魔法少年ノ記録回帰 作:濃縮還元トレデキム
こっちはメインで書いてる方を優先しつつ息抜きに書くサブシリーズなので、以降の更新は1〜2週に1話くらいになります。
「ち、ん、つ、う、ざ、い、は〜たぶんこれ!」
「ちゃんと成分を確かめてからじゃないと飲んじゃダメですよぉ〜〜っ!!?」
「こういうのは勢いと
「ダメですよ!?」
──既に知っているのか。
二階堂ヒロは、竜胆リンネが
「あぁあぁあ〜〜っ、せめて水で飲んでくださいぃ〜〜! 胃が荒れちゃいますよぉ!?」
「ちょっとやってみたかった。……ごめんマジで水くれ、錠剤が喉に貼り付いた」
「もぉおぉぉお〜〜〜っ!!」
ぷんぷんと怒りながら、水差しの水をコップに注ぐメルル。それからヒロは医務室の傍らで気まずそうにしている3人を見やる。
脱獄を企て、魔法を使い看守に襲い掛かり、結果として怪我人を出した3人──エマとハンナ、そしてシェリーを横目に口を開く。
「……君たちの不用意な行動で怪我人が出たんだ。二度とあんなことはしないように」
「うん……ごめんなさい」
「本当に申し訳ねーですわ……」
「いやぁ、行けると思ったんですけどねー」
反省しているそぶりの見えないシェリーを睨むヒロだったが、小さくため息をつく。
看守に殺されて【死に戻り】により時間を遡ってきた自分が危険性を伝えなかったのも悪いからと、ヒロはそれ以上強く言うつもりは無かった。
「おーいヒロ〜、あんま叱ってやるなよ」
「リンネ……はぁ。まったく」
「ご本人の許しも出たのでこの話はここで終わりですね! あ、ちょっといいですか〜?」
「……ナンスカ」
ヒロの横をすり抜けたシェリーが、隠しつつも隠しきれない嫌そうな顔を滲ませるリンネに問う。
「どうも! さっき自己紹介はしましたけど改めて名乗りますね! 探偵の橘シェリーです!」
「ウン」
「さっきの大鎌をいなした動きはなんらかの武術なんでしょうか? もしやプロの格闘家とか!」
「…………。
「それはそれでおかしいですわよ!?」
「はぇ〜、クマと! なるほど!」
「オマエノコトジャボケ」
「何か言いました?」
「はて???」
『?』というマークを頭上に浮かべて誤魔化すリンネは、先程メルルの【治癒】を受けながら嵌め直した右腕の調子を確かめつつシェリーに言葉を返す。
「簡単に言やぁ、
「はい? こうですか?」
「で、俺の左手を握って、【怪力】で強めに振ってみろ。説明するのがダルいし体験した方が早い」
「え、いいんですか?」
「ダメですよ!?!?」
「いいよ」
「ダメですよ!!??」
「いいよ、らしいですよ! それじゃあ行きますね〜〜、よいしょっ────」
リンネの言葉に即座に否定したメルルを無視した会話が区切られ、シェリーは早速とリンネの左手を掴む。それから一応は怪我人が相手だからと加減をしながらも【怪力】を発動し、ぶんと左手を振った──瞬間、彼女の足が床を離れて視界が上下反転する。
「あれぇ──っ!?」
そして、体が大きく弧を描いて跳ね、隣のベッドの布団にぼすんと背中から叩きつけられた。
「ふぎゅっ!!」
「しぇ、シェリーちゃんが浮いた!?」
「とんでもない馬鹿力じゃないですの!? まさかリンネさん、あなたも【怪力】の魔法を!?」
エマとハンナの驚愕に、一部始終を見ていたヒロが冷静に説明をした。
「……いや。なんちゃって、とはいえ合気道だ。アレは言うなれば、シェリーの腕力をリンネが投げる力として利用したに過ぎない」
「ま、そういうことだ。看守のときも、大鎌を振った力をそのまま『大鎌の軌道を逸らす力』として利用しただけ。俺自身がとんでもない怪力だとか超能力を持ってるわけじゃない。……ふぅ」
「凄い凄いすごーい! ハンナさんが【浮遊】を使ってるときより高く飛びましたよ〜!」
「余計な一言がうるせーですわね!」
説明しながら、縦に置かれたベッドに横に乗り上げたシェリーから手を離せば、リンネが深く息を吐いて枕に頭を落とすように倒れ込む。
「疲れた。いったん寝かせてくれ」
「そ、そうだね。ごめんねリンネくん、それにボクたちも戻らないと自由時間が終わっちゃうや」
「でしたら……私が残りますね、利用者が居るときは1人までなら付き添いで残れますから」
