別に髪が白っぽくて幼児体型だったら誰でもいいわけではないです。
でも村verこと変な竜胆リンネは当時の変な大魔女姉貴が好きでしたよ。まあお互いに想いを伝え合う前に村が壊滅したんですけどねワハハ。
『〜〜〜♪ 〜〜♪』
『なんだその歌』
『……島で子供を寝かしつけるときによく使われていた子守唄です』
『へえ。……お前って生まれたときからその見た目だったわけじゃないんだな』
『さあ、どうでしょう。案外、私にもあったのかもしれませんよ。誰かの腹から産まれ、赤子からこの姿へと成長していった時間が』
『赤子の頃のお前はさぞかし可愛かったろうに』
『今は?????』
『まあそれはさておき』
『ちょっと? リンネ?? 今は……???』
『その子守唄、なんか聞き覚えあると思ったら、うちの村の子守唄と似てるんだな』
『…………。おや、そうだったんですか。ちなみにどのような歌なんですか?』
『えーと、確かこんな感じ────』
「──むむぅん」
「な、何をしてるんだいアンアンちゃん」
「ミリアか。……『ヤツを監視している』」
朝早くから通路の角で顔を覗かせるアンアンを見て、後ろから声をかけるミリアに、彼女はスケッチブックに書いた文字を見せる。
「リンネくんのこと? 監視って不穏だなあ」
「『ヤツは怪しい、なぜならヤツだけが男だからだ。どうせ敵に違いない』」
「そのロジックはちょっと……穴が多いかなあ。……あ、見てアンアンちゃん」
「む」
ミリアが一緒に通路の角から顔を覗かせると、その視線の先でリンネがシャワールームに入っていく。
「そういえば、リンネくんの入浴時間だけ、早朝の30分か寝る前1時間のみに決めたんだっけ」
「ああ……『うっかりわがはいの裸を見たらリンネが興奮してしまうからな』」
「その謎の自信はどこから来ているんだい??」
やれやれ、と首を振るアンアンに小さく呆れるミリアだが、2人はリンネが入っていったシャワールームに入ろうとしている人物を見つけた。
「あ、マーゴちゃんだ」
「……『ヒロとレイアも来たぞ』」
当然のように侵入しようとしているマーゴを止めに来たらしい2人が、彼女に何かを言っている。マーゴもとぼけるように顎に指を当てて小首を傾げているが、抵抗むなしくヒロとレイアのそれぞれに腕を掴まれてラウンジまで引きずられていった。
「……何がしたかったんだ、ヤツは」
「リンネくんが入ったのを知っててシャワールームに乱入しようとしてたね。一応そういうのがダメってことにしてある筈なんだけど」
「『まあ、別に、この牢屋敷側の正式なルールではないからな。たかが口約束だ』」
「だからこそ守ることに意味があるんだけどねぇ〜〜〜……」
ガックリ、と肩を落とすミリア。それからふと、思い出したようにそういえばと口を開く。
「──最近、なんだかマーゴちゃんのお化粧が
「『そうだな。わがはいは化粧のケバケバしいにおいが嫌いだからいいことだ』」
「あ〜……気持ちはわかるよぉ、おじさんもお化粧の匂いが強いのは苦手だなぁ」
前ほど派手ではない薄いメイクをするようになったマーゴの話題を出すミリアは、シャワールームの方を監視しているアンアンに声をかける。
「ところでアンアンちゃん、どうしてリンネくんを監視しているんだい?」
「『ヤツはどういうわけか、わがはいの【魔法】が効かなかった』」
「アンアンちゃんの魔法、確か【洗脳】……だよね。ちょっとした言うことを聞かせられるくらいの」
「『うむ。しかしそれにはわがはいの言葉に相手が納得していないといけない。そしてこの前、リンネは確かにわがはいの言葉に納得していた。しかしだ』」
サラサラと文字を書き進めるアンアンが、ページをめくって更に続ける。
「『ヤツはわがはいの言葉に納得したうえで、わがはいの【洗脳】が効かなかった。それはつまり、本心では納得していなかったことになる』」
「そうなの?」
「……『例えば、リンネが口先だけで本心は別だった場合は裏がある人間と言えるし、そうでないならわがはいの魔法の対処法をなぜか知っていることになる。どちらにせよヤツは怪しいのだ』」
