稲荷様はマブラヴ世界でも平穏に暮らしたい 作:名無しのペロリスト
成り行きで大立ち回りをしたものの、相変わらず今の状況は全くわかっていない。
なのでその辺りを尋ねるために、大きな声を出させてもらう。
「たった今来たばかりの私には、戦闘の理由がわかりません!
なので大変申し訳ありませんが、両成敗させてもらいました!」
たまたま戦場のド真ん中に転移して、両陣営から銃を向けられたのだ。
当たってもピンピンしているけど、気分の良いものではない。
見た感じ、この場に居るのは誰もが同じ日本人だ。
「それに銃を向けられながらでは、話し合いもできませんしね!」
私は平気でも、他の人たちは平静ではいられないだろう。
それこそ殺らなければ殺られると考え、本当に戦いが始まりかねない。
「なので私に、今の状況を教えてください!
どちらに味方するかを決めさせてもらいます!」
もちろん暴力は最後の手段だ。
それでも話を聞けば、どちらの勢力に味方するかの判断材料にはなる。
できれば仲良くしたいが、互いに相容れないものもある。
日本を長く統治していれば、その辺りのことは良くわかっていた。
(まあ、あっちは勝手に狐色に染まったけど)
第二次世界大戦ではソビエトと戦った。共産主義と稲荷主義の対決だ。
なお戦後の地球は、世界中が狐色に染まった。
なので譲れないモノを飲み込んで、互いに手を取り合うことができている。
だがこっちは違うだろうし、取りあえず腹を割って話すために、私は腰の鳴狐を外して地面に置く。
そして正座をして、背筋を伸ばした。
明らかに無防備だが、これっぽっちも緊張はしていない。
呑気な顔で口を開く。
「私は世界を救いに来たのです。
戦いは望んでいませんし、まずは落ち着いて話し合いましょう」
やりたい放題やった私が言うことではない。
でも自分が参戦して両陣営の武器を破壊しなければ、もっと酷いことになっていた。
なので、何だか知らんがとにかくヨシの精神で、代表らしいメガネの人に声をかける。
「貴方たちが憤っている理由を、私は知りません。
ですが、人を殺めるのは止めてください」
私がのんびり会話をしている間に、武装を失った二体の巨大ロボットが動き出す。
背後に居るので気づかれないとでも考えたのだろうが、排除または捕獲を試みているようだ。
わざわざ振り向かなくても、このぐらい気配でわかる。
ニュータイプのように、後ろに目があるわけではない。
だが自分は人間よりも遥かに感覚が鋭いので、この距離なら微かな動きでわかってしまうのだ。
座ったままの姿勢で、地面に置かれた鳴狐を掴んで引き抜いた。
刀身に狐火をまとわせて、振り向きざまに青い炎の斬撃を飛ばす。
二体のロボットの腕と足を、正確に切り落とした。
爆発こそしなかったが、巨体が崩れ落ちて盛大に土煙が舞う。
周囲には大きな音が響き渡り、少しだけ地面が揺れる。
鳴狐を鞘に戻しながら、再び彼らに話しかける。
「信じられないのは無理はありませんし、警戒するのもわかります。
ですが、それでも私は貴方たちと戦う気はありません。
もし最初からその気なら、出会った直後に全滅させています」
ただし今は状況がわからず非常事態でもないので、戦闘になっても殺す気はない。
せいぜい武器を奪って無力化し、狐火で脅かすぐらいだ。
それでも怪我をするので、しばらく悪いことはできなくなる。
とにかく今の行動で、私が神かはともかくとして、両陣営が手を組んで一斉に襲いかかっても、到底勝てそうにないと理解したようだ。
メガネのお兄さんが、大きな声で降参を宣言する。
「わっ、わかった! ならば我々の正当性を証明しよう!」
私は満足そうに頷き、にっこりと微笑む。
「理解してくれて良かったです」
一触即発の雰囲気だったので、人が死ぬ前に止めた。
成り行きでそうなっただけであり、特に深い理由はない。
だが人の命が失われるのは悲しいことだ。
あの時に、止めとけば良かったなどと、後悔はしたくなかった。
なので相手が誰であっても、取りあえず停戦させたはずだ。
少なくとも自分は、都市でドンパチしない。
