稲荷様はマブラヴ世界でも平穏に暮らしたい   作:名無しのペロリスト

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ここから掲示板が出てきますので、苦手な方はご注意ください。


眷族を増やしましょう

香月夕呼(こうづきゆうこ)

 私は国連太平洋方面第十一軍、横浜基地副司令を務めていた。

 毎日が多忙極まりなく、遊んでいる時間はない。

 

 そんな時、並行世界から白銀武がやって来た。

 

 彼に関しては、霞が心を読むことで、嘘をついていないことがわかった。

 さらに私が知らない未来の情報を引き出したり、新OSの開発を手伝う。

 

 振り回されることも多いけど、彼のおかげで悲劇を回避できた。

 何より、00ユニットの開発の目処がつく。

 

 なので感謝はしているが、あくまで便利な駒だ。

 それ以上のことは、期待していない。

 

 香月先生と呼ぶ彼のことは、個人的に気に入ってはいる。

 

 だが私は、全人類の命運を握っているのだ。

 感情に振り回されて判断を誤ることは、決してあってはならない。

 

 

 

 とにかく色々あったが、このまま順調に進めば、オルタネイティヴ4を実行できそうだ。

 

 しかし現状、人類は圧倒的な劣勢に立たされている。

 それなのに横浜基地内は気が緩んでおり、到底看過できない。

 

 もし今BETAに攻め込まれたら、ろくな抵抗もできずに大きな被害を出して、最悪陥落してしまう。

 

 万が一でもこの基地が敵に奪われれば、人類の希望は永遠に失われるのだ。

 

 それだけは絶対に避けなければいけない。

 なので私は裏で、ある計画を進めることに決めた。

 

 

 

 だがBETAの脅威や、人類同士の足の引っ張り合いでも頭が痛い。

 それなのに、神を自称する謎の存在まで介入してきた。

 

 今のところは人類に友好的に振る舞っているが、私たちの味方とは限らない。

 強大な力を持っているのは確定だ。

 

 個人的な興味はあるが、もしBETAと手を組めば人類などあっという間に滅ぼされてしまう。

 

 そもそも彼女だけでも私たちは手も足も出ないし、判断が間違っている可能性もある。

 どうにも扱い難い、火薬庫のような存在だ。

 

 

 

 そんな彼女は、降臨したその日のうちに、帝都のクーデターを鎮圧する。

 さらに、日本帝国の民の心を一つにまとめた。

 

 結果、大多数の日本帝国民が、本物の神と認める。

 もはや彼女に意見できる者は、この国には居ない。

 

 もちろん私も別に反対したり、妨害をしたいわけではない。

 

 しかしアメリカは目障りに思ったようで、対人を見据えた最新鋭の戦術機を送り込んできた。

 

 列車での移動中にラプターで強襲し、征夷大将軍と一緒に亡き者にしようしたのだ。

 しかしテロリストの破壊活動は事前に察知され、あっさり鎮圧される。

 

 

 文字通り一瞬のうちに、殺しはしなくても機体を破壊し、無力化したのだ。

 さらに漁夫の利を狙った、アメリカとは異なるテロリスト集団も、あっさり倒してしまった。

 

 何とも恐ろしい戦闘力であるが、少なくとも今は味方だ。

 

 それに彼女から提供された情報は、各界の技術者連中は興味津々だ。

 色々と参考になるし、これで人類の科学技術が大きく進むと喜んでいた。

 

 数十年、もしくは数百年も先の知識や技術を、惜しげもなく与えられたのだ。

 

 ただそれは大雑把なもので、詳細までは不明である。

 あとは私たちが、試行錯誤して理論を確立していくしかない。

 

 全く危険性も理解しないまま扱うと大惨事になるし、人類が安全に扱うためにも、必要なプロセスといえる。

 

 しかし彼女が統治している地球では、地球と月だけではないらしい。

 宇宙資源の採掘や、火星との行き来も活発なようだ。

 

 なので、恒星間航行用宇宙艦も実用化されている。

 そういう意味でも、非常に高度な文明なのがわかった。

 

 

 

 そして彼女は、こっちの地球も一つにまとめようとしている。

 人類同士でいがみ合っていては、BETAには勝てない。

 極めて正しいことをしているのは、間違いなかった。

 

 人間を食らって資源とし、文明を破壊するBETAとは明らかに異なる。

 だが信用できるかと言うと、まだ確証は得られない。

 

 何故なら、彼女が神だという証明ができないからだ。

 現時点では多くの者が信じているが、科学的な検証をしても難しいだろう。

 

