魔法少年ノ記録回帰 作:濃縮還元トレデキム
イイヨ!(裏声)
ありがとう。
「──ごぼっ、おえ」
口から鉄錆び臭い赤い液体がボタボタと流れ落ちる。それどころか、全身に空いた無数の穴からも、栓を緩めた蛇口のように流れ出ている。
けれども、俺自身も無事では済まず、片脚を切り落とされ腹やら胸やらに穴が空いている。誰がどう見てもわかるような致命傷だった。
「……ったく、こういうときに無駄に頑丈だと困るんだよなぁ……」
傍らに転がっている魔法銃をたぐり寄せながら独りごちり、銃口を口の中に向け、つま先を引き金に置いて深く呼吸を挟む。
「──
他人事のようにそう言って、俺は一度、周囲に転がる異形と少女たち……だった肉塊を見てから、最後の1発を撃つべく引き金を足で押し込んだ。
────ドンッ。
──ブツン。
【Load Game】
──目が覚める。そこは薄暗く、ジメッとしていて、天井が低い。
……否、天井が低いのではない。どうやら二段ベッドの上段に寝かされていたようだ。
「……? …………??」
上体を起こして体の影響を確認する。……が、何かがおかしい。
「……
何も、覚えていない。俺には確かに、日本で産まれ日本で育ちこの15年間の日常生活を送ってきた知識や経験、常識の類いはある。
なのに、それを得たきっかけに該当する思い出といったものが何一つ思い出せない。
…………
何も思い出せないのに、なんでいま、俺の思考は『さっきまで』何をしていたか、となったんだ。ベッドに寝ていたんだぞ、普通は『昨日まで』じゃないのか? ……それに、この……胸の奥から湧き起こる異様な感情はなんだ……?
「俺は、何を、
「あ、あのう……」
「ん?」
不意に聞こえてきたその声に、俺の心臓がざわざわと嫌な感覚を覚える。
「だ、大丈夫、ですか?」
声が聞こえた方向──ベッドの下に顔を向ければ、そこには下から上段を見上げている少女が不安そうな顔をして、両手を胸元でもじもじさせながら、困り眉でそう問いかけてきていた。
「……大丈夫、ってのは?」
「いえ、その、ずっと険しい顔で悩んでいたので……どこか痛むのかな、と」
「ああいや、そういうわけではないけど」
「そうですか? よかった……!」
俺が疑念を否定すれば、少女は顔をぱあっと綻ばせて笑みを浮かべ、クリーム色の長髪がふわりと揺れる。その笑みに若干の
「────」
「どう、しました?」
二段ベッドから降りて、少女の顔を見やる。右側に『×』マークの装飾が3つ並んだフードを被った、聖職者のような雰囲気の衣装を身に纏う少女。
俺がじっと見ていることに困ったように微笑む彼女の、いったいなにが『気持ち悪い』というのか。……俺ってこんなに性格悪かったかぁ……?
「いや、気にするな。ところで、ここがどこだか分かったりするか?」
「いえ……私も先ほど目が覚めて、気がついたらここに居たので……」
「そうか。俺もそんな感じ」
「そう、ですか……」
情報量、ゼロ……っ!!
