トミモト・ストリートの中心、巨大ゲームセンター「ヤング・オモシロイ」の廃墟内にヒョットコ・クランのヨタモノ達が集まっている。
「キング!」
「キング!」
「キング!」
日没を迎え、明かりの無い暗闇となった「ヤング・オモシロイ」の中央ホールで電動ドリル付き鉄パイプ、拳銃、DIY火炎放射器等、思い思いの武器を持った男たちが声を合わせて叫んでいた。彼らはみな、センタ試験に失敗し、帰る家を失った十代の若者達である。
彼らの「キング」を呼ぶ声が響き渡る中、中央に据えられた祭壇のボンボリに火が灯る。
炎が巨大な人の影を映し出し、呼び声が割れんばかりの歓声に変わる。影は両手を高く差し上げ、それに応えた。
「約束の子供らよ!今宵も時が来た。オメンを被れ!」
歓声。少年達は競い合ってヒョットコの面を装着した。
「我々は自由だ!今こそ、夜!太陽は死んだ!手にはバットを持て!」
「キング!」
「キング!」
「キング!」
「今宵の約束の地は、下水とともに暮らす不潔なネズミの巣だ!」
「キング!」
「キング!」
「キング!」
「ヨージンボーなど恐るるに足らず!」
「キング!」
「キング!」
「キング!」
銅鑼が鳴らされ、首領は手に持った青龍刀を掲げた。ボンボリの明かりで照らされて青龍刀が輝く。
「ゆくぞ!」
狂乱のヒョットコ集団は首領の号令下、雪崩のように「ヤング・オモシロイ」から飛び出して行った。目指すは下水道の先、貯水槽を利用した浮浪者のキャンプである。
━━━
「ウォーロック= サン。こんな所の奥にクチュリエール=サンとブロッサム=サン、出奔したインターラプター=サンがいるのか?よりにもよって下水道の中の浮浪者キャンプかよ……」
『ええ、そうです!この前お伝えした通り、インターラプター=サンはクチュリエール=サンをブロッサム=サンごとキャンプに連れ込んだのです!』
金糸入りのニンジャ装束を着た長身のニンジャ、ソニックブームがビルの屋上から下水道の入口にヒョットコ・クランのヨタモノ達が下水道に入って行く姿を眺めながら苛ついた表情でぼやいた。
「あのヨタモノ共はなんなんだ?」
『オトガメを白紙にする事と引き換えに三人に指示したニンジャスレイヤーのテウチの後詰めです。アレほど強くともシックスゲイツ級三人で負ける道理はありませんが、念の為に用意させて頂きました」
「ハァ……そうかい……」
ソニックブームはウォーロックの回答に呆れながら答えた。
多分、クチュリエールが録画した戦闘映像を見た上でこんな事を言っているのだろう。あまりにも現実が見えていない対応に呆れ果てた。
ソニックブームは通信を切ってビルから飛び降りた。ヨタモノ達が全て下水道に入ってから、しばらく間を置いて下水道に入って行った。
━━━
下水道の中をヒョットコ達が駆ける。しばらく駆けていると下水道の先から壁や天井が削れる音が猛スピードで近付いて来た。
「キング!先から変な音がします!この音は何ですか!?」
「約束の子らよ!気に」
下水道の内壁が削れられる音と共にヒョットコの群れを黒い嵐が通り過ぎる!ムソウブラックに塗られたフラフープ大のチャクラムスリケンの群れだ!ヒョットコ達は数十人分のネギトロと化し、ツキジが広がった!
細切れになったいくつものDIY火炎放射器から可燃性汚染工業廃液がばら撒かれて引火!ヒョットコ一同は火葬された!
━━━
ヒョットコ達の後ろから追跡するソニックブームは前から迫る異音を聞き、慌てて前方にジェットツキを連射した!黒い嵐を砕いて掻き消し、燃えるヒョットコのネギトロを薙ぎ払ったソニックブームは速度を上げ、浮浪者キャンプへ駆けて行った。
BEEP!BEEP!BEEP!