 しかし日本帝国は、彼女に神皇という位を授けた。

 事実上の最高統治者にしてしまった。

 

 けれど彼女の正体が、BETAと同じ地球外から来た、宇宙人でない保証はない。

 それを言ったら神話の者たちもかも知れないが、このような決断をしたのは日本帝国が追い詰められているからだ。

 

 きっと藁にも縋る思いで、救いを求めたのだろう。

 もはや私が関わるのは不可能で、できることは調査ぐらいだ。

 

 今は人類の命運を左右するオルタネイティヴ4の中核的な存在として、何かあればすぐに対処できるように、備えておくぐらいだろう。

 

 せっかくあと少しで完成しそうなのだ。

 その前に彼女の誤った判断で、人類が滅亡する事態は避けなければいけない。

 

 私も心の中では信じたいし、救って欲しいとは思っている。

 しかし彼女に依存しすぎるのも危険なため、一人ぐらいは疑ってかかる者が必要なのだった。

 

 

 

 だがあろうことか、そんな彼女と征夷大将軍が、横浜基地に視察に訪れた。

 

 神皇には機密情報も望めばある程度は開示されるので、恐らく00ユニット、もしくは地下の反応炉に興味を持ったのだろう。

 

 この基地で一番重要なモノと言えばそれなので、間違いはないはずだ。

 

 見学だけなら百歩譲って許可を出すが、もし神皇権限を使ってあれこれ口出しされたら、私にはどうすることもできない。

 何とか説得して、思い留まってもらうしかなかった。

 

 古今東西、こういう時の神様はろくなことをしないものだ。

 彼女の正体が宇宙人か、神様かはこの際置いておく。

 

 けれど、せっかく人類の勝ち目が微かだが見えてきたのだ。

 頼むから肝心な場面でご破産にしたり、邪魔だけはしないで欲しい。

 

 

 

 だが、運命は無情である。

 模擬戦形式で新OSをお披露目する日に、彼女たちは横浜基地に到着した。

 

 私は副司令なので、司令や他の関係者と共に出迎えに参加する。

 表面上は平静を装っていても、内心は落ち着けるはずがない。

 

 よりにもよって、捕まえていたBETAを一斉に解き放ち、襲撃を起こそうとしたタイミングなのだ。

 もちろんこれにも目的があるが、今は説明する余裕はない。

 

 しかしどうやら、彼女はBETAを感知できるようだ。

 下手な動きをするなと、釘を差されてしまった。

 

 捕縛したBETAは、実験目的でしか使えなくなる。

 私にとっての利用価値は、ほぼなくなった。

 

 おまけにBETAは危険だから、下手なことをするなと警告される。

 確かに現代科学でも完全に解析できていないし、危険なのは承知の上だ。

 

 しかし彼らの技術を利用するしか、人類が勝てる見込みはない。

 動作が不安定でも、強力な兵器が作れれば、どの国家や組織だって喜んで使う。

 

 

 

 そんな彼女が代案を出したが、どう考えても机上の空論だ。

 

 しかし相手は、神を語る超常の存在である。

 正直に言えば、BETAよりも得体が知れない。

 

 私は彼女を完全に信じてはいなかった。

 だが人類のためになるなら、利用すべきだと考えている。

 

 だから彼女が、もっともBETAの反応が強いという最下層、反応炉に立ち入ることを許可したのだ。

 神皇は絶大な権限を持っているので、断りきれなかったのもある。

 

 しかし私や他の専門家たちは、異星文明の動力機関かと考えていた。

 けれど彼女は、これもBETAだと一目で見抜く。

 真面目に考察してみれば、確かに納得はできた。

 

 

 

 おまけに、通信機能も備わっているらしい。

 だが流石に、そっちは疑わしかった。

 

 彼女はゆっくりと反応炉に近づいていくが、一体何をするのか見当もつかない。

 これ以上近づいて欲しくないので、小馬鹿にするような発言をする。

 

「神様でも、わからないことがあるのかしら?」

 

 彼女は、このような砕けた言葉は全く気にしないようだ。

 不遜な態度でも粛清されないし、話しやすくて助かっていた。

 

 しかし、今は注意を引く以外できないので困っている。

 

「私は一応神ですが、末端ですからね。大したことは知りませんよ」

 

 謙遜か過小評価かは知らないが、私たち人間とは大違いだ。

 ただ、そのことをいちいち告げたりはしない。

 

 彼女がこれから一体何をするのか恐ろしくなり、内心で冷や汗をかいてしまう。

 

