キャラの口調等に違和感があるかもしれませんが、ご了承下さい。
ちなみに、登場するミラークはDLC「ドラゴンボーン」の本来の結末をたどったミラークではなく、ミラークフォロワーMODで生存し主人公と旅をしている最中に召喚されたという設定です。
第一の竜の降臨
炎が、夜の冬木市を赤く染めていた。
「マシュ、右!」
「はい、先輩!」
藤丸立香の声に応じ、マシュ・キリエライトが大盾を構える。
直後、盾へと無数の爪が叩きつけられた。
ガァンッ!
「くっ……!」
相手は人間ではない。
黒い霧のような魔力を纏った、骸骨じみた怪物――スケルトン。そして、その奥から次々と姿を現すシャドウ・サーヴァント。
本来なら聖杯戦争が行われるはずだった冬木市。しかし、カルデアが観測したこの特異点では、何かがおかしい。
人理そのものが歪み、召喚された英霊たちが暴走している。
「もう! どうして私までこんな目に遭わなきゃならないのよ!」
オルガマリー・アニムスフィアが叫びながら魔術を放つ。
「だいたい、私はカルデアの所長なのよ!? こんなところで骨なんかと戦うために来たんじゃないわ!」
「フォウ、フォウ!」
マシュの肩にしがみついたフォウが鳴いた。
「フォウ君、危ないので下がっていてください!」
「フォウ!」
三者がそれぞれ叫ぶ中、立香は息を切らしながら周囲を見渡した。
「このままじゃジリ貧だ……!」
その時だった。
「――ったく。随分と派手にやってるじゃねえか」
聞き慣れない、しかし妙に頼もしい声。
炎の向こうから、青い衣を纏った男が歩いてくる。
長い髪。鋭い眼差し。そして、手には一本の杖。
「誰……?」
「俺か? そうだな。今はキャスター、クー・フーリンってところだ」
男はニヤリと笑った。
「アンタがマスターだろ?」
立香が目を丸くする。
「サーヴァント……?」
「ご名答。冬木の聖杯戦争に呼ばれたってわけだ。まあ、こんな妙な戦場になっちまったがな」
キャスターとして現界したクー・フーリンは、杖を掲げた。
「――燃えろ」
次の瞬間、地面から巨大な炎が噴き上がる。
「ギィィィッ!」
スケルトンの群れが炎に飲み込まれ、シャドウ・サーヴァントもまた黒い霧となって消えていく。
「ふぅ。これで少しは静かになったか」
「助かりました!」
マシュが頭を下げる。
「いいってことよ。……それより、アンタら。どうやら俺たちは似たような状況らしいな」
クー・フーリンは周囲を見回した。
「聖杯戦争のルールが完全に壊れてやがる。こんなことをする奴がいるなら、そいつを探さなきゃならねえ」
「だったら、協力して!」
立香が言う。
クー・フーリンは一瞬だけ目を細め、それから笑った。
「へえ。言うじゃねえか、マスター」
「私は――」
「細かいことは後よ!」
オルガマリーが割って入る。
「問題は戦力よ! 現状、私たちにはまともなサーヴァントが足りない。召喚システムも完全には死んでいないんでしょう?」
「ええ。周辺に異常な魔力反応があります。」
マシュが答えた。
「聖杯戦争によって魔力が蓄積している場所……。ここなら、追加召喚が可能かもしれません」
「なら決まりだな。」
クー・フーリンが肩をすくめる。
「呼べるんなら呼んじまおう。戦力は多い方がいい」
一行は、冬木市の地下にある巨大な魔力集積地点へ向かった。
そこはかつて聖杯戦争のために使われた場所だった。
古い魔術式。
無数の魔力。
そして、何か得体の知れないものが混ざっている。
「……妙ね」
オルガマリーが眉をひそめる。
「この魔力、なんだか違和感があるわ…」
「違和感ですか……?」
立香が尋ねる。
「ハッキリと言えないけど、むず痒い感じがするわ。」
召喚陣が光り始める。
詠唱を読み上げ、立香が魔力を流し込む。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
光が爆発した。
しかし。
「……あれ?」
誰もいない。
召喚陣の中心には、黒い霧だけが渦巻いている。
「失敗……?」
オルガマリーがそう呟いた瞬間。
ズンッ。
地面が震えた。
黒い霧の中から、一人の男がゆっくりと立ち上がる。
深い緑色のローブ。
奇妙な装飾が施された仮面。
そして、手には禍々しい杖と剣。
戦士にも見える。
魔術師にも見える。
