稲荷様はマブラヴ世界でも平穏に暮らしたい 作:名無しのペロリスト
時間がないので、神様の特権を利用して鎮魂の儀をゴリ押した。
行き当たりばったりの考えなしは、今に始まったことではない。
だがこれで、日本国内での知名度はかなり上がったはずだ。
靖国神社を建てた頃よりレベルアップしているおかげで、良い汗をかいた程度で済んだ。
それでも全回復まで、時間がかかりそうだ。
けれど普通に動く分には問題はないので、取りあえずはヨシとしておく。
これで出歩くたびに襲撃を受けたり、銃口を向けられたりはしないだろう。
だが神を語った以上、文字通り雲の上の人になるのは確定だ。
今後は沙霧大尉たちや帝国軍が、護衛につくことになる。
しかし、予想外なこともあった。
薬が効きすぎたのだ。
科学万能の時代なので、神を自称する者に対して、風当たりが凄く強い。
なので死者の霊っぽいモノを呼んで自己PRしても、そこまで効果ないと思っていた。
だが今の地球は、BETAによって壊滅的な被害を受けている。
アメリカは国際的な立場や利権、金儲けのために暗躍しているので、危機感があるのかないのかだが、それでも人類滅亡寸前まで追い詰められているのだ。
そんな地獄のような世界に降臨したのが、私である。
神を自称する狐っ娘で、怪しさ大爆発なのは間違いない。
態度は人類の味方っぽいけど、果たして信じられるのかといったところだ。
しかし人類にとっては、藁にも縋る思いだった。
さらに亡くなったり行方不明の親しい者たちと会って、言葉は交わせなくても別れを済ませる。
色んな意味で吹っ切れた。
ついでに、現在の日本帝国は大量の難民を抱えている。
BETAに祖国を滅ぼされて、国連に身を置いている軍人も駐留していていた。
それもまた、薬の効きを強める要因だ。
二千年代の初頭の日本では、無敵の人などという言葉がある。
それは、こっちでも存在していたようだ。
BETAを殲滅して祖国を取り戻せるなら、泥に汚れたり命を捨てる覚悟を決めた人である。
個人的にはありがたいが、制御に難ありなので暴走しそうでもあった。
幸いなのは私の命令には喜んで従ってくれることで、駄目なのはアメリカや他国はクソ食らえなことだ。
彼らに共通しているのは、私に従えば地球からBETAを一掃できると考えていることで、それを邪魔するアメリカや他国の暗躍が大嫌いなのは一貫していた。
稲荷神様の妨害をするんじゃねえよと、強火のペロリストたちを生み出してしまう。
まだBETAと戦ってないのに、期待度が天元突破している。
それこそ悪魔に魂を売ってでも復讐を果たし、祖国を取り戻したい。
だが私は、帝国軍の一部を両成敗で無力化したり、死者の霊とお別れさせて、日本国民の心を一つにしただけだ。
肝心のBETAは、資料映像を見たぐらいで、彼らとの戦闘経験はない。
敵はいくつもの銀河を侵略しているので、舐めてかかるわけにはいかなかった。
体調は万全にしておくに越したことはなく、取りあえず神気が全回復したら、様子見に行く予定だ。
幸いBETAが大移動するまで、まだ少し時間があった。
明日には事態が急変している可能性もあるが、多分大丈夫だろう。
ただこうしている間にも、前線では毎日大勢の人がBETAに殺されている。
生活環境も最悪なので、飢えや病気やテロなどで毎日大勢が亡くなっていた。
あまりのんびりしているわけにもいかないので、神楽舞いと鎮魂の儀のあとに、断髪式も行った。
別に引退した力士ではないし、金髪ショートしたいわけでもない。
だが、これは必要な儀式だ。
何しろあっちの世界では、私の髪は霊験あらたかな御守として流通している。
ただし効果を得るには、私の信者なのが最低条件だ。
