Fate/Doragoborn   作:ごっく

2 / 2
続きです。


目的

辺りが燃えているなか、奇妙な静けさに包まれていた。

 

先ほどまで張り詰めていた魔力が少しずつ落ち着いていく中、ミラークは召喚陣の中央に立ったまま、周囲を見渡している。

 

仮面の奥から覗く視線は鋭い。

 

その姿を見ているだけで、オルガマリーはどうにも落ち着かなかった。

 

「……それで?」

 

ミラークが口を開く。

 

「私を呼び出した理由を、まだ聞いていない」

 

「あ、うん」

 

立香は頷き、これまでの出来事を説明し始めた。

 

人類史が何者かによって焼却されたこと。

 

カルデアがそれを修復するために活動していること。

 

そして、この冬木市そのものが人理焼却が原因で生じた特異点であること。

 

マシュも補足する。

 

「私たちは、この特異点を修復したあと、他の時代へ向かいます。焼却された人理を取り戻すために」

 

「なるほど」

 

ミラークは腕を組んだ。

 

「つまり、お前たちは失われた世界を一つずつ取り戻していくというわけか」

 

「簡単に言えばそうね」

 

オルガマリーが答える。

 

「そして、そのためには強力なサーヴァントの力が必要なの。だからあなたを召喚したのよ」

 

「ふむ」

 

ミラークは少しだけ考え込んだ。

 

「面白そうだ」

 

「……え?」

 

立香が聞き返す。

 

「面白そうだと言った」

 

ミラークは平然としていた。

 

「世界そのものを焼き尽くした存在を追い、失われた歴史を取り戻す。私の知るどの戦争とも違う」

 

そして、わずかに仮面の下で笑う。

 

「興味がある。」

 

「じゃあ……!」

 

「協力しよう。」

 

あまりにもあっさりとした返答だった。

 

立香は思わず笑顔になる。

 

「ありがとう!」

 

「礼は不要だ、マスター。まだ何もしていない」

 

「それでも助かるよ!」

 

その横で、オルガマリーは腕を組んだままミラークをじっと見ていた。

 

「あなた…」

 

「何だ?」

 

「一体、何者なの?」

 

ミラークは彼女を見る。

 

「先ほど言っただろう。ドラゴンボーンだ」

 

「そうじゃなくて!」

 

オルガマリーは少し声を荒らげた。

 

「ドラゴンボーンなんて、私の知識にはないわ。あなたの魔力反応も普通じゃない。サーヴァントとして召喚されているのに、既存の英霊とは明らかに違う」

 

「所長……」

 

「気になるでしょう!?」

 

オルガマリーはミラークから目を逸らさない。

 

だが、その表情には警戒があった。

 

恐怖。

 

そう認めるのは、彼女のプライドが許さなかった。

 

しかし、ミラークから感じるものは、これまで見てきたサーヴァントとは違う。

 

敵意を向けられているわけではない。

 

それでも、まるで巨大な獣を前にしているような圧迫感がある。

 

「あなた……本当に私たちの味方なの?」

 

「今のところはな」

 

「今のところって……!」

 

「私はお前たちの世界の人間ではない。知らぬ世界のために命を賭ける理由もない」

 

「じゃあ、どうして協力するのよ?」

 

ミラークは少し考える。

 

「単純な興味だ」

 

「……興味?」

 

「そうだ」

 

ミラークは淡々と答えた。

 

「私は長い間、同じ世界にいた。竜、ドラゴン・プリースト、そして人間。権力を求める者、神に縋る者、神に逆らう者……そういうものをみてきた。旅もしたが…完全に別の世界は初めてだ。」

 

その声には、かつての長い年月を感じさせる重みがあった。

 

「だが、別の世界の歴史を修復する者たちには、まだ

興味がある。」

 

マシュが質問する。

 

「それで、私達に協力を?」

 

「そういうことだ」

 

だがオルガマリーは納得していなかった。

 

「……本当に、それだけ?」

 

「何か問題があるか?」

 

「いえ……」

 

オルガマリーはミラークを見つめる。

 

「あなたには、何か別の目的があるように見えるのよ」

 

