秋が終わり、冬が訪れ、クリスマスを過ぎたネオサイタマは年明けを迎えた。
そんな年始の夜、コインランドリーで少女が二人、備え付けのウキヨエ・コミックを読んでいる。
少女達は二人共小柄で、片方の少女は対酸性雨パーカーとスカートを組み合わせた格好をしており、胸は平坦であった。もう片方の少女は平坦な少女より更に小柄で、お揃いの対酸性雨パーカーにパンツを組み合わせた格好をしている。その胸は豊満であった。
平坦な少女はブロッサムことヤモト・コキ、豊満な少女はクチュリエールことワタナベ・サユリである。
「ヤモト=サン、ワタナベ=サンの調子はどうでヤンスか?」
「落ち着いてたよ。アンコ透析と神経洗浄から二週間以上経ったけど、いつも通りのワタナベ=サンだった。モリタ=サンのイエ・モトがしっかり効いたみたい」
二人の脳裏にトミモト・ストリートの浮浪者キャンプでの出来事が思い起こされた。
インターラプターとソニックブームが殴り合っている間にクチュリエールがニンジャスレイヤーに「インターラプター=サンのオハギ中毒を治したいので、オハギ以外のニンジャソウル由来の攻撃性を抑える方法が知りたい」と相談した所、ニンジャスレイヤーがインターラプターにイエ・モトを使ってくれる事になったのだ。
インターラプターとソニックブームが殴り合いの末、ダブルノックアウトした所を見計らって叩き込まれた結果、インターラプターは464大学病院でアンコ透析と神経洗浄の治験を受けてもニンジャソウル由来の衝動に悩まされる事なく現在も入院生活を送っている。ニンジャスレイヤーは「見様見真似なので効かないかもしれない」と前置きしていたが、効果はしっかりあったようだ。
12月中旬の入院から二週間が過ぎ、もうすぐ三週間になる。退院は一月の中旬になる予定だ。ありがたい事に治験を担当してくれたリー先生はインターラプターが治験を受けた事や居場所についてソウカイヤに黙ってくれた。
「退院したらちょっと豪勢なスシを食べに行くでヤンス。ソウカイヤ時代の貯金はちゃんと降ろして余裕もあるから大丈夫でヤンス」
「良いね。なら『ワザ・スシ』に行こうよ。前に一緒に行ったあの店」
「決まりでヤンス」
二人は笑い合った。
コインランドリーの自動ドアが開く。鈍色の上着を着た男が入って着た。
「……ドーモ。あー……タナカ・カギです」
「ドーモ、タナカ・カギ=サン。ワタナベ・サユリです」
「ドーモ、ヤモト・コキです」
気まずそうにアイサツした男に二人は自然に名乗った。異常な事ではない。他人同士、同席すればアイサツ有り。日本の奥ゆかしさだ。
タナカは訝しんだ。こんな夜中に。ランドリーの中で回っているのはどうやら私服。男物も混ざっている。
「俺もいいですか」
「どうぞ」
タナカはヤモトの隣にあるマガジン・スタンドを示し、ヤモトは頷いた。彼は毒々しい見出しが踊る「日刊コレワ」を手に取りかけてやめ、「スポーティファイ」誌を手に取ると、二人から離れて座り、パラパラとめくった。
「この辺りにお住まいで?」
「ええ、先週引っ越して来たばかりです。中古で買った洗濯機が壊れてしまいまして」
「安物買いは良くなかったでヤンス」
「そうですか」
「乾燥も終わったドスエ」
「乾燥も終わったドスエ」
会話の後、ほぼ同時に二台のランドリーがマイコ音声を鳴らした。三人は顔を見合わせる。ヤモトとサユリがくすりと笑った。シルバーカラスはそそくさと洗濯物を手提げ袋に詰め込みアイサツした。
「じゃあまあ、どうも。この辺は治安悪くないが、気をつけて」「ハイ」
二人はタナカを見送ると洗濯物を畳み始めた。
━━━
洗濯物を畳み終わり、手提げ袋に詰め終わったタイミングで二人のニンジャ第六感が敵意を感じ取り、二人並んで自動ドアに向き直った。
自動ドアが開き、男が入って来る。上着を脱ぎ捨てて一瞬でニンジャ装束姿になった。
「ドーモ、クチュリエール=サン。ブロッサム=サン。ナッツクラッカーです」
「ドーモ、ナッツクラッカー=サン。クチュリエールです」
「ドーモ、ブロッサムです」
男がオジギし、二人はアイサツを返した。
「貴様らのジツと戦い方は想定済みだ。カラテの経験がそれ程無い事もな!ここならカラテミサイルやスリケンは使えまい!」
「クチュリエール=サン。ここは任せて」
「わかったでヤンス」
ブロッサムが上着のポケットに両手を入れてナッツクラッカーに歩み寄る。
「そう、そんなに怖いなら近付いてあげるよ」
「舐めるなメスガキ!イヤーッ!」
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
ナッツクラッカーの蹴りをブロッサムの踏み込みと共に放たれた左手チョップ突き……否、指を内側に少し折りたたんだ構造のクナイ・ダートめいた変形チョップ突きが迎撃する!上着のポケットを鞘に見立てて加速するイアイめいた変形チョップ突きだ!
