稲荷様はマブラヴ世界でも平穏に暮らしたい   作:名無しのペロリスト

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第一次蒼穹作戦

 横浜基地を襲撃したBETAを、一匹残らず駆除できたのは良いことだ。

 しかし残念ながら人類が置かれた状況は、あまり良いとは言えなかった。

 

 理由は佐渡島ハイヴを攻略中に、私たちの情報がBETAに流れたことだ。

 元々人類を研究していたのもあるが、人類の戦術や兵器に対して急速に対応し始めているのは、もはや疑う余地はない。

 

 幸いなのは、全ての情報が漏れたわけではない。

 I元素の精神防壁により、BETAに流れたのは一部だけだ。

 

 ただ、それが何なのかは不明なので、凄乃皇(すさのお)・弐型やG弾、もしくは人類側の技術や戦略の可能性もあった。

 

 私や眷族の場合、あっちの地球でも理解不能な謎の存在だ。

 自分のことさえ良くわからないのに、BETAに解析できるとは思えなかった。

 

 なお佐渡島ハイヴの攻略に関しても、既に他のハイヴに情報を伝えていると考えるべきだ。

 

 間引きしたあとにより一層警戒を強めて、守りを厳重にしていたのが証拠である。

 

 

 

 しかし今回は逆に、BETAの情報も抜き取ることに成功した。

 今後はこれを参考にして、新しく作戦を立てていく。

 

 具体的には、敵が対策を講じて人類の兵器や戦略を無力化する前に速攻をかける。

 地球に一番最初に落ちてきたオリジナルハイヴ。

 その最深部にいるとされる、あ号標的を完全破壊するのだ。

 

 BETAはオリジナルハイヴを頂点とした、箒型構造になっていることが判明した。

 

 つまり一番上を潰せば、指揮系統は混乱し、他のハイヴの活動が停止する。

 もし動き続けたとしても、頭がなくなればただの生産工場になるので、今後の攻略が楽になる。

 

 現状では、人類の被害は増えるばかりだ。

 余裕があるとは決して言えないが、一世一代の勝負に出るなら今しかない。

 

 

 

 そのような理由で、私は凄乃皇・四型を覚醒させた。

 

 元々は、オリジナルハイヴ攻略用の機体で、決戦兵器だったらしい。

 最新型でも開発が大幅に遅れているため、現時点では性能は弐型と大差はない。

 

 だが失敗が許されない最終決戦だ。

 出し惜しみをしている余裕はなかった。

 

 もしここで負けたら、人類の兵器や戦略はBETAに今後一切通用しなくなる。

 あとは私と眷族がヒーヒー言いながら、必死こいて頑張るしかなくなる可能性があるのだ。

 

 私だって、そんな最悪な事態は避けたい。

 なので、まだ打てる手が残っているうちに勝負に出る。

 

 最終的には、私や眷族だけでBETAやハイヴを処理することになるが、それは今ではない。

 

 

 

 とにかく新たに目覚めさせた凄乃皇・四型には、人間の衛士を乗せることになる。

 

 I元素は人々の祈りや願い、他にも熱血や魂やド根性にも反応するからだ。

 私の信者限定だが、人類との相性は悪くない。

 

 スパロボの精神コマンドほどあからさまでなくても、機体の出力を底上げできる。

 元々の性能が高いほど上昇値も大きくなるし、戦闘経験の高い衛士を乗せて、操縦や火器やレーダーなどを対応させれば、作戦も円滑に進められるだろう。

 

 凄乃皇は一騎当千の強者ではあっても、一人であらゆる分野に対応するのは大変だからだ。

 

 なので凄乃皇・弐型にも人が乗れるように、操縦席を急ぎ追加する。

 以後は通称、伊隅ヴァルキリーズの隊員を割り振ることになった。

 

 そして00ユニットは、内蔵型のニーベルング・システムを担当する。

 

 搭乗者が情報の洪水に飲まれるのを防ぐのだ。

 眷族化については未知数だが非常時だし、ただちに影響はないのでヨシとしておく。

 