『ソニックブーム=サン!三人共裏切りました!あのバカ共め!私が、ソウカイヤがこれ程の慈悲を示したのに、あの恩知らず共め!』
端末を取り出して通話ボタンを押すとウォーロックの罵声が響く。ダイダロスの部下をやってた頃のクチュリエールが受けた仕打ちを思えば聞くに堪えない的外れな妄言にソニックブームのカンニンブクロが爆発した。
「バカハドッチダー!俺のネンゴロに舐めた真似しやがったダイダロスの肩を持つソウカイヤに誰が残るか!ソンケイの欠片も無い事しやがって!ザッケンナコラー!」
ウォーロックを怒鳴りつけたソニックブームは端末を投げ捨てて壊すとクチュリエールと合流する為に先を急いだ。
━━━
「クチュリエール=サン!」
「ソニックブーム=サン!」
クチュリエールを見つけたソニックブームは喜びのあまり、駆け寄ってクチュリエールを抱き締めた。一ヶ月と一週間ぶりの再会を喜んだ後、浮浪者キャンプに入る。
扉の先ではインターラプター、ブロッサム、ニンジャスレイヤーが待っていた。その側にはウォーロックに操られたノリタの首無し死体が転がっていた。
ニンジャスレイヤーはキャンプを出る前に襲撃の気配を察して防衛の為に残ってくれたのだ。
「ソニックブーム=サン!?何故ここに?」
「インターラプター=サン。俺のネンゴロに会いに来ました。俺もソウカイヤに愛想が尽きたので、一緒に出奔して辞めるつもりです」
「ネンゴロ?誰の事だ?」
「クチュリエール=サンです」
インターラプターの疑問にソニックブームが答えると、インターラプターから表情が消え、場が凍りついた。
「サユリ=サン。ソニックブーム=サンとはいつからの付き合いなんだ?」
「もうすぐ2年でヤンス。……あの、インターラプター=サン?まず、オハギの薬効について思い出して貰っても良いでヤンスか?」
「モリタ=サン……サユリ=サンとヤモト=サンを連れて離れてくれ……俺はたった今、父親としてソニックブーム=サンと話し合う用事が出来たんだ。拳でな」
「わかった」
ニンジャスレイヤーはクチュリエールとブロッサムを連れて距離を取った。父親としての共感が彼を突き動かし、クチュリエールとブロッサムに反論の余地を与えなかった。
ソニックブームはインターラプターの記憶がオハギ中毒でとんでもない事になってる事を悟り、その設定に付き合う事を決めた。下手に否定して彼の現実を破壊した場合、殺意に溢れたザムラ・カラテが振るわれる可能性を感じ取ったのだ。
二人はゆっくりと近付き、構える。インターラプターのカラテには殺意は無く、娘を取られた怒りと娘を任せられる男か確かめんとする父性が込められ、ソニックブームのカラテにも殺意こそ無いが都合の良い妄想で自分達を振り回した事に対する怒りが込められていた。
二人の顔面にパンチが同時に叩き込まれ、キャンプ内に打撃音が響いた。
━━━
翌朝、二人の殴り合いを見届けたニンジャスレイヤーは耐酸性雨トレンチコートとハンチング帽を着込んで変装し、キャンプの住人達に別れを告げてキャンプを離れた。
見送る人達の内、ソニックブームとインターラプターの顔面は酷く腫れ上がっていた。
キャンプの住人達も下水道に撒き散らされたヒョットコの焼けたネギトロ死体からキャンプを移動する必要がある事に気付き、荷物を纏めて離れる準備を始めている。
クチュリエール、ブロッサム、インターラプター、ソニックブームもキャンプを離れた。
インターラプターは殴り合いの中で自分の記憶が嘘塗れだった事に気付き、464大学の治験を受ける事に決めたようだ。
朝の日差しの中、皆はそれぞれの道を進んで行った。
ニンジャスレイヤーはインターラプターの記憶がオハギ中毒で歪められた物だとクチュリエールから知らされて微妙な気持ちになってますが、空気を呼んで表に出さずに平静を装ってます。
強いニンジャ全員が丸く終わったからヨタモノをネギトロにしてインターラプターとソニックブームが健全に殴り合いする話になっちゃった……