「ん〜〜、まぁ〜〜、そうかもしれないけど……」
ミリアとしても、リンネがどこか怪しいことは──少なくとも
しかし、そこに悪意が無いことも分かっていて、ミリアはアンアンの疑いを晴らすための妥協点を考えてから提案を持ちかけた。
「アンアンちゃん、まずはリンネくんと普通に接してみたらどうだい?」
「……普通に?」
「確かにリンネくんは……まあ……怪しいというか、わりと変な人ではあるんだけどさ、悪い人ではないと思うんだよ。変な人なだけで」
「それは、……『擁護になってないぞ。だがまあ、わかった。仕方がないからわがはいの方から歩み寄ってやらんこともない』」
「うんうん、よかった。疑わしきは罰せずって言うしね、確証もないのに迂闊に敵だなんて言っちゃダメだよ? アンアンちゃん」
「『弁護士みたいなことを言いおって』」
「……あ、あはは」
「……『どうだ?』」
「──ンん〜〜! ボツゥ〜〜〜〜!!!」
「なにィーーーー!?」
夜、なんか風呂上がりにアンアンに呼び出されて部屋に連れてこられた俺は、なぜかアンアン作の小説を読ませられていた。
いや朝にも風呂入ったんだけどね、朝はシャワーしか使わなかったし夜はバスタブも使いたかったんだよね……というのは置いておくとして。
「貴様ぁ……言うに事欠いて人の作品を何回ボツにすれば気が済むのだ……!!」
「お前の小説はな……はっきり言うが──単なる主人公虐待なんだよ!!」
「な゛……っ!!」
図書室から取ってきたらしい紐で束ねた原稿用紙に赤ペンで校閲と添削をしながら、俺は続ける。
「暇さえあれば主人公に苦難苦難苦難苦難! 話は鬱屈としていて暗い! こんなもん誰も買わんわ!」
「ぐっ、ぐぬぬぬぬ……!」
「しかもなんでどれもこれも不自然にヒロインだけは必ず死ぬんだよ! この……バカ野郎……ッ!!」
「んぬぬにににぬににぬ……!!」
色白の顔を真っ赤にしてふくれっ面になるアンアンを横目に、俺もまた修正を終えて別の原稿の束に重ねてから軽く体を伸ばす。
「あとこれ修正済んだからな。気分がノッてるときに勢いで書くクセがあるからか、重複表現と『ら』抜き言葉が多いのは直したほうがいいぞ」
「…………。うるさい、黙れ」
「逆ギレすな」
人のこと部屋に誘って自信満々に自作小説読ませてきて『忌憚のない意見を言うがよい!』とか言ってきたのはお前だろぉ〜〜〜がッ!!
「……! そうだ、ノア! ノアはわがはいの小説、どうだった?」
「え? あ〜、う〜ん……アンアンちゃんの書くやつ、難しい漢字が多くて読みづらいかも」
「ウオッ」
アンアンはすがるようにノアに視線を送ったが、俺以上の鋭い言葉の刃に貫かれてベッドに背中から倒れた。か、可哀想ぉ〜〜……
「…………鬱だ。何もかもがうまくいかん。この牢屋はわがはいの心象風景なのだ」
「いじけやがった」
「……あれ、リっくん、電話きてるよ」
「ん? あらほんと」
脇に置いていたスマホが、着信を知らせるようにブーブーと震える。集中したくてマナーモードにしてたから気づかなかった。
「あいもしも【リンネさん!! 今どこにいるんですか!?】──耳がぁ……!」
電話に出て耳に画面を当てると同時に響く大声。それは電話の向こうと通路の外の両方から二重に響いてきていた。声の主──メルルが、更に慌てた様子で電話越しに声を荒らげる。
【リンネさん! 早く部屋に戻ってください!】
「え、なんで?」
【『なんで』!?!? じ、じじっ時間がないんですよぉ!?】
「……ノア、いま何時」
「ん〜? えーっとね、21時59分……あ、いまちょうど22時になったよ」
「…………。あれ?」
【あぁああ〜〜〜!!】
ノアの呑気な声とメルルの焦った声に挟まれながら、そういえばと思い出す。──夜の自由時間が終わるの、22時じゃなかったっけ。
そう思った次の瞬間、俺の背後で、扉の鍵がカチャンと音を立ててロックされた。
「…………」
「…………」
「…………」
【…………】
4人の沈黙が重なり、俺が軽く扉を押して、開かないことを確認する。…………不味いんじゃないか?
