キャンピングカーがヨロシサン製薬のバリキドリンク工場跡に向かってタマチャン・ジャングル奥地を進む。下生えに覆われた微かなアスファルトの痕跡と朽ち果てたノボリや自販機がこの道が旧世紀の国道だったことを暗示していた。
キャンピングカーの屋根の上にはクチュリエールとニンジャスレイヤー、運転席にはブロッサム、助手席にはナンシーが座っている。
ナンシーの車がタイヤをチュパカブラに切り裂かれてパンクした為、同乗させてもらう事になったのだ。スペアタイヤはあるが、ニンジャであるチュパカブラが徘徊している以上、履き替えて隙を作るわけにはいかないのだ。
クチュリエールは周囲を警戒しながら左手のガントレットのピッチングマシンめいた機構を右手で回転させ、いつでもチャクラムスリケンを発射できる姿勢を維持している。ニンジャスレイヤーも同じく周囲を警戒していた。
その時だ!
「ウオーッ! ウオーッ!」
突如、クチュリエール側の竹林から巨大なバイオパンダが姿を現し襲い掛ってきた!クチュリエールは咄嗟にチャクラムスリケンを発射!ナムアミダブツ!チャクラムスリケンがバイオパンダの首を刎ね飛ばす!
だがタマチャン・ジャングルの恐ろしさはこんなものではない!
「ウオーッ! ウオーッ!」
さらにもう一頭のバイオパンダが反対側の密林から姿を現し、おそるべき爪を剝き出しにして飛びかかってきたのだ! ナムサン!
しかし、先程発射したチャクラムスリケンが複数のバイオバンブーで反射して、バイオパンダの首を刎ね飛ばした!
キャンピングカーが意に介さず走り続ける中、ニンジャスレイヤーの視線がクチュリエールの左腕のガントレットに注がれた。
「クチュリエール=サン。何故オヌシがそのガントレットを持っているのだ?」
ニンジャスレイヤーの脳裏にドラゴン・ゲンドーソーと共にくぐり抜けたガントレットとセンチピードとの戦いの記憶が蘇る。超遠距離からのホーミングスリケンスナイプとドドン・ジツのコンビネーション。ドラゴン・ゲンドーソーからのインストラクションが無ければ爆発四散していたであろう相手だった。あの時のスリケンスナイプに使われていたニンジャギアに酷似している。
「これでヤンスか?シャーテックで出回ってるアッシのスリケンスナイプ動画を見てファンになったニンジャからのプレゼントでヤンス。スナイパースリケン投擲用ガントレット……ピッチングマシンめいた機構でカラテを込めたスリケンを撃つ、ギミック付きガントレットでヤンス」
「オヌシ程のワザマエの持ち主が何故わざわざそんな物を使う?オヌシなら手投げでもやっていけるだろう」
ニンジャスレイヤーにはクチュリエール程のスリケンの使い手がこんな物を使う事自体疑問だった。
「このガントレットがただの手動スリケンピッチングマシンじゃないからでヤンス。普通、投げる動作一つでスリケンにカラテを込める物でヤンスが、これは回してホイールを加速する度、ギミックでカラテを追加チャージできるのでヤンス。
チャージしたカラテで発射するから、使用者にそれ程実力が無くとも2キロ先まで届くし、威力も凄いでヤンス。何より、基本単発だからフレンドリーファイアしにくいでヤンス」
「言われてみれば、確かにピッチングマシンめいた機構だけで遠くまで届く物ではないな」
ニンジャスレイヤーは合点が行った。
「ところで、シャーテックというのは?」
「ガントレットってニンジャが作ったスナイパースリケンの使い手を育成するドージョーでヤンス。今はガントレット本人が死んだから彼の同志達が運営してて、中国地方のどこかにあるらしいでヤンス」
「そうか……オヌシもそのドージョー出身なのか?」
「違うでヤンス。ガントレットにスリケンをホーミングさせる方法を教えてくれと頼まれたから教えただけでヤンス。それ以来、たまに会ってはスリケン談議で盛り上がる仲でヤンスね。……楽しかったなぁ……」
「そうか……教えてくれて感謝する。私は先行して偵察してこよう」
不可抗力とはいえ、クチュリエールの友人を殺した事実にニンジャスレイヤーは気まずくなり、バリキドリンク工場跡地への先行偵察に向かった。
━━━
車内ではナンシーのナビゲートの下、ブロッサムがヨロシサン製薬のバリキドリンク工場跡地に向けてキャンピングカーを走らせていた。