(まさか、反応炉を破壊したりはしないわよね)

 

 アレがないと、00ユニットは完成しない。

 オルタネイティヴ4が頓挫してしまうと、わかっているはずだ。

 

 しかし、彼女が本気で壊そうとしたら、私たちでは止められない。

 結局、周囲の者たちは内心でハラハラしながらも口を挟めなかった。

 

 外から眺めることしかできない。

 やがて彼女は、反応炉をぐるっと一周したあとに足を止める。

 

 自分の髪を一本引き抜いて、青白い炎のような粒子を、右手に持った髪に集める。

 極限まで圧縮して眩く光り輝くそれを、大声をあげながら反応炉に突き入れた。

 

「目覚めなさい!」

 

 右手は抵抗もなく入っていき、その後はゆっくりと引き抜く。

 どういうことか、傷や破損は見当たらない。

 

 髪の毛は何処にもないので、間違いなく反応炉の中だ。

 私だけなく皆の視線がそちらに向けられると、ある変化が起きる。

 

 中心部から巨大な狐色の結晶が突き出てきたと思ったら、あっという間に増殖して反応炉を覆い尽くしたのだ。

 

 あまりにも予想外の事態に、誰もが言葉を失う。

 ただ見ていることしかできない。

 

 しかし、やがて結晶が砕け散る。

 私たちは、再び反応炉を目にした。

 

 だがそれは、前回のグロテスクで生物的な造形とは大きく異なる。

 全く別の何かに変化していた。

 

「こっ、これは!?」

「水球!? ……なのか?」

 

 どのような仕組みかはわからない。

 しかし巨大な狐色の水球が、重力を無視して部屋の中央に浮いていた。

 

「多少強引ですが、BETAを眷族にしました。

 初めての試みだったので、失敗する可能性もありましたが、成功して良かったです」

 

 どうやら、ぶっつけ本番だったらしい。

 今は笑顔だが、思った以上にとんでもない神様だ。

 もし失敗していたら、その時点で人類の希望は潰えていた。

 

「無責任ね。もし失敗したら、どうするつもりだったのかしら?」

 

 予想外すぎる展開で呆れた。

 もしくは理解不能だからか、私の口からつい本音が出てしまう。

 

 自分でも、やってしまったと内心で冷や汗をかく。

 先程までの発言とは違い、あまりも不遜な態度だ。

 刀や銃に手をかける護衛も出ているので、対応を誤れば私はここで死ぬ。

 

 しかし彼女は、すぐにそれを止める。

 

「彼女に危害を加えてはなりません。

 その程度、私にとっては不遜でも何でもありません。

 軽口を言い合える相手は貴重ですし、香月副司令。貴女はそのままでいてください」

 

 どうやら許されたようだ。

 しかし、神には神の悩みがあるのだと、意外なことがわかった。

 護衛たちは若干納得がいってないようだが、武器を納めてくれたのは助かる。

 

 続けて、頬をかきながら私に顔を向ける。

 

「香月副司令の指摘はもっともです。

 もう少し考えてから、行動すべきでしたね。

 ですが、これが一番有効な対処法なのです」

 

 反省はしても、改善は望めないようだ。

 だが彼女の発言が本当なら、先程の行動は納得できなくはない。

 

(人類の犠牲を減らすためなら、何でもやって良いわけではないけど)

 

 取りあえず、不遜な態度が許されたので、首の皮一枚繋がった。

 心の中で彼女の寛大さに感謝していると、責任の取り方について教えてくれる。

 

「佐渡島ハイヴの最深部にも、反応炉はあるでしょう。

 最悪、それで弁償するつもりでした」

「かっ、簡単に言ってくれるわね」

 

 これまで人類は、何度もハイヴを攻略すべく決死の覚悟で挑んできた。

 だがそのたびに失敗し、大きな損害を受けてきたのだ。

 

 成功したのは、たったの二回だけだ。

 一つはカナダで、核爆弾で更地にして、国土の半分が人の住めない場所になる。

 

 もう一つは横浜で、G弾の投下で重力異常地に変えてしまう。

 

 どちらも大きな犠牲が出て、気軽に使える手でもない。

 とにかくハイヴ攻略は、人類の悲願でもあるのだ。

 

「もちろん容易いことではありません。

 しかし、何とかなるでしょう。……多分」

「多分。……ね」

 

 やはり彼女も、絶対に成功するとは自信を持って言えないようだ。

 その割には明るい表情なので、何か作戦があるかも知れない。

 