だ〜めだこりゃ、と匙を投げようとした時、部屋の外──というより、隣の別の部屋の方からも、少女たちの悲鳴に近い驚きの声が上がってくる。
どうやら俺たち以外にも、何人もの人物が牢屋みたいな部屋に押し込められているようだった。
「わ、私たち以外にも、誰か居るみたいですね」
「んだな。まあアレだけ騒げているなら、怪我人が居るわけではなさそうだ」
などと会話していると、不意に部屋の壁の上部分に設置されているモニターがパッと点いたかと思えば、画面の向こうには奇妙な生物が映る。それは頭に頭巾を被せた、フクロウのような化け物だった。
【もしもし……映像、見えてます? なんせ古くて故障が多いので……】
「デスゲームで言うところの黒幕の口パク担当みたいなマスコットが出てきたな」
「────」
俺の例えがピンとこなかったのか、
【私、ゴクチョーと申します。詳しい説明をしますので、皆さんラウンジに集まってください。監房の鍵を開けますので、看守の後についてきてください。……ちなみに抵抗とかは自由ですが、まあ、命とかなくなっちゃうので……はい……】
フクロウもといゴクチョーは、言うだけ言ってモニターから消える。画面が真っ暗になった直後、通路の奥から重いものを引きずるような音と共に、その音を発する存在が現れた。
「ひっ……!」
「おお」
その異形に驚いた少女が思わず俺の腕にしがみつき、俺もまたその行動に驚く。
でかっ……いや、柔ら……じゃなくて。
その異形は、拗らせた子供が露悪的な発想のもと作り上げたてるてる坊主を人間大にしたような、凶悪な見た目をしていた。
2〜3メートルはある巨躯で、顔には仮面をつけている。流石の俺でも、こいつが人間ではない、ということだけは直感的に理解することができた。
──と、そいつが別の部屋に向かうと、別の部屋から新しい悲鳴が響く。内容から察するに、この異形……看守に無理やり連れて行かれているらしい。
「扉は……開くな。んじゃ俺たちも行くか、アレにとっ捕まって連れて行かれるのは嫌だし」
「は、はいぃ」
俺が少女を連れて部屋を出ると、出たタイミングで分かったのだが、俺たちは牢屋の一番奥に入れられていたようだ。扉を出て右側が壁で、左に通路が続き、等間隔に扉が設置されている。
「──待ってよヒロちゃん!」
直後、そんな声が通路に響く。思わずそちらを見れば、別の部屋から出てきた黒髪の少女の後を追って出てきた白髪の少女の声だったみたいで、俺たち以外の
…………。ん???
あれ、いや、んん???
「この状況、何か、変……!?」
「変じゃないところがないくらいには変ですよぉ」
「それはそうなんですが……」
俺にしがみついたままの少女の正論につい敬語で返しつつ、さっきの少女に目を向ける。黒髪の方と知り合いなのか、白髪の方が先に行ってしまった黒髪に小走りで追いかけていく。
「〜〜〜〜、〜〜〜」
白髪の方が健気にも何かを話しているが、黒髪の方は鬱陶しそうに聞き流す。
「〜〜〜! 〜〜〜!」
「……っ!!」
「あーあ」
「あっ……!」
すると、ついには白髪の方の言葉がなにか黒髪の方の逆鱗に触れたのか、黒髪の方が突き飛ばしてしまう。続けて床に転んだ白髪の方に、力強く呟く。
「……私が君を嫌いな事は変わらない。この先も、永遠に……!」
「ま、待ってよ……!」
それでもめげずに、白髪の方は黒髪の方を追うように通路の奥へと歩いていく。……関係性はいまいちわからないが、なんというか、なぁ〜〜〜。
……なんか、ちょっと、黒髪の方が白髪の方を毛嫌いしている理由はわかるような気がする。
「ま、俺には関係ないか」
「大丈夫でしょうか、あの2人……」
「まぁあれぐらい普通普通。流石にグーが出るようなら止めに入ったけど」
「突き飛ばすのもダメですよぉ」
「なんか知り合いっぽかったし、あいつらなりの事情があるんだろ。たぶん」
