稲荷様はマブラヴ世界でも平穏に暮らしたい 作:名無しのペロリスト
横浜基地の目指して特急列車に乗り込み、個室で向かい合って座った。
私は窓の外の景色を眺めつつ、ミカンの皮をのんびり剥いていく。
今の御時世では、果実は超高級品だ。大切に食べようと思った。
そして正面の席には征夷大将軍が座っている。
襲撃されても守られることを良しとはしない志だ。
いざとなったら自ら先頭に立って戦うため、現役バリバリの武士である。
(でも、私も武士なんだよね)
敵軍に特攻し、将を討ち取ったあとに無傷で生還する狐っ娘である。
そんなことを考えていると、どうにも嫌な予感がした。
なので、急いで周囲にそのことを伝える。
「事件か事故かはわかりませんが、何かが起きようとしています!
皆さん、注意してください!」
征夷大将軍が力強く頷き、周りの人たちにはっきりと告げる。
「わかりました! 皆も、稲荷神様の言われた通りに!」
「「「ははっ!!!」」」
室内には護衛も二名入っているので、実は結構狭い。
これでも一応はお忍び旅行だし、耳と尻尾を隠して、良いところのお嬢様を装っている。
お付きの者たちも同じで、一般人に変装して武器を隠し持っていた。
流石に戦術機は持ってこられない。
ただ、一般人のほうが餌としては魅力的だろうし、私は一向に構わない。
いざとなったら狐火で結界を張り、そこから出ないようにお願いしておけば、一先ず周囲の人は安全だからだ。
そんなことを考えながら
少しだけ時間が経つと、妙な視線を感じて窓の外を観察する。
列車は今、山間部の線路を走行中のようだ。
自然豊かな風景に心が安らぐが、私は帽子の下の狐耳を澄ます。
「……狙われていますね」
「一体何処から!?」
煌武院さんだけでなく、護衛の人たちにも緊張する。
だが残念ながら、悠長に説明している時間はない。
私は列車の窓を素早く開けて、小さな体をねじ込んで、勢い良く外に飛び出した。
途中で帽子が脱げたが、気にしている暇はない。
そして地面に足がつく前に、両手から狐火を放出し、一気に加速する。
敵は既に見つけている。
弾丸のように一直線にかっ飛んでいく。
光線級の対処が面倒なので低空だが、障害物を避けるぐらい簡単だ。
途中で、向こうから高速で飛来する物体を感知した。
巨大な弾丸と一瞬で接触し、条件反射でかかと落としを叩き込む。
重い音が響いて地面深くにめり込み、小さなクレーターができた。
一息ついて顔を上げると、見たこともない戦術機が山陰に隠れているのを発見する。
列車か線路を狙って発砲したのだろう。
事故を起こして私たちを亡き者にしようなど、そんなことはさせない。
敵は次弾装填、または任務失敗で撤退、もしくは迎撃する気だ。
だがもう時既に遅しで、私の間合いに入っていた。
こっそり持ち込んだ、鳴狐の封を解く。
そして両足で地面を蹴って、高速ですれ違いざまに、両手足を切り落とした。
行動不能になって地面に崩れ落ち、土煙が舞う。
次に即Uターンして、機体の胴体部分に降り立つ。
コックピットを両手にガッチリ掴んで、特に抵抗なく引きちぎった。
無造作に、ポイッと放り投げる。
そもそも狐っ娘の腕力は、BETAを遥かに越えているのだ。
合金製の装甲でも薄紙程度の抵抗にしかならず、こじ開けるのは容易だった。
「ばっ、化物め!」
敵の衛士と対面した瞬間、人をモンスター扱いし、いきなり拳銃を発砲してきた。
狙いは正確で、何もしなければ全弾ヒットしただろう。
しかしテロリストには残念だが、見てから回避は余裕だ。
ついでに、たとえ当たっても無傷である。
しかし巫女服の上に着ている衣服は、そうではない。
取りあえず相手の弾薬が尽きるまで、付き合ってあげる。
