俺の名前は、園丘雄馬。
『プオォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!』
「さーてと……——やりますか」
これからこの世界において厄災として恐れられるデカい鯨に勝負を挑む、一級呪術師だ。
「~~~ッ///」
「? お嬢さん?」
デカ鯨がお嬢さんと猫耳幼女を丸呑みにしようとするのを見た俺は、このままでは間に合わないと思った俺は、『今から10秒間のみ』、『攻撃には使用しない』という即席の2つの【縛り】を結んだことで、一時的であるが身体能力を上昇させたことで間一髪ながら2人を助けることが出来たわけだ。
俺は怪我は無いかとお嬢さんに問いかけたのだが、彼女は顔を俯かせてしまい返答してくれなかった。
「(……って、考えてみれば当たり前か)」
俺はお嬢さんの様子に首をかしげたが、少し考えてみて彼女の様子がこうなっている見当が付いた。
「(いきなりあんなデカい鯨に食われそうになったのに、今度は見ず知らぬの男にお姫様抱っこされてんだからそりゃ意味わかんねぇよな…) ——今、降ろしますね」
命の危機に瀕してたところ、目を開けてみれば死んでなくて自身は見知らぬ男にお姫様抱っこされているという状況に混乱するなと言う方が無理があるだろう。それに今更ではあるが、いくら緊急事態だったとはいえ許可もなく女性の身体に触れる(それもお姫様抱っこ)ということは、彼女を嫌な気持ちにさせてしまっても仕方のない事だ。
そのため俺はデカ鯨の様子を注視しつつも、一声かけてから2人を地面へと下ろした。
「——お嬢!! お姉ちゃん!!」
「ティビー…?」
「よかった…! よかったですぅ……!! 2人共無事でよかったですぅぅぅっ!!」
「アハハハ! ティビーってば泣き虫だな~!」
俺が2人を下ろして直ぐ、幼女と似た男の子が2人へと突っ込んできた。言葉の内容からして幼女の姉弟であろう男の子は、2人の無事な姿を見たせいか泣きながら2人に抱き着いており、幼女は笑い声を上げているものの安心させるように彼の頭や背を撫でており、そこには姉として弟を慈しむ愛情が感じられた。
「お嬢ッ!! ミミッ!! 無事かァ!?」
『お嬢!!』
「リカード……それに、みんな…」
「無事かいなお嬢!? どこも怪我とかしてせぇへんよな!?」
「へ…? あ! う、うん…! 大丈夫や! あのお兄さんが助けてくれはったから、ウチもミミも特に怪我はしてへんで」
2人の姉弟愛を見て内心ちょっとほっこりしていると、お嬢さんの御仲間と思われる犬の獣人さんと猫耳姉弟のように動物の耳と尻尾(?)を生やした人たちがやって来て、各々が焦りや不安を露わにしながらもお嬢さんに大丈夫かと声をかけている。
どこかボーッとしていたお嬢さんも、狼から降りてきた獣人さんに肩を掴まれながら声をかけられたことでようやく現実に戻ってきたようで、きちんと返答することが出来ていた。お嬢さんからはっきりとそう言われたことで大丈夫だと確信できたのか、獣人さん達はホッとした表情を浮かべがらよかったと言っており、中には涙を浮かべている者いた。
「——兄ちゃん!! あんたのお陰でウチのお嬢とミミが助かった! 団長として礼をさせてくれや!! ホンマに、ありがとう……!!」
そうしてお嬢さんの無事を確認できた獣人さんは、俺の方へと身体を向けると感謝の言葉を述べながら頭を深く下げて来た。そしてそれに続くように、他の動物耳の人たちも頭を下げて来る。
「…感謝は受け取ります。ですけど、まずはあそこのデカ鯨を何とかしましょう」
「! …せやな! だったら正式なお礼は、あのはた迷惑な鯨を何とかしてからさせてくれや!!」
「ええ、そうしてください」
俺は感謝の気持ちを受け取りつつも、距離と取りながらも未だにこちらのこと狙っている鯨に目線を向けながらそう言うと、獣人さんは背負っている得物であろう大剣を手にすると白鯨に対して構えながらそう返したことで、俺は不敵な笑みを浮かべた。
