日が沈み、真夜中のノビドメ・シェード・ディストリクト。
注文を終え、帰り道にあるノビドメ・シェード・ディストリクトに立ち寄ったクチュリエールとソニックブームは屋形船で休憩した後、そのまま腕を組んで船に揺られていた。
ソニックブームの顔は若干やつれ、対してクチュリエールの顔はツヤツヤしている。半年以上、二人きりになれるチャンスが月に一度あるかないかという時期が続いたので、はしゃぎ過ぎたようだ。朝帰りする事は出かける際に伝えてあるので問題は無い。
ショージ戸を開き、イチャつきながら外を眺めるとクチュリエールとソニックブームのニンジャ視力が遠くに見える絶望の橋に向かうヘリを捉えた。
「……アレ、モーターヤブとか積めるヘリでヤンしたよね」
「そうだな。昼にオムラの車がオオヌギを走ってたからジアゲじゃないか?」
「ドウグ社……物理的に倒産するんじゃないでヤンスか?」
「ジアゲにオムラのロボを使うならそうなるな」
二人の間に沈黙が走った。嫌な予感がする。
「……アッシ、ちょっとオオヌギがよく見えるビルから様子を見に行って来るでヤンス」
「スリケンは投げるなよ」
「予想が当たったらヤリでも投げて来るでヤンス」
クチュリエールはニンジャ装束に着替え、イナリズシ入りのケースを身に着けて屋形船を飛び出した。船から船へとニンジャ身体で飛び移り、岸に着いたら三角飛びで雑居ビルの屋上へ跳び上がる。
屋上からは絶望の橋が見える。ニンジャ視力はヘリから降ろされるオムラのロボを捉えた。オムラのロボは八本の腕でそれぞれ武器を構えている。握られているのはサスマタ、ジュッテ、カマ、ツルギ、斧、カタナ、ナギナタ、ハンマーである。転生してからは見た事が無い形だ。多分、新型だろう。
クチュリエールはオタマめいた棒と投槍を生成すると、オタマめいた棒に槍の尻を噛ませ、遠心力とともに解き放つ!これはオタマではない!投槍器だ!投槍は勢い良くオムラのロボへ飛んでいった!
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絶望の橋では武装サラリマン達と共にヘリから降ろされたロボットの怪物めいたデザインの頭部が高速回転し、X字に伸びた四本の脚の関節各部が水蒸気を吹き上げる。モーター音を鳴らしながら鋼鉄の戦士はオジギめいた動作をした。
「ドーモ、モータードクロ、です。現在アナタがたの投降を受け付けております。……ドーゾ!」
手にプラカードを持つオオヌギの住人達はモータードクロからの投降勧告を受けて不安気に囁きあう。ビー!ビーガビー!十も数えぬ内に耳をつんざくブザー音がモータードクロから放たれた!
「ハイ時間切れです!戦闘を開始で!」
ぎこちなくも、ある程度流暢な合成音声が告げるや否や、モータードクロは一瞬身を沈め、群衆へ向かって跳躍……しようとした瞬間に飛来した投槍が突き刺さり、左前脚を橋に縫い付けた!
モータードクロは縫い付けられた箇所を引き千切りながら跳躍し、天地を返すように空中で半回転!跳躍は住人達に届く事なく、頭部をパワーボムのようにアスファルトへ強かに打ち付けた!
「ピガガガガガガーッ!」
後ろ足の力とモータードクロ自身の重量が乗った衝撃は頭部を完全に破壊!胴体にめり込んだ頭部により人工知能に大ダメージ!モータードクロは手足を振り回して駄々を捏ねる幼児のように転げ回り、オムラの武装サラリマン達を轢き潰した!
