空から一人、地上からは四人のニンジャがアッパーガイオンをオミヤゲ・ストリートに向かって駆けている。
空からは光の柱……衛星軌道レーザーが撃たれ、オミヤゲ・ストリートを縦横無尽に動き回ってケーキナイフのように地表を切り刻んでいた。
轟音が響く。切り刻まれた大路が自重に負けて崩落したのだ。崩落したオミヤゲ・ストリートの大路がアンダーガイオン一層に衝突する凄まじい衝撃音とジゴクめいた大穴から響く悲鳴が大気を震わせる。
この状況でもお構いなしに衛星軌道レーザーは地表を切り刻み続けていた。
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アッパーガイオンの暗い路地裏をサラリマンを掴んで引きずりながらニンジャが駆ける。
「ハァーッ! ハァーッ! ハァーッ!」
ブッダオメーンのニンジャはオミヤゲ・ストリートから逃げていたのだ。
「ハァーッ! ハァーッ! ハァーッ! ここまで逃げれば大丈夫だッ!」
「アイエエエエエエ! ニンジャ? ニンジャナンデ!?」
ブッダオメーンに顔を隠したニンジャは、肩で息をしながら、先程捕まえてきたサラリマンを引きずり起こす!
「イヤーッ!」
「アイエエエエ!?」
恐怖するサラリマン! その心臓にカラテパンチを一撃!
「ナムアミダブツ! これぞブツメツ・ケン! 貴様の心臓は一〇八回鳴った後死ぬ!」
無慈悲に死を宣告するブッダオメーンのニンジャ! ブッダ! 血も涙もない!
「アイエエエエ! アイエエエエエ!」
死の恐怖に恐れおののくサラリマン! そして心臓の鼓動は速まり……一〇八回目!
「アババババーッ!」
肉体が内側から爆ぜ、上半身が骨に! コワイ!
「やっぱり殺るなら人間だな! ニンジャ相手の戦闘なんざ、やってられるか!……アイエッ!?」
ブッダオメーンのニンジャは返り血を浴び、殺人鬼としての尊厳を取り戻すと、再び逃走を開始! だが動かない。足が……いや全身が、凍りついたかのように動かないのだ!
「何……だ?」
ブッダオメーンのニンジャは強引に首を捻り、自らの影に突き立てられた一本のクナイを見た!
「……シャドウピン・ジツだ。お前はもう動けない……」
後方から何者かの声!全身にクナイダート・ベルトを仕込んだニンジャ装束を纏うニンジャと小柄で豊満な少女ニンジャが見事な松の木の陰から現れた!
「お前に俺のジツは破れない。俺の空はお前の空よりも暗い……。ドーモ、シャドウウィーヴです」
「ドーモ、ドローカットです。」
「ドーモ、デスネルです。おのれ、ザ……ザイバツの増援か……!」
デスネルがブッダオメーンの奥で表情を歪ませる。その直後、前方から別なニンジャの気配!
「アイエッ!?」
デスネルが首を捻ると、そこには実際グラマラスな女の影が!
「ファハハハハ! アカチャン!」
それはシテンノのひとり、パープルタコ! 恐るべきソウル吸収触手を備えた女ニンジャだ!
「アイエエエエエエ! スゴイ!」
「ファハハハハハハ!」
「アイエエエエエエ! アイエーエエエエエエエ! ……サ、サヨナラ!」
デスネルの断末魔の絶叫が、アッパーガイオンの暗い路地裏に木霊する。 ビルの上ではブラックドラゴンがその様子を眺め、更にその上空ではシテンノのひとりアイボリーイーグルが冷酷な眼差しとともに旋回飛行し、デスネルの死を高性能IRCカメラで撮影していた。
「私のジツはどうだった、アプレンティス」
パープルタコは高圧的な腰つきで歩み寄り、足を絡ませ、豊満な胸をシャドウウィーヴとドローカットに押し付け、抱き締める。
「「た、たいへん参考になりました」」
「オミヤゲ・ストリートへ急ぐぞ。もう増援は来ない……」
じゅるり、と音を立てながら、パープルタコは自らの奇怪な触手をメンポで覆い隠し、暗雲を切り裂く光柱を睨んだ。
「……この危機にニーズヘグ=サン以外のグランドマスターが誰も動こうとしないとは……嘆かわしい限りだ……」「グランドマスター単独で乗り込むのも、それはそれで問題ではないか?」
増援はこの五人のみ。ジゴクの如き戦場に部下を送ろうとするグランドマスターはいないようだ。
「行くぞ」
上空を舞うアイボリーイーグルが、彼らを先導するように飛翔する。他の四人も跳躍! 液晶面に「不知火」と明滅する重箱ビルの上を駆けた。
次第に、切り裂かれた大路の全容が見え始める。数えきれないほどの観光客や市民の死体が転がっている。道路部分はおよそ半分が崩落し、オミヤゲ・ビルが何個かアンダーガイオンの闇へと消えていた。まるで戦争の後だ。シャドウウィーヴは小さく身震いした。