悪人には何も起きなかったり、逆に不幸になったりする。何とも神様らしい祝福や祟りだ。
なお、切った髪だが、すぐに元の長さまで生え揃うので問題はない。
ただこっちだと回復が遅いので、数日はかかるかも知れない。
とにかくこれで、麻のように乱れていた日本帝国は一致団結した。
参拝者は榊首相や征夷大将軍。
他にも政財界の主だった面々を集めて、厳かに行われる。
自称神の信憑性はともかく、実力は本物だと認めている。
だからこそ各関係者は必要な儀式だと割り切って、早期に実現できた。
それに、この国の大勢の人々は、BETAを排除して平和な日本帝国を取り戻したいと望んでいる。
道を違えることはあっても、目指す未来は同じなのだ。
なので利害や感情を飲み込み、手を組むことができた。
天照大御神様の神託が効いたのもあるかも知れないが、今のところは順調に進んでいる。
だが敵は、BETAだけではない。
アメリカや他国、敵を神と崇めるテロ組織、思想がぶっ飛んでたり洗脳された人々など、警戒すべき対象が多すぎる。
BETAによって、地球の人口は十数億人にまで減らされた。
しかし人類が相変わらず一丸になれず、足の引っ張り合いに余念がない。
BETAは遠く離れた数多の銀河も侵略しているし、太陽系から追い出したあとは、今度はそっちも地道に潰していかないといけない。
改めて考えると、無理ゲーすぎる。
やることが山積みすぎて、終わりが見えないのだ。
けど、一から十まで私がやらなくても良い。
人類に任せられるとことは、任せてしまえばいい。
しかし狐色に染まった元の世界はともかく、こっちでは絶対良からぬことを考える者が出てきて、盛大にやらかしそうだ。
何年、何百、何千年と頑張った成果を台無しにされるのは、到底許容できなかった。
だが少なくとも、BETAをこの宇宙から完全に排除すれば、私の役目は終わりだ。
その後のことまで責任を持てないし、たとえ人類の愚かさで滅亡したとしても、知ったこっちゃないのだった。
とにかく今は、心を一つにするのが重要だ。
日本だけでなく、地球人類よ。団結せよである。
BETAに奪われた国を全て取り戻し、さらには月や火星、太陽系から完全に排除する。
私は平穏に暮らしたいのに、残念ながらのんびりしている時間はない。
放っておけば状況は悪化する一方なので、急がないといけないのだ。
ただ私は、政治家や技術者ではない。専門的な知識は期待できなかった。
頑張ってあここれ考えて、直感で判断するしかない。
日本帝国の舵取りしても、絶対に失敗しそうだ。
これまで通り、榊首相や征夷大将軍に任せるのが良いだろう。
今の時代になっても残ってる将軍家って何だよと思ったが、こっちも私が台頭して上に立ってしまった。
大変申し訳なく思う。
しかし、徳川さんの時代にも似たようなことをしたし、今さらと言える。
ついでに、大雑把な方針を提示するだけだ。
あとはプロの政治家に丸投げである。
一応最終チェックはさせてもらって、不自然な箇所は丸で囲んだり横線を引いて、修正したり詳しい説明を求める。
その上で、再提出を命じることも良くあった。
私としては、公務をする気はなかったのだ。
けれど、佐渡島ハイヴの攻略は一朝一夕にはいかない。
それに帝都の神社の一室を貸してもらい、衣食住の面倒を見てもらっている。
なので家賃を払えるぐらいは、労働をしないと駄目だ。
おかげで今は、一般的な政治家よりも真面目に働いている。
正直、今の日本帝国に、能力のある者を遊ばせている余裕はない。
征夷大将軍の
だが彼女は、今まで籠の中の鳥だと聞いた。
立場はあまり変わっていないが、一応は神が降臨したのだ。
少しだけ負担が軽くなったと言うか、無理やり表舞台に出させてもらった
なので、多少は立場が良くなったようだ。
