「ここは一体…?」
俺は見知らぬ場所で目覚めたことで一瞬思考が停止してしまったが、すぐさま気を持ち直して覚えていることを思い出して整理を始めた。
「(新宿で宿儺と戦っていて、それで『世界を断つ斬撃』を喰らって死んだはず…。——って! そうだ……!) ——みんなは!?」
俺は新宿での宿儺との戦闘中に死んだことを思い出すと、俺以外の皆がいないか急いで周りを確認した。見回してみても姿は見えないが、木々や茂みによりもしかしたら姿が見えないだけかもと思い、索敵に便利な術である【検/けん】を使用してもう一度確認する。
この【検】は俺が幼い頃に読んだマンガの技を参考にして開発したオリジナルの術で、俺を中心として領域を展開して最大半径100mまで呪力や残穢を感知することが出来る術である。攻撃性をゼロとするという『縛り』を行うことによって、索敵範囲と感知精度を最大限向上させているのだ
俺は範囲を最大まで上げたみんなのことを探したが、領域内では呪力どころか残穢さえも感じることはなかった。
「クソ…っ(【検】で反応がないってことはみんなはいないってことか? いや、真希は呪力が全くないし、何かしらの理由で呪力がカラになってたら俺の索敵に反応が出ない可能性もある) とにかく、探してみるしかないか」
俺は立ち上がって捜索に乗り出そうとしたが、未知の状況ということで自分の状態がどうなっているのかを完全に失念していたのだが、立ち上がった際に視界に映る無事な腕と足を見たことで今更ながら自身の状態に疑念を抱いた。
「あれ…?(そういえば…何で俺の身体は無傷なんだ…? 宿儺の『世界を断つ斬撃』で身体を真っ二つにされたはずなのに……。いや、それどころか…宿儺との戦いで負った傷の全てが回復している…!?)」
あの時の俺は直前に大技を放っていたことで呪力がスッカラカンになっていたことで『反転術式』を使用することが不可能な状態であった。俺以外にもアウトプットが可能な『反転術式』はいたが、乙骨は俺と同じく宿儺の攻撃を喰らっていて瀕死の状態でそんなことは不可能であり、もう一人の硝子さんは後方にて待機して貰ってはいたが彼女の『反転術式』の効きは他者に対しては著しく低下するため小さい傷なら兎も角、切断された身体を元通りにするなんてことは出来ないはずだ。
「——いや、今はそれよりもみんなを探さないと…!」
俺は身体が元通りになっている理由が分からなかったが、今はそんなことよりももしかしたらいるかもしれないみんなのことの方が重要であるため、頭の中にある疑念を一度振り払って捜索の方へと意識を切り替えて俺は行動を開始した。
——1時間後
「いない……」
俺はこの1時間の間、周辺をくまなく探した。半径100圏内は勿論のこと、それよりも外側も直に目視で確認しながら探しまくった(この間も、【検】は使用している)。
だが、俺の頑張りは虚しく誰一人見つけることが出来なかった。いや、それどころか人間や呪霊、動物すらもこの森の中では見当たらなかった。精々が蝶や蟻といった虫ぐらいである。
俺は何の成果も出ないことに溜め息を吐くと、近くにあった丁度いいサイズの岩に腰掛けると頭に手を当てて改めて状況を整理していった。
「ふぅ……(少なくとも半径1㎞は探し回ったけど、姿どころか痕跡すらなかった…。こんだけ探しても見当たらないということは、この森に飛ばされた(?)のは俺だけと見ていいか…)」
「……(空間移動系の能力だったら憂憂くんが思いつくけど…彼には俺にそんなことをする理由がない。それにそれだと傷が治っていることに説明がつかない。何だ……考えろ、考えろ俺……!)」
俺は最低限周囲を警戒しつつも、脳内にてこの謎の状況の解明を進めていく。
死んだと思ったら知らない森の中、森に飛ばされた(?)のは自分だけ、負っていた傷どころか服まで元通りとなっている。これらの要素が謎を解くカギであると俺は感じ、それらが当てはまる事象がないかを頭をフル回転させて稼働させていく。
そうして何分か、あるいは何時間か経過した時、俺の脳内に3つの要素が完璧に当てはまる‶とある事象″が浮かび上がった。
しかし、それは呪術師として得たものではなく、マンガやアニメなどから得たものであった。
