上から降ってきてドップリと床にたわんだ泥めいた黒い巨塊は、四方八方へその触手を跳ね散らかして広がった。その表面張力が破られ、割れて拡がると、中から二人の男が現れた。
タールめいた物質は、意外にも、こびりついたり染みる事無く、彼らの足元に澱んだ。四人のザイバツ・ニンジャは咄嗟にそれを包囲し、カラテを構えた。
「アー……ア?」
拘束衣めいたニンジャ装束を着た男が小首を傾げ、耳の穴をほじくりながら、彼ら四人を順繰りに見てからドローカットを注視した。メンポは着けているが頭巾は無く、黒髪は逆立ち、眠たげな目が、よからぬ期待に濁っている。
「いる?アイツ。いねェんじゃねェの?これ。よォ」
「……ああ。いないようだ」
もう一人は顔全体を覆う不穏なメンポを装着していた。そして白いニンジャ装束の上体をはだけている。それもそのはず、その両腕は絶対的に間違ったバランスであったのだ。腕先が床まであり、指は無骨なマニピュレーター……重機、あるいは鉄塊をサイバネ手術で無理矢理取り付けたように見える。
「……ま、いいか?カタナ持ちのお嬢ちゃんがいるし、用が終わったらアイツの代わりに遊べるか」
「ああ」
拘束衣のニンジャは片割れを見やり、片割れは頷いた。
「何者だ、貴様らは!」
「なァ、ちゃんと待ってるよな? アズールは。待ってるよな? 俺らが戻るまで」
物騒な会話にソルヴェントが割り込んだ。拘束衣のニンジャは無視し、続けた。
「待っているさ、あれは一人では何も出来ない」
「そうかァ!」
片割れがまた頷くと、彼は邪悪な光で瞳を爛々と輝かせて見渡した。
「ドーモ、デスドレインってンだよォ俺は! こいつはランペイジ! テメェらアイサツしろよォ! ダークニンジャがいねェのはわかったよ! どいつがジルコニアだ?」 「エッ!?」
ソルヴェントは戸惑ってジルコニアを見た。ジルコニアは冷静にアイサツを返した。
「ドーモ、はじめましてデスドレイン=サン。ジルコニアです。……貴様らは例のオミヤゲ・ストリートの賊どもか」
「アハァ! 知ってンの?」
「俺さ、お前宛てのマキモノを運んでた奴をな、ザイバツの、エート」
デスドレインは身を乗り出してからランペイジを見る。
「……ブロンズデーモン」
「そう! そのなんとかいうゴミと遊んでやったよ。糞溜めに突っ込んで殺してやったんだ。命乞いするのをさ、観察してたンだ、俺達。まあいいや、それでな、ダークニンジャがここにいるンじゃねえの? って」
「旧いな、その情報は」
ジルコニアは眉ひとつ動かさず答えた。
「行き当たりばったりのクズ虫。確証も無いまま、その密書を頼りに地下深くまで来たか。あまりに愚か」
「上から真下へ穴掘って来たンだ、こいつの腕で。……オイ、ランペイジ! あそこの弱っちい奴、殺せ。見てらンねェ。オドオドしてっから」
デスドレインが指さしたのはソルヴェントだ。
「わかった」
「エッ、何……やめ、畜生! 来るな」
ランペイジはソルヴェントめがけ真っ直ぐに歩み寄り、ソルヴェントは後ずさる。一方、デスドレインはジルコニアに向き直った。
「お前、ダークニンジャのかわりだ、お前! お前、ちッたァやれンのか? え? やれンのかよ?」
そこからやや離れた地点で、メイガスは無言で床に膝をつき、その姿が白く輝きだす。 ドローカットもランペイジから少し離れた位置でカタナを構えつつ深呼吸する。
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
ランペイジがソルヴェントへ踏み込んだ。撃ち出される恐るべきストレートパンチ! ドローカットはランペイジめがけてその場でカタナを振るう!
「……イヤーッ!」
ソルヴェントは瞬間的に足元の床へ沈み、逃れようとした。石にすら潜り込む、強化されたドトン・ジツだ! ズドンと音を立ててランペイジの下腕部に斬り裂かれたような傷が付き、ストレートパンチがあらぬ方向へ向いた結果、床に潜り込むソルヴェントの頭スレスレをランペイジのパンチが通り抜けた!
何故このような事が起きたのか!?ドローカットのトバシ・キリである。飛ぶ斬撃をランペイジのストレートパンチに横からぶつける事でパンチを逸らしたのだ!続けてランペイジの背中に、白熱するコロナ塊が襲いかかる。ストレートパンチの反動に耐えるランペイジはこれを躱しきれない。KADOOM! コロナ塊が爆発!