「…………。あー、悪いメルル、どうしても必要な話があるからヒロに残ってもらいたい」
「ん? ……そうか」
手を胸元でまごつかせるメルルに、リンネがちらりとヒロを見ながら言う。その視線に気づいたヒロもまた、真意を察して誘いに乗った。
「ならそうしよう。メルル、彼の面倒は私が見る。君は部屋で休んでいてくれ」
「え? で、ですが……」
「【治癒】の魔法を使ったうえ、看病まで任せっきりでは、いたずらに疲労が溜まってしまう。あとで悪化する可能性を考えれば、休める内に休むべきだよ。何かあったらチャットで質問する」
「わかり、ました……」
仕方なく、といった雰囲気でエマたち3人を連れてメルルが出ていく。
その後1分ほど待ってから、部屋の外をキョロキョロと確認したヒロが部屋に戻ってきて、リンネの寝転がるベッドの傍らに椅子を置いて腰掛けた。
「よし、誰も盗み聞きはしていないよ」
「そうか。んじゃ……とりあえずあいつらの魔法についての共有から始めるか」
「頼む。君にあって私に無い情報のすり合わせをしておかないと、全員で生きることは不可能だ」
「
「────」
ぼんやりと天上を見上げながらの一言。ヒロは目尻をピクリと痙攣させ、リンネは笑う。
「お前がなんらかの理由でエマを嫌ってるのはわかる。でも、だからってこの牢屋敷内であいつを害するのはやめておけよな」
「…………。善処する」
「……ま、信じるとしよう。それで、えー……あいつらの魔法か」
自身の記憶を思い返しながら、リンネは少女たちの魔法を説明する。
「──と、こんなとこか」
「……エマの魔法はなんだ?」
「それがわからん。俺が覚えてる限りでも……使ってるところを
そう推察するリンネに、ヒロは質問を続けた。
「なら、これから殺人事件が起こると仮定して、現時点で気をつけておくべき相手は誰だ?」
「あー……レイアだな。時点でナノカ辺りか。特に気をつけるのはレイアだ、あいつは良くも悪くも目立ちたがりなだけなんだけどな、俺とか……他の奴らが目立ちすぎて自分が注目されなくなると、腰のレイピアをチャキチャキし始める」
「なんだそれは……」
「現に前回の俺は、数日後にレイアに呼び出されて嫉妬が原因でエクストリームされたぞ」
「…………。なるほど」
前回の自分が首を180度曲げられたことを思い出して、左手を首に当てて小さく呻くリンネは、そういえばと言葉を続ける。
「あと、ノアがカラースプレーで自室を染め上げるのをどうにかしないといけない。アレが切っ掛けで色々と拗れた事になる」
「城ヶ崎ノアが?」
「単純に飯を食い忘れる、ってのもあるな。夕食の時間には俺も食堂に行くから、ノアに飯を届けに行くときについてきてくれるか」
「……わかった。勿論、腕がまだ痛むならここに居てもらうよ。食事を届けるのは私でも出来る」
「それで構わない。……ふぃ〜〜、悪いけど少し寝るぜ。鎮痛剤が効いてきた」
「ああ、お休み」
そうして、リンネはまぶたを閉じた。
「──なにが、『お前がなんらかの理由でエマを嫌ってるのはわかる』だ」
──私の気持ちがお前にわかるものか。
先ほどの言葉に反射的にそう言い返そうとして口を閉じたヒロの理性は強靭であった。
「……落ち着け。リンネからしたら私は毎回初日に看守に殺されている人物、事情なんて1ミリも知らない。どうせエマも詳しくは話しているまい」
苦々しく独りごちるヒロ。彼女にとって、エマは友人だった。しかし短期留学で離れたあと、もう一人の友人が、自分が居ない間に自殺をしたのだ。
エマに、その友人のことを任せた。エマも言った、「任せて!」と。だから信じたのに、彼女は死んだ。縄で首を括って、部屋の中で揺れていた。
彼女は、不思議な人物だった。常に妙な雰囲気を放ち、いつも不思議なことを口走る。ゆえにいじめの──排除の対象にされていた。
しかし、そんなことすらも気にしていない態度が、余計に神経を逆撫でていたらしく、エマやヒロが居ない時を狙った攻撃は止まなかった。
──そんなある日、学校の屋上で彼女が普段以上に奇妙なことを言っていたのをヒロは覚えている。
『──ヒロ。エマはね、いずれ災いをもたらす
『……なにを、言っているんだ……?』
