こっちは……めっちゃ頑張って10月中に完結させられたらいいなあと思ってます。
(※次回更新時にこの前書きは消滅します。あまり時事ネタを残しておきたくないので)
変な竜胆リンネ「
辛辣魔女殺しの魔法【しね】
「──愛、愛ねぇ。『生物がより効率的に
「それが
「ンじゃダメだな。こりゃただの一般論だ」
湯気が立つシャワールームの中。その一角に置かれた
愛……愛ってなんだ。
「改めて愛とは? と問われると答えに困るな。大多数が漠然と『こんなもん』と捉えている感情や概念を言語化しようとするとこうも難解なのか」
別に俺は学者でもなんでもない。無駄にループを重ねて精神年齢だけが膨れ上がっているだけの人間に、こんな小難しい話を振らないでほしい。
とか考えていると、マーゴが体育座りのように曲げた膝に腕を乗せ、その上に頭を置いてリラックスした姿勢で言う。
「『愛』。慈しみ、親愛、友愛、恋愛。或いは……誰かが誰かから無償で与えられる、アガペー」
「一つの単語に意味を持たせすぎだろ、って感じだな。積載過多じゃんこんなの」
「言葉ってそういうものよぉ?」
「バベルの塔が残ってさえいればこんなことにはならなかったってのに」
などとぼやきつつ。俺はそもそもの、マーゴにとっての『愛』とやらを。──もう既に聞いたことのある話を、今回のマーゴからは初めて口にしてもらう。
「そういうマーゴこそ、こんな問いかけをしてくるからには何か明確な答えの一つや二つは持ち合わせてるんだろうな。参考がてら聞かせてくれよ」
「ええ、いいわよ」
マーゴは、俺の問いに妖艶に目尻を細めると、そう言って妖しく笑みを浮かべる。
「──『愛』っていうのはね、とっても……痛くて、苦しくて、辛いものなのよ」
「さっき言ってたどれに該当するんだよその3つは」
「あえて言うなら、無償の愛かしら」
なんて嫌なアガペーなんだ…………
と、ふざけている場合ではない。これこそがマーゴの抱えるトラウマ、あるいはアイデンティティ。
こいつは──他者から痛めつけられ、苦しめられ、辛い思いをすることこそが『愛』だと思っている。
……まあ、厳密には少し違うのだが。
「それは要するに、マゾヒストに対するサディストみたいなもんってことでいいのか?」
「少なくとも私は自分をサディストだとは思ってないわよ。もちろんマゾヒストでもないわ」
「どちらでもないのに、相手につらい思いをさせることが愛なのか? そいつはえらく不健全だな」
「────。私の愛が間違ってると言いたいの?」
マーゴの濁った瞳が俺を捉える。このまま発言を間違えたらこの場で殺される可能性は非常に高いが、良くも悪くも今は裸の付き合いをしているわけで。
本当の意味で『お互い隠し事をせず、腹を割って本音で語らおう』という状況を作れているのだ。ここを逃すと……流石にあとに響くか。
「まさか。人を痛めつけることが好きで、それを愛と呼んでいるヤツは居るし、人に痛めつけられることが好きで、それを愛と呼んでいるヤツも居る。その趣味嗜好を否定する権利は俺には無いさ。でもな」
俺はそこで一度区切り、マーゴを見て続ける。
「お前が本当にその『愛』を好き好んでいるなら、俺は否定しない。でも、もしそうではないのなら、そういう愛の形があることは間違っていなくとも、マーゴの価値観による『愛』は、正しくもない」
「……それは、……違う、私のこの『愛』は、本当の愛なのよ。だって────、だったら──」
マーゴは俺の言葉に、目を丸くして驚き、口角をひくつかせて、動揺する。昔のことを思い出すように視線が右往左往し──汗か涙かわからない水気が頬を伝って落ちていく。
そうして、マーゴは、今にも泣き出しそうに表情を歪めた顔で問いかける。
「──だったら、私がされてきたアレが『愛』じゃなかったら、何だったっていうの……?」
