夜を迎えたヤカタバンナ・ストリートは暖かいオレンジの明かりが滲む飲屋街。泥酔サラリマンが行き交い、道の端々では輪になってサンボンジメ・チャントが行われ、動くニワトリやカニのメカニカル・オブジェクトがこの地の守護神像めいて厳めしい。
そんなヤカタバンナ・ストリートにモデストな店構えのスシ屋が1軒。玄関先の足元に置かれた電子ボンボリは良く手入れされ、奥ゆかしくカドマツをライトアップしている。看板には「ワザ・スシ」とあった。
店内はやや手狭だが、清潔感と奥ゆかしさがあり、壁の「ウグイス」というショドーにもゼンめいた美がある。そんな店内で4人の男女が談笑しながら注文したスシを待っている。長身の男、大柄で四角いシルエットの男、小柄で平坦な胸を持つ少女、更に小柄で豊満な胸を持つ少女の四人だ。
ご存知、ソニックブーム、インターラプター、ブロッサム、クチュリエールである。リー先生がアンコ透析等の経過観察データ欲しさに入院を3週間延長したインターラプターの退院をこの店で祝っているのだ。
入口のガラスショージ戸が開き、二人の男が入って来た。二人共片目をサイバネ化した野暮ったい服装をしている。
「「「「アッ……」」」」
クチュリエールとブロッサムは入って来た二人と目が合い、気まずい空気が流れた。入店してきた二人とはソウカイヤ時代に一度だけ一緒にミッションをこなした仲だったのだ。
「ドーモ、ウインドマジック=サン。エイトベクトル=サン。クチュリエールです」
「ドーモ、ブロッサムです」
「ドーモ、ソニックブームです」
「ドーモ、インターラプターです」
「ドーモ、クチュリエール=サン。ブロッサム=サン。ソニックブーム=サン。インターラプター=サン。ウインドマジックです」
「ドーモ、エイトベクトルです」
ウインドマジックとエイトベクトルは知り合いのニンジャ二人に加えて思わぬ大物ニンジャ二人からのアイサツに顔を真っ青にした。元々このワザ・スシにはスシを食べる為に来たので、自分達ではどうにもできない実力のニンジャ四人との遭遇なんて想定していないのだ。
「アノ……私達は何も見てません。スシを食べに来ただけの客です。……そういう事にさせてください」
「支払いは私達が持ちますので見逃してください……ソウカイヤの近況もお伝えします……」
ガラスショージ戸を閉めて二人はドゲザした。
「そうか、じゃあここに座りな」
ソニックブームがインターラプターとの間に席を二つ空けて二人に座るよう促した。二人が席に座るとソニックブームは自分の隣に座ったウインドマジックの肩を抱いた。二人は恐ろしさのあまりに縮こまっている。二人の前に店主がチャを出した。
「話してもらおうか」
「……秋頃にソニックブーム=サンが離脱した件でダイダロス=サンとゲイトキーパー=サンがクチュリエール=サンに対して、ソンケイの無いシツレイ極まりない扱いをした事がソウカイヤ内に広まりまして、ソウカイヤ内が大きく揺れました」
「ソウカイヤ内のニンジャの3割……主に元ヤクザのニンジャ達が離脱しかける事態になったんです」
店主がスシを握り終わり、ウインドマジックとエイトベクトル以外の席にスシのセットが並ぶ。四人は店主の目利きを信頼してオマカセを注文していたのだ。店主は六人もニンジャがいるこの環境でも一切動じていない。一流のスシ職人はその精神力でNRSを一切起こさないのだ。
「何にいたしましょう?」
「「オマカセで」」
「アイ、アイ、オマカセ」
二人もオマカセを注文した。ネタを選ぶ程の余裕が無かったのだ。
「続けますね、先週、ゲイトキーパー=サンは指を3本ケジメしてその責任を取り、ソウカイヤはあなた方四人の指名手配を取り下げました。戻られるとソウカイヤが割れる可能性があるので、可能ならあなた方にはフリーランスで依頼を受けて貰いたいのです」
「今、ソウカイヤ内ではあなた方との連絡を取り付けて依頼の窓口になる為にスカウト部門が菓子折り持って捜索しています。窓口になれれば昇給は確実ですからね」
二人は自分のIRC端末をソニックブームとインターラプターにそれぞれ渡し、連絡のログを見せる。指名手配取り下げの証拠を見せられた事で店内の空気が弛緩した。
「それなら二人も一緒にカンパイするでヤンス」
「インターラプター=サンの退院祝いと私達の手配取り下げ祝いだね」
二人の前にスシのセットが並ぶ。カンパイ・チャントと共に全員でカンパイした。
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「コレ、どうするでヤンス?」
「うーん……」
退院と指名手配取り下げ祝いから一ヶ月後。クチュリエールとブロッサムはアパートの一室で先週、ウインドマジックとエイトベクトルから渡されたスナイパースリケン投擲用ガントレットを前に悩んでいた。
なんでも、二人がサイバネ義眼で録画したクチュリエールのツヨイ・タタミ・スリケンによるスリケンスナイプ動画を見たシャーテックのニンジャの中から熱狂的なファンが現れ、自腹でガントレットを買って二人に配達を頼んだのだとか。
手でローラーを回すピッチングマシンめいた機構が取り付けられている左手用ガントレットとスコープ等が取り付けられている右手用ガントレット。ゴテゴテしていて市街地戦では酷く扱い難そうに見えた。
ソニックブームとインターラプターは不在だ。ソウカイヤからの依頼でソニックブームはスカウト業務に励み、インターラプターはザイバツニンジャの迎撃に励んでいる。潜入工作やセキュリティ部門の業務は外部委託できない為、クチュリエールとブロッサムは留守番だ。インターラプターは自身のワザマエの錆落としをする為に迎撃依頼を多く受けるべく、二人に留守番を頼んだのだ。
ブロッサムはスリケン生成ができないニンジャなのでコレを使えない。そもそもクチュリエール宛てなので、ブロッサムが使うのは筋違いだろう。
クチュリエールからすればゴテゴテのギミックが取り付けられた使いにくそうなガントレットより、ドウグ社のオーダーメイドブレーサーを使いたい。そもそもスリケンスナイプ自体、クチュリエールはニンジャギア無しでもできるのだ。
使わないと面倒な事になるのは確実だろう。シャーテックにはストーカー気質のニンジャが多そうなイメージがある。粘着して来そうだ。
クチュリエールはため息をついてソウカイヤから再び渡されたIRC端末を手に取った。