『私が、臆病者だから。押し付けたから。たくさん死にます。私は、酷いことをしました。ああ、でも。こんなことをした私を、──は、どう思うでしょうか。……叱られすらしなかったら、悲しいですね』
『……それは、誰のことだ?』
『
『は?????』
『冗談です』
「あの時、誰の名前を言ったんだ? ……ダメだ、思い出せない」
諸々の強烈に違和感のある会話を、最後の単語のインパクトで上書きされたような感覚。
「そもそも中学生の時点でなぜ夫がどうのと冗談を言ったんだ。それにしては、普段ののらりくらりとした態度に反した断言だったが……」
普段から何を考えているかわからない、不気味なヤツ。ヒロですら否定しきれない印象の友人が、珍しくヒロを真っ直ぐ見据えて行った断言。
「……それにしても、部屋に戻らなくていい分、エマと顔合わせしなくて済むのは助かるな」
深い寝息を立てる少年を見下ろしながら、ヒロは、彼女にとっての2周目の牢屋敷生活の多難さを思案して、げんなりとしながらため息をついた。
「お〜はようごじゃいま〜〜〜す」
夜の自由時間の直前、俺は周回で培った感覚に従い目を覚ます。アラーム要らずで起きられるようになったのを喜ぶべきかは置いておき、隣のベッドで横になっているヒロを見て苦笑する。
「まったく、こんなところで布団も掛けずに寝るなんて……ファサッ」
「…………せめて布団を掛けろ。なぜそう言いながら枕を私の顔に乗せた」
「なんだ起きてたのか」
「まったく……枕と枕で人の頭をサンドイッチにするんじゃあ、ない」
別のベッドの枕をヒロの顔にぽすっと乗せると、乗せたそばから退かしたヒロが起き上がってからスマホで時間を確認した。
「時間は……ちょうど夜の自由時間前か」
「ここでの生活が長いと、なんか自然に自由時間前に目が覚めるんだよな」
「君は夏休みの小学生かい?」
「その可能性はある」
そう言いながら立ち上がり、右腕をぐるりと回す。まあ痛えっちゃ痛えけど、我慢できるな。
「リンネ、怪我の調子は?」
「絶好調ぉ〜〜とは言い難いけど、動かせるから問題なし。それに、あんまり不調なのを周りにずっと見せるのも無駄に不安がらせるだけだしな」
「……ストレスが魔女化の要因だからか」
「そんなところだ。んじゃ飯食おうぜ〜、今日まだ何も食べてねぇや」
「ああ。そういえば、そうだったね」
スマホに作った全員参加の通話グループに『完全ふっか〜つ。飯食いに行きます』とだけ書いておき、医務室に来られる手間を省きつつ、腹を擦って空腹を確かめるヒロを見て小さく笑う。
「ちなみにここの料理は独特だから、早めに慣れておいたほうがいいぞ」
「……独特?」
「見た目が独特、食感が独特、味が独特。外で木の枝を齧る方が歯ごたえがあるだけマシって感じ」
「────。冗談だろう?」
「ははははっ」
「おい、なんだその口許だけの笑みは」
口から乾いた笑いが漏れ出る。
大丈夫大丈夫。嫌でも慣れるから。
内心で邪悪に嗤われていることも気づかないヒロを連れて、それから医務室を出て食堂に向かうと、中には俺とヒロ以外の全員が集まっていた。
「──やあ、リンネくん! 災難だったね!」
「おお……」
「何が『おお』なんだい??」
率先して前に出てきたのは1人──前回の俺を初日に叩き返したある意味でのMVPことレイアだ。
「事情は聞いたよ、私が少し離れているうちにあんなことになってしまうなんて……ね。しかし安心してほしい、もう2度と! この蓮見レイアがっ! 今回のような事は起こさせないからね!」
「おお……」
「何が『おお』なんだい!!」
俺からしたら『なにを出来もしないことを』なんだが、まあ本人が楽しそうなら別にいい。
ひとまず、前回の俺の反省とこれまでの記憶を頼りに無難な方向に流しておくとするか。
「ンまぁ頑張っとくれ。とりあえず他に立候補が居ないならお前さんが暫定リーダーってことにしとくから、纏め役頼むぞ」
「……! ま、任せてくれたまえ!」
「チョロいな〜」
レイアが犬だったら、それはもう尻尾をぶんぶんと振り回しすぎて空を飛べているだろう。
それくらいに注目されている、自分が一番である、という内心が満たされていっているのを察して、俺はヒロに横目で「ほらな?」と暗に伝えた。