「痛めつけられて、苦しい思いをしたのなら、それが辛かったというのなら。それは世間一般で言うところの『暴行』、あるいは『虐待』だ」
俺がはっきりと断言すれば、マーゴは呼吸を荒らげて両腕で自身を掻き抱く。
「────。ち、が」
「マーゴ」
「っ!!」
「
「…………なん、で」
俺の知っている世界のマーゴの事情を、俺に話したことがない世界のマーゴが言い当てられて驚愕している。……そう、俺はちゃんと知っている。なぜこんな価値観を抱いているのか、どうして本当の『愛』だのその正しさだのに固執しているのかも。
──マーゴは家庭内暴力を散々受けてきた少女だ。それも、シングルマザーの母親が外から連れてくる男に暴力を振るわれていたらしい。
母親の方は娘を守るどころか、男が自分よりも若くて可愛らしいマーゴに暴力を振るい、暴言を吐き、痛めつけていることに嫉妬して、最終的には家を出ていった。いわゆる育児放棄というやつだろう。
だからマーゴは思い込むことにした。『あれらの行為こそが愛なのだ』と、そう考えて、だから仕方がないと逃避した。『愛』ゆえの行為なのだからと。
俺のような外野が『その『愛』は間違っている』とただ否定することは、マーゴの生き方そのものを否定しているに等しい。だからこそ──彼女はこれまでの世界で、殺人を犯し処刑される間際、結果的に俺たちから『愛』を否定されることで叫ぶのだ。
「──
俺は俯いて顔を隠すマーゴの頬に差し込むように手を伸ばして、ビクリと肩を跳ねさせる彼女を怯えさせないようにしながら優しく伝える。
「っ!」
「マーゴ。愛ってやつは、痛くて苦しくて辛いものが全てじゃないんだよ。──誰かの笑顔を見たり、傍に居ることは愛だ。誰かと触れ合って、熱を感じることも愛だ。一緒に同じ季節を巡り、2度とは同じ時間が訪れない事を感じることもまた愛だ」
指で頬を撫で、軽く耳に触れる。マーゴが手に顔を寄せて、俺の言葉を、ただ聞いている。
「確かに痛めつけることや痛めつけられることも1つの愛だ。でもな、お前が嫌だと思ってきた『愛』でなければ生きてはいけない理由だって無いんだよ」
「…………リンネ、くん」
「マーゴ、いつかでいい。いつか、まずは、自分のことを愛せるようになれ。これまでの『愛』こそが正しいと思っていた自分も愛せるようになれ」
「……そんなこと、出来るかなんてわからない」
「でも、出来るようにならなきゃ。お前はいつか、誰かを愛する側になる日が来るんだぞ?」
「それこそ、無理よ」
俯いたままのマーゴはポツポツと言う。
「よく言うでしょう、虐待されて育った子供は親と同じように、いつか自分の子供に親と同じことをし始めるって。私はきっとその典型。あなたの言うような『いつか』が来たら、私は相手のことを『
それは明確な変化に対する拒絶の言葉。マーゴのその態度は、自身が変わることを恐れた幼子のモノだ。……今のマーゴに必要なのは、きっと理屈で説き伏せるのではなく感情に訴えかけること。
「……マーゴは、赤子を抱いたことはあるか?」
「……あるわけないじゃない」
「不思議なモンだぜ? 抱っこするとな、
「────」
「あの時に湧き起こる感情もまた、愛ってやつなんだろうな。……お前の母親も、最初はただ純粋にお前を愛していた筈だったんだよ。ただ少し……間違えてしまっただけ。そしてお前は、その間違いを失敗として学ぶことができる貴重な経験をしたわけだ」
俺が茶化すように言えば、マーゴもまた、小さく笑って言葉を返す。
「……なによ、それ。『何事も考えようだ』、って言いたいのかしら?」
「んー、ん〜〜。どうだろ。……ダメだな、自分でも何言ってんのかわからなくなってきた。……ところでそろそろ顔上げたら?」
「…………。ダメ」
なんで???