「閉ぉ〜〜じ込められちゃっ、たぁ!!? どどどどどどうしようプー!!」
「おっおおお落ちおちおちち落ちちゅけ! まだあわあわあわわ慌てあわわわわわ」
事態を把握したアンアンともども牢屋内で慌てふためく俺に、メルルが呆れたように言う。
【なんで時間を確認しないんですか!!?】
「集中してたんだもん! 集中してたんだもん!」
【もぉおぉぉぉ……!! とっ、とにかく! 今ノアさんたちの部屋に居るんですね? それなら明日の朝まで隠れてください! リンネさんがそちらの部屋にいることがバレたらノアさんとアンアンさんまで懲罰房行きになっちゃいますよ!!】
「ねーリっくん、看守さん来てるよ」
「やべやべやべ……!」
「ぬわっ!?」
咄嗟に電話を切って、俺はノアとアンアンを担いでベッドに潜り込む。布団を頭まで被って体を隠した──直後、部屋の外から何かの視線を感じる。ちょうどそのタイミングで、看守……【なれはて】化した黒部ホノカが覗き込んでいるのだろう。
……いくら中身がナノカの姉だとわかってるからって、この状況で俺の違反がバレても見逃してくれるとは思えん。
基本的に洗脳されて牢屋敷側の駒にされているのだ、融通が利くとは思わないほうがいいだろうな。
「っ、おい、リンネ……どこを触ってる」
「不可抗力だ」
一番図体のデカい俺を真ん中に、ベッドの縁側にアンアン、壁側にノアで並んでいる状態。2人の体格が小さいとはいえ、布団を頭まで被りつつ、外にバレないように潜り込むには少しばかり窮屈なわけで。
そりゃまあ変なところは触るかもしれんが、まあ、うん。今後に期待……は無理か、成長期終わってそうだし。──などと、うっかり口に出せば顎をグーでぶん殴られそうな思考をしていると。
「……ん?」
ふと、俺のスマホにメッセージが届く。それは、布団の中で声が出せないからと、アンアンがメッセージアプリを使ったモノだった。
【貴様は、なんなんだ】
【なんなんだってなんだよ】
布団の中で顔を下に向ければ、体を丸めてスマホを両手で掴むアンアンの後頭部がある。ノアが覗き込んできながら、俺は片手間で文字を打ち込む形で就寝時間中の声を出せない会話を始めた。
【なぜわがはいの魔法が効かない】
【さあなあ】
【ごまかすな。貴様はわがはいの魔法がわがはいの言葉に納得してないと通じないと知っているんだろう】
【かもな?】
【まあ別に、貴様にわがはいの魔法が効かないことはどうだっていい。結局は】
【結局は?】
文章が一度途切れ、アンアンの体が震える。
【結局は、わがはいが、どうしようもない人間だったことを改めて理解しただけだ】
【そりゃまた、どうして】
俺のメッセージを見てか、アンアンは少し考えてからモゾモゾと指を動かす。
【わがはいは小さい頃から何度も何度も両親にワガママを言ってきた。あれが欲しいこれが欲しいと言えば両親はなんでも買ってくれた。なんでもしてくれた】
【だがあるときわがはいは、自分の異常な力に気づいた。【洗脳】が出来たのだ。両親はわがはいに洗脳されて、言うことを聞かされていただけ】
【両親自身が異常に気づいたときには遅かった。もはやわがはいの言うことだけを聞く人形になり、自我も無く、喋ることもなくなった】
