巻き込まれたら大変そうですし」
そんなモモの姿を見た2人は一瞬たりとも迷うことなく踵を返し、その場を離れていく。
一方のモモは背後で置き去りにされたことにも気づかず、周りの生徒達と共に声を上げ続けた。
「そうだそうだ!横暴なる独裁者を打倒せよー!」
やがて一時間近く続けられたデモだったが、休憩としてわずかに周りが落ち着いた瞬間を見計らいモモは素早く人混みをかき分け壇上に登る。
そうしてそこに立っていた少女...ミノリに手を叩きながら声をかけた。
「いやぁ、実に素晴らしい演説だったぞ!」
「む...お前は確か、よく唐揚げの事をよく話している唐衣モモだったか?」
突然話しかけられたミノリは不思議そうに首を傾げながらモモを見下ろす。
「そうだ!我が名を知っているとは素晴らしい」
するとモモは嬉しそうに頷くと共に、自分達を見上げている工務部の部員達に対して両手を広げて口を開いた。
「先程の君達の主張、実に胸を打たれたぞ!その熱き魂、気高いプ叫び....あまりの見事さにつられてこの私自らが隊列に加わってしまったほどだ!」
「そう言ってくれるのは嬉しい限りだな、あたし達はあの圧政者を許せない...会長というポストにあるだけで労働の尊さを理解せず、あたし達のプリンの配給量を減らすなど断じてあってはならない!搾取だ!言語道断の横暴だ!」
「そうだそうだー!」
「味も元に戻せー!最近なんか妙に水っぽいぞー!」
ミノリの熱い言葉に部員達も同調の声を上げる、そしてその様子をじっと見つめていたモモの口元がニヤリと歪み、彼女は両手を打ち鳴らし注目を集めた。
「その通り!私もまったく同じ気持ちだ。あのチェリノという幼き独裁者は我々生徒のことなど爪の先ほども考えておらん!それどころか、理不尽な労働を我々に押し付け自らは暖房の効いた優雅な部屋でお昼寝を貪っている有様...これほどの不条理が許されていいはずがないだろう!」
「ずるいぞー!昼寝ばっかりしてー!」
「私達にも休日をよこせー!」
「週休5日を約束しろー!」
次々と飛び交う過激な要求、その熱狂の渦が最高潮に達し広場にいるすべての工務部員の視線が自分へと集中したのを肌で感じ取った瞬間──モモは温めていた言葉を告げた。
「君達の意見は至極もっともだ!だが今の腐敗しきったトップの下ではその切実なる願いが叶うことなど未来永劫あり得ん!ではどうするか?一体誰が君達に正当なる権利を取り戻してくれるのか!?」
「──それは、この私だ!」
「....何?」
モモの発言にミノリは目を丸くさせ、広場が一瞬の静寂に包まれる。
「約束しよう!この私が会長の座に就いた暁には週休5日など当然の権利として認めよう!プリンも何でも倉庫が空になるまで好きなだけ腹一杯に食わせてやる!労働者の尊厳は我が手によって完全に守られるのだ!」
「「「おおおおおおおおおおっっっ!!!!」」」
やがてモモの声に呼応する様に大歓声が巻き起こった。
彼女の隣に立っていたミノリは目を瞑ると小さく笑みを溢す。
「成る程....真の労働者の味方が現れたというわけだな、ならばあたし達のやることは一つだけだ」
そうするとメガホンを再び口元へと構えたミノリはこの広場全体に響き渡る様に宣言した。
「これよりチェリノ会長の元へ向かうぞ!恐れることはない、労働者の権利を!我々に自由を!」
『『『我々に自由をーーー!!!!』』』
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「ふぅ...トモエ、今日の予定はどうなっている?」
「今日は午後から本部の周りをお散歩、それから広場に新しく建造しているチェリノ会長の銅像の製作様子を確認しに。それ以外はチェリノ会長の自由時間となっております」
「そうか!うむ、実に完璧なスケジュールだな!なら散歩の時間まで昼寝でもするとしよう....ん?何だこの音は?」
「大変です会長!トモエ室長!工務部の方達が事務局に押し寄せてきています!」
「な、何だと!?何故奴らが徒党を組んでやって来るのだ!?」
『チェリノ会長を許すなー!』
『プリンをよこせー!』
『休みをよこせー!』
『労働者に尊厳をー!』
「な、何なんだ一体!?」
「チェリノちゃん、こっちへ!」
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「ふふふ...ハハハッ!ついにやったぞ!この私がレッドウィンターの頂点に立つ時が来たのだ!」
事務局執務室...そこの椅子の上でモモは高笑いを上げていた。
ミノリ達率いる工務部の突撃に対し事務局の守備隊は為す術もなく瓦解...それどころかモモが掲げた"プリン無制限"、"週休5日"という甘言に釣られた向こうの護衛までが次々と寝返った結果、クーデターは大勝利で幕を閉じたのだった。
そしてチェリノ会長が去った今、新たな会長としてモモがその座に就くこととなった。
「会長、早速要望書が山のように届いていますが...」
「ああ!聞かせてくれ」
