稲荷様はマブラヴ世界でも平穏に暮らしたい 作:名無しのペロリスト
私は稲荷神である。……と言っても本物ではなく、自称だ。
何故こうなったかと説明すると長くなるので、簡潔にまとめさせてもらう。
最初は子狐を助けようとしたら車に轢かれて、気づいたら狐っ娘に転生してした。
その後は、戦国時代の日本で平穏な暮らしを求めて色々やっていたら、いつの間にか日本の最高統治者になっていた。
もちろん容易に務まるものではなく、責任重大だ。
必死に頼み込んで隠居させてもらった。
しかし代わりに神皇という役職をやることが民意で決定し、日本で一番偉いという立場は微塵も揺るがない。
なので表面上は平静を装いつつも、内心では頼むから本当に勘弁してくださいと泣きたくなった。
それでも平穏な暮らしを諦めきれず、民衆が退位や排除を望めば神皇を辞めるという条件を出す。
今の私は、妥協の末こうなっているわけで、二千年代初頭になっても日本の最高統治者は変わらない。
それどころか世界中が私を頼りにするようになり、本当にわけがわからなかった。
自分は転生直後から、身長体重も頭の良さも全く変わっていない。
中身は平凡な元女子高生のままである。
もっと天才や優秀な人が大勢居るはずなのに、謎すぎる人選であった。
さらに私は、基本的に勢い任せの行き当たりばったり、あとは直感的な判断で乗り切っている。
こんなに適当でいい加減では、いつか絶対にやらかすに決まっていた。
なので普段は東京の稲荷大社、そこの聖域である森の奥に引き篭もる。
たまのお忍びの食べ歩きや旅行、あとはどうしてもという呼び出し以外は、滅多に表には出なかった。
色んな意味で目立つし、公式の場ではワッショイワッショイされる。
分不相応な過大評価を受け入れられず、お尻が痒くなってしまう。
最近は神魔の方々が日本に降臨することが増えた。
私が観光案内や相談役として付き添うことも良くあるが、それでもなるべく外には出たくない。
少なくとも自宅から出なければ、家族である狼たちと戯れつつ、縁側でのんびりお茶を飲むなど、平穏な暮らしが送れるのだ。
ちなみにこっちの世界では、科学がかなり進んでいる。
私が転生直後からやらかしまくった結果だが、二千年代初頭に月にに巨大ドームが作られて続々と人類が移住していたり、火星のテラフォーミングが始まったりと色々だ。
そんなニュースを、たった今テレビでやっていた。
居間でお茶を飲んで、草加せんべいを齧りながら、のんびり眺める。
すると天照大御神様から念話が送られてきたので、一先ず湯呑をちゃぶ台の上に置く。
『稲荷ちゃん、今良いかしら?』
「あっ、はい、大丈夫です」
天照大御神様は、私の母を自称する神様である。
偶然選ばれただけの自分とは格が違うのは当然で、凄く偉くて天と地ほどの差があるのだ。
なので、未だに何で母親として猫可愛がりするのかわかっていない。
広義的には娘と言えなくもないし、上司に嫌われるよりは良いので、反対はせずに自分の立場を受け入れていた。
取りあえず最近は平和だし、のんびりテレビを見ていたので精神的な余裕はある。
それに重要な話の可能性もあるため、念のためにリモコンで電源を切っておく。
『実はお友達の神から、管理宇宙が荒らされて困ってると、相談を受けたの』
「それは大変ですね」
私は宇宙を管理した経験がないので、想像しかできない。
でも自分の庭や畑が荒らされたら困るのはわかるので、大変なのは理解できた。
しかし、何で私にそんな話をと疑問に思う。
(何だか、猛烈に嫌な予感がしてきた!)
私の直感は、これまで一度も外れたことはない。
具体的に何が起きるかは大雑把にしか想像できないが、もはや未来予知レベルである。
何にせよ天照大御神様の神託なので、最後まで聞くべきだ。
私は口を挟んだりはせずに、お茶を一口飲んで気持ちを切り替える。
『放置すれば被害は広がり続けて、別の宇宙まで影響が出そうなの』
話を聞く限り、被害規模がとんでもない。
神様ならこのぐらい解決するのは容易いとも思うが、そう上手くはいかないらしい。
例えるなら庭に毒草が大量発生して、植えた草木が枯れてしまいそうなので、除草剤や草刈り機で、まとめて処理しようとするのが神様である。
一本ずつ引き抜いて丁寧に処分するなどという、器用なことはできない。
宇宙の管理者として、やること成すことがダイナミックなのである。
そうなると天照大御神様が、私に教えた理由も想像できた。
『そこで稲荷ちゃんに、ちょっと行って処理してきて欲しいの。
いつも通りにやれば良いし、大丈夫よ』
正直に言えば、気が進まない。でも、断るという選択肢はない。
お願いしてきたのが、天照大御神様なのもある。
だが放置すれば、私の居る宇宙まで被害が出る可能性があるのだ。
いつかは解決に動かないといけないなら、早いうちに片付けたほうが良い。
私はそう判断して、ちょっと気は重いが承諾することにした。
でも、気になることが合ったので、そちらを尋ねてみる。
「話はわかりました。
行くのは構いませんが、注意点などがあれば教えてくれると助かります」
私がやらなければ、最悪ビッグバンで初期化する可能性もあるし、その世界の者たちのためにも、早めに動いたほうが良さそうだ。
だが宇宙を荒らしている存在について、何か情報が欲しいところである。
天照大御神様は少しだけ考えて、教えてくれる。
『既に数多の銀河が壊滅状態よ』
「マジですか?」
『マジよ。でもまだ、ギリギリ修復可能な範囲だから、安心してね』
全く安心できないし、私が行ってどうにかなる気もしない。
もういっそ向こうの世界の人々には申し訳ないが、ビッグバンを起こして全てを吹き飛ばしたほうが良さそうな気がしてきた。
でも宇宙は広いし、まだ全てが滅びたわけではないらしい。
天照大御神様に相談し、一体どうして私を信頼しているのかは謎だが、今回は流石にどう考えても手に余る。
過去にも神魔の方々のやらかしに、対処したことはある。
だが明らかに失敗する可能性が高い案件を、引き受けて良いものかと悩む。
『今回は、稲荷ちゃんの分霊を送り込むわ。
強く願えば帰れるし、殺られても戻れるからね?
