俺の名前は、園丘雄馬。
『プオオオオオ!! プオッ!! プォォォオオオオオオオオオオオオ!!』
「次はどうしますかねぇ(取り敢えず、口先だけになんなくて一安心だな…)」
‶災害″と恐れられているデカ鯨相手に攻撃が効いたことに安堵しつつも次の一手を考える、一級呪術師だ。
『プオォォォオオオオオオオオオオオオ!?』
「……(『霧の魔獣』なんて言われてるから、最悪身体が霧で出来てて攻撃無効なんてことも考えてたけど…それは大丈夫そうだな)」
獣人さんからデカ鯨の情報を聞いていた俺は、『霧の魔獣』なんて言われてるから『攻撃無効』なんていうゲームでいう所の〝負けイベント仕様な相手″であることも想定していたが、俺の斬撃を受けて鰭の一つを失くして声を上げている様を見てその心配は杞憂であることを察して一先ずは安堵した。
獣人さん達にあんな大丈夫だとか断言しておいて攻撃効きませんでしたとか、恥さらしも良い所だからだ。
「……けど、予想以上に厄介そうだな」
ただ、こちらの予想外の発見も2つあった。
一つ目は、予想よりも『白鯨』の動きが速いこと。
お嬢さんを丸呑みにしようとしていたのを見ていたのであれが図体の割に動きが素早いのは初めから分かっていた。だが、先程の斬撃はそれを踏まえた上で、相手の耐久度を試すために‶胴体を狙って″放った一撃だった。しかし、それを躱された。それも、こちらが斬撃を放ったのを見てからだ。勿論いきなり全力を出していたわけではないが、それでも相手が躱せないだろうと思って放っており、それを躱されたのだ。これは十分に警戒に値する。それに、俺は全力を出していないが、相手だって全力を出してきているのかが不明ならば、今よりも動きが速くより複雑になることも想定しておかなければならない。
そして、二つ目。ある意味ではこっちの方が上記よりも厄介なところだ。それは、俺の攻撃の威力が弱められたという事。
遠距離の攻撃になると、距離が遠くなればなるほどそれに比例して威力が落ちていくのは当たり前のことだ。それは今回だって例外ではない。分かりやすく数字で例えると、俺は100を込めて斬撃を放ったが、『白鯨』はかなり上空にいたことで届くまでにそれなりに威力が落ちてしまっていた。それでも当たるまでは80前後くらいはあったものが、直前になって一気に減少していって50程にまでなっていたのだ。明らかにおかしい減少幅に、これも『白鯨』によるものだと簡単に想像が付いた。
「……(恐らくは、身体の表面に生えてる体毛。あれによって威力が軽減させられた)」
俺は、『白鯨』の全身に生えている体毛が威力を弱らせた『要因』であると結論付けた。といっても、消去法でそれしか考えられなかったから出たわけだが。
「(ただでさえデカいことで肉の壁があるってのに、そこに遠距離からの攻撃を弱らせる効果のある体毛。そんでもって本体は遥か上空を想像以上の速さで泳いでいると…) ——改めて情報整理すると、本当に面倒くさい奴だな…」
頭の中で情報を整理した俺は、その厄介さに悪態をついた。
「……(それにあいつの攻撃手段が『霧をぶつける』と『直接攻撃』だけとは思えねぇ。他にも何かあると思った方が良いな)」
それ以外でも、今のところ『白鯨』のしてきている攻撃が2種類だけということも俺に疑念を積もらせる。
相手は世界中からの討伐隊や強さは全く分からないが【剣聖】とやらすらも返り討ちにしてきた怪物だというのに、攻撃手段がその2種類だけというのはありえない。仮にその【剣聖】とやらが、俺の世界だと悟さん並の強さだとすると、猶更そんなわけがないという考えが強くなる。
最低でもあと一つ、下手すれば複数の攻撃パターンがあるとみていいだろう。
「……(現時点で考えられるとすれば、霧を使用して姿を消してからの奇襲。または、霧自体に毒性あるいは幻覚作用的な有害のものがあるパターン。あとは……そうだ。『○RUTO』とかみたいに、霧を使った分身もありえそうだな。それとも……霧とは全く関係ないものか。……いや、これに関してはキリがないから考える過ぎるだけ無駄か)」