そうしてデカ鯨を警戒しているのだが、相手の方もこちらを警戒してか旋回するのみで先程の様に攻撃をしてくる気配が見えない。
何が狙いかは分からないが、相手が丁度攻めてこないのであれば少しでもデカ鯨の情報を得ておいた方が良いと思った俺は、獣人さんへとずっと聞きたかったことを問うた。
「ところで……今更ですけど、あのデカ鯨って何なんですか? 魔獣?…とかそういうやつですか?」
俺がそう聞くと獣人さんは急に俺の方へと向けて来た。その表情はまるで信じられないと言わんばかりの眼で俺を見て来る。いや、獣人さんだけではない、ここにいる俺以外の人間が獣人さんと同じような感じで俺を見ていた。
「はぁ!? 兄ちゃん『白鯨』を知らんとかどんな箱入りやねん!?」
「ああ、あれ『白鯨』って言うんですね(見た目まんまの名前だな…)」
「聞けや!! というかホンマに知らんのかい!? これまで世界中からぎょーさんの討伐隊を返り討ちにしてきた、挙句にはあの【剣聖】すら殺した『霧の魔獣』を知らんちゅうんか!?」
「【剣聖】……?」
「そっちも知らんのかい!? ったく、【三大魔獣】だけじゃなく【剣聖】も知らんとか、マジでどうなっとんねん兄ちゃんは!!」
獣人さん達の反応を見るに、どうやらこの世界では『白鯨』も【剣聖】も常識中の常識らしい。といっても、俺はこの世界の人間ではないので知らないのは当たり前のことであるのだが、獣人さん達はそんなこと知らないのだから仕方ない。正直、俺を見る皆さんの視線が痛いので弁明したい所ではあるが、『異世界転移』してるなんて言っても信じてもらえないであろう。というか、そもそもとして説明している時間もないのだが。
ただ、獣人さんの話し方から知りたかったことを知れた俺は、念のため確認のために獣人さん達へと問いかけた。
「あ~……その、俺のことについても、あの鯨を何とかした後に説明させていただきますよ。それで一応聞いておきたいんですけど……————あの鯨って、殺しちゃっても大丈夫ってことで、いいですよね?」
『!?』
そう、俺が聞きたいのはあのデカ鯨を‶殺していいのか″ということ。
襲っているということから危険な存在であることは察していたが、なにぶん俺は転移してきたばっかでこの世界のことは何も知らないので、もしかしたら殺してはまずい存在である可能性もあったので先程も救助のみで攻撃はしなかった。
「いや、それは……確かに、問題はあらへんけど……」
「わかりました。ありがとうございます」
「いやいやいや! お兄さん何言ってるですですか!? 相手はあの『白鯨』ですよ!? そんな殺すだなんて——」
「——大丈夫です」
「ッ!!」
お嬢さんが問題ないと言ってくれたため疑念が消えた俺は、礼を言いつつあのデカ鯨を殺すべく行動を開始した。
すると、猫耳の弟君が声を荒げて俺のことを止めてきた。あんなに必死に止めるということはそれほど危険な存在と言うことなのだろう。
だが、俺は弟君の言葉を遮りながら大丈夫だと断言した。
なぜなら——
「俺は、————『一級呪術師』ですから」
——そう、俺が呪術師だからだ。
俺は安心させるように笑みを浮かべながら彼らに対してそう言い放った。お嬢さんたちは俺の言葉を聞いて困惑を露わにしているが、前を向いていてそんなことを知らない俺は収納(しま)っていた刀の呪具を取り出すと、抑えていた呪力を解放して全身を覆った。
ウチの名前は、アナスタシア・ホーシン。
『プオォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!』
「——それじゃあ、いっちょ始めますか…!」
今から始まるこれから先『英雄譚』として語られるであろう戦いを見守る、美人商人や!