「……かも、しれませんが……」
一番端の部屋ゆえに最後尾を歩いている俺は、一旦会話が途切れてからそういえばと思い至る。
「すっかり忘れてたけど、俺たちお互いの名前すら知らない状態だったな」
「あっ、そ、そうでしたね……!」
「悪い悪い。俺は
「私は
互いに名前を教え合い、俺は笑みを浮かべる少女──メルルに対して小さく口角を緩めて返す。自己紹介も終えて、牢屋のあった所から階段を上がっていくと、そこは古い洋館の中だったようで、やたらと広い玄関ホールに上がってきていた。
さっきまで居たところを地下として、ここは地上1階か。近くには2階に続く階段もあり、その長さからしてもここが縦にも横にも大きいのだろうということは察するに余りある。
「っと、そっちか」
先頭の看守が入っていく部屋に、俺たち全員も入っていけば、そこが目的地の……ラウンジ? なのだろう。地下の薄ら寒い雰囲気とは真逆に暖炉などもあるが、鼻に引っ掛かるような僅かな
古い絨毯、ソファにテーブル。牢屋とどちらがマシかと問われれば、ギリギリで牢屋が勝つかもしれない。その程度には、とても嫌な空気だ。
「…………。簡単には逃げられなさそうだな」
それとなく逃走経路を確認しようと振り向くと、俺とメルルが最後に入ったのを確認したのか、看守が動いて出入口の部分を陣取り塞ぐ。
改めて室内をぐるりと見回せば、集められたのは俺を含めて14人。多種多様のカラフルな少女たちを見ていると、なんだか目がチカチカしてくるな。
ついでに言えば、逆に俺も何人かからちらちらと訝しむように見られている。いまだにメルルが腕に引っ付いているからか、はたまた。
まあ俺の方も、少しばかり危険視している奴は居る。例えば、さっきの白髪。例えば、背中に銃を背負ってる全身黒色の少女。
あとは……テンション高く現状を楽しんでいる、探偵風の水色髪の少女とか。
「いやぁ、騒がしいね」
「で、です、ね……」
不謹慎にも楽しげな水色髪に噛みつく、金髪をツインテールにしたお嬢様風の少女を眺めながら、遠巻きに一歩離れている俺たちは、その喧騒にあえて一歩踏み込む背の高い少女を視界に収める。
「──どうかな、皆まだ初対面だろう? よかったら、自己紹介をしていかないか?」
腰にレイピアを提げている少女は、どことなく演技ぶった振る舞いで注目を集める。
「私の名前は
「……ふん。
「はいはーい! 私は
「そ、そうかい。……次に行こうか、君の名前を教えてくれないか?」
「っ!」
テンションの高い水色髪──シェリーの言葉にレイアもハンナも渋い顔を見せ、それから話題を切り替えるように先ほどの白髪の番が来る。
「ボ、ボクは
「……!」
「お?」
白髪──エマの自己紹介の直後に、メルルが何かに気づいたように彼女の元へと駆けていく。
「わっ、わわ、私は、氷上メルル、です。それで、エマさん、あの……」
「えーと、なんだろう?」
「あっ、足、怪我、しちゃってます」
メルルが指摘して、ようやく気づいたとばかりにエマは膝に出来た擦り傷を見る。そういえば、さっき突き飛ばされてたな。俺もあんまり気にしてなかった所に、メルルは目敏く気づいていたのか。
「へ? あ、ああ……これぐらい平気だよ」
「そんな、ダメですよ……!」
そう言ってしゃがみ込んだメルルは、おもむろにエマの膝に手を伸ばす。
──瞬間、メルルの指先に光が集まり、膝に出来た擦り傷が瞬く間に塞がった。
「痛く、ありませんか?」
「え、ああ、うん、ありがとう……」
光が収まれば、最初から怪我なんて無かったかのようにシミひとつ無い膝が現れ、その場で互いを測るように観察していた少女たちの視線は、未知の現象を体験したエマと引き起こしたメルルに向かう。
メルルは視線から逃れるように元の位置──俺の近くに戻ると、腕を指でつまみながら背中に隠れた。あの、盾にしないでくれない……??