「鋭いな」

 

「!」

 

ミラークは否定しなかった。

 

「だが、今のお前たちを害する理由はない」

 

「……信用していいの?」

 

「好きにしろ」

 

あまりにもミラークらしい返答だった。

 

マシュが恐る恐る尋ねる。

 

「では、ミラークさん。あなたは具体的に何ができるのでしょうか?」

 

「剣を扱う。魔術も使う。竜の言葉を操る…」

 

「竜の言葉……」

 

「そして、竜を殺し、その魂を得る。」

 

マシュが目を丸くする。

 

「竜の……魂を?」

 

「ああ」

 

「それって、サーヴァントにも有効なのでしょうか?」

 

クー・フーリンが横から口を挟む。

 

「おいおい、お嬢ちゃん。そこは試してみない方がいいんじゃねえか?」

 

「……そうですね。」

 

ミラークは気にした様子もない。

 

「私はドラゴンボーン。竜を殺すための力を持つ。それ以外については、実際に見れば分かる。」

 

「随分と簡素ね。」

 

オルガマリーが呆れる。

 

「私が聞きたいのは、もっと具体的な――」

 

「所長。」

 

立香が止める。

 

「?」

 

「たぶん、聞いても全部は教えてくれないと思う。」

 

「……それもそうね。」

 

ミラークは静かに立香を見る。

 

「理解が早いな。」

 

「褒められてる気がしない……」

 

「気にするな。」

 

その時、ミラークがふと顔を上げた。

 

「そういえば、一つ問題がある。」

 

「問題?」

 

「私は元の世界に、待たせている者がいる。」

 

「え?」

 

立香が首を傾げる。

 

ミラークは腕を組み、少しだけ遠くを見るような仕草をした。

 

「私を倒し今は共に旅をしている、ドラゴンボーンだ。」

 

その場にいた全員が沈黙した。

 

「……え?」

 

「あいつは私を探しているかもしれない…」

 

「旅をしていた人…あなたと同じ、ドラゴンボーン?」

 

マシュが尋ねる。

 

「ああ」

 

ミラークは平然と答えた。

 

「あまり奴を待たせると『どこに行ってたんだ』とどやされるかもしれん。」

 

「……」

 

オルガマリーが頭を抱えた。

 

「召喚されたばっかりなのにもう帰った時のことを考えてるなんて…」

 

「何が問題だ?」

 

「問題しかないわよ!」

 

クー・フーリンが吹き出した。

 

「ハハッ! そりゃいい。世界を救う旅に呼ばれたと思ったら、帰ったら別のドラゴンボーンに説教されるってか!」

 

「笑い事ではない。」

 

「いや、悪い悪い。」

 

ミラークはため息をつく。

 

「ともかく、そいつをあまり待たせるわけにもいかない。」

 

「じゃあ……」

 

立香は微笑む。

 

「早く人理を修復して、元の世界に帰ろう。」

 

ミラークは立香を見る。

 

「……そうだな。」

 

その返事には、ほんの少しだけ人間らしい響きがあった。

 

「ならば行くぞ、マスター」

 

「うん!」

 

「次は何をする?」

 

立香はマシュとオルガマリーを見る。

 

マシュは端末を確認し、オルガマリーは深く息を吐いた。

 

「まずはこの特異点を修復する。それが私たちの最優先事項よ。」

 

「了解。」

 

クー・フーリンが杖を肩に担ぐ。

 

「じゃあ決まりだな。」

 

そしてミラークもまた、召喚陣を離れる。

 

その背中には、未だ底の知れない威圧感があった。

 

しかし今は、それが敵に向けられるものだと分かっている。

 

少なくとも――今のところは。

 

こうしてカルデア一行は、新たな仲間を加えた。

 

最初のドラゴンボーン、ミラーク。

 

その目的は、世界を救う使命でも、人類への愛でもない。

 

ただ、未知への興味。

 

そして、元の世界で自分を待つもう一人のドラゴンボーンを、あまり長く待たせないために。

 

奇妙な理由ではあったが。

 

それでも彼は、人理修復の旅に同行することを決めたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。