メッセージが送られてくる『シュポンシュポン』という間抜けな音に反した、アンアンの持つ重く暗い過去。俺はそれを確かに知っている。知っているが、本人にとっては辛くて仕方がないことに変わりはない。
【わがはいは】
【わがはいは、どうしようもない人間だ。両親を人形に変えた忌まわしい力が嫌いなのに、ワガママを言うことをやめられない。人形になった両親がどうなったかが心配なのに、ここが居心地よく感じている】
【帰らないといけないとわかっている】
【両親にしたことの償いをしないといけないとわかっている】
【でも、帰りたくない。ここが好きなのだ。ミリアたちとまだ一緒にいたい】
【もう、どうすればいいのかわからない】
【リンネ】
「…………リンネ」
俺の名を呼ぶか細い声が、震えている。
「どうすればいい……リンネ……」
体と声が震えて、アンアンは嗚咽を漏らす。俺もまた、どうすればいいかと考えて、考えて────ふと、脳裏に穏やかな歌が過る。
「────。〜〜〜♪ 〜〜♪」
「っ、……?」
いつかのどこかで、誰かが歌っているのを、聞いたことがある気がする、そんな歌。布団の中で外に音が漏れないようにして、俺は歌いながらスマホに文字を入力して画面をアンアンに見せる。
【アンアン、いつか帰れるときが来たら、そのときは俺が、俺たちが、一緒に両親に会いに行ってやる】
【だから大丈夫。怖くないよ。きっと両親は治るし、謝れるときが必ず来る。だから、今は寝なさい】
俺はそれだけ見せて、画面を消して布団の中に暗闇を作る。それからアンアンを片腕で抱き寄せて、体を密着させて鼻歌を奏で続ける。
「りんね……」
安心したような、舌っ足らずの声。アンアンは俺の腕を小さな手でキュッと掴み────
「…………ぱぱ……」
──そう呟いてから、寝息を立てた。ノアもいつの間にやら俺にしがみついて眠りについていて、布団の中に静かな寝息が2つある。
……万が一にも外に聞かれるわけにはいかないせいで、普段の調子で「誰がパパだコラ!」と怒鳴るわけにもいかないので。
「…………。はぁ〜〜〜……」
そうして重いため息をついてから、俺自身も意識が落ちるまで、どこか遠い場所の誰かが歌っていたうろ覚えの子守唄を、口ずさむのだった。
──改めて自分の鼻歌で気づいたけど、この子守唄、似たメロディの歌が2つ混ざってるんだな。
誰と誰の歌なのか……不思議なほどに懐かしく感じながら、俺もまた、いつのまにか眠りについていた。
お気に入りと感想と高評価ください。
夏目アンアン
・幼少期からワガママのたびに無自覚に【洗脳】を使っており、アンアンから軽度な暗示を頻繁に掛けられ続けた両親は自我の無い廃人になってしまっていた。原作ではアンアンが牢屋敷に連れてこられたあとの両親がどうなったかの描写は無いまま終わったが、今作ではアンアン失踪後に政府の配慮により2人とも保護され、精神病院に入院させられている。
竜胆リンネ
・ふと脳裏を過る謎の子守唄については、どこの誰が歌っていたモノなのかは覚えていない。
いやまあパパ呼びは……まあ……別に……うん……嫌じゃないんだけど……複雑というか……まあ……うん……ねぇ……?そんな老けて見える……?
看守(ホノカ)
・基本的に見回りをするときはちょっと部屋を覗いて終わり、なくらいには雑。なぜなら指示を出しているゴクチョーが雑な仕事を怒ったことが無いから。