 彼女は最初からこっち側で、特に負担は感じない。

 眷族同士なら、どれだけ離れていてもリアルタイム通信が行えるのも、ありがたかった。

 

 

 

 だが香月博士もまだ検証不足で、絶対に安全という保証はないと言っていた。

 

 しかし佐渡島ハイヴの攻略戦と、横浜基地の防衛戦で人類側の戦力はかなり低下している。

 形振り構っている余裕はない。

 

 ちなみに私は生身のほうが強いので、巨大ロボットには搭乗しない。

 ロマン大好きで、本当は乗りこんで操縦したい。

 けれど残念だが、今はそんなことを言っていられる状況ではなかった。

 

 

 

 とにかく人類全ての力を結集して、カシュガルハイヴを攻略することに決まる。

 時間的な猶予は、あと二日もない。

 

 だが私は、別に死ぬ気はなく、悲壮感はなかった。

 眷属たちも同じで、それは人類全体に広がっていく。

 

 皆が生きて帰るつもりで作戦を行う。

 ゆえに今回は、全ての戦場に兵士級が派遣されることが決まる。

 急ぎ人員を割り振っていく。

 

 最初の頃よりも、信者はかなり増えた。

 I元素の回復も高まってきたので、もう兵士級一人、一分もかからずに生産できる。

 

 さらに横浜基地だけでなく、佐渡島の頭脳級も新たに加わったのだ。

 難点は、効率が良くなったのは極最近で、地球全土のBETAの巣に殴り込みをかけるには、まだ足りない。

 

 負けはしなくても、どうしても長期化する。

 

 何より兵士級の大多数に、カロリーバーの拒絶反応が出てしまっていた。

 できればゼリー飲料や携帯食の開発か、I元素の消耗を抑える作戦を行いたいところだ。

 

 

 

 なので、やはり圧勝できるほど戦力を増やす。

 もしくは一つずつ確実に潰していくいくほうが、被害も少なく済む。

 

 一先ず、オリジナルハイヴの攻略を終えたら、弱体化した各ハイヴを地道に落としていく。

 地球を奪還したら、しばらくは兵力増強タイムだ。

 

 月や火星を攻める計画を練って、二度とBETAに蹂躙されないように地球全土を要塞化すべきだろう。

 

 

 

 まあそれも、あ号標的を撃破してからだ。

 

 人類的には最終決戦を前に、何故か私が国連軍の司令官の代わりに演説することになる。

 

 急だったので何を喋れば良いかわからなかったが、彼からカンペを受け取れた。

 なので、ある意味では慣れていた私は、ハキハキと読みあげていく。

 

 あっちの世界でも思うのだが、こういうのは狐っ娘にやらせるよりも、渋いおじさんのほうが絵になるし、兵士たちも気合が入ると思う。

 

 だが神皇という立場上、民意には弱い。

 それに何百年も似たようなことをしているので、何だかんだで慣れがあった。

 

 そういうことで、台本を最後まで読み終える。

 いよいよ蒼穹作戦が始まった。

 

 意味は、BETAに奪われた空を取り戻す。

 

 だが冷静に考えてみれば、もっとこう他に良い名称があると思うのだ。

 

 桜花作戦はどうだろうと代案を出したが、却下される。

 立場的に私が一番偉いので、縁起を担いで士気を上げる目的もあったらしい。

 それなら仕方ないと、渋々でも受け入れる。

 

 結局、その場のノリで提案した、最初の作戦名が採用されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 まずはユーラシア大陸の各ハイヴを、世界中の軍隊が一斉攻撃する。

 BETAの目を引きつけている間に、本命の強襲部隊がオリジナルハイヴに接近。そして降下して、あ号標的を撃破する。

 

 言葉にすると簡単そうに見えるが、現時点で人類は色んな意味で詰みかけている。

 これが正真正銘、最初で最後の世界規模の作戦であり、もう余力は残っていない。

 

 一方でBETAは人類の戦略や兵器を学習して、今がまさに絶好調と言える。

 なので本来なら絶望的な状況だが、そこに私と眷属たちが参戦するのだ。

 

 おかげで各戦線は、割と善戦できてはいる。

 しかし、楽観視できるほど良くもない。

 