任務に失敗しても、決して責めたりしないわ』
私は、これは断れない任務だと理解した。
ゲームで良くある、はいを選ぶまで無限ループするやつである。
(放置したら、私の世界も侵略される可能性があるし。
失敗してもお咎めなしなら、駄目元で受けていいかな)
どうにも無理なら、元の世界に帰れるのだ。
ならば、やるだけやってみるのも良いだろう。
少なくとも宇宙を荒らす存在を詳しく知れば、こっちの世界に攻め込んできたときの対処が楽になる。
(これも平穏な暮らしを守るためだしね)
ちょっと行って様子を見て、無理そうなら帰ってくれば良い。
天照大御神様のお願いは断れないし、色々思い悩みはしたけど、最後には引き受けることに決めたのだった。
ただし、異世界に行くのは承諾した。
けれど、いきなり放り込まないで欲しい。
天照大御神様は私なら大丈夫と自信満々で断言していた。
でも自分だって失敗することはあるし、いきなり空間が歪んで異世界に飛ばされたのだ。
正直、全く状況が把握できていない。
だが幸いなことに、あちらの世界と、あまり変わらない都市部に転移したようだ。
馴染みやすいのは良いことで、周囲の人間も見たところ日本人だし、言葉は通じそうだった。
そして私の服装が巫女装束なのは、いつも通りだ。
他には何故か、重要文化財の鳴狐を腰に差していた。
取りあえず軽く手を握り、体の感覚を確かめる。
右手を前に出して開き、狐火を指先に五つ灯してみる。こちらも問題はなかった。
「能力に変化がないのは、ありがたいですね」
本体と同じ力を、分霊の私も使えるのは助かる。
だが問題がないわけではなく、少し空気が薄い気がした。
「どうやらこの世界は、神秘も信仰も足りていないようですね」
例えるなら、空気の薄い山頂で活動するようなものだ。
肉体は頑丈でも、激しく動くとすぐにバテてしまう。
狐火や体を動かすだけでなく、存在を維持するためにも、神秘や信仰は必要だ。
なお、私は戦闘狂ではない。
平穏に暮らしたいだけなので、状況が切迫していない限り、最前線に立って大暴れしたりはしないだろう
しかしレベルを引き継いだということは、敵はそれだけ強大な可能性がある。
数多の銀河を蹂躙しているので、そう簡単にはいかないだろう。
正直、今から気が重い。
だが今回は、人が多く集まっている屋外に転移したようだ。
先程簡単に確認した時は、日本人で助かったと安堵したが、良く考えたら私は狐っ娘である。
こっちの世界に獣人が存在するのか不明だし、少なくとも周りには居ない。
おまけに良く見ると銃火器で武装していた。
私はその中央に、いきなり現れたのだ。
タ◯ミネーターが転送されてきたような、バチバチというド派手な演出である。
その一部始終が見られてしまった。
全裸ではなく、巫女装束なのが救いだ。
しかし人間ではない狐っ娘なので、非常に目立つ。
そして両陣営は一触即発の雰囲気だ。
どうやら戦闘中か、もしくはこれからドンパチする直前だったようで、銃口をどちらに向けて良いか迷っていた。
そんな中で、メガネをかけたリーダーらしき男性が、一番早く正気に戻ったようだ。
彼は良く見ると、腰に刀を差していた。
異世界の日本かもとは思っていたが、銃と刀とは一体今は何時代なのかと、今度はこっちが混乱しそうだ。
「急に現れたように見えたが! 何者か!」
彼の大声で驚きから立ち直り、周りの人たちが次々と発言する。
「まさか! 新種のBETAか!」
「狐の耳と尻尾が生えているぞ! やはりBETAでは!」
BETAという言葉に、何となく聞き覚えはある。
しかし、詳しいことは思い出せない。
(何だっけ? 確かロボットアニメ?)
