魔法少年ノ記録回帰   作:兼六園

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『過去の囚人が残した魔法』とかいう便利すぎる設定のお陰でだいたいの無茶は押し通せる説。


ノンカフェイン・ダンデライオン

「コーヒーが飲みたいよぉ〜〜〜〜〜!」

「どうしたんだおじさん、急に変な声を出して」

 

 昼の自由時間中。ラウンジで紅茶を飲んでいると、対面でそう言いながら、ミリアが気だるげにソファにぐでぇっと体を倒した。

 

「紅茶があるだけマシだろ? そうでなきゃただの水しか飲めないんだから」

「そうだけどさぁ……たまには違う味が飲みたいんだよぉ〜〜。なんかないかなぁ」

「なんかって言われてもな」

 

 厨房にあった茶葉──種類はわからんが匂いと味は紅茶──を淹れたポットから中身をカップに移して飲む俺は、少し考えてからそういえばと思い至る。

 

「世の中には代用コーヒーってものがあるよな」

「……あぁ〜、ある、よね?」

「牢屋敷の外にある花畑の一角にたんぽぽが群生してる部分があるんだけどな、確かたんぽぽで代用コーヒーが作れるんだよ」

「えっ! そうなの!?」

「そーなの」

 

 確か、牢屋敷に来る前にどっかで作った覚えがあるんだよな。ともあれ思い立ったが吉日、コーヒーが飲めるかもという希望を胸に立ち上がったミリアを連れて、俺は物置に向かう。

 

「あ、でも花畑のお花を勝手に摘むのってどうなんだろう。大丈夫なのかな」

「ン〜、へーきへーき。なんかあの辺の植物ってどんだけ引っこ抜いても翌日には元に戻ってるんだよね。生命力だけミントくらいあるっぽい」

「ええ……それこそ大丈夫なのかな」

「まあ死にゃしないよ。たぶん」

「いま小さく『たぶん』って」

「はて……???」

 

 なんのことやら…………

 

 すっとぼけながらも、たんぽぽを掘り返すための道具を取りに物置に到着。とりあえず桶状の入れ物を1つとスコップを人数分用意──と考えていたところで、不意に後ろから疑問の声が聞こえてきた。

 

「……おめぇら何やってんだ?」

「ああ、アリサちゃん。いやぁ、ね? ちょっと花畑の方に用事があってさ」

「たんぽぽ狩りだよ。来るか?」

「行くわけねぇだろ」

 

 後ろを見ずにしゃがんでスコップを漁る俺の提案に断るドスの効いた声の主──アリサに言葉を返す。

 

「そうかそうか来てくれるか。助かるよ、人手は多ければ多いほどいい」

「いや行かねぇっつってんだろ」

「? ……なんで?」

「『なんで』じゃねえんだよ」

「嫌って言っても来るんだよたんぽぽ狩りに。いいだろ別に、どうせ暇なんだろぉ〜〜!?」

 

 と言いながら振り返れば、アリサはマスク越しでもわかるくらいに面倒くさそうに顔を歪め、俺とミリアから距離を取るように後退りを始める。

 

「ふゥ〜〜〜ん? ちょい、ミリア」

「あっはい」

「これ持って先にたんぽぽ畑んとこ行ってて。屋敷から花畑に行けば黄色一色のコーナーがあるから」

「……ああ、うん、それはいいけど……あの、ダメだよ? 乱暴なのは……」

「そこの生意気小娘の態度によるかなぁ」

「──っ!!」

 

 荷物を渡して軽く足を伸ばす柔軟をすれば、アリサはこれから何が行われるかを察して踵を返して走り出す。やれやれ舐められたもんだぜ……

 

「うおおおおお来んじゃねぇ────っ!!!」

「スマホのマップを見るまでもなく牢屋敷内の構造に誰よりも詳しいのはこぉの男〜〜〜っ!!」

「そこ自称していくんだ……」

 

 背後にそんな呆れたような声を聞きながら、俺は逃げ出したアリサを捕まえるべく、無駄に整ったカクカクのフォームで駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──牢屋敷の外にある花畑。その一角にある黄色い花だけの空間こそが、たんぽぽの群生地だった。

 

「のどかだねぇ〜、そうは思わないかいミリア」

「そ、そうだね……」

「……チッッッ!!」

「舌打ちでっか」

 

 ザクザクザクザクとスコップで地面を掘り返している俺たち3人。たんぽぽの根っこ部分と花部分をカゴに放り込み、茎と葉を地面に埋めていると、面倒くさそうに手を動かしているアリサが呟く。

 