テンション上がりまくって体から星みたいなエフェクトをばら撒いているレイアを放っておいて、俺はヒロと共にビュッフェ形式の料理をべちゃべちゃと皿に乗せてトレーに置いていく。
「こ、これが……料理……?」
「遠い未来から初日に戻って記憶が吹っ飛んだ俺もだいたいそんな感想になりがちだったな」
「食べ、られる、のか……?」
「食える食える」
「おそらくだが、君の言う『食える』とは、昆虫食とかに類する『食べてもまあ死にはしない』というニュアンスだろう???」
「んなっはっは、何をおっしゃいますやら」
確かに見た目は一度誰かが食べたモノを吐き戻したようなビジュアルだけれども。実際、食べても死にゃしないんだから慣れるしかないわけで。
「俺は誰も座ってない所で食うけど、ヒロは……エマのとのにでも行ったら?」
「そんなに私に魔女化して欲しいのか?」
「そこまでか。……なんつうかなぁ、だいたいの状況において、ガキ同士の恨みつらみなんてのはその殆どが勘違いによる誤解だったりするんだぜ?」
「────。勘違いで人が死ぬのであれば、それはなおさら悪質だ。……その罪は誰にある?」
「……ふ~ん?」
そう吐き捨てると、ヒロは俺からもエマからも離れるように壁際の席につく。
2人の位置とちょうど線で繋げば三角形になりそうな席に俺も座り、記憶の復活と共に戻った料理への慣れでスプーンを口に運ぶ。
「……仮にエマもヒロも悪くないのだとしたら。勘違いの原因がその友人にあるとしたら……」
そりゃ、認めたくないよな。もしかしたら悪いのはその自殺した友人かもしれませんよ、なんて。……なんかまた厄介なことになってきたな。
「うげぇ。こんなん地雷が12個から13個に増えただけじゃねえか。どーすんだよこれ」
ヒロが生きてる場合のルートをこれまでで一度も辿ったことがない、というのがネックだ。いざというときは魔法使用のための判断を即決する必要があるな──と、そんな風に考えていると。
「──相席、いいかしらぁ?」
「おん?」
不意にそう言いながら、紫を基調とした着物の肩を出している少女がトレーを手に対面に座る。
「許可取ってから座ってもらえる??」
「細かいことは気にしないの♡」
「……で? なんか用か?」
少女──マーゴは、俺の言葉を聞いて、困惑気味に訝しむ顔を向けて口を開いた。
「……私の命を救った相手のセリフとは思えなくてビックリねぇ。もしかして忘れちゃってる?」
「いや覚えてるけども。……あ。あのとき鎌が当たったりしてないよな?」
「大丈夫よ。むしろあなた──リンネくんこそ大丈夫? 思いっきり肩が外れていたけど」
「あ〜〜……問題なし。クマに殴られ慣れてるからな、威力を逃がすのだけは得意なんだよ」
「リンネくんってもしかして、ここに来る前は山奥暮らしだったのかしら???」
「まさかぁ」
実はそのクマの体毛って青いんすよね。
といった言葉がうっかり出てこないように、料理を口に放り込む。
「あえて質問するのだけど、リンネくんはどうして……私を庇ったりしたのかしら」
「美人は死んでも助けろ、が家訓なもんで」
「あら、美人だなんて嬉しいことを言うじゃない♡ でもそれは嘘」
「……こんな閉鎖空間で貸しだの借りだのを作るとあとが怖いからな」
「それも、う・そ♡」
「…………」
やぁ〜ねぇ〜、マーゴは嘘を見抜くのが上手いからこういうときに困る。……これ、もし『俺は何千回何万回と死んでるんだぜ』って言って本当だと思われたらそれはそれで面倒くさいんだよな。
「人の善意は素直に受け取っとけって。俺が庇ってお前が助かってわーうれしー、でいいんだよ」
「そうもいかないのよ。私みたいな人間は、そういうことを疑うような性格の人種だから」
「難儀なやつだな。外の世界じゃあ苦労しっぱなしだっただろうに、大したもんだ」
「────!」
「なんだよ」
俺はマーゴがここに来る前に何をしていたかは大体知っている。というか
「……本当に、珍しい人ねぇ」
「珍しくない存在が居ないだろ、この屋敷」
「それもそうだけど、あなたは特に……ねぇ? なんだか雰囲気が、老成しているから」
「俺がジジイみたいだって???」
──流石に、そんなこと言われたのは、今回が初めてだと思うんですが!!??