「——!! ……もしかして俺、‶異世界転移″したのか……?」
『異世界転移』をしたと、俺はそう結論を出した。
傍から見ればバカなことを言っていると思われるかもしれないが、呪術師として生きてきた俺としては何らおかしいとは思えない。
だって、呪霊や呪術というのが既に一般的に見ればおかしい存在なのだから。無限を現実に持ってこれる人間や魂に干渉出来る呪霊、空間を断つことの出来る最強などといった、それこそファンタジーの様な存在が現実に存在しているのだから、『異世界転生』というのが存在したとしても何ら不思議ではないのだ。
しかも俺には、仮に『異世界転移』をしたことを前提としても、こんなことになった要因に心当たりがあった。
それは——
………
……
…
「(考えられるとすれば……)————宿儺の、『世界を断つ斬撃』」
そう、俺の死因は宿儺の『世界を断つ斬撃』を受けたことによるもの。そしてその『世界を断つ斬撃』というのは、『解』の術式対象を『個人』から『世界そのもの』へと拡張させることで、世界に存在する限り‶不可侵″すら無効として存在を分断する技である。
ここで少々話はズレるが、『異世界転移系』において主人公が異世界へと転移する方法が大きく分けて2つ存在する。
一つ目は、『神』またそれに類する存在によって行われるもの。これについては、前世で善行を積んでいたことへ褒美だとか、『神』のミスによって死んでしまった事による罪滅ぼしだったりだとかが理由で、超常的な存在の手によって『異世界』へと飛ばされる。因みに、このパターン(特に『神』のミスによるもの)では【転生特典】なるものが与えられているのが定番である。
そして2つ目が、『神』などの超常的存在が一切関与しない完全なる‶偶然″により『異世界』へと飛ばされてしまうもの。
そして、今の俺にとって重要なのはこの2つ目にあたる。
この2つ目にも色々な要因があるのだが、俺が前世(?)において見た異世界転移系のアニメの一つにこんな転移の方法があった。
『敵に受けた攻撃で死に、目を覚ましたら異世界にいた』、というものが。
これは正に俺の死因にピッタリと当てはまっている。そして攻撃の主が【呪いの王】とまで謂われた史上最強の呪術師である『両面宿儺』だ。
そんな存在が放った、文字通り『世界を断つ斬撃』を受けて死んだ俺が、『異世界転移』という摩訶不思議な現象に遭ったとしても不思議ではないというわけだ。
そこまで考えていた俺は、ふと俺と‶同じ死に方をした人″がいたことを思い出した。
「! そうだ! 悟さん……!」
俺は悟さんのことを思い出して思わず立ち上がった。もしかしたらあの人もこの世界に来ているかもしれないと思ったからだ。
しかし、直ぐに俺は冷静になった。
「——って、あの人が近くにいたらもう既に見つかってるよな……」
そう、あの人がもし俺と同じように『異世界転移』していたとすれば、もう既に見つかってる……いや、より正確に言えば見つけてくれてるはずだからだ。
悟さんには『六眼』と『無下限呪術』による高速移動があるからもし俺の近くにいれば直ぐに見つかっているはずなのだ。それなのに1時間以上も探して見つからないということは、そもそも転移していないか仮に転移していたとしても余程遠くにいるかのどちらかだ。
「(もし異世界にいるとすれば…)大丈夫かなぁ……なんて、心配するだけ無駄だしなぁ~。あの人に関しては…」
もしも俺と同じように転移していたらと考えて心配になったが、それは一瞬のことで直ぐにそれはなくなった。
薄情だと思うかもしれないが、悟さんに関してはマジでこちらが心配するだけ無駄なのだ。幼い頃なんて心配したって何てこともなかったかのように帰って来て、『なになに、心配してくれたの~? かっわいい~w』などといった最早煽っている風にしか聞こえない言葉をかけて来てむしろ殺意が湧いていたぐらいだ。
仮にこの世界の何処かに転移していたとしても平然としているだろうし、何だったら世界を『転移した経験』をしたことで『異世界転移』すら習得してしまっている可能性すらある。
いつもの、『僕、最強だから♪』という決まり文句を言いながら。
「悟さんよりも、まずは自分のこと気にしなきゃだしな~……」