「終わりですか?」
弾切れでカチカチ音がしている。
こちらに拳銃を向けている衛士の顔色が、明らかに悪くなった。
私は丁寧に英語で対応しているが、彼はさっきから汚い言葉しか使ってくれない。
これでは、まともな会話は望めないだろう。
挙句の果てに、証拠隠滅や私を殺すために、自爆装置を作動させようとした。
流石にそれは見過ごせないので、一瞬で距離を詰めて座席を引っ掴む。
そのまま、強引に引きちぎった。
「失礼しますね」
相手の絶叫が聞こえるが、構うことはない。
そして彼を外に運び出したあとに、ぶん殴って気絶させ、手早く拘束するのだった。
一先ず危機は去ったので、仲間と連絡を取る。
あとは日本帝国の専門機関を派遣し、処理してもらえばいい。
だが何故か呼んでないのに、別のテロリストたちがやって来た。
悪意を感じ取り、私を騙そうとしたので残当だ。
情報漏洩を恐れたのか、それとも仲間の衛士を連れ戻す気なのかはわからないが、私と一緒に殺そうとする。
やっぱりこの世界の人類は色んな意味でヤバいことを再確認する。
そして受け止めた銃弾を、丁寧に返してあげた。
狙いは正確で、武装集団の手や足に当たる。
全員が地面に崩れ落ちたが、急所は外した。
即死ではないし、処置が間に合えば、時間はかかるが元通り回復するはずだ。
念のために隠し持っていた爆発物で自決や証拠隠滅させないように、身体検査をして全部没収しておく。
その途中で気配を感じたので、顔を上げて木の陰に視線を向ける。
「今すぐ出てこないと、攻撃しますよ」
「待ってください! 敵ではありません!」
両手を上げながら、胡散臭いおじさんが姿を見せた。
テロリストのおかわりが来た時から、隠れて様子を窺っていたのは気づいていた。
しかし、彼からは悪意のようなものは感じない。
念のために脅しとして指先に狐火を灯すと、慌てて説明をし始めた。
長いので省略するが、どうやら帝国情報省の関係者で間違いないようだ。
そして、もう少ししたら彼の仲間も到着するらしい。
「では、
「ははー! お任せください!
稲荷神様を送迎する車も、間もなく到着する予定です!
足として、ご自由にお使いください!」
何とも準備が良いことだが、私は車に乗り替える気はない。
しかし石油燃料が不足しているご時世に、何とも贅沢なことだ。
それぐらい自分の存在が特別、かつ重要ななのだろう。
けれど、そこまでしてもらう必要はない。
(そもそもこの人も、反乱を誘発した疑いがあるんだよねえ)
自分は神皇なので、ある程度の情報は得られる立場にある。
なので、
ただクーデターは死者を出さずに鎮圧されたし、アメリカが糸を引いていたのは明らかだ。
まだあまり日が経っていないこともあって、その辺りのことは調査中である。
とにかく、そういう諸々の仕事は日本帝国からBETAを追い出してから、本腰を入れて取り組んでもらう。
それまでは一旦棚上げにし、思想や過去の罪はどうあれ、優秀な人材は活用するのだ。
諸々の罪状は、今後の仕事や活躍次第で恩赦も可という、戦時中のガバガバ理論である。
とにかく私は狐耳を澄ませ、遠くを走る列車を感知する。
そして今後の方針を決めたあとに、鎧衣さんに声をかける。
「車は必要ありません。
空を飛んでいけば、列車に追いつけますしね」
そう言って私は、両手から狐火を放出して飛んでいく。
ちゃんと光線級を警戒して低空を維持しているので、問題はないのだった。
しかし今回は、下手をすれば大惨事になっていた。
やむを得えず突撃して敵を鎮圧したが、敵はBETAのはずなのに、何で人類同士で争っているやらだ。
そんなことを考えつつ内心で溜息を吐き、列車に追いついて平行して飛行する。
