キョート城、謁見の間。
ボンボリに照らされた薄暗い広間。壁には古代エジプトのアブシンベル神殿を思わせる荘厳なレリーフが刻まれ、その上には神々しい光を放つ隻眼を戴いた、巨大な黄金浮遊ピラミッドが描かれている。
〝ニューワールドオダー〟と横書きされたショドーが漆塗りの額に飾られ、ザイバツの恐るべきニンジャエリート思想を暗示していた。
巨大なニンジャファラオ彫像たちの中心には、荘厳なるロード・オブ・ザイバツの玉座がある。ロードの体は上等な黒いスーツに包まれ、手は絹製の白い手袋によって覆われていた。その高貴なる尊顔は、紫色の神秘的なノレンによって隠され、いささかも窺い知ることはできない。
「マイロード。ブラックドラゴン、シャドウウィーヴ、ドローカットの三名がディスクを携え、帰還いたしましたぞ」
ロード・オブ・ザイバツの側近ニンジャ、パラゴンが、重苦しいワインレッド色のカーテンの奥から姿を現した。
「フォーフォーフォーフォー……」
ロードは満足そうな声とともに、膝の上に乗せた美しい毛並みのバイオ三毛猫を撫でる。ブラックドラゴンはロードの玉座の横で立膝の姿勢を取り、オボンを高く掲げた。
「ムフォーフォーフォー……良い働きであった。パラゴン、あらためよ」
「御意……」
パラゴンはフロッピーを手に取り、書き込み禁止タブやディスク本体部などを一瞥すると、それをオボンに戻し、ヨロシサン製薬に渡した。
「このたびは大変お世話になりました。ザイバツの御手を煩わせてしまい、申し訳ありません」
ヨロシサンの重役は、フロシキに包まれた桐箱を献上する。パラゴンがこれを回収し、ロードのもとへ運んだ。ずっしりと重い。
中身は数枚ずつ菓子のように包装されたコーベインが詰められていた……すなわち加工ゴールド・インゴットを奥ゆかしく包装した物である。
「ムフォーフォーフォー……まあよい、余はヨロシサン製薬の真摯さに胸を打たれた。これで手を打つとしよう」
ロードが玉座から威厳に満ちた声を放つ。
「「ハイヨロコンデー!」」
ヨロシサン製薬の重役と指を三本ケジメした営業は、トリュフを嗅ぎ当てた豚のように、額をしきりにタタミにこすりつけた。
「ムフォーフォーフォーフォーーー!」
ロード・オブ・ザイバツの笑い声を背に、ブラックドラゴン、シャドウウィーヴ、ドローカットの三人は静かにフスマを開けて謁見の間を退室した。
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キョート共和国、アッパーガイオン某所、トレーニングルー厶。
フロッピーディスク奪還から一ヶ月程経った頃、カラテトレーニングを終えて休憩中のシャドウウィーヴとドローカットがシャワーを浴び終え、ジューウェアを着てスポーツドリンクを飲みながら休んでいた。
「うーん、もうちょっとなんだけどなぁ……」
「どうしたんだ?少し見てたが、ドローカット= サンが何か失敗したようには見えなかったぞ」
ドローカットの呟きにシャドウウィーヴが疑問を投げかけた。シャドウウィーヴの目には自分以上のワザマエを持つドローカットのイアイドーが何か失敗したようには見えなかったのだ。
「もうちょっと何か掴めれば、斬撃を飛ばせそうな気がしたんだけど、その〝もうちょっと〟が掴めなくて……」
「……ちょっと待ってくれ、良く聞こえなかった」
「もうちょっと何か掴めれば、斬撃を飛ばせそうな気がしたんだけど、その〝もうちょっと〟が掴めなくて……」
「二度も言わなくていい、できる訳無いだろ……」
シャドウウィーヴはドローカットの発言に呆れた視線を向けた。いくらニンジャでもカラテだけでそんなファンタジーな事は出来ない。ドローカットはムキになってスリケン用ターゲットを引っ張り出して少し離れた場所に置き、カタナを抜いてターゲットに向かって構えた。
「言ったね?よーし、見ててよ……風で倒すくらいはやって見せるから」
「いくらなんでも無理じゃないか?」
「……イヤーッ!」
深呼吸で精神統一したドローカットがカタナを袈裟懸けに振り下ろすと同時に自動フスマが開く。入室しようとしたブラックドラゴンとパープルタコの前でターゲットが真っ二つに斬られ、その向こうの壁面に刀傷がついた。
「あっ……ヤバイよ、シャドウウィーヴ=サン!私、壁まで斬っちゃった!」
「嘘だろドローカット=サン!本当にできるなんて!……あっ」
納刀したドローカットに慌てた様子で抱き着かれたシャドウウィーヴが入口のブラックドラゴンとパープルタコに気付いた。パチパチとトレーニングルームに二人分の拍手が響く。二人共驚き、言葉を失っているようだ。
「見事だ……まさかカラテをジツの領域に引き上げるとは……」
「できる物なのね……こんな事……」
「アッハイ」
「壁の刀傷については俺から言っておこう」
「ありがとうございます。ブラックドラゴン=サン」
シャドウウィーヴに引き剥がされたドローカットは反応に困った。ソニックカラテの術理をイアイドーに組み合わせた〝飛ぶ斬撃〟をこのタイミングで成功させられるとは思わなかったのだ。
このワザはやってみたドローカットの感覚からすると連射が効かず、カタナを振るモーションの分、出が遅いので使い勝手が悪いワザだ。
イアイの間合いから逃れようとする相手に撃つか、不意打ちで放つか、シャドウウィーヴのシャドウピン・ジツ等で動きを封じた相手に放つくらいしか運用手段はないだろう。
カラテだけで成し遂げた事に驚く三人には悪いが、ドローカットには使い勝手の悪さからそこまで凄いワザとは思えず、ブラックドラゴンとパープルタコの反応に戸惑った。
「……あの、このワザ……出が遅くて、連射が効かないので実戦で使える気がしません。威力も多分、一太刀入れる程度ですし」
「ファハハハハ、アカチャン、高望みし過ぎよドローカット=サン。出が遅いと言っても当てる隙は十分作れる範囲じゃない。間合いを離される時にとりあえず振れて、透明の斬撃だから見えない上に一太刀入れただけの威力があるなら、それだけで十分強いわ」
パープルタコはドローカットを抱き締めて頭を撫でた。
「俺も負けてはいられないな……ありがとう、俺にとっても良い刺激になったぞ。ドローカット=サン」
ブラックドラゴンもドローカットの頭を撫でた。シャドウウィーヴはああでもないこうでもないとドローカットを祝福するハイクを考えている。
BEEP!BEEP!BEEP!
突然、IRC端末に通知が入る。オミヤゲ・ストリートにて大規模テロ発生の知らせだ。四人はトレーニングルームを飛び出した。
**飛ぶ斬撃**
ソニックカラテの術理とイアイドーを組み合わせた飛ぶ斬撃。ワザ名はまだ未定。カタナを振る分、スリケン投擲より隙が大きいが、持ち替えが無いのでパープルタコが言うように隙もそれ程気にならない範囲に収まっている。
ドローカットは連射出来ないとか、一太刀入れる程度の威力とも言っているが、一太刀入れるだけでもニンジャは殺せるのでドローカットが高望みし過ぎなだけである。