ソードアート・オンライン ――或いは仮想世界のアンティフォン   作:ありさかいずも

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コボルドロード

 扉が押し開かれた。

 

 その先には、天井の高い広間があった。

 

 攻略隊が中へ入ると、壁に並んだ灯りが次々に点いた。

 

 奥の石段に、ひときわ大きな影が座っている。

 

 犬に似た頭部。

 

 赤褐色の毛。

 

 太い腕には斧と小さな盾が握られていた。

 

 影が立ち上がると、その頭上に四本の色の帯が現れた。

 

〈Illfang the Kobold Lord〉

 

 床の三か所から光が立ち上がり、槍を持った三体のコボルド――ルイン・コボルド・センチネルが現れた。

 

 イルファングが吠え、広間が震えた。

 

 ほかの者たちが身構える中、ルカは短弓に矢をつがえた。

 

「攻撃開始!」

 

 ディアベルの号令とともに、前衛が走った。

 

 盾を構えた者が斧を受け止め、その脇から剣士が斬り込む。

 

 一撃を加えると後ろへ退き、次の者と入れ替わる。

 

「スイッチ!」

 

 声を掛け合いながら、攻撃と後退を繰り返していた。

 

 護衛のコボルドへ向かった班も、二人一組で戦っている。

 

 ルカは、その少し後ろから弓を引いた。

 

 最初の矢が、コボルドの槍を持つ手に刺さった。

 

 槍先が逸れ、前にいた剣士の肩を外れた。

 

 次の矢は膝に入った。

 

 コボルドの姿勢を崩れると、別の男が剣を振り下ろした。

 

 剣身が光を帯び、コボルドの身体を大きく削った。

 

「助かった!」

 

 男が叫んだ。

 

 ルカは返事をせず、次の矢をつがえた。

 

 ディアベルの指示は広間の隅まで届いていた。

 

 傷を負った者は下がり、余裕のある班と交代する。

 

 護衛が倒されるたびにボスに攻撃を集中させ、新しい護衛が現れると、次の班が受け持った。

 

 ばらばらだった者たちが、ひとつの生き物のように動いていた。

 

 イルファングの生命力を示すゲージは、少しずつ減っていった。

 

 三本目のゲージが失われ、最後の一本に入った。

 

 その頃には、参加者たちの声に余裕が生まれていた。

 

「このまま行ける!」

 

「次で最後だ!」

 

 新しく現れた護衛のコボルドが前衛を抜けた。

 

 傷を負った槍使いに向かって走ると、その背中に錆びた斧を振り上げた。

 

(矢が間に合わない)

 

 ルカは短弓を握ったまま、コボルドとの間へ踏み込んだ。

 

 ルカは弓身を盾のように差し入れ、斧を外へ弾いた。

 

 鈍い刃の付いた金属同士がぶつかり、甲高い音を立てた。

 

 斧は槍使いの背中を外れ、石床へ叩きつけられた。

 

 間を置かず、両手で押し出した弓の尖端が、コボルドの喉元に突き刺さった。

 

【挿絵表示】

 

 ルカが短弓を引き抜くと、その姿は細かな光となって砕けた。

 

 助けられた槍使いは、床へ座り込んだままルカを見上げた。

 

「いま、弓で斧を弾いたのか?」

 

 ルカは答えなかった。

 

 槍使いの顔と、武器を握る手を一度だけ確かめた。

 

 それから一歩下がり、何事もなかったように次の矢をつがえた。

 

 

 イルファングの最後のゲージが赤く変わった。

 

 巨体が後ろへ跳び、斧と盾を投げ捨てた。

 

 腰の鞘から、新しい武器を抜いた。

 

 それは、会議で伝えられた曲刀ではなかった。

 

 両手で扱う、長く重い蛮刀だった。

 

「下がれ!」

 

 黒髪の剣士が叫んだ。

 

 だが、ディアベルはすでに前へ出ていた。

 

 彼の剣が青い光を帯びる。

 

 イルファングは腰を落とし、蛮刀を構えた。

 

 その姿が消えたように見えた。

 

 次の瞬間、蛮刀が下から跳ね上がり、ディアベルの身体を宙へ浮かせた。

 

 ルカは弦を引いた。

 

 矢がイルファングの右腕に刺さる。

 

 それでも攻撃は止まらなかった。

 

 空中で身体を返したイルファングが、落ちてきたディアベルに蛮刀を振り下ろした。

 

 彼の生命力が、一度に失われた。

 

 黒髪の剣士が駆け寄り、倒れたディアベルを受け止めた。

 

 ルカの視線は、彼の口元と胸の動きへ走った。

 

 二人は何かを話していたが、その声は周囲の音に掻き消された。

 

 しかし、確かめるより早く、ディアベルの身体が青い光に包まれた。

 

 指先から細かな欠片へ変わり、黒髪の剣士の腕の中から消えていった。

 

 再びイルファングが吠え、蛮刀を振り上げた。

 

 黒髪の剣士が立ち上がる。

 

 細身の剣を持った、フード姿の少女がその横に並んだ。

 

 二人は互いの動きを確かめるように一度だけ目を合わせると、左右へ分かれた。

 

 刀が振り下ろされる前に少女が踏み込み、細剣の連撃を浴びせる。

 

 イルファングが少女に向き直ると、黒髪の剣士が背後から斬りつけた。

 

 ルカは数本の矢を掴むと、それを続けざまに射た。

 

 矢はどれもイルファングの脇腹に刺さり、残っていた色の帯を削った。

 

 最後は、黒髪の剣士の一撃だった。

 

 彼の剣は、光を引きながらイルファングの胴を横切った。

 

 イルファングが長大な蛮刀を取り落とした。

 

 その巨体に幾筋もの亀裂が走ると、光の破片となって散っていった。

 

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