「……つーか、これは何がしてぇんだよ」

「え。ああ、コーヒー飲みたいなぁって話をしててね。それでたんぽぽ狩りしてんの」

「点と点が繋がんねぇんだけど?」

「代用コーヒーが、たんぽぽで作れるんだって。おじさんもさっき聞いたんだけどね」

「……へー」

 

 などと会話しながら、ザクザクザクザクと地面を掘り返してはたんぽぽの根と花を採取していくと、段々と喋る頻度が減っていく。

 なんやかんやと言いながらも、こうして集中する作業になれば意外と乗り気になるものだ。

 

「おい竜胆。この茎と葉の部分は捨てる……っつうか、埋めちまっていいのかよ?」

「あ〜、本来ならその部分も食えるんだけどね。牢屋敷は厨房に調味料すら無いからやめたほうがいいんだよねぇ」

「……そうなのか?」

「そうなんです。本来ならおひたしとか味噌炒めとかを作れて美味いんだけどねぇ、ここだと調味料が無いから水洗いしたやつを生で食うしかない」

「それは流石に……イヤかなぁ」

 

 アリサの問いに答えれば、横でミリアも嫌そうな顔をする。……俺なら味付け無しの生でも食けるけど、なんらかの信頼を失いそうだから言わないでおく。

 普通に嫌でしょ、野草を生で食う人間。仮にヒロ辺りがやってたら俺はそっと距離を取るよ。

 

「──うーし、まあこんなもんだろ」

「いっぱい採れたねぇ、おじさん屈みながら作業するの結構キツかったよ……」

「たんぽぽの根っこって、なんつぅか、ゴボウみてぇなんだな」

「こんだけしっかりしてたら、そりゃあアスファルトを突き破って咲けるわけだな」

 

 カゴいっぱいに入れた根と花を見て、アリサが感嘆の声をあげる。横から一緒に覗くミリアが、それから当然の疑問を口にする。

 

「あとはこれを…………どうするの?」

「根は水洗いして刻んで天日干しして、乾燥したら炒めて粉末状にして、それをコーヒーと同じような淹れ方をする。花の方は水洗いしたらお湯を注いで、色と匂いが移ったやつを飲むって感じだな」

「へぇ〜〜。……え、天日干し??」

「うん」

「ってことは……コーヒーが飲めるの、今から何日かあとってこと……??」

「うん」

「!!!???」

 

 俺にそう確認してきたミリアが、絶句するようにして口をあんぐりと開けて驚く。

 

「我慢しろよそれぐらい」

「最初に言ってよそういう重要なことは! おじさん、もう今日中に飲めると思ってたのに!」

「もー、ちゃんと契約書にサインしたでしょ? 右下の方にちっっっっっちゃく書いてるから、『代用コーヒーを作るのには数日かかります』って」

「なんらかの詐欺だよ!?」

「……うるせぇなこいつら」

 

 牢屋敷に戻り、厨房に向かいながら横でギャンギャンと文句を言うミリアを流しつつ、仕方なく片手間である人物に電話をする。

 

「ったくしょーがねーなー、わがままおじさんめ」

 

 下手したら掴みかかって来るんじゃないかと言わんばかりの剣幕のミリアに根負けして、俺はある人物に片手間でメールを飛ばす。

 

「スペシャルゲストを呼んどいたから、本人が乗り気ならあとで厨房に来るぞ」

「……乗り気じゃなかったら?」

「その時はたんぽぽコーヒーはぁ〜〜後日です」

「そんなぁ……」

 

 ややしょんぼりしたミリアと面倒くさそうなオーラを垂れ流しているアリサを連れて食堂を通り、奥の厨房に向かう。

 基本的に紅茶を飲みたいやつと探索しに来たやつ以外が訪れることはない厨房の中は、清掃が行き届いていて清潔感があった。

 

「さてさて、それじゃあ下ごしらえしますか。ミリアはお湯沸かしてくれ〜、アリサは俺と一緒に花と根っこを洗って汚れを落とそうね」

「わかったよ、お鍋は〜……あったあった」

「……まだウチを働かせんのかよ」

「ここで逃げたら明日から1日3回今回の件でずっとネチネチ文句言うからな」

「わかったわかった! わかったからやめろ!」

 

 体をL字に曲げてアリサの顔を覗き込めば、観念したようにそう言ってから右手だけの手袋を外す。

 

「リンネくんリンネくん、沸かすのはいいけど、お湯は何に使うんだい?」

「洗った花を茶葉代わりにポットに入れて、そこに注ぐんだよ。ポットはそっちにあるから出しといて」

「はーい」

「で、ウチは根っこを洗えってか」

「そうそう。強めにガシガシ擦っていいから」

 