 それでも、陽動としては成功している。

 あとは時間を稼いでいる間に、私たちがあ号標的を撃破すれば任務は達成できる。

 

 

 

 そんなことを考えながら、私は横浜基地の管制室の椅子に座って、大きく息を吐いた。

 

 最初の作戦では、大気圏外からカシュガルハイヴに降下し、奇襲作戦を行うつもりだった。

 

 しかしここで、うちの頭脳級が待ったをかける。

 

 理由は凄乃皇・弐型だけでなく、凄乃皇・四型も覚醒して、勝率が高まったからだ。

 人類が有利になったが、もし敵に対処されたら厄介なことになる。

 

 なのでまだBETAに情報が漏れていない、新戦力を作り出すことが決まった。

 

 

 

 やがて時間になって準備が整ったので、この場の全員に聞こえるように大きな声で叫ぶ。

 

「発進準備!」

 

 この日のために集められた人々が、管制室に設置された計器を確認して、緊張気味に声をあげる。

 

「シンクロ開始!」

「出力五十パーセント!」

 

 号令を受けて、反応炉の出力が上昇していく。

 

「出力百パーセント!」

 

 シミュレーションでは、この出力まで上昇すれば問題ないはずだ。

 そこで私は、再び声をあげる。

 

「もう少しです! 大地の鎖を断ち切ってください!」

 

 地上部分だけなら問題ないが、本体はかなり深く埋まっている。

 想定よりも重くなっているからか、なかなかシミュレーション通りには浮上できない。

 

「出力増加中! ……二十……四十……百五十パーセント!

 反応炉が耐えられる最大出力です!」

 

 反応炉は他の眷属たちと同じように、毎日少しずつ成長している。

 それでも、出力限界はあった。

 

 横浜基地やその周辺は、今は震度二の揺れだ。

 事前に伝えてはいるが、地震に慣れていない人はかなり驚くだろう。

 

 しかし、おかげで無事に大地から離れられたようだ。

 まるで天空の城のように、徐々に高度を上げていく。

 

 緊急事態なので、周辺住民には避難してもらっている。

 空からの土や石などによる家屋や施設の破損は、大変申し訳ないがコラテラルダメージとさせてもらう。

 

 艦の下方にくっついているモノが、瓦礫となって次々と落下していく。

 地球人類が生きるか死ぬかの瀬戸際なので、そこは大目に見て欲しい。

 

「アルヴィス! 発進!」

 

 大声で号令を出したが、イルカの像は必要ない。

 ついでにファフナーでもないが、やっていることは同じである。

 

 だが元ネタを知らない世界の人たちに説明しても、理解させるのは難しい。

 今はそんなことをしている余裕はないので、黙っておく。

 

 アルヴィスも私が適当に名付けたのだが、すんなり採用されて今に至る。

 

 とにかく巨大な艦は、目標地点を目指して高速で飛行する。

 

 

 

 ちなみに急ぎなのもあって、横浜基地の反応炉だけでは足りなかった。

 佐渡島からも、I元素を提供してもらっている。

 おかげで飛行能力を持った巨大な艦を、たったの数日で建造することが出来た。

 

 我ながら奇跡のゴリ押しにも程がある。

 反応炉に神気を注ぎ込んで、無理やり超パワーアップさせた結果だ。

 

 

 

 それはそれとしてアルヴィスは、あ号標的に確実に近づいていく。

 だがその途中で計器をチェックしていた、オペレーターが大声で叫んだ。

 

「ソロモンの予言です! 光線級! 重光線級を多数断定!」

 

 ソロモンとは、横浜基地の頭脳級のことだ。

 こちらもアルヴィスと同じように、私が名付けた。

 

 流石に原作同様の全長66キロではない。

 それでも従来の艦船よりも、遥かに巨大だ。

 特別な名前が必要だと、お願いされた結果である。

 

 具体的には、I元素の生産施設をウルドの泉。

 アルヴィスの制御システム、つまり頭脳級の思考をソロモンと名付けた。

 

 私のオタク知識が元になっているが、深い意味はない完全にその場のノリであった。

 