……唐突な言葉に反射的に声を荒らげそうになり、小さく深呼吸して激情を息と一緒に吐き出す。
「そんなに老けて見えるか?」
「気を悪くしたならごめんなさいね、言い方が悪かったかしら。例えば……ほら、樹齢が凄く長い木があるとするじゃない? その木は大きくて、どっしりと根を張っていて、近くに居るだけで安心感がある。リンネくんは、そんな老木を想起させるのよ」
「ん〜〜〜……まあ〜……ギリギリ〜……褒め言葉……! ちょっとだけありがとう」
「だいぶ悩んだわね」
いや、別にさ、『大人びてるよね』で済むならいいよ。でも『お前、年寄りみたいな雰囲気してるよな。老木か?』は場合によっちゃあ事件起きるぞ。
「ったく。……まぁ、マーゴが無事ならそれでいいや。俺はやることあるから下に行くぞ」
「やること?」
「来てないやつに飯を届けに、な」
「ふゥん? ずいぶんとお優しいのね」
「わざわざこんな飯ぃ食わせに来るのは親切より嫌がらせが勝つと思うけどな」
「確かに。ああ、それと」
「ん?」
自分も食べてるゲル……プリン……ゼリー…………デス料理、をスプーンでつついて苦笑するマーゴを尻目に、トレーと皿を片付けて新しい方に入れ直し、食堂から出る直前。背中越しに呼び止められて、一度マーゴの方に顔を向けると──
「──助けてくれて、ありがとう」
「…………。どういたしまして」
──そんな風に独りごちるマーゴと目が合って、彼女は目尻を細めるように笑った。
「……そういや、俺があいつらを助けるのは当然のことだったけど、『この時間』のマーゴが俺に助けられたのはアレが1回目なのか」
トレーを手に食堂を出て地下牢に向かう途中、そういえばと理解する。
マーゴはなぁ……あいつもアリサとは別ベクトルの
事情は聞いたことがあるし、あんまりどうこう言えた義理ではないが、なんというかこう……あんまり仲良くなりすぎるとね……愛しさ余って殺意百倍! みたいなノリで殺しに来るのがねぇ。
もしこの屋敷に大きい鐘があったら、どこぞの僧みたいに焼き殺されてるんじゃねえかな。
「はぁ〜〜めんどくせー」
「なにが、だ?」
「エーウ!」
「なんだその奇妙な鳴き声は……あとフクロウみたいに細くなるんじゃない、怖いな」
階段を下りきった直後、背後から足音と共にそんな声が聞こえてくる。
「なんだヒロか。食事運んでるんだから驚かすなよ、落としたら往復が面倒なんだぞ」
「それについては、すまない。……城ヶ崎ノアの所に行くんだろう、私も同行しよう」
ひ、ヒロ院……!
……いや言葉に出すとニュアンスが変わるなこれ。流石に黙っておこう。
「お前どうせエマの近くに居たくないだけだろ」
「そうだが……?」
「『そうだが』!?!?」
エマ、お前……どんだけ嫌われてるんだ……!? 俺の記憶にある限りでは、中学時代にイジメられてて〜〜みたいな話はしていたが、じゃあヒロとの関係はどういうモノなんだ……?