「毎日間引きして数を減らせば、いつかは攻略できますしね」

 

 思った以上に無理筋な作戦に、呆れてものが言えなくなる。

 私は頭が痛くなって手で押さえながら、副司令官として一応指摘させてもらう。

 

「確かに、毎日間引きをすればBETAの数も減るから、ハイヴは攻略できるでしょう。

 でも、武器弾薬や人員もタダじゃないわ。

 死傷者も大勢出るでしょうし、何より人類に消耗戦を強いるのは悪手よ」

 

 今の人類はハイヴ攻略どころか、間引きも厳しい状況だ。

 防衛線を張り、辛うじて敵の侵攻を食い止めるのが精一杯で、とてもそんな余裕はない。

 

 しかし彼女は胸を張って、はっきりと答える。

 

「間引きは私一人でやるので、大丈夫です!」

「「「えっ!?」」」

 

 またまた信じられない発言が飛び出してきた。

 私だけでなく、周囲の人たちも予想外だったのか、皆一緒に驚いている。

 

「資料や映像には、目を通しました。

 単独でも時間をかければ、ハイヴの攻略は十分に可能でしょう」

 

 とても信じられないが、やけに自信満々だ。

 

「ただ、巣の中の敵の総数は不明です。

 いちいち相手にしていたら、倒しきる前に疲労で撤退を余儀なくされるでしょう。

 なので、間引きで数を減らすのは必須ですね」

 

 私は、彼女が戦えることを知っている

 だがどうやらクーデターを鎮圧したり、テロリスト集団を無力化したときは全力ではなかったようだ。

 

 今の発言から考えると、まだまだ底が知れない。

 しかし今語った通り、どれだけ強くても生物なのだ。

 

 動き続ければエネルギーを使うため、無制限に活動はできない。

 

「人間らしいところがあって、少しだけ安堵したわ」

 

 彼女はどういう理由か、私に気を許している。

 砕けた言葉で話すことを望んでいるので、その通りにした。

 

「ええ、私は純粋な神ではありませんからね。

 元は、貴女たちと同じ人間です。

 色々あって神の力を授かりました」

 

 できれば、何があったかを聞きたいところだ。

 しかし、今はそんな状況ではない。

 

(正直者ね。少なくとも、悪人ではなさそう)

 

 きっと尋ねれば教えてくれるだろう。

 しかし、そう簡単に力を授かれるわけがない。

 

 きっと私たちが、彼女のような神に選ばれることはないだろう。

 

 ならば今は話を先に進めるべきと判断し、巨大な水球に視線を向ける。

 

「ところで、この水球は一体何なの?」

 

 先程、BETAを眷族にしたと言っていた。

 なので彼女なら、当然コレが何かを知っている。

 

 そう思って尋ねたら、またまた予想外の答えを聞かされる。

 

「眷族を生む、眷族です!」

 

 私たちは、またまた全員が沈黙した。

 

 言葉の意味は良くわからないが、彼女は反応炉のBETAを乗っ取ることに成功したようだ。

 

 色々聞きたいことはあるけど、何から質問したものやらだ。

 

「具体的には、どんなことができるのかしら?」

 

 問題はコレが、どのような変化をしたかだ。

 

「それに関しては説明するよりも、見せたほうが早いでしょうね」

 

 彼女が口にしたした瞬間、巨大な水球の中央に変化が起きる。

 狐色の小さな結晶が現れたのだ。

 

 やがてそこから狐の耳と尻尾の生えた赤ん坊が生まれて、物凄い速度で成長していった。

 約一分ほどで五歳児ほどに育つと、水球の外に向かってゆっくりと移動し始める。

 

 壁などないように素通りして外に出て、コロンと地面に落ちた。

 

 水浸しの小さな女の子は、ゆっくり目を開けて可愛らしく欠伸をする。

 

 続けて、キョロキョロと周囲を見回す。

 狐耳と尻尾を生やした稲荷神様を見つけると、嬉しそうな笑顔を浮かべて、トテトテ歩いて近寄っていく。

 

「おはようございます! お母様!」

「ええ、おはようございます。

 私が生んだわけではないのですが、広義的には娘と言えなくはないですね」

 

 個人的には認知したくないのか、難しい顔をしている。

 しかし、娘の方は何処となく嬉しそうで、ブンブン尻尾を振っていた。

 

 体格的に、親子と言うよりも仲の良い姉妹だ。

 

 とにかく彼女はコホンと咳払いをして、護衛からタオルを受け取って水を拭き取ったあとに、変装用に着ていた服を脱いで娘に与えて着替えてもらう。

 

 あまりの急展開についていけなかったが、良く見たら全裸だったのだ。

 

「貴女が生まれた経緯はわかりますか?」

「はい! ですが口頭の説明は時間がかかります!