 水を強めに出しながら、俺とアリサで根っこを洗っていく。ゴボウのように太い根っこの土汚れが落とされて、茶色くなった水が排水溝に流れていき、1つずつ綺麗になっていった。

 

 ついでに花部分も千切れたりしないように気をつけながら洗っておき、ミリアが出しておいてくれたガラス製のポットの中にポイポイ入れておく。

 

「リンネくん、お湯沸いたよ」

「おう。ポットに注いどいてくれ、こっちもそろそろ根っこ全部洗い終わるから」

 

 コンロの火を止めたミリアが、俺の指示で慎重に小鍋のお湯をポットに移す。ポットの中に出来たお湯の流れに巻き込まれて、たんぽぽの黄色い花が踊るように舞っている。

 

 ……にしても、古臭い屋敷なのに、所々は現代的なんだよな。まあラウンジにモニターとかあるし、娯楽室にも白黒フィルムのやつとはいえ映画を見る機材もあるし今更ではあるが。

 

「少し時間が経って、お湯に色と匂いが移ったな〜ってタイミングで飲めるぞ。それまでは、この洗った根っこを刻んでおきまぁ〜〜す」

「……そういや、さっき呼んだゲストって結局誰のことなんだ?」

「えー、誰だと思う?」

「ンなもん知るかよ」

 

 厨房に配置されているタオルで手を拭うアリサの呆れ顔を横目に、俺も包丁で根っこを1センチくらいに切り刻んでいく。

 ──さて、あいつが来なかったらこのまま乾燥するまで天日干しコースなんだ、が〜〜〜。

 

 

 

「──あ、いた。おーい、リっくん」

「……あれ、ノアちゃん?」

「お〜? ミリアちゃんとアリサちゃんだ〜」

 

 厨房に呑気な声が聞こえてきたかと思えば、それに反応したミリアが疑問の声を上げる。根っこを刻み終えて包丁を軽く洗い、包丁スタンドに挿し直してから振り返ると、そこには俺たち3人のグループを珍しそうに眺めているノアの姿があった。

 

「来たか、今日のスペシャルゲスト」

「……?? なんのこと?」

「まあ落ち着けよ、こちらウェルカムドリンクのたんぽぽティーでございます」

「うん? じゃあ貰うね〜」

 

 黄色と黄緑の中間のような色合いのお茶をカップに注いで出すと、ノアは一口飲む。

 

「……う〜ん。薄、甘……微妙味?」

「素朴な味わいと言いなさい。これはこれでいいもんだ、匂いも楽しめ」

「おじさんはこの味、結構好きだけどなあ」

「…………」

 

 ノアは微妙そうな顔をしながらも飲み進め、ミリアは好ましい反応を見せ、アリサは一口啜ってから俺の手元にカップを置いた。置くな。

 

「それで、リっくん。のあに何かしてほしいことがあるから呼んだんだよね?」

「ああそうそう。ちょっとね〜〜〜、これの水抜きを手伝ってほしいんだけど」

「…………。なにこれ」

「なにって……たんぽぽの根っこだが?」

「言われてもわかんないと思うなぁ。刻んだゴボウかと思ったもん」

 

 刻んでザルに移したたんぽぽの根っこを見て、ノアが困ったように眉をひそめて続ける。

 

「あとね、のあの【液体操作】はお絵かきの時にしか使えないんだぁ。だから『これ』から水分を抜くのには使えないと思うよ」

「いや、そこは問題ない。それは結局のところ認識の話でしかないんだからな」

「……ん〜?」

 

 手と包丁を拭いたタオルを広げて、俺はノアの前にザルを置いてから言う。

 

「このタオルをキャンバスとして魔法を使ってくれ。水分(絵の具)は根っこ(そこ)にある」

「……うーん、行けるかなぁ……」

「まあやるだけやってみろよ、無理なら普通に天日干しするだけだ。困るのはミリアだけだし」

「おじさんそろそろ泣いていい?」

「ダメです」

「クゥゥゥン……!」

 

 別に成功しなくても問題ないんだけど、しばらくミリアの顔がシワシワのパグみたいになりそうだから、ノアには是非ともなんとかしてほしい。

 

「う〜〜〜ん……あ、いけるかも。リっくんタオルを流しに広げて?」

「ん? おう」

 

 ──と、不意にノアが何かに気づいたように声を上げる。言われた通りに厨房の流し台にタオルを広げると、ノアは片手をザルに入れた刻んだ根っこにかざして集中し始めた。

 

「────。むぅ〜〜ん……!」

 