 とにかく量子コンピュータのように行動予測し、BETAの攻撃を事前に察知する。

 

「レーザー照射! 来ます!」

 

 直撃まで秒読み段階で、艦内に警告音鳴り響いた。

 私は素早く次の指示を出す。

 

「ヴェルシールド展開!」

 

 IN粒子を高密度で展開して、バリアのようにアルヴィスをすっぽり包みこむ。

 

 シールドに触れた光線級や重光線級のレーザーが、たちまち霧散する。

 

 それでも、展開前に少しだけ照射を受けて、表面が焦げた。

 幸い、アルヴィスにくっついていた土や岩が削れただけで、ノーダメージである。

 

「稲荷神様! 反撃はできないのですか!」

「ヴェルシールドと飛行に全エネルギーを回していて、粒子ビームで反撃する余裕はありません!」

 

 まずアルヴィスを建造するのにI元素が大量に必要になり、佐渡島の分も使っているのだ。

 空を飛ぶだけでも大変なのに、ヴェルシールドまで展開している。

 

 なので残念ながら、火器に回すだけのエネルギーはない。

 ついでに、あ号標的まで片道切符である。

 

 到着したあとは現場に待機しつつ、I元素の回復を待つことになる。

 作戦が成功しなければ帰還は難しいが、人類の存亡がかかっているのだ。

 失敗したあとのことまで、考える必要はない。

 

「作戦通り! 迎撃は兵士級に任せます!」

 

 なお武装はともかく、頑張ればトランスフォームは可能だ。

 でもマクロスの映画のように、居住区画が悲惨なことになりそうだった。

 絶対に実行したくないし、そもそもやる意味もない。

 

 ただいよいよとなれば、一か八かでカシュガルハイヴにダイダロスアタックを叩き込むことになるだろう。

 

『任務了解! 狙い撃つぜ!』

『その綺麗な顔をふっ飛ばしてやる!』

 

 とにかく残念ながら、今のアルヴィスには攻撃手段がない。

 それに横浜基地の武装では、高高度からでは正確に狙うのは難しい。

 

 そもそも空から撃つようにはできていない。

 なので、敵の迎撃は兵士級に任せることにする。

 

 幸い、敵が長距離攻撃をしてくるということは、位置がモロバレになるということだ。

 

 狐火を収束して放てば、粒子ビームのように標的を撃ち抜くことができる。

 念話が少々やかましいが、ピンチはチャンスだ。

 

 しかし眷族になって能力を底上げしているとはいえ、これはヤバい。

 

 敵も同じことをやれない保証はない。

 やはり危険だとしても、速攻をかけて倒したほうが良いと判断する。

 

 

 

 とにかく、横浜基地の頭脳級には頑張ってもらう。

 プールで腹筋に力を入れているようなもので、少しでも緩めばヴェルシールドや飛行能力が弱まり、下手をすれば地面に真っ逆さまである。

 

 行き当たりばったりにも程があるが、だからと言って今さら作戦中止はできない。

 

「今は全速で、カシュガルハイヴを目指します!」

「了解! 機関最大!」

 

 そういうことで横浜から飛び立った私たちは、ユーラシア大陸を横断する。

 

 やっていることはファフナーの竜宮島のミールに近いし、潜水艦や宇宙船としても運用できるだろう。

 

 突貫工事と脳筋ゴリ押しの何とかなれーなので、色々と不具合が出そうではある。

 だが今は、気にしている余裕はない。

 

 

 

 しかし、ユーラシア大陸を上空から見ると、BETAに荒らされまくっている。

 草木が全然生えてないので、復興支援が大変そうだ。

 

 何にせよ、このまま人類が滅ぼされるわけにはいけない。

 絶対に地球を取り戻そうと思いつつ、私は椅子から立ち上がる。

 

 そして降下に備え、左翼部分のL区画に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 L区画には、既に全員が揃っていた。

 ギュウギュウ詰めで、とてもむさ苦しい。

 私は少しだけ顔をしかめつつ、跳躍して凄乃皇・四型の肩に乗る。

 

 そこで出撃前に、軽く準備運動をしておく。

 

