稲荷様はマブラヴ世界でも平穏に暮らしたい 作:名無しのペロリスト
政府機関にダイナミック入店させてもらった私は、大会議室に皆を集める。
そして多少強引だけど、武装を解除させた両陣営から事情を聞く。
その結果、かなり複雑で根が深い問題だと理解する。
とてもではないが、自分に解決は無理だ。
それでも、誰が悪いかは良くわかった。
なので椅子に座った私は、結論をはっきりと口にする。
「私の世界のアメリカとは大違いですね!
いくら何でも暗躍しすぎでしょう!」
最初に降下地点となった中国も、BETAを舐めてかかって大惨事を引き起こしている。
特大のガバであり、ハイヴを世界中に広めた罪もあった。
だがそれはもう、終わったことだ。
今さらタラレバを言って責任を押しつけても状況は好転しないし、国家が滅びてしまってはどうしようもない。
「そもそも! BETAは宇宙規模の侵略生物ですよ!
存亡の危機なのに、人類同士がいがみ合うなんて!」
この星の人類は、強大な敵に攻め滅ぼされようとしている。
しかし、まだ争いを止められないようだ。
そのような事情を聞かされた私は、思いっきり頭を抱える。
そして溜息を吐いたあとに、大きな声で告げる。
「それにBETA由来の物質で作られたG弾が!
何で対策されないって、楽観視できるんですか!」
空軍でしばらく一方的に攻撃していたら、光線級が出てきて撃ち落とされたのだ。
今は成長速度は緩やかになっているが、私が思うに人類はBETAの脅威ではないので、現優先力でも十分に対処できると判断したからだと考えられる。
実際に団結できずに内輪揉めばかりしている間に、地球はBETAの星になりつつあるのが、その証拠だ。
「さらには一発撃つたびに、広範囲に重力異常を引き起こすなんて!
欠陥兵器も、いい加減にしてください!」
まだ環境の回復が見込める、核爆弾のほうがマシだ。
しかし、こっちは光線級に撃ち落とされるけど、それでもG弾に頼るべきではない。
なお私は、基本的に困っている人を放っておけない。
これまで渋々でも解決に尽力してきたが、今回は流石にモチベーションがダダ下がりである。
こんなに助けがいのない人類は初めてだった。
まあそもそも、人を救う機会も滅多にないことだが、それはそれだ。
「お母さんが怒るわけです!」
「あっ、天照大御神様は、おっ、お怒りだったのですか?」
「ええ、人前なので抑えてましたけどね!」
私が銃を向けられたのもある。
けどこっちの世界の人類の好感度は、元々かなり低かった。
ルプスレギナではないが、お前には失望したぞ状態なのだろう。
私も同じで、スパロボのミストさんのように、『これじゃ、俺、地球を守りたくなくなっちまうよ』と内心で大いに嘆いた。
(けど、中にはまともな人も居るはず。
地球がBETAに侵略されるのも、滅亡するのは受け入れたくないし)
誰だってBETAを倒して、祖国を取り戻したい。
ただ中にはこの期に及んで、金儲けや利権ばかり考えている国家や組織もある。
侵略者を神と崇めて、過激なテロ行為をする宗教団体も存在するらしい。
頭痛の種には事欠かないし、どう考えても私の手に余る。
(駄目だ! 解決できる気が全くしない!
ある意味、いつも通りだけど!)
このような無理難題には慣れている。
まあ正直、慣れたくはなかったけど、戦国時代に転生してから綱渡りの人生だったのだ。
今回は逃げ道が用意されているので、多少はマシだろう。
それでも、そう簡単に逃げ出すわけにはいかない。
自分を疑っている者も居るが、救いを求めている人も存在するからだ。
(一応は神様だしね! 民草を救えずして、何が神皇だってやつだよ!)
ただし、こっちの世界では神皇ではない。
わざわざ体を張って、頑張る必要はなかった。
でも、やっぱり困っていたり苦しんでいる人々を見捨てて、自分だけ逃げ出す気は起きない。
せめてここまで地球を荒らし回るBETAの親玉を、一発ぶん殴ってやらないと気が済まない。
なので私は、今後の方針を大きな声で口にする。
「わかりました! ではまずは、国民の心を一つにしましょう!
これ以上、他国に引っ掻き回されるのはごめんですからね!」
私の発言に、周りの人たちは驚く。
しかし同時に、何かを期待するような視線を向けてくる。
「そっそれはよろしいのですが! 一体どのようにして!?」
そもそも自分は、あまり頭が良い方ではない。
基本的にその場のノリや、行き当たりばったりの行動である。
なので今回も思いつきだが、駄目なら駄目でまた別の手を考えるまでだ。
「BETAとの戦いで亡くなった英霊たちを、召喚します!」
「「「えっ!?」」」
あっちの世界の、第二次世界大戦後の靖国神社でやったことだ。
あれからかなりレベルアップしたし、今なら問題なく行えるはずだ。
(ただ、こっちの世界は神気の回復が遅いからなあ)
信者も少なく、神秘も薄い。
大規模な奇跡を起こせば、当分は満足に力を振るえないだろう。
しかし、だからこそ回復力を高めないといけない。
私を神様だと信じる人たちを増やすことで、能力の底上げにもなるので重要な儀式だ。
(急に現れた狐っ娘を、信じられるかはわからないけど!