だが、そのどちらとも違う。
男は周囲を見渡した。
「…………」
誰も声を発せない。
その沈黙を破ったのは、クー・フーリンだった。
「おいおい……なんだ、こいつは」
男はゆっくりと顔を向けた。
「ここは……どこだ?」
低く、威圧感のある声だった。
立香は一歩前に出る。
「私は藤丸立香。あなたを召喚したマスターです」
「マスター?」
男はその言葉を噛みしめるように呟く。
「……なるほど。私を呼び出した者か?」
「あなたの名前は?」
男はしばらく沈黙した。
そして、堂々と名乗る。
「ミラーク」
その名を聞いた瞬間、クー・フーリンの表情が変わった。
「ミラーク……?」
「知ってるの?」
「いや。聞いたことがねえ。だが――」
クー・フーリンは杖を握り直した。
「こいつ、とんでもなく厄介な奴だってのだけは分かる」
ミラークはクー・フーリンを見た。
「貴様……人間ではないな。」
「英霊って奴さ。アンタは?」
「私はドラゴンボーンだ。」
その言葉に、立香たちは顔を見合わせる。
「ドラゴン……ボーン?」
ミラークは静かに続けた。
「竜の力をその身に宿し、竜の魂を喰らう者。それがドラゴンボーンだ。」
ー最初のドラゴンボーンー
かつて竜に仕えたドラゴン・プリースト。
やがて竜に反旗を翻し、禁断の知識を求めてデイドラ公ハルメアス・モラと契約した男。
その力によって竜を支配し、魂を喰らい、ソルスセイムを支配しようとした存在。
そして最後には、主であるハルメアス・モラにすら反逆した。
そんな男が、今。
英霊として召喚された。
「あなたは……英霊なんですか?」
マシュが尋ねる。
「英霊?」
ミラークは鼻で笑った。
「私をそのような枠に押し込めるか。……まあいい。重要なのは、私がここに呼ばれたということだ」
「ちょっと待ちなさい!」
オルガマリーが割り込む。
「あなた、本当にサーヴァントなの!? クラスは!?」
「クラス?」
「セイバー、アーチャー、ランサー、キャスター……そういう分類よ!」
ミラークはしばらく考えた。
「……理解した。ならば…キャスターとでも呼ぶがいい。」
「なら貴女は魔術師なの?」
「剣を扱う。魔術も使う。そして――」
ミラークは仮面の奥から立香を見る。
「声も使う」
「声?」
立香が聞き返した瞬間。
ミラークが一歩踏み出した。
「FUS!」
突如強烈な突風がふく吹く。
「きゃあっ!」
オルガマリーは身動ぎ、マシュは盾を構えた。
「な、なんですか今の!?」
「……今のがその"声"か?」
クー・フーリンが呆然と呟いた。
ミラークは何事もなかったかのように立っている。
「そうだ、これが私の力だ」
そして、立香を見る。
「さて、マスター。お前は私を何のために呼んだ?」
立香は拳を握った。
「人理を修復するため」
「人理?」
「私たちの世界の歴史が壊されてる。だから、それを元に戻す。」
ミラークは黙っている。
「そのために、あなたの力が必要なの。」
長い沈黙。
やがて、ミラークは小さく笑った。
「……面白い」
仮面の奥の瞳が鋭く光る。
「世界の歴史そのものを相手にするというのか」
「うん」
「ならばいい」
ミラークは剣を抜いた。
「私もまた、自らの運命に抗ってきた」
その声には、かつてハルメアス・モラに囚われながらも自由を求め続けた者の傲慢さと執念が滲んでいた。
「私も長い間知識を求めアポクリファにいた…」
ミラークは召喚陣の外へ歩き出す。
「旅もしたが、歴史を修復する旅とは面白そうだ!」
クー・フーリンがニヤリと笑った。
「へえ。気に入ったぜ、アンタ」
「馴れ合うつもりはない」
「そう言うなって。どうせこれから一緒に戦うんだろ?」
ミラークは答えない。
ただ、立香の前で立ち止まった。
「マスター」
「何?」
「覚えておけ」
ミラークは低く告げる。
「私は誰にも仕えない」
一瞬、空気が凍る。
しかし立香は笑った。
「じゃあ、私たちは一緒に戦うだけ。それならいい?」
ミラークは黙って立香を見る。
そして――ほんの僅かに仮面の下で口元を歪めた。
「……いいだろう。」
こうして。
人理修復の旅に、一人の異質な英霊が加わった。
最初のドラゴンボーン――ミラーク。
彼がこの世界で何を見て、何を求め、そして誰に刃を向けることになるのか。
それを知る者は、まだ誰もいなかった。