パッと思いつくだけでも3種類の攻撃パターンが考えられ、そのどれもがしてきたっておかしくないものだ。一応、『羂索/けんじゃく』みたいに全く関係ない能力を持ち合わせている可能性も考えたが、現時点では想像できない以上考え過ぎても反って戦闘の邪魔になってしまうためそれは頭の片隅に留める程度で済ませた。
「(さて、どうしたもんかな。一番手っ取り早いのは【極ノ番】を使うことだが……溜が必要な上にあの素早さだと躱される可能性もある。そうなると呪力とストックが無駄になる。だがダラダラと長期戦に持ち込むのも良くない。相手の体力がどのくらいか分からないのもあるが、標的が俺からお嬢さんたちへ移るとヤバいし)」
俺の必殺技の一つでもある【極ノ番】。それを使用すればあのデカ鯨でも討ち取れる自信はある。しかし、撃つためには溜めが必要となり、それを黙って見逃がしてくれるはずがないし、仮に溜めて撃てたとしても予備動作の時点で察知され躱されてしまう確率が高い。
しかし、このまま長期戦も望ましくない。というのも、仮にそれで『白鯨』を倒せたとしても俺の呪力もストックもかなり減ってしまうこととなる。それではもしもこの後に再び戦闘が起った時に命取りになりかねない。
考え過ぎだと思われるかもしれないが、ここは俺のいた世界とは全く異なる世界なのだから警戒することに越したことはない。
そうやって色々と考え続けた末、俺は一つの作戦を思いついた。
「(だとすると手は……) ————先手必勝、だな」
そう、先手必勝。つまりは、『常に先に仕掛け、相手に何もさせずに倒す』というわけだ。
「どんなに厄介な攻撃も、使わせなきゃ意味がないから、なッ!」
俺は再び走り出して『白鯨』へと接近していった。
『白鯨』は走り出した俺の姿を捉えたようで、叫ぶのを止めると俺へと向くと口を開いて霧の砲撃を行おうとした。だが、それよりも早く俺は片手で刀を構えると、走りながらも下から掬い上げるように刀を振るって斬撃を飛ばした。
しかし、先程の斬撃を受けて俺の攻撃が危険と学習したのか、先程以上に素早く動き出すと今度は完全に斬撃を躱して見せた。
『プオオオオオオオ!!』
「ま、当然躱すよな」
まるで『同じ手は通じない』と言わんばかりに声を上げている『白鯨』を見ながら、俺はそう呟いた。
されど俺には動揺はなかった。なぜなら、元々それは『白鯨』を斬るために放ったものではないからだ。
俺は躱されたのを見ながらも、次々へと『白鯨』に向けて斬撃を放って行った。
「フゥン…!!」
——ザンッ!! ザザンッ!!
『プォォォオオオオオオオオオオオオ!!』
次々へと迫りくる斬撃を、『白鯨』はまるでダンスでも踊るかのように身体をくねらしながら躱していった。だが、攻撃を躱していく姿を見て俺は笑みを浮かべた。
なぜなら、今までの斬撃は『白鯨』を動かすためのものであったからだ。
「ふぅ……!(よし。お嬢さんたちからは十分に離れた!)」
そう、俺が斬撃を飛ばし続けたのは、お嬢さんたちから『白鯨』を遠のかせるためだ。標的がお嬢さんたちに映るのを防ぐためでもあるが、一番は俺が気にせずに戦闘できるようにするため。
『白鯨』を確実に仕留めるためには‶大技″を使う必要があるが、近いとそれにお嬢さんたちが巻き込まれてしまう可能性もあり、こうして気づかれないように距離を取る必要があったのだ。
「これで、気にせず大技を撃てる。——せいッ!!」
ストックの中から‶とある筒状の物″を取り出すと、それを野球のバッティングの要領で刀の側面で『白鯨』へと打ち出した。
「獣人さん!! 目を瞑っててくださいッ!!」
『『『!!』』』
俺は獣人さん達へ大声でそう手短に伝えると、‶とあるゴーグル″を取り出して直ぐにそれを装着した。そして、呪力を込めたことで先程以上の速度で打ち上げられた筒は、『白鯨』が避けるよりも前に眼前へと迫ると、その効果が発揮された。
————パァン!!