平和な世界から来たし、戦争はしてはいけないという価値観を持っていた。
ただ両陣営のどちらが正しいかは、状況によるとしか言えない。
戦いを止めさせた私のほうが、間違っている可能性もある。
なのでそれを確かめるためにも、双方から話を聞いて情報を集め、この世界のことを知るべきだ。
メガネのお兄さんが仲間と連絡を取って、作戦の中止を伝える。
狐耳は地獄耳とは言わないけど、そのぐらいはわかった。
そして多少強引だが戦いを止めさせた私は、双方から情報を得ようとする。
だが、どうやらそう簡単にはいかないようだ。
悠長に話している間に、次々と新しい巨大ロボットや兵士たちが集まってきたのだ。
その全員が、私に銃を向けている。
(まあ、どう見ても怪しいし、危険人物だからね。下手をすれば人体実験コースかぁ)
やはり自分を神だと信じさせるのは、凄く難しいようだ。
いざとなったら元の世界に帰れるが、その場合は他の宇宙にも被害が拡大するか、ビッグバンエンドである。
(さて、どうしたものかな)
どう考えても無理ゲーすぎると頭を抱える。
果たしてこの状況から入れる保険はあるのかと悩んでいると、頭の中に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『日の本の国の民たちよ。聞こえますか?
私は天照大御神。貴方たちの母です』
直接生んだわけではないけど、広義的には母と言えなくもない。
そして、この声は私以外にも聞こえているようだ。
周囲の人たちも驚いていた。
『今、貴方たちの世界は滅びの危機に瀕しています。
その状況を打開するために、私は稲荷ちゃ……稲荷神を遣わしました』
いつものように稲荷ちゃんと言いかけた。
だが慣れている私は、すぐに気にしないことにする。
『ですが貴方たちが、稲荷神を利用や排除しようとすれば、彼女は貴方たちを見捨てるでしょう』
私も来て早々、コレはアカンやつだと思った。
今も帰る気満々だったし、天照大御神様の説明は正しい。
『稲荷神は、人類にとっての蜘蛛の糸です。
救いを求めて這い上がるか、人類同士で醜く争い、BETAに蹂躙されて滅びるか。
……それを決めるのは貴方たちです。私も稲荷神も強制はしません』
そもそも蜘蛛の糸は仏教だったはずだ。
でもあっちの世界で、立川のアパートに住んでいる神様と仏様とは、お友達同士である。
しかし、普段のお母さんはもっと慈愛に溢れているはずだ。
だが今回は口調は穏やかなのに、やけに厳しい気がする。
一体どうしてだろうと考え、やがて気づく。
(内心でブチ切れてるやつだ!)
そもそも戦場のド真ん中に、いきなり転移させたのが悪い。
しかし、人心はかなり荒廃していて、疑心暗鬼に陥っていた。
神の証明は不可能だし、どう足掻いても人体実験コースの可能性のほうが高そうだ。
天照大御神様が、娘認定している私の扱いが最悪だった。
なので、私の稲荷ちゃんに何すんじゃいとブチキレるのも、わからなくもなかった。
周りに居るのが全て敵なら、逝って良しの精神で平静を保てた。
しかし救うべき民に銃を向けられているので、怒りゲージがぐんぐん溜まる。
(もし稲荷ちゃんが見放したら、もう知らん。勝手に滅びろって思ってそう)
その証拠に、天照大御神様は別れの挨拶がなかった。
まるで言うべきことを言ったからと、受話器を勢い良く叩きつけるように、声が聞こえなくなったのだ。
文字通り、人類に与えられたラストチャンスである。
きっとクイズ番組のテレフォンのように、使用は一回キリだ。
以降は天照大御神様の助けは期待できないし、私も頼るつもりはない。
なお残りの二つ、オーディエンスとフィフティフィフティは存在しない。
そして、このメッセージは周囲の人々だけでなく、日本国民全員に向けられたものらしい。
狐耳は遠くまでよく聞こえるので、都市全体に混乱が広がっているのを察することが出来た。
そんな状況で、私もどうしたものかなと苦笑いを浮かべ、頬をかきながら口を開く。
「先程の繰り返しになりますが、話を聞きたいのですが良いですか?