「はいこっちねー」
「あぅぅ」
それとなく首根っこを掴んで横に立たせながら自己紹介を聞いていけば、このカラフル集団の名前が明らかになっていく。
配信者をしているらしい
人数多いなぁ〜とか、両親は何を考えて娘に『アンアン』なんて名前をつけたんだろう、とか考えていると、その場のほぼ全員の視線が俺に集まる。
「おん?」
「最後に残ったのが君……なのだけど、名前を聞いてもいいかな」
「あらそう。俺は竜胆リンネ。まあ、聞きたいことが山程あるのは分かってるけど、どうせそろそろ
「……そう、だね」
俺がその場の全員に言い聞かせるように先手を打つと、ひとまず納得したのかこちらに向けられる意識が散り散りになる。
それからほんの一瞬、一瞬だけ、レイアが俺に鋭い眼光を向けてきた……ような気がした。
「???」
なんのこっちゃと疑問符を浮かべたすぐあとに、ふと天井付近の通気口から、モニター越しに見た例のフクロウが飛んできてテーブルに着地した。
【改めまして……この屋敷の管理を任されている、かわいいフクロウ……ゴクチョーと申します】
「思ったよりちっさいな」
【……定時があるので手短に説明しますね】
俺の呟きを聞いてか聞かずか、ゴクチョーは淡々と説明を続ける。
【すごく申し上げにくいんですが……皆さんは、【魔女】になる【因子】を持っています。エラい人が決めた話では、魔女とはこの国にとって災厄をもたらす悪らしいです。わが国の法に基づいた検査によって、皆さんはその因子が大きく検出された存在】
「…………。ん〜〜〜???」
ゴクチョーが言うには、俺たちは魔女になる因子が強い存在。ゆえに俺たちをこの洋館……牢屋敷に収容することにした、らしいのだが。
【皆さんにはこの春から、囚人として生活してもらいます。救済はなくもないのですが。【大魔女】さえ見つかれば皆さんの
「あの〜〜〜、ちょっと? ゴクチョー? 意義あります、意義。意義あり」
【……なんですか? あなたは確か……竜胆リンネさん、でしたっけ】
そこまで言ったゴクチョーに、俺がメルルから離れて手を上げながら前に出ると、面倒くさそうに──ため息をつきやがったこの野郎……!
「お前らは、魔女になる可能性が高いやつらを集めたんだよな?」
【そうですね】
「【魔女】って漢字でなんて書くかわかるよな?」
【それは勿論。魔法の【魔】に【女】、ですよ】
「そうだな。それを踏まえたうえで、現状の唯一のおかしい点を挙げるぞ」
【あなた方からすればおかしい点は3つや4つでは済まなそうですが、まあいいでしょう。いったい何を聞きたいんですか?】
ゴクチョーはやれやれと言わんばかりに、まるで厄介なクレーマーでも相手にするかのような態度で、ふてぶてしい顔を向けてくる。
「俺、男なんですけど……!?」
【ですね。ですから、こちらも困ってるんですよ。あなたのせいで、男性の中にも魔女化しうる者が居るかもしれないという前提が生まれてしまったんですから。どうしてくれるんですか】
「俺が悪いみたいに言うのやめてくれない???」
逆ギレされちゃっ、たぁ!?
「俺は…………女だった……?」
【自信持ちましょうよ、あなたは男です。なんせここに連れてきて着替えさせるときに見てますから。ちゃんと棒がぶら下がってましたよ】
「おい、言葉を慎めよ……!」
ちらりと後ろを見れば、ゴクチョーの言う『棒』がナニを指し示しているかを理解している連中が顔を赤くし、分かっていない連中が首を傾げている。これに関して俺は悪くないだろ……!!