ヒロの倫理観からしたら、イジメなんてそれこそ『正しくない』筈だ。
であるならば、イジメられていたエマを助けないどころか嫌っていること自体がおかしい。
──もしや、主張が食い違っている……?
エマは自分がイジメられていた──
被害者面をしていることが気に入らない、としても、その程度でここまで嫌うものか?
「…………うんぬぬぬにぬぬににに」
「何語だ……?」
「ん~~〜〜〜……!」
歯ぎしりとうめき声の中間みたいな声が俺の口から漏れる。ん〜〜〜、一旦保留!
よそのご家庭のここに来る前に起きてたイジメ問題なんか俺の手には負えん。つーわけで、ひとまず目の前の事に着手するのみ。
「まあいいや。ほら、ノアに飯を届けに行くぞ。……あとあいつの居る部屋の光景にビックリすると思うけど大声出したりするなよ?」
「どういうことだ?」
「お前にもビックリしてほしいから教えない」
「いましれっと本音が出なかったか??」
んなっはっはっは。何をおっしゃいますやら。
──果たして、前回のようにノアに飯を届けに行き、カラースプレーで染め上げられた部屋を見て色と臭いに驚き、後日の絵描き用部屋探しを約束し、飯を食わせて食器を返して部屋に戻って寝る。
ヒロが生き残った時間での生活が始まる事への期待と緊張を胸に、ベッドで寝転がる俺は、その後めちゃくちゃ久しぶりに夢を見たのだが……翌日には何を見たか全部忘れていた。そういうもんだ。
『──リンネ。リンネ』
『おん? どうした?』
『これをどうにかしてください』
銀髪を揺らす少女が、男に助けを求める。男が視線を向けると、少女の服と髪に幼い子供が数人ぶら下がっていて、少女はそれらを引き摺りながら歩いてきていたらしく、心底嫌そうな顔をしていた。
『毎日毎日飽きもせず、どうしてこう、人間の子供というのは私に引っ付いてきて────あいたたたた、やめなさい。やめなさ……いたたたたた』
『まぁ、異国の人間だからってのもあるでしょうよ。ほらお前たち、やることないなら畑いじりを手伝え〜。頑張れば晩飯の量が増えるぞ〜』
男の言葉に、少女に引っ付いていた子供たちは離れ、我先にと畑の方に走っていく。
落ち武者の悪霊もかくやと言わんばかりに頭が傾いていた少女は、曲がっている首の角度を正しながら面倒くさそうにため息をついた。
『まったく……これだから人間というものは。愚かにも魔女に対して暴力的で困ります』
『そういやぁまだ聞いてなかったけど、お前さん以外の魔女ってどうなったんだ?』
『死にましたよ。愚かな人間風情が島に来て、私以外を虐殺して滅びました』
『滅んだ原因、その傲慢さが七割くらいを担っていそうなもんだけどね』
『流石の
『おっと藪蛇。怒られる前に退散しますかね。あ、退散ついでにこいつ頼みまっせ』
『え゛』
無感情な顔に僅かな苛立ちを見せた少女に、男は小さく笑ってから、抱えていた赤子を気軽に少女に持たせて口角をニヤリと緩める。
『ちょっと、リンネ。リンネ? ちょっと? 私にこんなものを渡さないでください??』
『いやぁほら、ねぇ。俺ってお前と偽装結婚してるじゃん。でもお前さんは子供作れないってか作る気ないじゃん。じゃあほら、村の子供は村全体で育てるっていう方針には従ってもらわないと』
『そぉ゛、う、ですけどぉ……!!』
流れで思わず、といった風に受け取ってしまった赤子。けれども捨てるわけにもいかず、少女は嫌々ながらに抱え直して腕に収めた。
『ただでさえ、魔女である以前に異国人として異質な存在なんだ。俺の妻役をやるなら村に馴染む努力をしてくれ。言っとくけど、さっきみたいに子供たちのおもちゃにされてるうちが鮮度だぜ?』
『…………はぁ。努力はしますよ』
『そうしてくれ。ちなみにいつでも偽装結婚の『偽装』の部分は撤回していいからな?』
傍らに立てかけていた
『……ほら、あなた。畑に行くんでしょう?』
『おっと。そんじゃ、そいつ頼むぞー』