あと、逮捕や拘束はしないでくれると助かります」
片方だけでは一方的な情報しか得られない。
もし間違っていたら大変なので、やはり両陣営から話を聞きたいところだ。
周りの人たちはまだ困惑しているが、リーダーらしきお兄さんがビシッと敬礼してくれた。
「わっ、我々は稲荷神様に従います! もちろん構いません! 全てをお話致します!」
「ありがとうございます。助かります。……ええと」
そう言えば、メガネをかけた軍人さんの名前を知らないことを思い出す。聞く余裕がなかったのもある。
しかし私が困っているのを見て、敬礼しながら答えてくれた。
「日本帝国本土防衛軍! 帝都防衛第1師団!
あまりにも長すぎる自己紹介だ。理解するのに時間がかかる。
そもそも、日本帝国って何やねんとツッコミを入れたい。
だが多分、私の知る地球とは別の歴史を歩んできたのだと納得しておく。
「では、沙霧大尉に命じます!」
「はっ!」
「ただちに武装を解除し、戦闘を中止してください!」
この発言は、流石に予想外だったようだ。
彼は背筋を伸ばして姿勢で平静を装いつつも、若干冷や汗をかいている。
「貴方たちの身柄は、日本国神皇である、稲荷神が預かります!
一時的な措置ですが、安全は保証します!」
もし危害を加えるようなら、大暴れして、攻撃してきた勢力をボコボコにする。
武装解除した人を襲うなど、非人道的な行為を見逃すわけにはいかない。
ただ彼は一勢力のリーダーであって、敵の武装も解除するのは難しいので、戸惑っているようだ。
「いっ稲荷神様! はっ、発言してもよろしいでしょうか!」
「許可します!」
ありがとうございますと、ビシッと敬礼する。
このことから、規律が厳しい軍教育を受けたのだと理解した。
あっちの自衛隊や近衛も似たようなものだ。
しかしペロリストからは距離を取っているので、詳しいことは知らない。
あと、私はそこまで知りたくはなかった。
「日本国神皇とは、どのような役職でございますか!」
「ああ、まずはそこからですか」
私がこちらの世界を知らないように、こっちも自分のことを何も知らない。
ならば、まずは双方の情報をすり合わせるところからだ。
これはかなりの長丁場になりそうだし、情報を整理する時間が必要である。
立ち話も何だし、ちょうど行政府っぽい施設の前なのは都合が良い。
一先ずお邪魔させてもらうことに決めて、話し合いはそちらで行うことにする。
現場はとても混乱しているので、この状況ではもはや戦いどころではない。
私も含めて周囲の兵士たちも、とにかく情報集めるべく一時停戦する。
戦闘を始めれば、速攻潰す宣言をしたのが、効いたのかも知れない。
結局私も、武力で脅していることには違いないけど、何やかんやで丸く収まればヨシと判断して、行き当たりばったりでも交渉の場を設けるのだった。
<稲荷神様に対する世界の反応>
日本「天照大御神の神託だ! 稲荷神様は本物の神様かも知れない!
でもBETAと同じ地球外から来た宇宙人の可能性もあるし! 下手なことをして怒りを買いたくない!
んー……触らぬ神に祟りなし! 取りあえず様子を見よう!」
アメリカ「稲荷神だと? どうせ神を語るペテン師だろう。
だが日本中にメッセージを伝えるほどだ。強力なESP能力者の可能性もある。
もしくは狐の耳と尻尾を生やした、BETAとは異なる宇宙人だな。
何にせよ日本のサル共では扱いきれまい。あのような存在は、我がアメリカが管理してこそ人類も存続できるのだ」
その他「稲荷神? 誰それ? 外人? ……歌?
どうでも良いけど支援してよ! もちろん人道に則って無料でね! こっちは危機的状況なんだし、急ぎで頼むよ!」
作者のマブラヴ知識は、最近のセールで衝動買いしたオルタネイティヴの漫画の全十七巻と、かなり昔に視聴したアニメ、トータル・イクリプスとシュヴァルツェスマーケンとなります。
なので内容が偏ったり、稲荷様とは関係なかったり、原作通りな場面を端折ったりすることを、あらかじめご了承ください。
そして日本とアメリカ以外の状況が良くわからないので、大変申し訳ありませんが三国のみとさせていただきます。