「『ダメ』って何が?」
「……ダメなのよ。……ああ、勢いで行動するものじゃないわね、メイクが落ちてきちゃってて、
マーゴはそう言って顔を上げたがらない。顔を曲げた膝にうずめて、体に巻いたバスタオルに顔が当たって白いタオルの色が変わっている。
──彼女の言うメイクが落ちたから顔を見せたくないというのは、当然ながらすっぴんを見られるのがイヤという話なのだが……まあ、俺は見せたくない厳密な理由を知っているので……
「マーゴ、見せて」
「や」
「マーゴ。……大丈夫、わかってるから」
「……、…………っ、イヤよ、だって……こんなの、汚くて、醜い……から」
などと言いながらも、マーゴは俺が頬に当てた手に力を少し入れて顔を上げさせると、少しずつその表情が見えてくる。
湯気やバスタブのお湯で落ちたメイク。その顔の向こうにあるのは────素肌にうっすらと残る痣。散々殴られて来た証の、古傷とも言える痕跡。
口の端や目元にある、よく見なければ見えない、けれども確かに呪いのように刻まれた痣。
それの確認をしている俺を、マーゴは顔を逸らして怯えながらも視線だけで確認してくる。恐怖に震え、相手の機嫌を損ねないように体を丸める動きは、まるで人間を怖がる捨て犬のようだった。
「…………。ま、俺は気にしないけど、あいつらはビックリするだろうから隠した方がいいかもな」
「ぇ」
「ん? なに?」
俺が指で痣のある部分を軽く撫でてから手を離すと、マーゴはポカンとした顔で驚いている。
メイクの落ちたその顔は、妖艶な雰囲気と話術で生活費を稼いでいた
痣がある? で、それがなんだというのだ。
「……それ、だけ?」
「他になんて言ったらいいんだよ」
「…………」
「俺からしたら本心だけどさ、お前からしたら嘘っぽいだろ。『それでも綺麗だよ』なんて言ったって」
「まあ、そう、ね」
マーゴは、そんな会話を経て、どこかホッとしたような、肩透かしされて荷が下りたような。
そんな風にぐったりと力が抜けて、バスタブに背中をもたれ掛からせた。
「……なんだか、ものすごい、拍子抜けね」
「その割には、スッキリしたような表情だな」
「誰かさんのおかげで、色々と解決しちゃったのよ」
「なるほど。なら、今度その誰かさんにお礼を言ってやるといい」
「……ふふ」
おどける俺に、マーゴは目尻を細めて。
「私、あなたにお礼を言ってばかりね。──ありがとう、リンネくん」
「あれ? 誰かさんって俺のことだったんだ。どういたしまして」
「……もう、バカね」
──そう言って、照れくさそうに笑っていた。
「っだぁあ〜〜〜疲れた〜〜」
「……あれ? リンネくん、お風呂に入ってたのになんでそんなに疲れてるの?」
「爆弾を1つ解体してたんだよ」
まだ湯船に浸かりたいらしいマーゴを残して、俺は1人でシャワールームを出る。
体を洗って湯船にも浸かった筈なのに、どういうわけか疲れが取れていない。おのれマーゴめ……
──まあ結局のところ、こういう説得をしたのは今回が初めてではない。
つまり答えを知っていたのだ。……が、答えを知っているというのは、ただその答えだけを出せばいいというわけではない。
1+1の答えが2だと知っているからといって、聞かれる前に『答えは2です!』と言えばどうなるか? さぞかし気味悪がられるだろうさ。
……それに、既に別世界線で答えに辿り着いたことがあるというのは、今この世界線にいるあいつらに本気で向き合わない理由にするべきではないのだ。
などと脳裏で文句を垂らしていると、ラウンジでミリアと遭遇した。
「へえ、なんかそういうゲームあったよね。『田中爆発』だっけ、おじさんはやったことないけどあるんだよ。変な爆弾ばかり解体させられるゲームが」
「そんなのあるんだ……??」
ミリアは疲れた顔をしている俺にそう言いながら、傍らに寄りかかる少女──ノアを気にかけている。
「んぅ……」
「ノアちゃ〜ん、おねむかな〜。そろそろお部屋に帰らないと怒られちゃうよ〜?」
「ん〜〜。ぁ、りっくんだ、抱っこしてぇ」
「えぇ〜〜? いいけど」
「いいんだ……」