やってみる価値はあるでしょ!)
日本帝国の人口は、あっちの日本の半分以下だ。
それでも信者が増えれば、神気の回復速度は上がる。
長期的に見れば、損ではないだろう。
ちなみに、クーデターを起こした帝国軍は、私が身柄を預かっている。
本当は法廷で裁くのだが、こっそり紛れ込んで武力衝突を引き起こしたアメリカのスパイも居たし、結果的に死者は一人も出ていない。
そもそも、犯行声明を出す直前だった。
日本帝国を混乱させたのは悪いことだが、そこまで重くはならないはずだ。
だから私は、一向に恥じることなく堂々と宣言する。
「彼らは今後! 私専属の近衛隊とします!」
「斯衛軍でございますか!?」
文字的に正しいはずなのだが、何かが違う気がする。
コテンと首を傾げながら、言葉を続ける。
「近衛隊ですけど?」
「ですから、帝国斯衛軍でございますよね?」
話が通じているようで、微妙に通じていない。
なので、その辺りについて詳しく説明してもらう。
するとこの世界には、帝国斯衛軍が帝国軍とは別枠の独立武装組織として存在していることが判明する。
「ややこしいですね!
でも良く考えたら私が統治する日本でも、近衛隊と自衛隊で軍事組織が二つありましたね!」
さらに、両勢力は凄く仲が悪い。
私のペロリストの座を巡って、日夜争っているのだ。
まあそれでも仕事はちゃんとしてくれているし、多少のことは大目に見る。
表彰状や撮影会は恥ずかしいけど、彼らのモチベーションを高めるには必要なことだ。
とにかく、今はこっちの話だ。
コホンと咳払いをして、続きを話していく。
「日本帝国は、内乱をしている余裕はありません!
対BETAの貴重な戦力を、無駄にするわけにもいきません!」
クーデターを起こそうとした勢力は、実力者揃いだ。
彼らが命を落としたり、刑務所に入れられるのは避けたい。
「私なら、彼らが暴走しても鎮圧できます!
貴方たちも、信用できない味方を近くに置きたくはないでしょうし!
ちょうど良かったですね!」
私も信用してないという言葉は飲み込んだ。
今は天照大御神様の神託のおかげで、一応信じてみるわという気にはなっている。
だが時間が経って冷静になったり、他国の工作員に惑わされる。
あっさり手の平返しをする可能性もあるのだ。
そうなったら私は、今度こそこの世界の人類を見限る。元の世界に帰ってしまうだろう。
……そうはなりたくないけど、可能性としてはゼロではない。
なので色々事情を知っていて弁が立つ、クーデターのリーダーだった沙霧大尉を、私の右腕的なポジションにする。
今後は彼と相談し、方針を決めていくことにする。
だがその前に一段落したので、机の上に置かれたお茶を飲んで乾いた喉を潤すのだった。
<白銀武>
俺は地上で戦い続ける十数億の人々を残して、人類が地球を捨て、宇宙に逃げ出した世界からやって来た。
正確には、時間は無限の多様性に満ちている。
あらゆる可能性を網羅した世界が、無限に存在しているのだ。
なので、別の可能性の世界からやって来た。
自分も良くはわかっていないけれど、そういうことらしい。
そもそも人類に敵対的な地球外起源生命体、通称BETAなど存在しない。
元はと言えば、俺はそこから来たのだ。
しかしある日突然、おかしな世界に放り出されて、訓練兵として必死に戦った。
だが無常にもオルタネイティヴ5、地球脱出計画が発動する。
数少ない人類が移民船に乗って宇宙に旅立ち、残りが地球に残って最後まで戦うことになった。
最後の駆逐艦打ち上げを見送ったことは覚えている。
けれど、その後の記憶はあまり鮮明には思い出せない。
それでも、一つだけわかる。
自分はまたあの日、あの時に戻ってきたということだ。
この世界では、三十年ほど前からBETAによる侵略を受けてきた。
おかげで地球人口は、十数億人にまで減少している。
けれど移民船に乗れるのは、たったの十数万人だけだ。
永遠に離れ離れになるだけでなく、地上に残された者たちは玉砕同然の反攻作戦に狩り出されることになる。
そんな地獄のような未来の行き着く先など、地球人類の絶滅以外ない。
たとえ運良くBETAを排除できても、G弾による環境悪化で人が住めなくなるからだ。
推し進めていたオルタネイティヴ4がどのような計画なのかは、今の俺には知る術がない。
しかし残念ながら、前回は失敗した。
オルタネイティヴ5の地球脱出計画に移行してしまう。
もし成功していたら、また違った未来になっていたはずだ。
そして地獄を知っている俺にとっては、現状唯一の希望でもある。
香月福司令、自分は先生のほうが馴染み深いが、事情を話してまずは彼女の協力を得る。
ただ完全に信用してくれたかは不明で、上司と部下の関係で便利に使われているだけな気がした。