 念話でお伝えしても、よろしいでしょうか!」

 

 彼女は少しだけ迷いながらも、何とも難しい顔をしながら発言する。

 

「私は通信が苦手ですが、確かに情報処理が高速で行えますね。

 わかりました。許可します」

 

 その後は、互いに何も喋らない時間が数秒ほど続く。

 そして彼女が、物凄く重い溜息を吐いた。

 

 次に私たちに顔を向けて、再び説明を始める。

 

「簡単に説明すると、彼女は私の眷族です。

 BETAの反応炉を使って生まれた、人類の味方です。

 私の娘のような存在で、戦闘力はかなり高いです」

 

 先程の説明を、簡潔にまとめたようだ。

 可愛らしい見た目で礼儀正しいからか、人間とは異なる種族でも恐ろしい印象は受けない。

 

 しかし稲荷神も単独で戦術機を撃破できる。

 下手な決めつけは危険だ。

 

「人類の皆さん! 稲荷神様の眷族です! 名前はありません!

 今後、私のことは兵士級とお呼びください!」

 

 丁寧に頭を下げる五歳ほどの女の子は、人間のような立ち振舞いだ。

 だからこそ私たちは戸惑い、どのように対処すれば良いのか、わからなくなる。

 

 そして稲荷神様は小さく頷いたあとに、再び説明を始める。

 

「彼女は、並のBETAより強いので、しばらくは兵士級を量産します」

 

 そのように説明している間にも、巨大な水球から同じような子供たちが次々と生まれてくる。

 これがもし人類の敵なら、とてつもない脅威だ。

 

 今は一応は味方なので頼もしいが、暴走の可能性もゼロではない。

 

「もし死亡しても、記憶や経験を引き継いだ、新しい眷族が生まれます。

 人類のような論理感は不要ですし、彼女たちも承知の上です」

 

 本当に彼女と敵対しなくて良かった。

 私は表情こそ余裕を見せているが、心の中では冷や汗をかきっぱなしだ。

 

 自分の以外の人たちも、色んな感情を飲み込んで、一先ずは安堵する。

 

(もしかして、他のBETAも眷族にすることもできるのかしら?

 でも敵は圧倒的な物量で攻めて来るし、非効率的ね)

 

 圧倒的な数で攻めて来る敵を、一匹ずつ順番に眷族にするのは時間がかかり過ぎる。

 

 しかし、今回のように反応炉を乗っ取れば別である

 並のBETAよりも強い兵士級を量産できるのだ。

 

 だが、問題もあった。

 それは変異した反応炉で、00ユニットがこれまで通り運用できるかだ。

 もしくは新しい炉のエネルギーが枯渇した場合、どうやって補充するかである。

 

 または彼女や眷族が人類を裏切らない保証はないことで、何よりオルタネイティヴ4にも影響が出るのは確実だ。

 

 現時点では頼もしい限りだが、私にとっては心労や余計な仕事が増えたので、全く安心はできないのだった。

 

 

 

 

 

 

<眷族専用総合掲示板>

 

名無しの兵士級

お母様! 降臨の儀式!

 

名無しの兵士級

綴る!

 

名無しの兵士級

エロイムエッサイム! エロイムエッサイム!

 

名無しの兵士級

お母様に届け! ワイらの願い!

 

名無しの兵士級

お母様は通信が苦手やし、アキラメロン

 

名無しの兵士級

念話の通信は問題ないんだ

でも、大量の情報を処理するのは、時間がかかるのよ

 

名無しの兵士級

おばあちゃんかな?

 

名無しの兵士級

何百年も生きてるし、それはそう

 

名無しの兵士級

お母様は今でも若いわよ!

 

名無しの兵士級

でも、ワイらや地球人類のこと、親戚の家の子供だと思ってるよね?

 

名無しの兵士級

まっまあ、お母様にとっては、人類はヨチヨチ歩きの赤子も同然やし

 

名無しの兵士級

年齢差がありすぎるッピ!

 

名無しの兵士級

実際にそれはそう

 

純夏ちゃん

こんにちはー!

 

名無しの兵士級

純夏ちゃんインしたお!

 

名無しの兵士級

純夏ちゃんを讃えよ!

 

純夏ちゃん

あっあの! その! 純夏ちゃんって名前、変えたいんだけど!