私も将軍家に必要書類を届けに行ったりする。それは建前で気分転換の外出が目的だが、それはそれである。
とにかく彼女の屋敷で、仕事や相談事、茶飲み話をさせてもらう。
狐っ娘の中身は元女子高生で一般人だが、これでも数百年以上生きている。
しかし、気持ち的にはまだまだ若いつもりだ。
それでも同性であり、女子トークが盛り上がる。
話題は殺伐としているし政治の話が多いが、それはそれだ。
ただ私は、国の舵取り以外にも、机の上に何枚も紙を広げる。
あっちの世界のコンバットフレームや、強化外骨格や無人機など、兵器工場や制作現場の見学に行ったことを頑張って思い出す。
片っ端から書き記しているので、超多忙である。
私は技術者ではないし、専門知識も持たない。
だが、こっちの世界の科学者なら、理解はできなくてもキッカケにはなるはずだ。
技術開発が軌道に乗ったら、ライセンス生産を認めてガンガン他国に売り出す。
戦術機や歩兵の能力が上がれば、その分だけ生存率が高くなり、BETAの脅威に対抗できるからだ。
既に国家予算を使い、複数の国内企業での共同開発がスタートしていた。
素人の私には全然わからなくても、その筋の専門家には参考になるらしい。
無駄ではないので良かったけど、提供したのは兵器の構造だけでない。
工場の完全自動化や偵察ドローンなど、果ては料理や娯楽も含めて、知識や技術の幅が広すぎる。
確かに、こっちの世界にないものばかりだ。
何処で何が役に立つかはわからないけど、成果が出るのはしばらくかかりそうだ。
普通に考えれば、実用化する前にBETAに蹂躙されそうである。
なので、そこはまあ私が何とかするしかない。
それはそれとして、
私はBMX10:プロテウスの設計図を、頑張って思い出しながら書き記す。
その途中で一息つき、お茶を飲みながら口を開く。
「でしたら今は無理でも、地球からBETAを追い出したら、一緒に暮らせますね」
「そうでしょうか?」
どうやら、それは叶わぬ願いらしい。
生まれてすぐ分けられた原因を、彼女の口から語られる。
「煌武院家では、双子は世を分ける忌児なのです。
存在が許されているだけでも、まだ良い方でしょう」
私は表面上は平静を装いつつ、大きく息を吐く。
そして心の中で、何処の因習村だよとツッコミを入れる。
だがこっちの世界では、BETA侵略によって人類滅亡の危機だ。
未だに権力や利権争いが盛んに行われているし、そんなことしている場合じゃないと排除した可能性もある。
それはそれとして、身体は闘争を求める人間が多すぎる。
しかしこっちは、成り行きで日本帝国の最高統治者をしているのだ。
厄介事が次々に出てくるので、ふざけるな馬鹿野郎と絶叫したくなる。
幸いと言って良いかは個人的には微妙だが、今の日本帝国は自分に権力が集中する神権政治だ。
少し前まではゴチャゴチャしていたけど、非常事態なので無理やり統合させてもらった。
将軍家や政治家が権力争いを始めても、私が叱れば即沈静化だ。
もしくは正当性は
なのでもう、忌児だから何だよ状態なのだ。
しかし理論的には可能でも、急に変えるのは難しい。
けど優秀な衛士は是が非でも欲しいし、情勢が落ち着くまでは
平和になれば姉妹の再会も叶うので、今は妹さんの無事を祈る。
BETA殲滅のために頑張るのだった。
しかし状況は、かなり切迫している。
波風を立てたくないとはいえ、姉妹で一切話をしないのも寂しいものだ。
もしかしたら互いに話すことなく、死に別れてしまうかも知れない。
私は少しだけ考えて、彼女にある提案をする。
「
「手紙でございますか?」
相変わらずの思いつきだけど、私は彼女に説明していく。
手紙は、自分が直接手渡すから意味がある。
ま……まああんたほどの実力者がそういうのならの、理論であった。