私は前世でサブカルチャーが大好きだったが、全てを網羅しているわけではない。
基本的に広く浅くなので、名前やネットでネタとして知っているだけで、視聴や読んだことがないモノのほうが、圧倒的に多かった。
なのでBETAが出てくるコンテンツも、その類だと判断する。
そして思い出せないモノをいつまでも考えていても時間の無駄なため、気持ちを切り替えて状況の対処を行うことにする。
聞かれたからには、答えなければいけない。
それに、大勢の前にいきなり現れたのだ。
私はどうしたものかと悩みながら、周囲をもう一度注意深く観察した。
(巨大ロボットが臨戦態勢だ。そしてBETAが出てくるのも、確かロボアニメだったはず)
あとはグロい場面があった気がするが、バトルもののアニメや漫画では良くあることだ。
私は気にしないことにして、もはや色んな意味で誤魔化しようがない。
ここは、正直に話すことにした。
周囲のビル群や銃火器の様子から、文明はかなり発展している。
戦国時代のように稲荷神だと誤魔化すにせよ、そう簡単には信じてはくれないだろう。
しかし、もし駄目だったらその時はその時だ。
どうにも無理そうなら、文字通り尻尾を巻いて逃げ帰れば良い。
その点は気楽なので、駄目で元々だと大きな声を出す。
「私は太陽神の娘! 稲荷神!
天照大御神様から、この世界の脅威を排除するよう、命を受けました!」
ババーンという効果音はない。
だが、恥ずかしがらずに堂々と言い切った。
数百年は生きているので、場数だけは踏んでいる。
頑張って羞恥心を飲み込んで、開き直った。
ワッショイワッショイされるのは未だに慣れないが、こっちの世界ではその心配はないだろう。
とにかく正直に言ったものの、周囲の人たちは先程よりも、困惑が大きくなっているようだ。
(本当のことを言っても、普通は信じられないよね)
現実的に考えれば、十歳ほどの狐っ娘の発言を信じたりはしない。
何処からどう見ても怪しさ大爆発であり、さては敵だなオメーと、その場で銃殺されてもおかしくないのだ。
しかし駄目で元々とはいえ、信じてくれないのは困る。
こっちの世界で妖怪、もしくはBETA認定されて討伐隊を差し向けられたら、元の世界に逃げ帰ることになるからだ。
「証拠はあるのか!」
リーダーらしきお兄さんに、証拠を出せと言われた。
だがこれには、どうにも困ってしまう。
神の存在を証明するのは難しく、まさに悪魔の証明だ。
あっちでは戦国時代から地道に積み重ねてきたというか、やらかしまくってきた。
なので世界中の人々が信じてくれたけど、本来なら今直面している事態のように、ややこしいことになるのである。
しかし、本当に困った。
私は周囲をぐるりと見回して、何というか物々しい雰囲気を肌で感じ取る。
そして足りない頭で考えて、何とか証明するために案を出す。
「では、貴方たちを一瞬で無力化して見せましょう。
銃を向けられたままでは、話し合いもままなりませんしね」
「何だと!?」
私は腰の鳴狐を握って、腰を沈める。
同時に周囲の兵士だけでなく、巨大ロボットもこちらに銃を向けて、引き金に指かけた。
しかし、それは遅すぎた。
私は0,1秒でも隙があれば、グーパンチを叩き込めるのだ。
だが別に、それ以上の速さで動けないわけではない。
衝撃波で大変なことになるので、周囲の人や物を壊さないように加減しているだけだ。
そういう理由で、地面を蹴って高速で動く。
最初は正面の兵士たちの銃火器を、鳴狐で順番に切断していく。
人間が反応できる速度を越えているので、全てが棒立ち状態だ。
巨大ロボットの大きな銃も、悪いけどバラさせてもらった。
周囲の銃火器をあらかた斬り終えたので、元の場所に戻ってくる。
鳴狐を鞘に戻して、大きく息を吐く。
目にも止まらぬ一瞬で消えたあとに、まるで動いて居なかったかのように元の位置に立っていたのだ。
しかし私にとっては、ワンパンで倒すヒーローのように、普通に動いただけである。
ちなみに若かりし頃でも、ガトリングガンの一斉掃射を切り払ったり、海の上を走ったりできたのだ。
今なら、このぐらい余裕でできて当然である。
やる機会は滅多にないし、自己PRをしているわけでもない。
凄く久しぶりだが、力加減はちゃんとできていて安堵する。
ちなみに銃弾を両断しても、鳴狐の刀身は傷一つつかなかった。
元から丈夫だったのか、神秘を宿して神剣にランクアップしたのかは知らない。
あっちで銃弾を斬っても刃こぼれしなかったし、元々素質はあったのだろう。
とにかく、周囲の兵士たちの銃が一瞬でバラバラになった。
刀身の輝きは微塵も曇っていないし、初期装備の巫女服と同じステージに上がったようだ。
私にとって鳴狐は最強の武器であり、かけがえのない相棒になった瞬間なのだった。
見直しが不十分なので、誤字脱字機能を使っていただけると、作者がとても喜びます。