 なんとも気の抜ける声で気合いを入れ始めた──直後。ふと、刻んだ根っこに染み込んでいる水分が雨を逆再生させるかのような動きで抽出されていき、空中に水で出来た玉を作り出す。

 野球ボール大の玉をタオルの上まで持っていったノアは、その流れでタオルに水分を落とした。

 

「……ぷふぅ〜〜、これでいい?」

「すげぇな……城ケ崎」

「凄いよぉノアちゃん!」

「よくやった。偉いぞ〜」

「んへへへぇ」

 

 両手で頬をもちもちと捏ねてから、流し台の中のタオルを流しで絞る。洗って刻んだ根っこから移った水分がバチャバチャと流れていき、それから改めてザルの方の確認をしてみると──指で触っただけでカラカラに乾いていることが確認できた。

 

「こりゃすごいな。水分が抜けきってらあ」

「にしても、城ケ崎の魔法は絵を描くためにしか使えないんだろ? なんでこんなことが出来たんだ?」

「ん〜。さっきリっくんがタオルをキャンバスとして魔法を使ってって言ったでしょ? だからやってみたんだぁ。ドリッピングって言ってね、水滴を紙に垂らしたりする描き方があるんだよ〜」

「あ〜、どこかで聞いたことあるかも。……それで、これをどうするんだい? リンネくん」

 

 ミリアの問いを横目に、俺はフライパンをコンロに置いて火にかけて、その中に根っこを投入。

 

「あとは軽〜〜く炒めてから粉末状にすり潰すだけだ。ちょっとその辺の棚からすり鉢とすりこぎ棒を出しといてくれ、確かあそこらへんにあるから」

「そこは力技で行くんだね……」

 

 俺の指示に従って棚を漁るミリアが、若干呆れながらもそう言って探し始める。

 

「ここにはそういう調理用の機械が無いからなぁ。……そりゃあもう地道にゴリゴリよ」

「橘でも呼んできたほうがいいんじゃねえか?」

「すり鉢が割れるのとすりこぎ棒が折れるの、どっちが先になると思う?」

「……やめとくか」

 

 アリサの提案にも端的に返せば、彼女は渋い顔をしながら冷めたたんぽぽティーを啜る。……普通に気に入ってんじゃねーか! とは言わないでおく。

 

「ねー、リっくんリっくん」

「なんすかなんすか」

「これ、何作ってるの?」

「あ、言ってなかったか。代用コーヒーを作ってるんだよ、そこのおじさんがわがまま言うから」

「これがコーヒーになるの?」

「あくまで『っぽいやつ』な。ちなみに実際のコーヒー豆も、実から取った種の方を乾かして火で煎ってから使ってるんだぞ。焙煎ってやつだ」

「へぇ〜〜」

 

 横からひょこりとフライパンを覗くノアに説明しながら、フライ返し……みたいな器具で根っこを焦がさないように動かしていく。

 

「……あ、なんかいい匂いしてきた」

「あと少し炒めて、それからすり潰し作業だな。おーい、すり鉢あったか?」

「あったよ、人数分用意しとくね」

「……ウチもやんのかよ」

「逃げられると思うなよ〜? ……っと、こんなもんか。はいはいフライパンが通りますよ〜っと」

 

 煎り終えた根っこを、ミリアが置いたすり鉢3つに移していく。カラカラに乾いた根っこからは、どことなくコーヒーに近いような香りが漂っていた。

 

「あとはこいつをゴリゴリすり潰してくださーい。なるべく綺麗に粉末になるようにな?」

「よおーし、おじさん頑張るよぉ〜!」

「……チッ。仕方ねえな」

「みんな頑張れ〜」

 

 一足先に水分除去という大役を終えたノアの応援を聞きながら、俺とミリアとアリサは3人がかりで等分した根っこをゴリゴリとすりこぎ棒で潰していく。

 

 

 

 

 

 

 

 ──潰して擦って潰して擦って、と。地道かつ疲れる作業を進めて十数分。

 冷めたたんぽぽティーで喉を潤しつつ、手を動かしてからしばらく経過したあるとき。

 

【……何をしてるんですか皆さん】

「げっ、ゴクチョーじゃん」

【いやですねぇ、こんな可愛いフクロウに「げっ」とは失礼な】

 

 明けっ放しの厨房と食堂を繋ぐ扉から入ってきた1羽の鳥──ゴクチョーが近くに降り立ってきた。ミリアとアリサは手を動かしながらも露骨に警戒した動きですり鉢を抱えながら数歩下がっている。

 