『プオオオオオオオッ!!?』
『『『くっ/うわぁ~/何や!?』』』
そう、俺が打ち出した‶とある筒状の物″とは、『閃光弾』…いわゆる『スタングレネード』というやつだ。といっても、その光は通常のモノの数倍にまで高めてある特注品だ。
その光は辺り一面を白一色へと塗りつぶし、目にした者の視界を悉く潰す兵器だ。それの威力は語るまでもなく、それを受けて絶叫している『白鯨』の姿を見れば一目瞭然であろう。
予め専用のゴーグルを装着していたことでその影響を受けなかった俺は、『白鯨』が叫んでいるのを尻目に次の準備を始める。
俺は術式を発動して、無色透明な丸いトレー状にした結界で空気を収納しながら空中に階段のように並べると、それを足場として空中へと駆け出した。
俺の【収納呪法】は本来であれば、ただモノを収納(しま)っておくだけの術式であったが、幼いころから術式と向き合い続けてきたことで、こんな使い方も出来るようになったのだ。ただもちろんこれにも『縛り』を使用しており、『5秒間のみ』、『大きさは最大でも半径20㎝』、『攻撃性能0』という3つを行うことにより、5秒間だけだが壊れることも動くこともないしっかりした足場を空中に作ることが出来るのだ。
「よッ! ほッ!」
俺は階段を作りながらどんどん上へと昇っていき、最終的には『白鯨』より上の高さまで行った。そこは丁度『白鯨』のほぼ真上であり、俺はストックの中から‶とある呪具″を取り出した。それは大剣であり、名前は『翔正刀/しょうせいとう』。かつて悟さんからプレゼントされたもので、昔とある術師が愛用していたことで呪具化した剣だ。その能力は、剣自体が‶浮遊″できるというもの。
俺はそれを横にした状態で足元に出すと、その側面へと足を乗せた。この剣は俺と同じくらいの大きさであるためちゃんと足を乗せれる上に、『浮遊』の術式が付与されていることで空中でもちゃんとした足場が出来るというわけだ。
剣に乗った俺は下にいる『白鯨』を覗いてみると、未だに視力が戻っていないようで声を出しながら悶えていた。
それを確認した俺は、準備に取り掛かった。あのデカ鯨を仕留めるための準備を。
「【収納呪法・極ノ番】————!!」
俺が言葉を紡ぐと、俺の頭上に白色の彼岸花が現れる。そして、真っすぐ上を向いていたそれがググっと折れていき『白鯨』の方まで向くと、柱頭の部分にどんどんと呪力が集まっていき、呪力による塊が形成されていく。
これは俺の必殺技の一つであり、それは俺が今まで結界内にストックしてきたモノを好きなだけ呪力へと変換することで、高出力の呪力砲を放つというものだ。
流石に視界が潰れていても大量の呪力が集まっていくことに嫌な予感を感じたのか逃げようとする『白鯨』だったが、俺が逃走(それ)を許すはずがない。
『!? プォォォオオオオオオオオオオオオ!?』
「今更、遅いんだよ」
『白鯨』は何か見えない壁に当たったかのように身動きを取ることが出来なくなった。それは俺がここまで昇って来るために使用した無色透明の結界であり、あいつの周りにそれを何十枚と覆うように展開している。俺の術式範囲は半径100mであり、今あいつはその効果範囲内にいることで結界に邪魔されて動くことが出来ないのだ。
たった5秒と言えども、既に準備をほぼ終えた今そのわずかな時間は『白鯨』に必殺技を当てるには充分すぎるものだった。
「喰らいやがれ……!!」
そうして十分に溜められた呪力が今、解き放たれる。
「————【寶花/ほうか】!!」
「————!!!?」
俺がそう言い放ったと同時に、彼岸花の先から極太の呪力のビームが発射された。それは、『白鯨』が声を上げる暇もなくその巨体を飲み込んだのだった。
『オリ主の技・呪具の簡易紹介』
★技
【極ノ番・寶花/ほうか】
~今までに結界へストックしてきたモノを好きなだけ呪力へと変換し、高出力の呪砲を放出する技。雄馬の必殺技の一つ。
★呪具
『翔正刀/しょうせいとう』
~かつて『浮遊』の術式を持つ呪術師が使用していたことで、呪具化した大剣。大きさは雄馬の身長ほどあり、『浮遊』が刻まれているため大きさの割に凄く軽い。また、使用者を浮かせることが出来る。入手の経緯は、雄馬が15歳になった時に誕生日プレゼントととして五条悟から渡された。
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それでは皆さん、さようなら!