衛星レーザーは今なお健在。大路の真ん中では、ダークニンジャとニーズヘグが巧みなコンビネーションで動き、最重点目標を挟撃していた。
「「イヤーッ!」」
「グワーッ!」
狂ったように降り注ぐ衛星レーザーの雨を回避しながら、二剣士は前後左右からの一撃離脱戦法を繰り出し、怪僧ニンジャの身体が徐々に切り裂かれてゆく。
「何たるワザマエ……」
「見事……!」
重箱ビルの屋上で、パープルタコとブラックドラゴンは言葉を失った。そのイクサは、歴戦の手練である彼らにとっても別次元のカラテ世界であった。
それは単純な速さや強さの問題ではない。一瞬の判断ミス、或いは純粋なる不運が容易に死を招く、このようなマッポーの如き戦場に身を置けるかどうかで、既にカラテが試されているのだ。
「「イヤーッ!」」
「グワーッハッハッハッハ! ブッダの御意志は止められぬ!」
二剣士は荒れ狂う手負いの獣を狩るように、緻密に、かつ大胆に攻め続ける。とどめを刺す好機は何度も訪れたが、そのたびに衛星レーザーが介入し、彼らは回避動作を強いられるのだ。満身創痍の怪僧ニンジャが笑った。
パープルタコとブラックドラゴンは重箱ビルの屋上から踏み出せずに待機姿勢を取り、クナイ・ダートを握るシャドウウィーヴの手がじっとりと汗ばむ。ドローカットは勘に任せて全力のスリケンを投げれば怪僧ニンジャを仕留められそうな気がしたが、確実に正体がバレるので自重した。
どのような行動をとっても、足手まといになる結果しか見えない。 これ以上長引けばさらなる崩落を引き起こすだろう。もはや後が無い。そして訪れた再びの好機!
「イヤーッ!」
ニーズヘグが正面から蛇腹剣を伸ばし、怪僧ニンジャの動きを拘束! 間髪入れず、ダークニンジャが背後から妖刀ベッピンを突き立てた!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
ベッピンが敵の心臓を深々と貫き、怪僧ニンジャの哄笑が絶叫に変わる!ハッキングが中断され、衛星レーザーから降り注ぐ光の雨が止んだ。
「スゴイ……!」
シャドウウィーヴが思わず感嘆の声を上げ、ハイクを詠みたいほどの衝動に突き動かされる。まるで平安時代のニンジャだ。パープルタコたちは大路へと降り、ごくりと唾を呑んで、遠巻きにこの狩りを見守った。
「ヌウウウウウーッ!」
「イヤーッ!」「グワーッ!」
心臓を貫かれながらもなおも激しく抵抗する怪僧ニンジャ! その頭をダークニンジャの鋼鉄ガントレットが掌握! 完全に自由を奪う!
「アーッ! アッバババッバアーッ!」
「貴様のソウルは折れたり!」
怪僧ニンジャは白目を剝き絶叫! ダークニンジャは水平に突き刺していたベッピンを右手の捻りで九十度回転させる!
「グワーッ!マ……マッポー……カリプ……サヨナラ!」
怪僧ニンジャが絶望した表情で爆発四散し、その爆煙と血煙が晴れる頃。六人のザイバツニンジャは、その奥から現れる不吉なダークニンジャの姿を見た。両腕を覆う禍々しきガントレット。右手には紫の燐光を放つ血塗れのベッピン。左手にはメデューサめいたLANケーブルを生やすメテオストライクの生首。一陣の風が、黒曜石色の布をマントめいてはためかせた。
ダークニンジャの瞳は冷徹にカタナのごとく輝き、あの下弦の月が放つ光のように、凜として邪悪であった。レーザーに切り裂かれた雲の傷跡が渦を巻いて閉じてゆく。そこから細く無機質な月光が一筋、斜めに地表へ降り注ぎ、暗き英雄を照らした。
ここで不思議なことが起こった。その周囲に集った六人のザイバツニンジャたちの内、五人が、一人、また一人と、英雄を讃える騎士のごとく片膝をついたのだ。グランドマスターたるニーズヘグですらも。
片膝をつかなかったドローカットはダークニンジャと目が合ってしまい、気まずさから動けなくなっていた。真っ直ぐに自分を見つめるダークニンジャの視線にドローカットは自分の正体がダークニンジャにバレた事を直感した。
(あっ、ヤバイ……もうダメかもしれないでヤンス)
ドローカットは周りが片膝をついた事に気付き、慌てて片膝をついた。
クチュ……ドローカット=サンが自重しなかった場合、ホーミングチャクラムスリケンを跳弾させて怪僧ニンジャことメテオストライクをあっさり仕留められたりします。衛星軌道レーザーで跳弾を利用した全方位からのスリケン攻撃を凌げる道理は無いですからね。実力というより相性が良いのです。