ナッツクラッカーの右足を爪先から膝まで薪割りめいて破壊!膝から先が180°開いた事で蹴りは虚しく空を切る!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
ブロッサムが右手で追撃のイアイめいた変形チョップ突き!ナッツクラッカーは両手を十字に構えたクロスガードで受け止める!左手が前腕部で切断され、右手前腕に穴が空いたがナッツクラッカーは生きている!
「グワーッ!」
ナッツクラッカーは突きを受け止めた勢いで後ろに倒れ込むが、誰かに受け止められてナッツクラッカーの胸、心臓のある場所からカタナの切っ先が生えてきた。
「驚いたな、お前さん強いじゃないか」
「アバッ!?アバッ……!?」
ナッツクラッカーのすぐ後ろに、先程のタナカ・カギが立っていた。背中から心臓を一突き。恐ろしいワザマエだ。彼は片手で懐からダガーナイフを引き抜き、ナッツクラッカーの首の横を刺して捻った。
「アバーッ!」
サイバネされたIRC通信機を破壊されたナッツクラッカーをタナカが外に投げ倒す。
「サ、サヨナラ!」
ナッツクラッカーは叫んで爆発四散した。
「……ハイ、サヨナラ」
タナカは呟き、二人に向き直った。
「あ「礼はまだいい」
ブロッサムの礼をタナカは遮った。
「取り敢えず、お前さんも祈ってくれ。この後俺に面倒が起こらんようにだ。……アー待て、嫌な感じがする」
カギはヤモトに近づき、パーカーのフードの中から小指の爪ほどの機械装置を引き剥がした。
「発信機だ。音声の送信は無い。プライバシー尊重で良かったな」
「あー……ゴメン、ブロッサム……アッシが気付くべきだったでヤンス」
「あんな物、お前さんみたいな子供がそう気付ける物じゃないだろう」
「アッシ、元ソウカイヤの偵察諜報部門だったでヤンス……」
「そういう事か……」
クチュリエールの言葉に顔を顰めた後、表を走り抜けたヨタモノのバイクに向かって、発信機を見事なコントロールで投げつけた。
「で、何をやらかしてきたんだ、お前さん達は」
タナカが二人を見た。
**イアイめいた変形チョップ突き**
忍者と極道の忍手・暗刃とバキ等でたまにネタにされるハンドポケット居合拳を組み合わせたカラテワザ。
イアイの加速にチョップ突きより更に空気抵抗を受けにくい形の忍手・暗刃を組み合わせる事である程度のカラテ強者なら音速を超えた速度で突けるワザに仕上がっている。
ゲイトキーパーのインストラクションを受けた際、クチュリエールが休憩中に思い付きで試した所、ゲイトキーパーから高評価を受け、たまたま見ていたダークニンジャからもイアイドーを素手でも実戦的に使える面白い技と高評価を受けている。
ハンドポケット居合拳単体も前回の後、ソニックブームに披露した所、ソニックカラテと組み合わせるとアンブッシュ迎撃に使いやすいと高評価を受けた。