【あなたがトンチンカンなことを言うからでしょう。やれやれ、男の中にも魔女候補が居る場合については今後の課題ですね。そういうわけなのでサンプルがてら彼女たちと生活してください。もちろんここでのルールはあなたにも適用されますよ】
「あのさ、俺だけアウェー過ぎない??」
【人生とは得てしてそういうものでしょう。ああそれと、先ほどから居るそちらの看守、アレはかつて、収容されていた者が魔女になってしまった……言うなれば【なれはて】です】
と、ゴクチョーは話を戻すかのように俺たちの意識を極悪てるてる坊主──看守に向けさせる。手? なのだろう部位で大鎌を握るそれは、ゴクチョーの言うことを信じるなら我々の先輩だそうだ。
これ以上の問題は無駄だろう。俺も仕方なく、さっきまで居た位置に戻ってメルルの横に並ぶ。
【魔女は通常なら処刑するんですが、与しやすいようならマインドコントロールしちゃいます。逆らった相手を殺すように洗脳しているので、なのでまあ〜、逆らったら死んでください】
あっけらかんと言い放つゴクチョーに、全員が黙り込む。突拍子もない話に、魔女の成れの果て。情報量の濁流に襲われて困惑するなかで、それでもなおゴクチョーたちの方へと一歩進む少女が居た。
そう、我らが二階堂ヒロである。
「間違いです。私は悪ではない。この国に災厄をもたらす危険因子は、この子の方だ」
凛とした佇まいと声色。更にはその中に強烈な敵意や殺意を練り混ぜた視線と指先が、言葉と共にビシッとエマに向けられる。
「っ……!」
か、可哀想ぉ〜〜……。この子ちょっと、ヒロから嫌われすぎじゃない……?
「エマさん……」
「えへへ、へーきへーき」
立ち位置的に近くに居たメルルが俺から離れてエマの方に近づき、心配そうに腕に触れれば、エマもヒロの感情に慣れたように軽く「平気」と返す。
…………。エマはエマであんまりへこたれてないし、意外とメンタル硬くてビックリだ。
【はぁ〜〜〜、まったくリンネさんの件といい、厄介なことばかりですねぇ。あなたたちは魔女因子を持つ災厄、悪者なんです。まずそこを受け入れてください。そのうえで平和に楽しくここで余生を過ごせばいいじゃないですか。違いますか?】
「間違っている。私は悪じゃない」
こいつも人の話聞かねえなぁ〜……あまりにも直線番長がすぎる。
「この世界を正すことが出来るのは私だけだ」
一歩一歩、迷いなく歩くヒロが、そう言いながらズンズンと、ある方向へと向かって行く。
「私はこの世の悪を排す。まずは──」
そこで言葉を区切ったヒロは、暖炉脇に置かれていた火かき棒を手に取ると──
「貴様だ、化け物──ッ!」
その言葉を吐きながら、エマの方へと力強く駆け出す。反射的にエマを庇うように抱きしめるメルルを見て、俺も一歩前に出るが……これ、違うな。
軌道的に考えると、狙いはエマ──俺たちの、後ろ。出入口方面。すなわちそこにいる看守だ。
……やりたいことは、察する。結末も、察する。察するが、こればかりはどうしようもない。
止めたとして、おそらくはその場しのぎにしかならない。近い内に、どうせまた、激情に駆られてこんな風に暴走するに決まっている。
残念だが、
──だから、道を空けるように、エマとメルルを引っ張って横へと退いた。
「悪は死ね! 死ね! 死ね!! 死ねッ!!」
上段からの振り下ろし。全力で繰り出されるそれが、看守の体を潰していく。返り血が跳ね、ヒロの赤と黒の衣服や髪を更に赤黒く濡らしていく。
ヒロ以外の全員が動けない現状、彼女は何度も何度も何度も火かき棒を振り下ろす。普通の生物であれば間違いなく既に死んでいる猛攻。──けれども、看守は。なれはては。普通の生物ではない。
「────。あーあ」
凄まじい力と素早さでもって、看守が反撃で振り抜いた鎌が一閃。まるで安い人形の頭パーツを取り外すかのような気軽さで、ポロッ、と。果たしてヒロの頭が、床に落ちて転がった。
