OFA7代目継承者 孫悟飯 作:一般DBファン
OFA7代目継承者の孫悟飯
その正体は現在を生きる者達では誰も知ることはない。
太陽が東の空から顔を出し始めたばかりの静寂の中、乾いた踏み込みの音が幾度も響いていた。
「……ワン・フォー・オール、フルカウル……5%……!」
緑谷出久は、手首に装着した『エアフォース』のグローブの感触を確かめながら、パイロンの間を滑らかにすり抜けていく。
空中での姿勢制御、着地の衝撃を逃す身体の使い方、そして瞬時に次の動作へ移るための気の配分――いや、密度のコントロール。
額から落ちた汗のしずくが、アスファルトの上で小さな黒いシミを作る。
本来なら、自身の成長を噛みしめながら納得のいくトレーニングができているはずだった。しかし、今の出久の頭の中を支配しているのは、昨夜見たあのあまりにも鮮明で、あまりにも異質な「夢」の記憶だった。
(あの人は……一体、何だったんだ……?)
目を閉じれば、今でもハッキリと思い出せる。
濃い黒靄に包まれた、あの面影の空間。そこに佇んでいた橙色の道着を纏う男――孫悟飯。
ヒーローとしての煌びやかなコスチュームとは程遠い、使い古された道着。無数の修羅場を潜り抜けてきたことを物語る凄まじい傷痕。そして何より、だらりと垂れ下がった空いた左袖。
傷だらけの肉体から漂っていたのは、世界中のどんなプロヒーローからも感じたことのない、底知れない強さと、どこまでも澄み渡った大木のような静けさだった。
『驚かせてごめんよ。ボクは孫悟飯。君より少し前に、その力を預かっていた者だ。』
(孫悟飯……。僕の知る限り、ヒーローの歴史にそんな名の人物は存在しない。
オールマイトから教えてもらった歴代継承者の中にだって……。それに、あの去り際の言葉……)
『感情が高ぶった時は気をつけなよ。最初に彼が顔を出した時はびっくりするかもしれないけれど……『心』で制御するんだ。』
出久は立ち止まり、右手のひらをじっと見つめた。
ただの夢だ。そう思おうとした。最近、ワン・フォー・オールの面影について深く考えすぎるあまり、脳が都合のいい妄想を作り出しただけなのだと、必死に自分を納得させようとした。
だが――夢にしては、あまりにも「感触」が残りすぎていた。男の瞳に宿っていた、あの哀しくも温かい光。自分に向けられた、まるで大切な後輩を見守るかのような優しい眼差し。
「……緑谷少年?」
突如として頭上から降ってきた声に、出久は跳ねあがるように肩を揺らした。
「ひゃいっ!? あ、オールマイト……!?」
振り返ると、そこにはタオルを首にかけたオールマイト――八木俊典が立っていた。痩せ細った巨躯にダボついたジャージを羽織り、少し心配そうな表情で出久を見つめている。
「す、すみません! ぼーっとしていて……気づきませんでした!」
「いや、構わんが……どうしたんだい? 今朝の君は、いつにも増して集中を欠いているように見える。ステップの軸が少しぶれていたぞ」
「あ……はい……。ちょっと、考えごとをしていて……。」
出久は胸元をギュッと握りしめた。
言うべきか、口を閉ざすべきか。ただの夢として笑い飛ばされるかもしれない。けれど、もし万が一、あの男が本当にワン・フォー・オールの歴史の中に存在していたとしたら――。
「……あの、オールマイト。」
出久は呼吸を整え、意を決してオールマイトの痩せた瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
「ワン・フォー・オールの……過去の継承者について、聞いてもいいですか?」
「歴代の……? ああ、もちろんだが……何か気になることでもあったのかい?」
「……はい。あの、8代目の志村菜奈さんの……ひとつ前。7代目継承者の方について……なんです。」
その言葉が出た瞬間、オールマイトの表情から柔らかさが消え、微かな引き締まりが走った。吐き出す息が白く染まる中、オールマイトは静かに空を見上げた。
「7代目……。私の師である志村師父に、その力を託した人物のことかい。」
「……はい。その方って……一体どんなヒーローだったんですか? ヒーローの歴史や公的なデータベースをどれだけ探しても、7代目に該当するような記録が見当たらなくて……。」
出久の問いかけに、オールマイトは懐かしむような、そしてどこか深く敬虔な眼差しを浮かべながら、ゆっくりと首を振った。
「無理もないよ、緑谷少年。7代目――『孫悟飯』という人物の記録は、公的なヒーローデータベースには一切存在しないんだからね。」
ドクン、と出久の心臓が大きく脈打った。
全身の血が逆流するような衝撃。打ち消そうとしていた記憶が、激しい音を立てて現実に結びついていく。
「じ…じゃあ…本当に……本当に存在するんですか……っ!? 『孫悟飯』というヒーローが……!?」
「ああ。……と言っても、私自身も彼に直接会ったわけではない。師である志村師父から、口伝で聞いた話に過ぎないのだがね。」
オールマイトはゆっくりと足を進め、グラウンドのベンチに腰を下ろした。膝の上に大きな手を置き、過去の記憶を手繰り寄せるように語り始める。
「当時、世の中はオール・フォー・ワンの圧倒的な力と恐怖によって、暗黒の時代を迎えていた。ヒーローという職業の概念すら曖昧で、人々はただ絶望の中で怯えて生きるしかなかった時代だ……。」
出久は呼吸すら忘れて、オールマイトの言葉に耳を傾けた。
「そんな絶望の渦中に、彼は突如として現れたそうだ。所属も、出身も、戸籍すらもない。どんな『個性』を持っているのかすら誰も知らなかった。
橙色の道着を纏い、左腕を失いながらも……その男は、傷だらけの体で人々を救い続けていた」
(橙色の道着……空いた左袖……!)