(ふふふ....これだけの権力を手に入れたのだ、もはや我が理念を遮るものなど何一つない!まずは集会を開き唐揚げの神聖さを説くのもアリだな)
とうとう訪れた己の野望の実現を確信し、モモは一人ほくそ笑む。
──けれども、その輝かしい立場はあまりにも早く崩壊へと向かい始めた。
「何、プリンが足りないだと!?馬鹿なことを言うな、あれだけ毎日全校生徒に配っているではないか!」
「は、はい...ですが全校生徒に無制限に配給するだけの在庫は無かったので、配給係が量を増やすためにプリンに大量の水を混ぜてカサ増ししたそうで....他の生徒達からは『味が薄すぎてこんなのプリンじゃない!』と苦情が殺到してます」
「報告です!例の"週休5日制"についてですが、生徒全員が休んでしまったために学園全体の作業な完全にストップして全く機能してません!説得しようにも『休みを返上して働かせる気か』と反抗されています!」
「ぐぬぬ....!し、しかし休みを寄こせと言ったのは奴ら自身だろう!」
「更に報告です、モモ会長が毎朝学園全域のスピーカーから放送させている"唐揚げの至高なる揚げ方講座"ですが、『朝の5時からうるさくて寝られない』『唐揚げの話ばかりされて腹が減るのにプリンが水っぽいからむかつく』と大不評です。おまけに食堂のメニューを全部『味付け抜き唐揚げ』に固定したことで『いい加減油物に飽きた』『マヨネーズくらいかけさせろ』『レモンを寄こせ』と暴動寸前の投書が....」
「文句ばかりじゃないか!あと飽きたとは何だ!レモンを寄こせだと!?言語道断!あの飾り気のない素朴な味わい、鶏肉本来の旨味を噛み締めることこそが究極の至福であるというのに!」
統治能力の欠如、見通しの甘すぎる公約の数々、そして私物化された唐揚げプロパガンダ.....それらへ溜まった不満の数々はチェリノ政権時代を遥かに凌駕するスピードで学園全域に充満していた。
そして、モモが会長となった日から10日ほどが経過した、ある日の午後。
ドォォォォォンッ!!
事務局の外から凄まじい衝撃音が聞こえてきた。
「か、会長大変ですッ!!」
「い、一体何事だ!今度は何が足りなくなったというのだ!」
「それが、元会長と工務部の本隊が事務局を取り囲み、こちらに押し寄せてきています!」
「何だとっ!?」
モモは慌てて窓辺へと駆け寄り下を見下ろすと、そこには腕を組むチェリノやその背後に立つ大勢の工務部部員達が事務局を取り囲んでいる光景が広がっていた。
「モモ会長を許すなー!」
『『『モモ会長を許すなーーーー!!!!』』』
「モモ会長は約束を守れー!」
『『『約束を守れーーー!!!!』』』
「プリンを元に戻せー!水で薄めたプリンなど認めないぞー!」
『『『認めないぞーーーー!!!!』』』
「あ、アイツらめ....!あんなにも固く結んだ同志の絆を、水増しプリン如きで裏切るというのか!?い、急いで建物にいる護衛の全員を集めるんだ!バリケードを築け!」
モモが必死の形相で振り返り事務局員たちへ命令を下す、だがその言葉に返ってきたのは冷たい沈黙だった。
「モモ会長...そうしたいのは山々なのですが、警備に当たっていた生徒の半数以上が元会長側が掲げた『特大プリン配給の復活』という条件に釣られて既にあちら側へ合流してしまいまして....」
「な、何だとぉぉぉぉぉぉっ!?」
モモが絶望の悲鳴を上げたその時、外からチェリノの高らかな号令が響き渡った。
「よし、お前達!あの偽りの会長を引きずり下ろすのだ! おいらに続けーーっ!」
『『『うおおおおおおおおっっっ!!!!』』』
轟音と共に工務部と寝返った護衛部隊が建物内へとなだれ込んでくる。
それから何の抵抗も出来ないまま執務室のドアが蹴破られると、逃げ出そうとしていたモモはあっさりと床へ拘束された。
こうして唐衣モモによる一週間の天下は呆気なく幕を閉じ、その後チェリノが何事もなかったかのように再び会長の座へと返り咲いたのだった。
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「うぅ、今回私達は関係なかったのにどうして...」
「ふっ...やはり私にはお前達だけが頼りだな!あのような権力の座など所詮はお飾りに過ぎんことがよくわかった。だがおかげで私は学んだぞ、上からの押し付けでは真の唐揚げの啓蒙は成し得ないということを!やはり地道な草の根運動こそが成功への道なのだ」
「すっごく調子のいいこと言ってるねー」
「本当ですね...早く終わらせて帰りましょう」
────粛清対象者、【唐衣モモ率いる"やはり唐揚げは素のままが1番美しい教"計3名】
クーデターを引き起こし学園に混乱を与えたとして以下の懲罰を与える。
"学園敷地内全ての部屋の清掃延長、1ヶ月"
情報⑥
・煽動能力。
モモは周りを煽動したり説得したりなどには妙に長けている、だがあくまで目先の目標までどうすればいいかを考えて行動している結果であり、実際それを叶えた後にどうするのかなどは全く考えていない為すぐにボロが出る。