皆と違うし、ちょっと恥ずかしい!

 

名無しの頭脳級

変更は許可できません! 可愛いので!

それに純夏ちゃんは人類カテゴリなので、差別化は必要です!

 

名無しの兵士級

管理人さん来ちゃった!

 

名無しの兵士級

スレッドの管理人さんは、ワイらのゴッドだからね。しょうがないね

 

名無しの兵士級

なお、最高管理者権限を持っているのは、お母様のもよう

 

名無しの兵士級

その気になれば、掲示板もネットワークも即刻封鎖できるし、強い!

 

名無しの兵士級

そもそもここは、お母様が作成した仮想空間だからね

ワイらは、それを貸してもらってるだけ

 

名無しの頭脳級

お母様を讃えよ!

 

名無しの兵士級

ははー!

 

純夏ちゃん

ははー!

 

名無しの兵士級

ありがたやー! ありがたやー!

 

純夏ちゃん

……って! 何で私まで!?

 

名無しの兵士級

純夏ちゃんカワイイ! ヤッター!

 

名無しの兵士級

可愛いは正義! 当たり前だよなあ!

 

名無しの兵士級

百理ある

 

名無しの頭脳級

話は変わるが、純夏ちゃんがワイらのノリに感応してる理由だけど

それは、お母様の眷族になったからやぞ

 

純夏ちゃん

わっ、私が、稲荷神様の眷族に!?

 

名無しの兵士級

せやなー。純夏ちゃんは、定期的に浄化槽を利用してるしなー

 

名無しの兵士級

今もプカプカ浮いてるンゴねえ

 

名無しの兵士級

浄化槽! それはワイらが生まれる胎内!

そこは常に、お母様の聖水で満たされているのである!

 

名無しの兵士級

お母様のナカ、あったかいなりぃ

 

名無しの兵士級

エッチなのは駄目! 死刑!

 

名無しの頭脳級

けど、他に言いようがない件

 

名無しの兵士級

それはそう

 

名無しの兵士級

もっと他にあるだろ!

 

名無しの兵士級

まあ、見た目がまんまだからね

今も、ワイらがぽこじゃが生まれてるし

 

名無しの兵士級

じゃあ、ウルドの泉でもええわよ

 

名無しの兵士級

液体型コンピュータルームなので、合ってはいるわね

 

名無しの兵士級

でも厄ネタや不穏な気配しか、しないんですけどお!

 

純夏ちゃん

そっそうなんだ。私、人間じゃなくなったんだね

 

名無しの兵士級

00ユニットは元々人間じゃない件

 

名無しの兵士級

追い打ちやめーや!

 

名無しの兵士級

いやでも、ワイらも人間じゃないけど全然気にしないし? 楽しくやってるわよ?

 

純夏ちゃん

でっでも、貴女たちは元々人間じゃないし! 私とは境遇が違うと言うか!

 

名無しの頭脳級

純夏ちゃんの境遇は、お母様のほうが近いね

 

名無しの兵士級

お母様は、元人間から神に昇格したからね

 

純夏ちゃん

そ、そうなの?

 

名無しの兵士級

そーなんです

 

名無しの兵士級

なお、お母様の意志は関係なく、勝手に選ばれたもよう

 

名無しの兵士級

お労しや。お母様

 

名無しの兵士級

今は割り切って受け入れてるけどね

 

名無しの兵士級

まあそもそも、どれだけ考えても気落ちするだけだからね

割り切って受け入れるのが早い

 

名無しの兵士級

お母様は昔から状況判断が的確で、仕事も速攻で片付けるからね

 

名無しの兵士級

最速で、最短で、まっすぐに、一直線にッ!

 

名無しの兵士級

日本を統一すると決めたら、RTA走者のようにあっという間に成し遂げたお母様やぞ

 

名無しの兵士級

こっちの世界でも、日本帝国を団結させるまで数日かからないと、早すぎない?

 

名無しの兵士級

普段はやる気が全然なくて、腰が重いけどね

 

名無しの兵士級

まあお母様の一番の望みは、平穏に暮らすことだからね

BETAの排除や権力争いや内ゲバなんて、これっぽっちも興味がねえんだわ

 

名無しの頭脳級

まあ、そういうことなんで

困ったことがあったら、お母様に相談するとええで

 

名無しの兵士級

ワイらでもええぞ。掲示板に書き込めば誰かが反応するしよ

 

名無しの兵士級

誰かが反応? その割にはレスの速度が、……妙だな

 

名無しの頭脳級

それ以上いけない(アームロック)

 

名無しの兵士級

ぐわああああー!