出てきた部屋を探す。
途中で他の乗客や乗員と視線が合って驚かせてしまったが、子供たちはキラキラした目で見てくる。
なので、私も笑顔で手を振ってあげた。
それはそれとして出てきた部屋を見つけたので、開きっぱなしの窓に手をかけて、よっこらしょと体をねじ込む。
私専属の近衛隊長である
「おかえりなさいませ。稲荷神様」
「ただいま戻りました」
床に足をつけると、彼は手に持っていた帽子を手渡してくる。
「お忘れ物でございます」
「ありがとうございます」
そう言えば勢い任せに飛び出した時、帽子を置いて来たことを思い出す。
わざわざ回収してくれたようで、お礼を言って受け取る。
そして、狐耳を隠すように被り直した。
「どうでしょうか?」
「大変良くお似合いでございます」
彼の副官であり、この世界の私のお世話係。
どうやら問題ないようなので、次の質問をさせてもらう。
「煌武院さんは?」
「再度の襲撃を警戒し、別室に移られました」
「そうですか。では、私たちも行きましょう」
「はっ! お供致します!」
彼らが部屋の扉を開けて先導してくれたので、私を後ろをついていく。
事前に念入りに掃除をしたとは言え、この列車内に敵が潜んでいない保証はない。
警戒を強めて避難するのは正しい判断であり、本当はすぐにでも停車して、近くの基地に駆け込むべき案件である。
だが私が単独行動したり、色々とややこしい事情もあった。
今のところは、テロリストは全員捕縛したので問題はないはずだ。
一先ず嫌な感じはしなくなったし、危機は去ったと判断する。
私たちは、煌武院さんの元に向かうのだった。
列車での移動中に襲撃されたが、全員を返り討ちにする。
しかし予想はしていたけど、私の存在を邪魔だと思う勢力もいるようだ。
もしくは征夷大将軍である
何にせよ帝国情報省が尋問し、事実関係等を明らかにしてくれるだろう。
問題は、これからどうするかだ。
私たちがお忍びで、横浜基地に向かっていることを知る者は少ない。
反乱分子を炙り出すために、意図的に情報を漏らしてはいる。
もしくは疑わしい者に、それとなく伝えて様子を見たりだ。
もし旅を続けるなら、今後も襲撃される可能性は十分にある。
今は煌武院さんが避難した別室に移動し、互いに座席に腰を下ろして相談すると、意外な答えが返ってくる
「私は、旅を続けるべきだと考えます」
彼女の提案は予想外だけど、一先ずはお茶を飲みながら耳を傾ける。
「襲撃は一度だけとは限りません。
この機会に我が国の膿を出し切るべきかと」
確かに先程は、レーダーに映らない謎の戦術機に狙撃されたと、たった今知らされた。
だが国内に潜んでいるテロリストが、アレで全て片付いたとは思えない。
まだまだ反乱分子は潜伏しているだろうし、この先何度も襲撃される可能性があった。
(しかし、今の日本帝国ってそんなに酷いの?)
内輪揉めでクーデターを起こそうとするぐらいなので、冷静に考えれば別におかしくはなかった。
ならば今回の旅行は、テロリストたちにとっては千載一遇の機会なのだろう。
私はその辺りについて、率直に質問する。
「この国は、そんなに酷いのですか?」
それに関しては、煌武院さんではない。
私の護衛を務める近衛隊長の沙霧さんが、姿勢を正して口を開く。
「稲荷神様に、恐れながら申し上げます!」
「聞きましょう」
一応は私の方が立場が上だ。
今は家族を演じていないので、上司として発言の許可を出す。
「現状、日本帝国だけでなく! 全ての世界の人類が、一致団結できずに醜く争っております!」
そのことは私も知っているから、やっぱりなーと溜息を吐いてしまう。
「特にアメリカはBETAに国内を荒らされておらず、G弾を所有しております!