『はいはい。いくら人間が嫌いだからって、罪のない赤子まで敵視しませんのでご安心を』
カラカラと乾いた笑い声を出しながら背中を向けて歩き去る男を見届けた少女は、赤子を抱きかかえながら近くの木に背中を預けて座る。
『……この近辺に魔女因子を蔓延させるための拠点が欲しかったとはいえ、選んだのがこの村だったのが私の失敗でしょうね』
誰に言うでもなく独り言を呟く少女。数年前に訪れ辿り着いた、山に囲まれた村。
そこで村長の息子である男と遭遇し、【洗脳】でもしてスムーズに入り込めやしないかと思いながら冥土の土産に正体を明かしてみれば。
なんと男は、自身を受け入れたあげく、『目的を果たすまでこの村に滞在していいから、その間は俺の妻として振る舞ってくれ』と交渉してきた。
少女は気まぐれか、慈悲か、哀れみか、はたまた一時の気の迷いか。あろうことかその提案を受け入れ、男の妻として偽装結婚したのだ。
『私は復讐のために、魔女因子をばら撒き、人類を皆殺しにする。……それはあなたや彼らの末裔も、例外ではないんですよ?』
木を背もたれにゆったりと座る少女の、その腕の中で大人しくしている赤子に言えば、当然返答があるわけでもなく、きょとんとしている。
『────。そう。
そこまで言って、少女は自虐気味に口角と目尻を歪めると、風に吹かれて揺れる髪に隠れた瞳を感情的に揺らして声を震わせる。
『──私たちの島を襲った者たちの罪は、彼らの中にしかなく。すなわちこれはただの、未熟な私の八つ当たり。……醜いのは私。愚かなのは私。これから、いつかの未来で大罪を犯すのは、私』
誰に言うでもなく、誰にも聞かれていない感情の吐露。それから視線を下げて、少女は赤子を見る。──赤子の瞳に映る自分を、見た。
『……ああ、なんておぞましいバケモノでしょう。……こんなものに結婚を持ちかけるなんて、リンネは本当に、バカな人なんですから』
──そこに居るのは、人類の虐殺を目論む大魔女などではなかった。
──そこに居るのは、ただただ、1人の男との生活に、心を……感情を揺れ動かしている、見た目相応の幼い少女でしかなかった。
──そこに居るのは、自身の復讐が正当なモノではないと理解してしまっている未熟な存在だった。
少女の中で燻る復讐の炎は、村での生活に伴い既に消えかけている。けれども、その復讐が行動原理だからこそ、止まれないでいる。
……男は気づかない、少女が自分に向けている視線に、日に日に熱が籠もっていることを。
……少女は気づかない。例え大魔女である自分が、人類虐殺を目論むまでもなく、世界そのものが人類に牙を剥く機会は幾らでもあることを。
──2人は気づかない。
近い将来、この村に襲来する流行り病により、村民全員が死亡することを。
お気に入りと感想と高評価ください。
変な大魔女姉貴
・人類虐殺のために世界中を旅して回っていたが、ある村で出会った男と気まぐれで偽装結婚して生活している内にだいぶ絆されたチョロイン。
当時の日本人から見たらかなり珍しく映る銀髪と美貌の異質さが村の子供にバカウケし、毎日のように髪や服にしがみつかれて困っている。
前にリンネ(?)から「子供なんかぶら下げて、首の鍛錬でもしてんの?」と笑われた時は流石にちょっとムカついたので川に3分くらい沈めた。
…………なんか3分どころか5分くらい潜水してる……え、こわ……人間こわ……
変な竜胆リンネ
・とある村の村長の息子。自分を筆頭に村人を【洗脳】しようとしていた魔女がなんか事情をベラベラ話してたのが面白かったので偽装結婚を提案し、妻役として扱うことで合法的に村に招いた。
変な大魔女もとい妻の復讐に関しては、犯していない罪による罰を受ける謂れは無いので勘弁して欲しいと思っているが、止める手段も無いので本人がやる気なら仕方ないかなぁ……と思っている。
ちょっと5分ほど息止めたりクマ相手に面と向かってよーいどんで逃げ切れるだけの普通の人。