悟さんは高スペックだから身一つになったとしても何とかなるだろうけど、俺はそうはいかない。幸い術式で収納(しま)っている物は無くなってはいなかったため、最低限の飲食とサバイバルグッズはある。
だがあくまでも最低限であり、この状況が何日にも渡って続くこととなれば正直心もとない。一応サバイバル技術は叩き込まれているので生活できなくはないが、人も動物も見当たらない森の中でずっと過ごしていくのはごめん被りたい。
「(取り敢えず、また探索するか。もしかしたら人と遭遇するかもしれないし、そうでなくとも最低でも水が確保できるように川か湖を見つけておきたいし…) はぁ…。頑張るとしますか」
俺は脳内にて取り敢えずの目標を立てると、「よっこいせ」と声を出しながら立ち上がった。
そして、再び探索を始めようとした正にその時、俺の耳に‶とある音″が届いて来た。
——ォォォオオオン
「! 何だ…?(声…か?)」
俺は声が聞こえて来た方へ身体を向けると、目を閉じて耳に神経を集中させながら【検】を発動した。今俺が発動した【検】は、元からのに加えて『目を閉じる』、『動かない』、そして『索敵範囲を声が聞こえてきた方向一点へと集中させる』という今回限りの即席の‶縛り″を3つ行ったことで、局所的であるが探知範囲を1㎞ほどにまで増加させている。
そうして丁度1㎞ほどまで領域が伸びたところで、俺の耳に先程と同じ声と共に独特な音が聞こえて来た。
——オオオォォォン!!
——ドドッ! ガララッ!
「!!(これは……何だ…? 馬の足音、か…?)」
俺は任務で何度か競馬場や牧場などの馬がいる場所に行ったこと(なんだったら乗馬体験もしてる)もあるため、その音がそれに似ているように感じた。
——はよ……るで……!
——お…う! あ……すな!?
「!!(人の声!? まさか……) ——襲われてるのか!?」
そして引き続き音を聞いていると、獣の叫び声の様な音と馬の足音の他にも声が聞こえて来た。そしてそれは、俺が待ち望んでいた人間の声であったが、その声にはどこか焦りや恐怖、不安などが感じられた。
そして、これまでに耳届いて来た音や断片的な会話を整理したことで、俺は1㎞先にいる人たちが獣か何かに襲われていて、馬に乗って逃げていると予想した。
ここからじゃ正確なことは分からないが、少なくとも何か事件に巻き込まれている可能性が高いことは間違いなかった。
「————行くか」
俺は呪力で身体を覆って身体能力を向上させると、声が聞こえてきた方角へと走り出した。
……正直、客観的に見れば俺の行動は良い事とは言えない。たった一人でどこかも分からない状況で、見ず知らずの他人を助けるために走っている。そんなことよりも自分のことを優先するのが当たり前だと思う。それに、もしかしたら今襲われている人たちは呪詛師みたいな悪人である可能性もある。
でも、見捨てるなんて選択肢は俺には初めからなかった。
だって——
………
……
…
「——『弱者生存こそが、呪術師のあるべき姿』、ですもんね」
俺を呪術師として育ててくれて、目指すべき呪術師としての姿を見せてくれた恩師がよく言っていた言葉を口にしながら、俺は目的地へと急いだ。
そうして走っていくと近づいていることでだんだんと音が大きくなってきており、そうしている内にいつの間にか森を抜けて平原へと出ていた。
そして平原へと出たことで、俺は相手の状況を直に見ることが出来た。
「!? はぁ!?」
場面としては予想した通りではあったのだが、その様子を見て俺は思わず声を上げて驚いてしまった。
「(何だあれ!? 巨大トカゲ……いや、ドラゴン…なのか? それにあの人(?)の姿…『獣人/じゅうじん』ってやつか…? あっちの小さい子は猫耳っぽいのあるし…! 異世界って言っても、ファンタジーが過ぎるだろ…っ!?)」
キャビンらしきものを引っ張っているのが巨大なトカゲ(?)に、大きい狼に乗っている犬の要素が大きい獣人に、同じく狼に乗っている猫耳が生えている子供と、俺の常識にはない存在ばかりで唖然となってしまう。
しかし、俺を驚かせたのは前記のどれでもなく、彼らを襲っている‶獣″の方であった。