「別に悪いことはしてねーぞ、俺たちは代用コーヒーを作ろうとしてるだけだ」

【はあ、代用コーヒーですか。そういえばこの屋敷にはありませんからね、コーヒー】

「つーか、なんでここって茶葉はあるのにコーヒー豆は無いんだよ」

【えー……それはまあ、この屋敷に前に住んでいた魔女の皆さんが単純に紅茶派だったからですねぇ。中には湖に茶葉をばら撒いて紅茶湖を作ろうとして怒られていた魔女も居ましたね】

「ブリテン人かなんかかよ」

 

 ファンキーな奴が居たもんだぜ。

 

「ったく。どうせ魔法かなんかで植物を生やせるなら、コーヒーの木でも生やしといてくれよな」

【あ、それはダメですね。過去には確かに【植物操作】の使い手が居ましたが、あの魔法で植物を生やしすぎると、その植物本来の生息地に周囲の環境を近づけようとしてしまうんです】

「……つまり?」

 

 ゴクチョーの説明に疑問を問うと、面倒くさそうに頭を左右に振ってから言葉を返してきた。

 

【仮にコーヒーの木なんて生やしたら、牢屋敷周辺が熱帯になってしまいますよ。なので止められてました。ある意味、よかったですね】

「…………。まあ、確かにな」

 

 俺はゴクチョーの言葉を聞いて、少し考えてから思い至ったことを口にする。

 

「つーことは、この牢屋敷って、東南アジアとかアフリカ付近──赤道にあるわけではないんだな」

【…………。はて、なんのことでしょう? 私は忙しいのでここらへんで戻りますね】

「あ、逃げた」

 

 珍しく失言をした……とでも言いたげな顔をして、ゴクチョーは慌てた様子で飛び立っていった。……まあ、収穫と言えば収穫か。

 

「意外なとこから意外な情報だったな。──と、よ〜しこんなもんか、わりと綺麗に粉末に出来た。2人とも〜、そっちはどうだ?」

「まあまあいい感じだな。佐伯は?」

「おじさんのも結構いい感じだよ。……そういえば、さあ。リンネくん」

「おん?」

 

 すり鉢3つ分で結構な量の粉末が完成し、ひとまず厨房にある空き瓶に全部移していると、思い出したようにミリアが口を開く。

 

「さっきゴクチョーが言ってたよね、魔女の皆が紅茶派だったって。それで茶葉があるのにコーヒー豆が無いわけで……」

「そうだな」

「じゃあ、ドリップ用のフィルターすら無いってことになるんじゃないかな……?」

「…………。……あ゛」

 

 俺はミリアに言われてからようやく気づく。コーヒー豆が無いということは、コーヒーを淹れるための道具自体が無いということで。それすなわち、ドリッパーが無ければフィルターも無いというわけだ。

 

「ん゛〜〜〜、まぁ〜〜〜、インスタントコーヒーみたいに普通にお湯で溶かすタイプの飲み方も出来るだろうし、今回はそれで飲むか……」

 

 そう言いながら小鍋に水を入れて火にかけて、インスタントコーヒーを作るのと同じように、カップに小さじ1杯だけ粉末状にした根っこを入れる。

 

 

 

 

 

 こうして、紆余曲折を経て、俺たちはたんぽぽを原材料にしたコーヒーもどきを飲むことになったのだが……成功と失敗で半々といったところか。

 ちなみに味はコーヒーと濃いお茶の中間といった感じで、匂いと後味はコーヒーっぽく、これはこれで美味いとは思う。もう少し長く煎って苦味を出せば、よりコーヒーに近づくだろうな。

 

 しかし……今後もこうやって飲み物だけでも充実させていきたいもんだ、ゴクチョーに全員で泣きついたらどうにかなんねえかなぁ。

 

 ──そんな風に思案しつつ、俺は2杯目を飲みながら、スマホの全体チャットでたんぽぽコーヒーの作り方を唐突に記載してミリアたち以外の全員を困惑させるのだった。




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【植物操作】の囚人(本作オリジナル)
・牢屋敷の一角にたんぽぽ畑を作成した囚人。単純に『出来るから』を理由にコーヒーの木やサトウキビ畑も作ろうとしたが、やり過ぎると周辺が植物本来の生息地の環境に近づく性質があり、他の囚人から「牢屋敷を熱帯にする気か!!??」と何度も止められた。なお全然止まらなかったあげく、ある事件を起こして処刑され、現在は地下室に冷凍保存されている。

変な大魔女姉貴
・コーヒー?飲みませんよ、そもそも島に豆がありませんでしたし。いえ別に苦いのが嫌いなわけではないですが……?飲もうと思えば飲めますが……?
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