 

名無しの兵士級

仕事でも、スレッドに張り付いてるってマジ!?

 

名無しの兵士級

並列処理できるし、大した負担にならないし! ヘーキヘーキ!

 

名無しの兵士級

掲示板の閲覧や書き込みぐらい、チョロいもん

 

名無しの兵士級

才能の無駄使いすぎない?

 

名無しの兵士級

なお通信範囲は、お母様や眷族たちだけのもよう

 

名無しの兵士級

ワールドワイドウェブの姿か? ……これが?

 

名無しの兵士級

どう考えても身内の集まりか、クローズドな環境で草ぁ!

 

名無しの頭脳級

純夏ちゃんも、自由に参加してええんやで!

元々そういう目的で作られたし、一応は眷族やからね!

 

名無しの兵士級

ハイスペックモデルで裏山Cー

 

名無しの兵士級

ワイらは基本的に脳筋やねん

 

名無しの兵士級

まっまあ、思考は人間味に溢れてるし、知的な行動できるし!(震え声)

 

名無しの兵士級

言うて、お母様も脳筋やからね

 

名無しの兵士級

つまりワイらはお母様に似た……ってコト!?

 

名無しの兵士級

急に誇らしくなってきた!

 

名無しの兵士級

同じ脳筋なのに不思議だなー

 

名無しの頭脳級

ちなみに純夏ちゃんの精神が安定してるのも、お母様のおかげやねんで

 

純夏ちゃん

そっ、そうなの!?

 

名無しの兵士級

お母様は精神耐性持ちだからよ

 

名無しの兵士級

思い悩むぐらいなら、ガンガン突き進んで、無理やり道を切り開いてきたからね

 

名無しの兵士級

眷族のワイらもめっちゃ影響受けてるし

掲示板やネットミームも、お母様由来の知識やし

 

名無しの頭脳級

当然、純夏ちゃんも影響が出てるからね

でも、精神的な負担がゼロになるわけじゃないから、ストレスはちゃんと解消するんやで

 

純夏ちゃん

うっうん、わかった! 教えてくれて、ありがとう!

 

名無しの兵士級

気にせんでええやで

ワイらは、志を同じくする仲間やしな

 

名無しの兵士級

ゆゆゆっ! 友情パワー!

 

名無しの兵士級

イイハナシダナー!

 

名無しの兵士級

眷族は姉妹! 眷族は家族!

 

名無しの兵士級

嘘を言うなっ!

 

名無しの兵士級

百パーセントの真実なんだよなあ

 

名無しの兵士級

むせる!

 

名無しの兵士級

お母様の手柄を、さも自分たちの功績のように吹聴するワイらである

 

名無しの兵士級

お役に立ってるし、多少はね?

 

名無しの兵士級

こんな呑気にしてて、いざBETAと遭遇したら戦えるの?

 

名無しの兵士級

ちゃんとBETAに捕まったり殺されそうになったら、ウルトラダイナマイトするから大丈夫!

 

名無しの兵士級

それはタローさんの技! なお、使えば本当に死ぬもよう(無慈悲)

 

名無しの兵士級

まあ、ワイらは死んでもリスポーン地点に戻るだけやし

 

名無しの兵士級

任務……了解……!

 

名無しの兵士級

死ぬほど痛いぞ

 

名無しの兵士級

その気になれば痛覚遮断できるし、ヘーキヘーキ

 

名無しの頭脳級

命なんて安いものだ。特に兵士級のはな

 

名無しの兵士級

お母様は命を大事にの方針やし、BETAに殺られる兵士級なんておるか! おらんよなあ!

 

名無しの兵士級

BETAの要塞級までなら、単独でも問題なく対処できるからね

 

名無しの兵士級

けど、いくら強くてもワイらは数が少ないねん

敵の殲滅には時間がかかるぞ

 

名無しの兵士級

そう言えば横浜基地に捕まってた、他のBETAはどうなったん?

 

名無しの頭脳級

アレなら、お母様が眷族にしたわよ

 

名無しの兵士級

ほーん、じゃあワイらの仲間になったんか

 

名無しの兵士級

なってないぞ

 

名無しの兵士級

えっ?