 追従する他の兵士級たちも、同じように体をほぐし始める。

 別に私の真似をする必要はないが、注意するのも違う気がした。好きにさせておく。

 

「これよりL計画を実行します! 皆さん! ご武運を!」

 

 オペレーターから作戦実行が伝えられたので、どうやら時間になったようだ。

 

 アルヴィスからL区画が分離される。

 姿勢を制御しつつ、地上めがけて降下していく。

 

 私はこういう作戦に慣れているから、少し緊張するけど特に何も思わない。

 

 しかし眷属たちは、初めてでもマイペースだ。

 降下中も、楽しそうにキャッキャウフフしている。

 

 こんな時でも全く動揺していないとは、やはり娘なのだと再確認した。

 生きるか死ぬかの瀬戸際なのに、メンタルの強さが半端ではない。

 

 それはそれとして、カシュガルハイヴがどんどん近づいてくる。

 

 アルヴィスから切り離されたのでI元素の供給が途絶えて、粒子回復は不可能になった。

 何よりヴェルシールドから外に出れば、敵のレーザー照射を受ける。

 

 AL弾を空から落としたが、敵は殆ど迎撃しなかったようだ。

 重金属雲の濃度が足りていない。

 

 それに数が多すぎて、兵士級による迎撃も追いついていなかった。

 

 やはりBETAは、私たちを警戒して戦力を増強したのは間違いなさそうだ。

 

 しかし敵の学習能力や対応力は脅威だが、それならそれでやりようはある。

 

 

 

 こんなこともあろうかと、日本全国の各工場をフル稼働させ、兵士級の専用戦術機を作っていたのだ。

 最初はあっちの世界のコンバットフレームを参考にする予定だったが、残念ながら時間も技術も足りなかった。

 

 結果、とにかく動けば良い理論に行き着く。

 何故か私のオタク知識から、ファフナーの人類軍の機体、ドミニオンズモデルが誕生した。

 

 ガンダムで言えば、ザクやジムのような量産機だ。

 しかし世代を越えて進化を続け、無駄を省いて実用性抜群。装備の換装も可能で、あとは格好良い。

 

 ちなみに大きさは二十メートル程なので、戦術機と同じぐらいである。

 

 だがやはり残念ながら、時間もコストも全く足りてない。

 重要なのはI元素を全身に巡らせていることで、頭脳級が作成した特殊なコアを組み込む。

 

 すると、搭乗者の思うがまままに動かせるようになる。

 眷族にしか操縦できないという条件はあるが、原作のように同化現象は起きない。

 

 自身に近い存在なので手足の延長として動かせるのだろうが、戦力増強になったのでとにかくヨシだ。

 

 神皇権限で国家事業として頑張ってもらったけど、それでも限界はある。

 中身がスカスカで武装もしょぼくて、性能テストも不十分だ。

 実戦テストで、どのような不具合が起きるか、不安しかない。

 

 最終決戦直前に、全部で七機しか用意できなかった眷族の専用機だ。

 調整不足の試作機とも言うが、ゲン担ぎに開発者たちはセブンズと呼称している。

 

 

 

 ちなみに、もし人間がI元素の機体に搭乗したら、それこそ同化ならぬ眷族化現象が起きる可能性が高い。

 最初の人類のテストパイロットは、起動が上手くいかずにゲーゲー吐いていた。

 

 適応できなかったのか、誰でも起こる現象なのかは不明だ。

 

 幸い急激に進むわけではないが、何らかの影響が出るのは避けられないだろう。

 安全が確認されるまでは、人類の搭乗は止めておくのが無難だ。

 

 

 

 そんないわく付きの機体だが、実戦投入されたドミニオンズの性能は、他の戦術機とは格が違った。

 

 他では無理だが、超高速の三次元戦闘が可能で、L区画の外に出ているのは七機だけだが、それでも立派に役目を果たしている。

 

 フェイズシフト装甲のように、I元素を活性化させることで強度を増していた。

 自己再生能力も持っているおかげで、光線級や重光線級からレーザー照射されても平気な顔をしている。

 狐色のイージス装備を前面に展開して、敵の光線を防いでいた。

 