狂乱するモータードクロにオオヌギの住人達もすっかり怯え、泡を食って逃げ出した。
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「うわぁ……なんだか凄い事になっちゃったでヤンス……」
オムラの新型が錯乱する様子を見届けたクチュリエールは投槍器を分解しながら屋形船の方へ振り返る。
「えっ?」
振り返った先にある道に横付けされた屋形船の一つが爆発した。こんな時にビルを跳んで移動したら騒ぎになりそうだ。クチュリエールは路地裏を歩いてソニックブームが待つ屋形船へ向かう為、雑居ビルの屋上から路地裏へ降りて行った。
「ドーモ、クチュリエール=サン。ダークニンジャです」
「ドーモ、ダークニンジャ=サン。クチュリエールです」
降りた先の路地裏にはダークニンジャがいた。ニンジャ装束に身を包み、細長い物が入ったフロシキをたすき掛けにしている。クチュリエールはダークニンジャを見て驚き、その隙にダークニンジャはワンインチ距離まで踏み込みアイサツした。
「何故貴様がここにいる?」
「デート中にブレーサーを頼んだ会社のある地域にオムラのモーターヤブみたいなロボットを積んだヘリが飛んでいったのを見て、嫌な予感がしたので許可を貰って様子見してたでヤンス……」
ダークニンジャとクチュリエールの顔が近い!尋常ではない雰囲気のダークニンジャを前にクチュリエールの顔は真っ青だ!クチュリエールとダークニンジャにはこの距離でイクサになったらクチュリエールが一瞬で殺される程にカラテの差があるのだ!
「貴様に恋人がいたとは初耳だな」
「二年目になる付き合いでヤンス。今日は屋形船を貸し切って二人きりで夜を過ごすつもりだったでヤンス……」
ナ……ナムアミダブツ……!なんたるヤバイ級のドタンバ・セルフ・リスク・マネジメント!オムラの新型、モータードクロ破壊を誤魔化す為に今日のデートのカクカク・シカジカを語って聞かせた……真実を語って聞かせたのである。ただひとつ、自分がモータードクロを破壊したという情報だけを欠落させて……!
「そうか、ではその恋人のもとに案内しろ」
「ハイ、ヨロコンデー!」
二人は屋形船を目指して駆けて行った。
━━━
夕飯の為に頼んでいたデリバリーのスシ二人前を受け取ったソニックブームはショージ戸から船内に戻り、クチュリエールを待っていた。
KABOOOM!
外からの爆発音を聞き、ソニックブームは慌ててショージ戸を開いた。クチュリエールが出てから少し経つ。彼女の足ならとうに雑居ビルの屋上へ辿り着いている頃だ。屋形船の爆発に巻き込まれる心配は無い。冷静になって深呼吸すると、二人分の着地音が聞こえた。
「ドーモ、ソニックブーム=サン。ダークニンジャです」
「ドーモ、ダークニンジャ=サン。ソニックブームです」
ダークニンジャがオジギをして、ソニックブームもオジギで答えた。唐突なダークニンジャの出現にソニックブームの思考がフリーズした。ダークニンジャは屋形船の中を覗き込む。自身を追う刺客が潜んでいない事を確認すると安堵してため息をついた。
「そうか、本当にデートしてたのか。逢瀬の最中に申し訳無いな」
「アッハイ」
ダークニンジャの腹が空腹を訴える。クチュリエールとソニックブームは顔を見合わせてデリバリーのスシを勧めた。
━━━
スシを食べたダークニンジャは二人に礼を言い、何か謝礼をしようと申し出たが、礼より今夜の事を忘れる様に頼むとダークニンジャは快諾して夜の闇に消えて行った。
残された二人は残りのスシを食べると船内に備え付けられたシャワーを一緒に浴びて一つのフートンに入って行った。
見逃して貰い、生命の危機を脱した事で二人の本能に火が付いた。本来ならダークニンジャはソウカイヤから逃げ出した二人を捕獲か粛清しなければならないが、昏睡からの目覚めたてで二人が逃げ出した事を知らなかったおかげで助かったのだ。
朝を迎えた頃、二人は屋形船を返して帰路に就いた。
**サキュバス・ジツ**
「ケズリ・カラテなんていうカラテでカラテドレイン出来る例があるんだから、注がれたアレのカラテを吸収する事位、その気になれば出来そうだよね」というアホの発想で試して成功してしまった技術。
この技術でネンゴロの度に注がれたアレのカラテを吸収する事でクチュリエールはレッサーニンジャのニンジャソウル憑依者でありながら本編のスピンスリケン等を可能とするだけの血中カラテを手に入れた。ネンゴロで注がれたり飲んだりする度にMPの最大値を上げるようなイメージ。上昇量は相手のニンジャ次第。
あくまで注がれた分しか吸収できないので相手への影響は出した分しか発生しない。
本編中で語られる予定の無いクチュリエールの強さに理屈を付けるための裏設定。
しょぼいレッサーニンジャのソウル憑依者という事にしたのでこれくらいのトンチキが無いと忍殺世界のトンチキやインフレについて行けない気がします。