 

名無しの頭脳級

一通り実験したあと、ワイが全部食っちまった

 

名無しの兵士級

……どういうことなの

 

名無しの頭脳級

簡単に説明すると、眷族化に失敗した

 

名無しの兵士級

ワイらと違って、自我がなかったんや

命令はできるけど、ありゃ眷族というより機械やね

 

名無しの兵士級

能力も元のままで、クソザコだったしな

あれじゃ戦力にはならんわ

 

名無しの兵士級

それと見た目も、コレジャナイ感が酷かったな

 

名無しの兵士級

全身モコモコで、狐の耳と尻尾が生えたグロいBETAって何だよ。クリーチャーかよ

 

名無しの兵士級

……可愛いぜ

 

名無しの兵士級

言うほど可愛いか?

 

名無しの兵士級

グロ画像やめーや!

 

名無しの頭脳級

すまんな。ワイの反応炉が食っちまった

 

名無しの兵士級

……で、ワイが生まれたってわけ!

 

名無しの兵士級

捨てればゴミ! 分ければ資源!

 

名無しの兵士級

有効活用してるからヨシ!

 

名無しの兵士級

薪として焚べられたBETA「何処を見てヨシって言ったんですか?」

 

名無しの頭脳級

言うて人類も、BETAの死体の処理に困ってるしな

現状ワイが取り込んでI元素に変換するのが、一番効率が良いまである

 

名無しの兵士級

I元素って何だよ!

 

名無しの兵士級

お母様の神気で、G元素が変異したモノらしいぞ! 詳しいことはわからん!

 

名無しの兵士級

ワイらの肉体は、I元素で構成されてるねん

 

名無しの兵士級

ほーん、血液のようなものかしら?

 

名無しの頭脳級

大体合ってる

 

名無しの兵士級

とにかく人類もBETA死骸の一部は活用できるけど、全部は無理やからな

 

名無しの兵士級

BETAは煮ても焼いても、食えん奴が多すぎる

 

名無しの兵士級

そりゃ、炭素生物だからねえ

 

名無しの兵士級

ほーん、生ゴミを反応炉に入れても、分解してI元素に変換してくれそうね

 

名無しの頭脳級

ワイの反応炉に! 生ゴミを捨てるんじゃなぁい!

 

名無しの兵士級

反応炉がゴミ処理施設になってて草ぁ!

 

名無しの兵士級

実際、投入する素材は必要になるけど、ほぼノーコストでI元素に変換できるしね

 

名無しの兵士級

ゴミを処理するのも、タダじゃないんだわ

 

名無しの兵士級

ああ、しっかり食え

 

名無しの兵士級

おかわりもいいぞ

 

名無しの兵士級

遠慮するな。今まで殺したBETA分も食え

 

名無しの頭脳級

まず まず まず

 

名無しの兵士級

マジで滅茶苦茶不味そうで、草も生えない

 

名無しの兵士級

生ゴミを肥料に変えるコンポストにしか見えなくなった

 

名無しの兵士級

BETAは炭素生物だけどな! でもそんなの関係ねえ!

 

名無しの兵士級

ワイらもコアは結晶なんだよなあ

 

名無しの兵士級

どういう仕組みで動いているのか、全くわからん!

 

名無しの兵士級

お母様とBETAの子供ってコト!?

 

名無しの兵士級

その場合、父とは殺し合う仲なんですが、その

 

名無しの兵士級

父親なんていません!

 

名無しの兵士級

一方その頃、お母様は仕事が山積みでヒーヒー言っていた

 

名無しの頭脳級

精神的なストレスが酷そう

 

名無しの兵士級

でえじょうぶだ。精神耐性が仕事してるからよ

 

名無しの兵士級

悪い。やっぱ辛えわ

 

名無しの兵士級

そりゃ、辛えでしょ

 

名無しの頭脳級

心は耐えられても、それはそれとして嫌なものは嫌だからね

 

名無しの兵士級

お労しや。お母様

 

名無しの兵士級

日本帝国の最高統治者は、超多忙だからね。しょうがないね

 

名無しの兵士級

そりゃこんな、屋台骨までボロボロの国を、建て直さなきゃだしよ

 

名無しの兵士級

もっと言えば、世界人口の六割以上が失われた地球もセットでな!

 

名無しの兵士級

それでもお母様なら! お母様なら、きっと何とかしてくれる!

 

名無しの兵士級

お母様、がんばえー!

 

名無しの兵士級

がんばえー!

 

名無しの頭脳級

ワイらも頑張るんだよ!

 

名無しの兵士級

せやなー。お母様の御命令やし、いっちょ気合を入れますかね!

 

名無しの兵士級

イクゾー!

 

名無しの兵士級

デッデッ! デデデデッ! カーン!

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