ゆえに混乱を拡大し、利用して、各国を思うがままに操ろうと、裏で画策していると考えられます!」
帝国情報省の調査で判明したらしい。
確かに彼の国はクーデターの発火役や、列車事故を引き起こそうとした。
国家間の陰謀が、今なお渦巻いているのは確かだ。
私からすれば人類滅亡まで秒読みの状況で、こんなことをしている余裕なんてないはずだ。
しかしガンダム種の人類がドンパチしているように、無駄に元気が有り余っていた。
私から振った話題だけど、現実を直視すると気分が重くなってくる。
大きく息を吐きながら頭を抱えて、気分転換に窓の外に視線を向ける。
「己のエネルギーを兵器に転用するのは基本ですし、BETAは惑星間航行も可能な種族です。
それに耐性持ちが生まれない保証なんて、誰もしてくれませんよ」
よくもまあ、今なお余裕をぶっこいていられるものだ。
もしくは、自国内で意志統一ができていない可能性もある。
G弾に関して、脅威論や不要論など色んな意見が出てくるのだ。
挙句の果てには過激なテロ組織も存在する。
こっちの地球は治安がヤバいことになっているが、戦争中なので仕方ない。
それにハイヴを一つや二つ潰したぐらいでは、BETAにとっては痛くも痒くもない。
敵は数多の銀河を荒らしまくっている、恐ろしい種族だ。
総数は想像することしかできないが、どう考えても地球人口など比較にならないほど多い。
なので、たとえ人類が地球だけでなく太陽系を取り戻しても、BETAからすれば大した損害ではない
学習能力のあるBETAに同じ手が何度も通じるとは思えないし、遅かれ早かれG弾を無効化される。
逆に反撃を受けたら人類に打つ手はないし、滅亡待ったなしだ。
あっちの世界でも未だに解析不能な私なら、多少は時間を稼げるだろう。
しかしBETA由来のエネルギー兵器に関しては、敵は理解も対処も容易な気がした。
そういう意味では、やはり使わないに越したことはない。
私はこの場で、もう一度懇切丁寧に説明する。
そしてお茶を一口飲んで乾いた喉を潤して、続きを話していく。
「私、BETAの脅威は、ちゃんと警告しましたよね?」
「はい、日本帝国だけでなく、世界各国が周知しております。
しかし稲荷神様のことを、未だに信じぬ者も多く」
「ええ、まあ……そうですよね」
私が人類救済のために降臨した神様だと、証明するのは難しい。
今は実績や信頼を積み重ねていく時期だ。
いきなり過程をすっ飛ばして、我が旗の下に集えと宣言しても、誰もついて来てくれない。
ある意味では、こっちの人々の反応はリアルだ。
私も本来なら、こうなるはずだったことを自覚させられる。
やはり全世界が狐色に染まるほうが、おかしいのだろう。
(ワッショイワッショイされなくて済むと思えば、お尻も痒くならないし気楽だけど。
今回はかなりの長期任務になりそう。気長に進めていくしかないね)
分不相応な過大評価でワッショイワッショイされると、羞恥のあまり赤面してお尻が痒くなってくる。
今は周りの人たちだけなので、個人的には気楽であった。
それにBETAの駆除は、どう考えても長期間になる。
すぐ終わるわけがなく、地道にコツコツ成果を上げていくしかなかった。
ただ、私のことを信じずに反発する人が多いほど長期化し、人類の犠牲も増える。
しかし、そこまで責任持てない。何より、警告を無視した結果なので自業自得だ。
本来は、地球人類が解決すべき問題でもあった。
救いの手を拒むというなら、それでも構わない。
私は自らに課せられた使命を果たすだけなので、他の人たちはどうぞご自由にだ。
今は私を信じて、救いを求めている人たちを助けたい。
そのためにも、引き続きお忍び横浜旅行を続けるのだった。
旅行にトラブルはつきもので、あちこちでドッタンバッタンの大騒ぎになる。
もちろん全て叩きのめして鎮圧したが、無駄に知名度が上がることになった。
きっと後世になったら、正体を隠した煌武院さんが悪人を成敗する暴れん坊征夷大将軍。または、お供を引き連れて世直しの旅をするドラマが、大量に作られそうだ。
なお、横浜基地に行くことは少数の関係者には伝えているが、時間は決まっていない。