それでも相談に乗ったり、便宜を図ってくれたり、さらには進むべき道を示してくれる。
俺よりも遥かに頭が良い香月先生は頼りになった。
そして未来に少しずつだが変化が出てきた。
前回よりも、良い方向に変わってきている。……はずだ。
身の回りの変化は微々たるものだが、大きすぎる変化は未来が全く読めなくなる。
自分の歴史知識が無価値になってしまうらしく、言われてみればその通りだ。
それでも、人が大勢死ぬよりはマシだ。
幸いなのは記憶だけでなく体力まで、前の世界のままなことだ。
おかげで皆に置いていかれることもなく、余裕を持ってついていける。
佐渡島から出現したBETA群の動きを、未来を予知して撃退する。
歩兵から衛士となるための試験にも、無事に合格した。
再突入型駆逐艦の、横浜基地への落下も未然に防いだ。
オルタネイティヴ4がカシュガルハイヴを攻めるための手段なのも、香月先生から教わることができた。
新概念のOSも完成して戦術機に組み込み、使用した衛士の戦闘力や生存率も上がる。
オルタネイティヴ4の中核である00ユニットも完成。……とはいかないが、元の世界の香月先生からヒントを貰えば、大きく前進できることがわかった。
なので、本当に未来は良い方向に進んでいるはずだ。
だが人類は、依然として絶望の淵に立たされている。
BETAの侵略を受けていて、結局は何も変わってはいなかった。
そんなある日、俺は不思議な声を聞いた。
正確には日本に住んでいる人たち全員が、頭の中に直接語りかけられる。
神々しい姿をイメージさせられるなど、明らかに普通ではない体験だ。
ちなみに、眠っていた人たちは夢に出てきたらしい。
内容は天照大御神様が、この世界を救うために稲荷神様を遣わせたということだ。
ほぼ間違いなく、BETAの脅威を排除する目的なのだろう。
しかしこの科学万能の時代に、神様が本当に存在するのかは疑問に思った。
例えば、俺たちは全員が集団幻覚を見ていたなどだ。
もし科学的に証明できるなら、こっちの方がまだ信憑性がある。
ただそのあとすぐに、帝都のクーデターを稲荷神様が鎮圧されたと明らかになった。
そのような大事件は前には起きなかったし、俺の知識にも存在しない。
一体何が起きているのか、まるでわからなかった。
自分だけでなく、横浜基地の他の軍人たちも混乱しているようだ。
いつも冷静な香月先生ですら、明らかに困惑していた。
だが同時に、好奇心が抑えられないようだ。
俺は稲荷神様の存在が気になっているんだと、すぐに察する。
それから数時間後、今度は日本全国にある告知がされる。
内容は、稲荷神様が鎮魂の儀を行うことだ。
その際に、青い人魂が目の前で現れるけれど害はない。
亡き家族や友人と最後の別れを行い、心安らかに見送るようにとのことだ。
なお稲荷神様が帝都の大社で、神楽舞いも踊るらしい。
はっきり言って、発想が斜め上にかっ飛んでいる。
怒涛の展開が止まらないし、本当にわけがわからなかった。
それでも、横浜基地に設置されたラジオから、彼女の声が流れてくる。
今起きていることは、紛れもない現実だと認識させられた。
「日の本の国を守りし英霊たち、そして不幸にも犠牲になった方々。
家族や友人との、最後の別れの時が来ました」
声を聞く限りでは、十歳前後の少女だ。
そんな子供が神様とか、嘘だろと思いはする。
しかし次の瞬間には、疑念が頭から吹き飛んでしまう。
何と横浜基地に勤務する人たちの前に、青白く透き通った無数の幽霊が現れたのだ。
悲鳴をあげる人、慌てて逃げ出する人、驚きすぎて気を失ったりと、反応は人それぞれだった。
俺はと言えば、こっちの世界で亡くしたと思われる、両親の姿がはっきり見えてしまう。
いきなりのことで冷や汗や震えが止まらないが、ラジオからは害はないので落ち着くようにと、繰り返し放送が流れていた。
(確かに二人共、困った顔をしてるな)
言葉は喋れなくても、怖がらせてしまって申し訳なさそうな顔をしている。
その表情からは、怒りや苦しみは一切感じられない。
これが集団幻覚でなければ、本物の死者の霊にしか見えないが、とても安らいだ表情をしていた。
(これが鎮魂の儀か。しかし俺は、こっちの白銀武ではない。何だか申し訳ないな。
……それに)
友人や知り合いも、何人か居るようだ。
この世界でも仲良くなれたことを喜ぶべきか、失ってしまったことを悲しむべきか迷う。
それでも、あの元気の良い幼馴染の姿は見えない。
(やはり純夏は、この世界には居ないようだ。……本当に良かった)
あっちの世界の大切な幼馴染が、こんな地獄に居ないことを素直に喜ぶ。
そして、これ程までに強大な力を行使できる稲荷神様は、間違いなく本物だ。
他の日本国内の人々と同じく、認識を改めざるを得ないのだった。