「グワーッ!?」
ランペイジは吹き飛び、壁に叩きつけられる! 爆発したコロナ塊の光は再び収束し、ニンジャとなった……メイガスだ。
「何? 立つのか。浅かったか」
「ヌウーッ……」
メイガスは呟いた。ランペイジはぎこちなく起き上がった。背中が黒く煤けているが、致命傷ではない!
「へへへへ! 喰らってやがンの!わけわかンねえ腕してッからだ!」
「問題無い」
デスドレインは味方の苦境であるにも関わらず笑い、ランペイジは無感情に答えた。
「ドーモ。申し遅れたが、メイガスです」
「ドーモ、同じくドローカットです」
メイガスとドローカットはオジギした。メイガスの身体が再び白熱コロナ塊と化し、その場で爆発、竪穴内に拡散した。輝きが竪穴内を満たした。
「ンだァ? あいつ……」
デスドレインはイライラと耳を搔いた。そこへ間合いを詰めるのはジルコニアだ。
「ヘヘヘヘハハハッハハハハァー!」
デスドレインが哄笑して仰け反ると、その足元から三メートルの高さまで粘つく暗黒物質が噴き上がり、ジルコニアを呑み込まんと迫る!
「イヤーッ!」
ジルコニアは素早く側転! 彼がいた場所にヘドロのスライムがのしかかり、うねる。
「そっちにもあるッてンだよ!」
デスドレインが叫び、彼の後ろから大蛇めいて滑るように這い出してきた別の暗黒物質塊をジルコニアの側転先に回り込ませ、絡め取ろうとする!
「イヤーッ!」
だがジルコニアは側転から高く回転ジャンプしてこれをも回避! そして壁を蹴った!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
三角跳びを行ったジルコニアは斜めに滑空、デスドレインの横面を殴りつける! ハヤイ!デスドレインは防御をしくじり、たたらを踏んだ。
「痛ェじゃねえかァ……あン?」
彼は己の頰を撫でた。油じみて虹色にきらめく細かい結晶が、殴られた場所に寄生している。
「てめェ何だこれ……汚ねェ物くっつけやがッ」
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
ジルコニアがさらに踏み込み、左脇腹にショートフックを叩き込む! すかさず暗黒物質がジルコニアを後ろから呑み込みにかかるが、すでにそこに彼の姿は無し! 横へ転がって回避! タツジン的ヒット・アンド・アウェイだ!
「イヤァァーッ!」
「イヤーッ!」
ランペイジはスリケンやトバシ・キリを両腕で防ぎ、腕の傷を増やしながらパンチを交えてドローカットを追い回す!
ランペイジの両腕は既にマニュピレーターがいくつかケジメされ、装甲がいくつか脱落していた。ドローカットのワザマエがブラックドラゴンやダークニンジャによるインストラクションで上がり、トバシ・キリの連射や動き回りながら正確に撃てるようになったのだ。
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」「グワーッ!」
デスドレインとランペイジが追い詰めようとするも、ジルコニアとドローカットの回避先が重ならない!比較的余裕のあるドローカットがスリケンやトバシ・キリでランペイジに防御を強いる事で、両腕にダメージを与えて妨害しつつ、誘導してジルコニアの回避先を作っているのだ!二人の攻撃は着実に襲撃者達にダメージを与え続けていた。
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その光景を、シャドウウィーヴは竪穴の門の下で離人症めいて実感のないままに眺めていた。
侵入してきた敵はオミヤゲ・ストリートを破壊した犯罪者ニンジャの生き残り達だ。シャドウウィーヴの脳内で占いとこの襲撃が結びついた。マキモノで神器の事を知って破壊、もしくは奪取しに来たのだろう。
「裏切りでは……裏切りの事ではなかった、最初から違ったんだ……」
シャドウウィーヴは震え声で呟いた。アラクニッドはジルコニア達の裏切りではなく、この事を予知して……! しかし、〝下手に手を出せば邪魔になるのではないか?〟〝足並みを崩す事になったら皆の身がアブナイのではないか?〟色々な懸念が脳裏に浮かんで動けない。
(((ジツによる足止めと嫌がらせに徹すれば、私や他のニンジャ達が仕留められるから手伝って!あんなニンジャ重機の相手は正直、凄くキツい!)))
「ドローカット=サン……!」
架空のドローカットが助けを求めてくる。下手に手を出せば邪魔になる?足並みを崩す事になったら皆の身がアブナイ?そんな事は同じアプレンティスの彼女が最前線で踏ん張っているのに、ここで震える理由にはならない!ドローカットの実力が並のアデプトを超えてマスターに近い実力があったとしても!
「なんだ、それは? なんだ、その、甘っちょろいブルシットは? この俺は!? ええっ? シャドウウィーヴ!」
彼は己を罵った後、顔を上げ、戦いに加わるべく広間へ進み出た。
ソルヴェントはランペイジにビビって地中に引きこもってます。原作の死因だから仕方ないね。
一応、ドローカットはトバシ・キリのおかげでランペイジ相手の相性はそこまで悪くなかったりします。