煌武院さんは冷遇されていて、滅多に外には出られなかったのだ。
こんなご時世だけど、せっかくの国内旅行を満喫させてあげたい。
危険と隣り合わせで鉄臭いが、それはそれである。
なので、あちこち見て回って食べ歩いたり、戦没者に祈りを捧げたりと、当初の予定よりも時間はかかった。
それでも無事に、横浜基地に到着するのだった。
到着したその日は、戦術機の新OSのお披露目会が開かれるらしい。
訓練兵vs歴戦の衛士の、白熱した戦いが見られるのは楽しみだ。
表向きはお忍びだけど、護衛も連れているし裏では連絡が届いている。
正門の警備をしている二人の兵士に身分証を見せると、すぐに通行を許可してくれた。
ただし、完全には信用していないようだ。
それとも、やんごとなき御方の護衛のつもりか、数名の兵士が同行する。
とにかく私たちは、横浜基地の建物内部に入っていく。
少し歩くと、司令と副司令、さらには地位の高そうな人たちが勢揃いしていた。
彼らは、ビシッと敬礼する。
「ようこそいらっしゃいました。
長旅でお疲れでしょう」
あれだけ大立ち回りをすれば、帝国情報省でなくても耳に入るのは当然だ。
司令はその後、何処までもマイペースの私と、少しお疲れの煌武院さんを見る。
「専用の個室をご用意させていただきました。
視察の前に、お体を休めるのがよろしいかと」
疲れ知らずの狐っ娘はともかく、煌武院さんも護衛も人間だ。
長旅は疲れが溜まるし、司令の言う通りだろう。
私は少しだけ考えたあとに、彼女にこっそり耳打ちする。
「せっかくのご厚意ですし、休ませてもらったらどうですか?
訓練兵に話を聞く、良い口実にもなりますし」
表向きはお忍びで、横浜基地の視察が目的だからだ。
情報を集めるために呼び出した訓練兵が、たまたま彼女の身内だった。
本音と建前は大事で、互いに姉妹と気づいても、その場では家族の話は一切しない。
横浜基地や近況について、あれこれ話をするだけだ。
最初に渡す予定だった手紙も、お世話になったからという理由で、帰り際に出せば問題はない。
非常に回りくどいが、気持ちは伝わるはずだ。
彼女もそのことがわかったようで、微笑みながら返事をする。
「では、お言葉に甘えさせてもらいますね。……稲荷神様は?」
「私は別に疲れていませんし、模擬戦を見学したいですね」
巨大ロボット同士の、ガチンコバトルに興味津々だ。
前世から、ずっとサブカルチャーやロマンが大好きだった。
狐っ娘に転生してからも、それは変わっていない。
ただ基地内にも、テロリストが潜んでいる可能性はゼロではない。
ここは超重要施設で警戒厳重だろうけど、多国籍なので外国の人が居ても怪しまれないからだ。
「煌武院さんをお願いしますね」
「命に代えてもお守り致します!」
彼女だけでなく、護衛にもお守りを渡している。
私を信仰していて悪人でなければ、悪運は強いはずだ。
最近は前線でも、そのような話がちらほら聞こえてきて、霊験あらたかだと評判である。
この世界の死亡率はとんでもなく高いので、お守りの効果が実証されるとは皮肉だ。
けれど、命が助かるに越したことはない。
ただ自殺志願者のように敵の群れに突っ込む場合、運だけでは死は避けられない。注意が必要である。
それはそれとして私は煌武院さんと別れ、偉い人たちに横浜基地の案内してもらうのだった。
通路を歩いている途中で、私はあることが気になってきた。
第六感というやつで、そのことについて率直に質問させてもらう。
「横浜基地では、BETAを飼っているのですか?」
この質問は司令ではなく、副司令のほうが驚きが大きかったようだ。
平静を装っているが、冷や汗をかいていることに気づく。
そして彼女は少しだけ唇を震わせながら、質問の答えを返していく。
「確かに横浜基地は、ハイヴの上に建てられているわ。
稲荷神様が勘違いされるのも無理もないけど、大丈夫よ。
念入りに掃除を行ったから、今はBETAは一匹もいないわ」
副司令はそう言うが、私はこれっぽっちも納得できない。
なので、案内役の彼女たちについて行くのを止める。
続けて、先を歩いていた彼らを順番に見つめる。