 

 

 適応能力はBETAにもあるが、彼らよりも大幅にパワーアップした眷族たちが、やれない理由はなかった。

 

 しかし機体の造形だけでなく、機能もファフナーに近い。

 どうせ皆いなくなるとか書かれないだけマシだが、この世界の現状も絶望的ではある。

 

(私自身がフェストゥムの親玉の、ミールのようなものだしなあ)

 

 内心でそう思ったが、BETAとの相性は最悪である。

 

 何しろ信じて送り出した兵士たちが、強化されて敵の尖兵に変えられているのだ。

 ゾンビウィルスに感染した、人類のようなヤバさである。

 超人血清のバフも加算されているしで、BETAがマジで勘弁してくださいと土下座してもおかしくはなかった。

 

 

 

 とにかくドミニオンズモデルが先行し、陣形を組む。

 敵の光線を引き受けてくれていた。さらに、逆にエネルギーを取り込んでいるようだ。

 

 ドミニオンズモデルのおかげで、燃費も良くなって出力も上がったし、眷族たちは一体何処まで進化するのかである。

 

 

 

 しかしおかげで、突入ルートは無事に確保した。

 地表との距離もかなり近づいてきたので、L区画に逆噴射がかかり、勢いが落ちていく。

 

 私や眷族はともかく、人類にはかなりの負荷がかかる。

 しかし、それでも一人の犠牲者を出すことなく全員無事だ。

 

 

 

 最後が少し揺れたが、無事に降下して隔壁が開いていく。

 収容限界人数を越えた兵力が、一斉に溢れ出でてくる。

 

 すし詰め状態でむさ苦しかったので、シャバの空気が美味しく感じる。

 

 さらに横浜基地に設置されていた無数の砲台が稼働し、地上のBETAに向けて休むことなく砲撃を繰り返していた。

 敵の注意を引きつける役目は、十分に果たしてくれている。

 

 なお、やっていることは脳筋ゴリ押しの正面突破だ。

 カシュガルハイヴに、こっちの基地を無理やりぶつけた。

 

 本当に、どうしてこうなったである。

 しかし、多分コレが一番成功率が高いし、結果良ければ全てヨシだ。

 

『BETAがなんぼのもんじゃい!』

『稲荷魂を見せてやる!』

『やってやる! やってやるぞ!』

『のりこめー!』

 

 どうでも良いが、眷族たちの通信がやかましすぎる。

 ドミニオンズモデルの衛士以外にも、物凄い数の兵士級が作戦行動中なのもあった。

 

 おかげで、とにかく賑やかなのだ。

 

『モウヤメルンダ!』

『摩擦熱とオーバーロードで自爆するだけだぞ!』

『ドミニオンズモデルから、光が逆流する! ギャアアアアアアアッ!』

 

 念話なので、人類の皆さんに聞こえないのは幸いだろう

 しかし、彼女たちのおかげで、私もさほど緊張せずに済んでいる。

 

『光の翼が綺麗ですねえ!』

『レーザー照射を吸収できるのはありがたいけど! 放出しすぎぃ!』

『過剰エネルギーを、外に垂れ流してますからねえ!』

『光の翼には! こういう使い方もあるんだ!』

 

 レーザー照射を吸収できても、機体に蓄えられるI元素の量には限界がある。

 なので過剰分は外に放出しているのだが、幻想的で綺麗だ。

 しかし頻繁にやり取りされる会話は、眷族化する際に私の知識が流れ込んだからか、ネタまみれで汚い。

 

『イナリフレームの共振現象も起きてるやん!』

『ゲーミングドミニオンズモデルさん!?』

『ユニコォォォォン!』

『父さん……母さん、ごめん。……俺は……打ちに行くよ!』

『パチンカスうううう!』

 

 だが彼女たちの奮闘のおかげで、敵の防衛線に穴が空く。

 さらにはレーザー照射で位置が判明した光線級や重光線級を、反撃とばかりに収束した狐火で次々と撃ち抜いていった。

 

 そしてオリジナルハイヴへの突入作戦は、次の段階に進むのだった。

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