「え、ひ、ヒロちゃん……?」
【あ〜あ。死んじゃいましたね。掃除しないと。……ああでも、魔女はこんなことじゃ死なないので、逆説的に彼女は魔女ではなかったと証明されましたね。やれやれ、良かったですね】
テンションが俺に近いゴクチョーに若干の親近感と苛立ちを覚えつつ、なるほどと合点も行く。
まさに、魔女裁判か。死ねば魔女ではない、死ななければ魔女である。
そうして疑いを掛けられた者がかつて、無実の疑いで火炙りにされてきたわけだが、これからこの牢屋敷では、俺たちが『それ』をやるわけだ。
ヒロの死体を目の当たりにした少女の悲鳴、驚愕、足元に転がったヒロの生首に手を伸ばし、涙ぐむエマ。そういったモノを横目に、俺は続くゴクチョーの言葉に意識と耳を向ける。
【ああそうそう、何度もすみませんね。大事なことを伝えておきます。魔女になりつつある者は、抑えきれない殺意や妄想に憑かれてしまいます。近い内に、囚人
「殺人事件!?」
ゴクチョーが言えば、現状ではヒロに並ぶ危険人物Tier1と思われるシェリーが目を輝かせる。
【そうなんですよ、毎度のことながら面倒です。さすがに皆さんも、そんな危険人物とは一緒に生活できないでしょう。というわけで、殺人事件が起こり次第、【魔女裁判】を開廷します。勿論、犯人すなわち魔女が判明した場合は……処刑しますので】
言うべきことを言い終えたからか、ゴクチョーは飛び立って、出てきた通気口に入っていく。残ったのは、俺と、看守と、12人の少女と、1つの死体。
……それにしても、これで正しかったのか? という疑問だけが胸に残る。
当然、ヒロが死んだのは自業自得だ。けれども、例えば俺なんかが死に物狂いで止めていれば、死ぬことはなかったかもしれない。
しかしそうなれば、邪魔をした俺すらも悪と見なされたか、看守の攻撃に巻き込まれたか、そのどちらかになっていただろう。
あれで正しかったはずだ。俺の判断は間違いではない。そう脳裏で独りごちれば、思わず苦笑がこぼれる。まるでつい先ほどまで動いていた正義ガールと同じようなことを言っているな。
「……俺は単なる、我が身可愛さで少女を見殺しにしたクズってだけだな」
あれこれ理屈を立てようと、結局のところはただそれだけ。それを理解すれば、チクリと胸に刺さる嫌な感覚。『こいつはダメだな』と見限って見捨てて見殺しにした少女の生首が転がっている事実。
ならばせめて、これ以上の犠牲者は出さないようにしよう。出来るかどうかもわからない決意を胸に、俺はそっと、光の無いヒロの瞳から顔を逸らした。
お気に入りと感想と高評価ください。
竜胆リンネ
・自身の魔法によって初日〜1章最終裁判後辺りまでを何度も繰り返している。
魔法の反動で記憶に蓋をされてしまうため、繰り返す度に牢屋敷生活初見プレイを強制されている。一度でも死亡すれば魔法が発動するためある程度の記憶は戻るが、リンネが早い段階で死ぬことは滅多に無い。
ヒロの死にあまり動揺していないのは、意識の奥底に『何度も初日を繰り返し、ヒロを助けられなかった』という事実が蓄積しているため。
【記録回帰】
・自身の記憶を『記録』として扱い、死亡時に現時点の能力で戻れる地点までの『記録』に意識を飛ばす魔法。発動後、意識を飛ばした地点以降の『記録』は世界線ごと消滅する。
簡単に言えば、セーブデータをロードした瞬間にそのデータ移行の記録が削除されるようなもの。
ただし、『記録』同士の距離が離れすぎていると、膨大な記憶が流れ込む負荷から自分を守るために、無意識に記憶に蓋をしてしまう。
二階堂ヒロ
・牢屋敷の狂犬その1。原作でも本作でも1話で看守に襲い掛かり反撃で死亡する。『これまでのリンネ』が見てきた限りでも、ヒロが死ななかった世界線は現時点では観測されていない。