やっていることは、ただ横浜基地まで行って荷物を渡すだけだ。
しかし
この世界の日本帝国の仕組みとしては、天皇、征夷大将軍、内閣府の順番に権力を持っている。
そんな政治体制になっていた。
江戸時代は将軍家が政治の中心で、現代になってもそれは変わらない。
しかし戦後は権力を大きく制限され、名誉職に等しいお飾り的な立場になっている。
さらにBETAに侵略されて大ピンチの日本帝国の将軍など、貧乏くじすぎて誰もやりたがらない。
おかげで
ただやはり政治の発言権はないに等しく、私が来る前まで冷遇されていた。
日本人の魂を取り戻すということで、帝都でクーデターが起きたわけだ。
やはりこの世界は、色んな意味でヤバすぎる。
現在は私が、成り行きで最上位に立ち、国の舵取りをしている。
かなり適当で大雑把ではあるが、それでも一番偉いのだ。
自分の下の統治体制は変わっていないため、反発も少ないのは助かる。
それだけ期待されているからだが、失敗したら一気に手の平返しされそうだ。
まあその時は、尻尾を巻いて元の世界に逃げ帰るだけである。
でも、できればそのような事態は避けたい。
なので前の世界でも同じだが、一人でも応援してくれる人がいて、私のモチベーションが保つ限りは、やるだけやってみるつもりだ。
もしアメリカが邪魔をしてきたら、グーパンで殴って黙らせる。
……と言うことはなるべくせずに、話し合いで解決したいところだ。
でも私は、行き当たりばったりの考えなしである。
向こうも問答無用で発砲してきそうだし、暴力には暴力で対抗することになる可能性は、とても高い。
アメリカは国際的な立場を盤石にして、他国を思うがままに操ろうとしているのは間違いない。
そして私も人類を団結させるために、日本だけでなく各国を狐色に染めようとしている。
似たり寄ったりな気がするけど、違うのだと言いたい。
何にせよ私の存在は、アメリカからすれば目障りだろう。
もちろん、全ての人がそう考えているわけではない。
だが一部の権力者は、とても警戒している。
絶対、何かしらの干渉や妨害をしてくるのは目に見えていた。
しかし、四六時中警戒していても疲れてしまう。
そういう輩を炙り出すためにも、手紙配達は悪くない案だ。
こんな絶好の機会を逃すわけがないし、必ず仕掛けてくるはずだ。
わざと漏らして、国内に潜んでいるスパイを誘き寄せたり、色々と悪いことができる。
だが、私は専門家ではない。
そっちは政治や情報戦のプロにお任せさせてもらう。
しかし今後の方針を決めたものの、帝都から横浜まで遠い。
さらに公式訪問をするためには、相応の理由や準備が必要になる。
そこで私は、元の世界でも良くやっていた、お忍びの世論調査という名の、食べ歩きツアーを行うことに決定した。
正式訪問ではない。
けれど国民が認知すれば、それが事実だ。
嘘ではなく本当にあったことなので、信憑性が高い。
最終目的地は横浜基地で、変装してお出かけだ。
貴重な女子仲間だし、危険は承知だけど一応誘ってみる。
「
駄目元で誘うと、にっこりと微笑みながら返事をする。
「喜んで、ご一緒させていただきます」
囮は一人より二人のほうが、敵も食いつきやすい。
それに、これまで籠の中の鳥で。政治的に冷遇されていたのだ。
外に出る機会が、あまりなかったのもあるだろう。
しかし、自分を囮にすることに微塵も躊躇しないようだ。
心臓に毛が生えているとしか思えない。
「いざとなったら戦う覚悟はしていますが、稲荷神様はお強いのでしょう?」
「確かに強いですが、乱戦になったら守りきれないかも知れませんよ」
とんでもない度胸だと、呆れるやら感心するやらだ。
けれど、とにかくOKが出たので、急いで旅行の準備をするのだった。