「私は人間よりも感覚が鋭いから、わかるんですよ。
BETAはまだ、横浜基地に居ます。
何なら、その場所まで案内してあげましょうか?」
そう言って私は、にっこりと微笑んだ。
彼らはまるで、蛇に睨まれた蛙のように、一斉に身を強張らせる。
ただ案内すると言っても、自分は横浜基地の正確な地図は知らない。
なので迷子になるのはほぼ確実で、現実はそう上手くはいかないだろう。
最悪、ぶん殴って壁を壊したり、地面を掘って地下に移動することになる。
もちろん、そんなことはしたくない。
「厳重に管理して安全が保証されているなら、私は何も言いません」
何らかの目的があってBETAを捕縛しているなら、部外者の私が口に出すのは如何なものかだ。
ただ、もし飼っているのではなく、基地内に潜んでいるのだとしたら、とても危険だ。
「ですが、もしBETAが基地内に潜伏しているなら、この機会に殲滅しないと不味いですからね」
これに関しては、しばらく返事がなかった。
しかし心当たりはあるようで、彼らは焦った表情で答えを探している。
私が雲の上の存在なので、どう切り出したものかと悩んでいるのかも知れない。
とにかく、このままでは埒が明かない。
少しだけ考えて、今度はこちらから提案することにする。
姿勢を正してコホンと咳払いをして、彼らを真っ直ぐに見つめる。
「突然ですが、私に良い考えがあります!」
「……考えとは、どのような?」
興味津々というか縋るような表情で聞かれても、そんなに大した案ではない。
相変わらずの、行き当たりばったりの思いつきだ。
自分でも本当にコレで良いのかと、実はちょっと不安なのは秘密である。
しかしこれでも一応、末端でも神様の看板を背負っているのだ。
周囲の人たちに、弱気なところは見せられない。
なので堂々とした態度で、はっきりと口に出す。
「敵対的な生物が危険なら!
友好的な生物にしてしまえば良いのです!」
誰も言葉を発しなかった。
私の説明が理解できなかったわけではないだろう。
けれど現実は、それができれば苦労はしない。
BETAと遭遇してから長い年月が経ったが、未だに殆どが未知だ。
色んな意味で地球の常識と違いすぎるため、どれだけ研究しても炭素生物以外は良くわかっていない。
だがそれに関しては、私の読み通りなら、きっと何とかなる。
しかし絶対ではないし、試してみないと何とも言えない。
取りあえず地下深く、厳重に封印しているBETAまで連れて行ってもらう。
あとは念のために、他にも感知したBETAの様子を順番に見せてもらった。
自分が近づいた影響で、急に暴れ出したら大変だからだ。
こういう展開は、アクションやパニック映画の定番である。
けれど幸い、どのBETAも檻の中で、故意に外に出さない限り、どれだけ暴れても簡単には出られないことがわかった。
それでも念のために、煌武院さんに連絡しておく。
実験動物的なBETAが、万が一にも脱走したら非常に危険だ。
もしものために、警告だけはしておくのだった。
<稲荷神様に対する世界の反応>
日本「稲荷神様は本物の神様だ! 間違いない!
亡くなった家族や友人と会わせてくれたし、政務もされて征夷大将軍とも仲が良い!
不正や横領を取り締まって、民草を慈しんでくださる!
おまけに諸外国の悪事を防ぐだけでなく、逆に返り討ちにしている!
日本帝国の最高統治者が、稲荷神様で良かった! これなら安泰だ! ワッショイワッショイ!」
アメリカ「何で我が国が長年かけて潜ませた諜報員や工作員が、大勢捕まってるの?
おまけに調略を持ちかけた各関係者まで検挙されてるし、マジでどういうことなの!
あの稲荷神ってやつのせいか! これじゃ日本帝国を傀儡にできないじゃないか! 利用や捕縛が無理なら、殺すしかない!」
その他「何か日本に稲荷神って凄い奴がいるらしいっすね! ズルいし、うちにも回してくれない?
あと、人道支援まだー? こっちはずっと待ってるんだけど!
いいから、はよ救援寄越せよ! てめえらの事情なんて、知ったこっちゃねえよ!
お守り? そんなんじゃ腹は膨れねえし、弾除けにもならねえよ! ゴミを寄越しやがって! ふざけんな!」