「ナンシー=サン、ニンジャとの戦いになると思いますけど大丈夫?」
「大丈夫よ、ブロッサム=サン。ニンジャスレイヤーと一緒に何度もこなしてきたわ。もっとも、ニンジャスレイヤーに護衛してもらってのハッキングなんだけどね」
ナンシーの回答にブロッサムは驚いた。何度もニンジャに遭遇しているにしては意識がはっきりしている。ニンジャスレイヤーと一緒にいる以上、事実である事は確かだ。ここまでタフなモータルがいるとは思わなかったのだ。
「私からすれば、ソウカイヤに追われ続けていた貴女達の方が気になるわ。元シックスゲイツ二人が一緒とはいえ色々と大変だったはずよ」
「そうでもないよ、ニンジャスレイヤー=サンにスレイされて実力者が減ってるから、アタイ達の元にはサンシタニンジャしか刺客が来なかった。資金はハッキングとかでヤクザやヨタモノとかから調達してるから資金面でも困らなかった。ダイダロス=サンにクチュリエール=サンが虐められないからむしろ快適だったくらい」
「……そうね」
ナンシーの脳裏にダイダロスとの死闘が蘇った。
『ナンシー=サン! 貴方を手に入れ、私のネンゴロのクチュリエールを連れ戻し、生体LAN直結して並べてファックします!』
どれ程の期間かわからないが、友達を目の前で生体LAN直結によって慰み物にされていたのだ。彼女達の心情は察するには余りある。
「今はダイダロス=サンが死んで、狼藉を止めなかったゲイトキーパー=サンが指三本ケジメされたし、私達もソウカイヤに戻されずにフリーランスになったから凄く楽になった。今が一番良いよ」
「……そうね」
ナンシーはブロッサムとクチュリエールが辛い環境から脱した事を知って喜び、安心した。
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「活力バリキ!」
「実際安い!」
……虚飾的な標語とともに、ドリンク剤を持った半裸のスモトリとオイランが笑うレトロなヨロシサン製薬の看板が工場の壁に大きく掲げられていた。看板の表面を覆う激しい錆は、化粧を落としたエルダー・オイランを思わせる。
「ぱっと見は、数十年前に遺棄されたヨロシサン製薬のドリンク工場だ」
正門前に立つニンジャスレイヤーは、微かに残ったタイヤの跡を手で触れて調べる。
「当時の推定従業員数は五千人。閉鎖により一帯は過疎化……やがてジャングルに吞まれた」
ナンシーがカメラを回しながら言葉を続ける。
「農民たちの噂が真実なら、およそ一年前に、そこへ何者かがやって来た……」
ナンシーは敷地内に放置された数台の黒塗りバンを映す。
「そしてドリンク工場は、彼らの手で謎の生体兵器工場に作り変えられた。無人のはずの工場跡から、夜な夜な謎の吼え声や怪光が漏れ、そして数週間前に……爆発」
カメラは崩れ去った西区画を映す。
「電気やシステムは、まだ生きている」
ニンジャスレイヤーは正門の上に置かれた二台のダルマ・ガーゴイルを指差した。ダルマの両目にスリケンが突き刺さり、そこに隠された殺人レーザー発射装置からバチバチと火花を散らしている。先ほどの偵察時に、ニンジャスレイヤーがこれを破壊していたのだ。
クチュリエールとブロッサムは正面口の近くに停めたキャンピングカーの外で周囲を警戒している。
ニンジャスレイヤーとナンシーは大胆にも、初代ヨロシ=サンの銅像が建つ正面口から侵入を試みた。
クチュリエールは色々と激動の日々を送っているせいで原作知識がうろ覚えになっています。
**スナイパースリケン投擲用ガントレット**
ピッチングマシンめいた機構を回す事でカラテをチャージし、ツヨイ・スリケンめいてカラテをチャージしたスリケンを撃てるガントレット。(独自設定)
こういう事であると認識しないとあのガントレットで超遠距離狙撃なんて無理な気がします。
今回スナイパースリケン投擲用ガントレットを使用しているのは、バイオバンブーが群生しているジャングルでフラフープ大のチャクラムスリケンはバイオバンブーの隙間を抜けられず、森に潜まれると手を出しにくくなるからです。
手投げでも対処できるとはいえ単発の威力も欲しい為、クチュリエールはガントレットを持って来ました。