「……っ!?(で、デカい……! あれは……鯨、なのか……!? 角が生えてるし! 空を飛んでるし! そしてなによりも……俺の知っている鯨よりも、明らかにデカいっ!!)」
その‶獣″というのは、『鯨』だった。
だが、それは俺の知る鯨とは明らかに違った。空を飛んでいることや額から生えている鋭い一角は俺の知る鯨にはない特徴である。だが、それらよりも俺を驚かせたのはその大きさだ。
俺の知る鯨は、大きくても20~30mほどである。だが、俺の眼に映っている『鯨』は、それよりも遥かに巨大だった。
「(目測でも30mは余裕で超えてる…! 50…いや、下手すればそれ以上か…!?) いくら何でも、デカ過ぎだろ……っ」
思わず愚痴を呟いてしまったが、走る速度は一切衰えさせずに近づいていく。
普通ならビビッて動けなくなったりするのであろうが、俺はそうはならなかった。
なぜなら——
「(確かに超デカいし、空飛んでるしで意味不明だな。…でも——) ——‶宿儺″ほどは、怖くねぇな…!!」
そう、俺は前世にて歴代‶最強″にして‶最恐″な呪術師である『両面宿儺』と戦っている(まぁ、悟さんと先に戦(や)って弱ってたけど)ので、ただデカいだけの鯨にビビることはなかった。
「…って、マズい!?」
俺は更に速度を上げて近づいて行った。
なぜなら、霧(?)を放った衝撃によってキャビンから放り出された少女とそれを守るべく前に出たであろう猫耳の幼女(?)に、地面擦れ擦れまで降下した大鯨が口を大きく開けて2人を丸のみしようとしていたからだ。
『簡易説明』
★オリ主
◎名前:園丘 雄馬(そのおか ゆうま)
◎性別:男
◎年齢:17歳
◎生年月日:2000年5月23日
◎身長:180㎝
◎所属:東京都立呪術高等専門学校二年
◎等級:一級術師
◎生得術式:【収納(しゅうのう)呪法】
~手で触れた物を雄馬が作った結界へと‶収納″する術式。収納したものを出すのは雄馬の任意で行える。ただし、一度結界から出すとその結界は消滅する。生物を収納した場合は、生物の状態は収納時点で停止する。また、結界の所有数に限界はないが、同時に作れるのは3つまでで、大きさや強度などの条件が強いほど呪力の消費が大きく作るのに時間が掛かる。因みに、【縛り】により一日に作れる結界は100(大小関わらず)まで。
◎使用可能な応用術
・『術式順転』:【???】
・『術式反転』:【???】
・『拡張術式』:【???】
・『領域展開』:【???】 掌印:『???』
・『極ノ番』:【???】
・『反転術式』(アウトプットも可能)
・『領域展延』
・『落花の情』
・『シン・影流‶簡易領域″』
◎呪力総量:五条<<雄馬≦乙骨<<宿儺
◎呪力出力:乙骨<雄馬<石流
◎呪力操作:乙骨<<<雄馬<<五条
◎説明
~一般家庭の出身。赤ん坊の頃に両親が亡くなったことで孤児院で育てられる。物心着く頃から呪霊の姿が見えており、呪術師としての才能(呪力総量、呪力出力、呪力操作)が乙骨並にあったため、5歳の頃に初めて3級呪霊を祓って以降夜な夜な孤児院近くの呪霊を祓っていた。そうして呪霊を祓い続けて雄馬が7歳となったある日、任務へ赴いた特級術師の『夏油傑』と遭遇する。昨年の『星漿体護衛任務』のことや呪術師の『繁忙期』に入っていたこと、そして親友である『五条悟』が一人だけ‶最強″となったこともあり、夏油の心身は衰弱してしまっていた。しかし、僅か7歳の少年の雄馬が孤児院の皆のために呪霊を祓っていることや雄馬に自身の話を聞いてもらった(彼に配慮して内容はかなりオブラートに包んでいる)上で『夏油さんは頑張っていますよ』と励ましの言葉を受け取ったことで、夏油は呪術師として心を持ち直すこととなる。そして、夏油と会ったことで、雄馬は呪術高専へと引き取られ呪術師として育てられることとなる。(夏油が心を持ち直したことにより、彼や枷場姉妹の呪詛師堕ちもなくなる)
そうして雄馬は高専にて育てられていく中で、さしす組や夜蛾学長、枷場姉妹といった原作キャラ達と関わりながら一年で一級術師まで上り詰めた。そうして二年となり原作における『人外魔境新宿決戦』にて、宿儺との戦いにおいて『世界を断つ斬撃‶解″』を受けたことで死亡する。