背筋に冷たい汗が伝う。夢の中で見た姿と、完璧に一致していた。
「師は言っていたよ。『あの人は、私が出会った中で最も強くて、最も優しい人だった』とな。どんなに苛烈な戦いの中でも、あの人は決して諦めず、未来を信じて笑顔を絶やさなかったそうだ。
……彼が志村師父にワン・フォー・オールを繋がなければ、今の私も、そして緑谷少年……君もここにはいなかっただろう。」
オールマイトは力強く拳を握りしめ、力強い眼差しを出久に向けた。
「彼はまさに、歴史の闇に埋もれながらも、平和の礎を築いた本物のヒーローだったのだよ。」
「っ…………。」
出久は立ち尽くしたまま、声が出なかった。
夢などではなかった。あの面影の空間で出会った男は、ワン・フォー・オールの歴史の中で、人知れず平和のために戦い抜いた、本物の7代目継承者だったのだ。
『ボクがいた世界にもね、君と同じような目をしていた少年がいたんだ。』
あの優しくも、どこか哀愁を帯びた声を思い出して、出久の胸が強く締め付けられる。腕を失うほどの苛烈な戦い。歴史に名すら残らない孤独な戦い。それでもなお、あの男は不屈の意志を持って力を繋いだのだ。
「……緑谷少年? 顔色が悪いぞ、本当に大丈夫かい?」
「あ……は、はい! 大丈夫です! ただ……すごく、すごい人だったんだなって……。」
出久は慌てて首を振った。
(面影の空間で悟飯さんに会った)ということまで話すべきか、出久の頭の中で葛藤が渦巻く。しかし、悟飯自身が「ボクの物語は過ぎ去った過去だ」と言っていたことが頭をよぎった。
何より――悟飯が去り際に残したあの謎の警告。
『感情が高ぶった時は気をつけなよ。最初に彼が顔を出した時はびっくりするかもしれないけれど……『心』で制御するんだ。』
(最初に顔を出す……? 彼……? 悟飯さんは、これから僕の身に何かが起きることを知っていた……?)
歴史の事実に驚愕しつつも、出久のオタクとしての冷静な分析思考がぐるぐると回り始める。
だが、どれだけ思考を巡らせても、「最初に顔を出す」という意味だけは解き明かせなかった。
「……よし! オールマイト、僕、もっと頑張ります! 悟飯さんや志村さん……歴代の皆さんが繋いでくれたこの力を、絶対に全うしてみせます!」
「うむ! その意気だ、緑谷少年!」
オールマイトが立ち上がり、豪快に笑いながら出久の背中をポンと叩いた。
「今日はこのあと、B組との合同訓練だろう? 成果を見せてもらうのを楽しみにしているぞ!」
「はいっ!」
力強く答えた出久だったが、胸の奥で渦巻く予感は消えなかった。
寮へと戻る道すがら、出久は何度も自分の右手を見つめ直した。
(悟飯さん……あなたが言っていた『彼』って、一体誰なんですか……?)
これから始まる「A組・B組合同訓練」。
クラスメイトやB組の面々と切磋琢磨するその戦いの最中で、7代目・孫悟飯の警告の本当の意味を知ることになるとは、出久はまだ知る由もなかった――。
えっ、6代目はどうしたかって?
いや、ちゃんといますよ?
ただ原作と違うのは、“継承者の人数”が+1されただけなんですよね。
だから…まぁ、OFAの継承者は10人いるってことを覚えてて欲しいです。