さも嫌々ながら、な空気感を出しつつも即答。ソファでミリアの横に座って船を漕いでいるノアを抱き上げて、俺は3人で地下に向かう。
「まあ時間は30分くらい残ってるけど、油断してると危ないしなぁ」
「そうなんだよねぇ、おじさんもちょっとだけスマホ弄ろうと思ってたら物凄い時間が過ぎてることがあって参っちゃうよ」
「時間の進みは意識しているかどうかで早さが変わるってやつだな」
階段を降りていき、地下牢の通路に出る。マーゴは……まぁ、あとで来るだろ。俺の入浴時間に乱入してきたことがバレたら、教育ママもといヒロに説教されるのが目に見えてるし。
「それじゃあまた明日ね、リンネくん、ノアちゃん」
「おう。お休み」
「ぉゃすみぃ」
自分の部屋に戻るミリアを見送って、俺は部屋に入ってからノアを下ろす。
「ノアもお休み、腹出して寝るなよ」
「ぁ〜い」
目元を指で擦りながら片手を振るノアを尻目に部屋から出て、俺も自室に戻ろうとすれば、ふと視線。
「ん? ……うおっ」
「…………おい」
下を見ると、そこにはぶかぶかの袖に包まれた手にスケッチブックとペンを持つ少女──アンアンが立っていた。邪魔だったか? と思い横に退くと、彼女はムスッとしながら俺を見上げている。
「なんだ?」
「……貴様、なぜノアばかりを甘やかす」
「甘や、か〜〜……したくなる愛嬌があるから?」
「ならばなぜわがはいも甘やかさない。わがはいだってノアと同じ背丈、似たような髪色。愛嬌もある」
「無いよ??」
「は????」
思わず即答してしまい、額に青筋を浮かべるアンアンに対して失言を誤魔化すように咳払い。
「ゲフンゲフン。……まあ確かに、あいつばかりでお前を蔑ろにしているような気はしている」
「……! ふふん、そうだろう。ならばリンネ」
「おん?」
「明日からは【わがはいのことも甘やかせ】!」
アンアンが不意に向けてきた魔法。
まるで脳に染み込むように、キ──ンという異音と共に言葉が染み込んでくる。
──【洗脳】、それがアンアンの魔法。彼女の言葉に納得した場合、言うことを聞かせることができるというモノ。ただし、明確な弱点は2つある。
1つは、軽度のモノなため何でもかんでも指示できるわけではないこと。そして2つ目は────
「明日からはわがはいにもノアのような待遇を要求する。わかったか?」
「────。イヤで〜〜す! ベロベロベロベロ!」
「な゛……っ!?!?」
──納得していないなら、【洗脳】に従う必要が無いこと。俺は、こいつの発言に、納得していない!
「というわけだ、さらばだワルガキ!」
「な、なぜわがはいの【洗脳】が効いていない!? というか気持ち悪い動きで逃げるな!?」
そんなわけで、魔法に掛からないことに驚くアンアンを残して、俺は部屋へと逃げ帰るのだった。
確かに急ぎすぎて非常口みたいなポーズを崩さずに走ったけど「気持ち悪い」とは心外だな、ただちょっと……片足立ちのままでも摺り足でスライド移動できるだけなのに……!
お気に入りと感想と高評価ください。
宝生マーゴ
・母親連れの男から向けられる暴力などから逃れるために、他人への加害行為こそが『
痛く苦しく辛い行為を行うことが『愛』であり、誰かから愛されたからにはその誰かを『愛』さないといけない、というトラウマ由来の行動を牢屋敷内で実行した結果、原作では2章1話で【なれはて】に斬られた自分を甲斐甲斐しく看護していたメルルの行為を愛と認識し、彼女のことを『愛』ゆえに殺害した。
竜胆リンネ
・他囚人のトラウマやアイデンティティ、コンプレックス等に否定的な態度を取ったことで、当然のようにその後殺害された回数は数え切れないほどある。
だいたいはマーゴやレイアに刺されるかアリサに燃やされるかシェリーに殴られるかのどれからしい。
夏目アンアン
・軽度の【洗脳】魔法の持ち主。相手が自分の言葉に納得していれば言うことを聞かせられるが、なぜかリンネに向けた【洗脳】がまったく効かなかったあげく、舌を上下にベロベロしながら『バーカ!(AA)』のポーズで煽られてから某サボテン型モンスターのようなポーズで逃げられた。