「…っ!!(なんや、この感じ……!)」
ウチは先頭に関しては素人やけど、そんなウチにでも分かるくらいお兄さんがよく分からん単語を言うて剣?を取り出してから纏う雰囲気っちゅうのが変わったのが分かった。
それこそ下手したら『白鯨』に遭遇(お)うた時以上の緊張感がウチを襲っていると、お兄さんは奴さんに身体を向けながらもリカードたちへ話しかけた。
「獣人さんたちは、ここでお嬢さんを守っていてください」
「! はぁ!? 何言っとんねん兄ちゃん!!」
「貴方たちの優先事項は、お嬢さんを守ることなんでしょう? だったら、それに集中した方がいい」
「いや、それはそうやけど…!! だから言うて——!」
「それに……——大切な人を守り切れなかった時ほど、辛いことはないので」
「っ!?」
『——っ!?』
お兄さんが言う言葉には、不思議と重みがあった。それこそ、まるで実際にそんなことがあったんやないかと、思わせる程に重いもんが。
反論しようとしとったリカードも、お兄さんからのその言葉を聞いて口を噤んでしまうほどやった。
そうやってリカードが黙ったのを見て納得したと思たんか、お兄さんは一言うちらに言うと走り出したんや。
「それじゃあ、行ってきますね」
「あっ…」
お兄さんは片手に剣を持っているとは思えん速度を出しながら白鯨へと迫っていきおった。
「な、なんちゅう速さや…」
「うわ~! すっご~い! お兄さんちょーはえー!!」
「に、人間ですですか…? あの人……」
ウチやミミ、ティビーはお兄さんのあまりの速さに、信じられへんくて思わず呟いとった。
すると、白鯨もお兄さんの姿が見えたんか口を大きく開けると、先程ウチらに放ったんと思われる霧?を彼へ向けて放ったんや。
「あかん…!!」
それを見たウチは声を上げとった。なぜなら、お兄さんはそれを顔を上げて確認したにもかかわらず、速度を下げることも躱す様子も見せへんかったからや。
竜車を一撃で吹き飛ばしたような攻撃を受ければどうなるんかは簡単に予想出来る。ウチの脳内では既に、あの霧によって粉々になるお兄さんの姿が見えとった。
——しかし、そんなウチの予想は裏切られることんなる。
「うそぉ!?」
『はぁ!?』
何故なら、お兄さんが走りながら何故か紫っぽい色となっとる剣を構えて霧に向かって横薙ぎをすると、紫色の斬撃が飛んで行っていとも簡単にそれを吹き飛ばされたんやから。
これには流石の白鯨も予想外やったんか、一瞬ではあるけど動きが止まった。それとほぼ同時に、お兄さんは急に走るのを止めて滑りながらもう一度剣を構えると、先程と同じく白鯨へ向かって横薙ぎを放った。
今度は白鯨へ向けて放たれた紫色の斬撃。白鯨は何かを感じてか避けようと身体を捻らせたが、それよりも早く彼の斬撃が届いたことで奴さんの4つある鰭の右前足(?)にある根元を通り過ぎていった。
そして時間が少しすると、斬撃にあった所から大量の出血が迸ったんと同時に、重力に従って右前足の鰭がズレ落ちていった。白鯨は再び大きな声を上げるが、それは最初の時と違い驚愕や恐怖といった感情が多分に含まれとるように感じた。
『プオォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!?』
「な…っ!?」
「ええぇ!? すごーーー!! お兄さんすごーーー!!」
「んなアホな……!?」
「あん兄ちゃん、マジで何者やねん……!!」
ウチは自分の眼に映る光景が信じられへんかったけど、白鯨の大きな鰭が落ちたことにより起こった揺れや砂煙を受けたことでこれが現実であると突きつけられた。
ウチは白鯨の鰭を落としたお兄さんへ視線を向けると、そこには剣を肩に担いで叫び声を上げている白鯨を見ている彼の姿があった。
そんなお兄さんの姿を見とったら、ウチは無意識の内にとある言葉を囁いとった。幼い頃に路地裏のお爺さんから聞いた、とある物語に出て来る人物の名前を。
「黒の…英雄……」
お兄さんの後ろ姿は、正に物語に出て来る『英雄』のものやった。
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それでは、皆さんさようなら!