シャドウウィーヴが影に包まれ、ドローカットの肌をユーレイめいて青白くしたような少女の姿に変わる。着ぐるみを脱ぐようにシャドウドラゴンの背中からシャドウウィーヴが現れ、そのままシャドウドラゴンの背後に着地して前に出る。パープルタコは「アラアラ」と笑い、他のシテンノの面々とダークニンジャ、ドローカットは困惑した。
ヌンチャク奪還任務失敗から数日後、報告の中でシャドウウィーヴが新たなジツを編み出したとあった為、彼はシテンノ一同とダークニンジャ、ドローカットの前でジツのお披露目をする事になったのだ。
「エート……これが俺の新しいジツ、シャドウドラゴン・ジツです」
「ドーモ、シャドウドラゴンです」
「ドーモ、シャドウドラゴン=サン。ブラックドラゴンです。……脱げたのか」
シャドウウィーヴが気まずそうに紹介し、シャドウドラゴンのアイサツにブラックドラゴンがシャドウドラゴンを脱げた事や喋れる事に驚きながら返事を返した。弟子のジツに期待していたが、こんな方向性に成長するとは想像も出来なかったのだ。しかし、任務の状況的にドローカットのように戦おうとして産まれたジツである事は容易に推察できる。
「では、カラテのワザマエを見てやろう」
「よろしくお願いします!」
気を取り直し、二人揃って木刀を構える。キョート共和国、アッパーガイオン某所。トレーニングルームの中心でシャドウドラゴンとブラックドラゴンのカラテが衝突した。
━━━
「サユリ=サン、まだ帰って来ないの?」
「ああ……。アイツの事だ、何か想定外のトラブルに巻き込まれているんだろう」
「アータ……なんでそういう時にオイランの元に行ってるのよ」
「そりゃあ、サユリからも〝あの娘達を寂しがらせるな〟って言われているからな」
「アーン! モー!」
七フィート超の背丈をもつボンズヘアーの屈強なトランスジェンダー者は、突然立ち上がり頭を抱えた。
「オイオイ、落ち着けよザクロ=サン」
フマトニはザクロを宥めた。
「うるさいわねッ!サユリ=サンの趣味でたまにオイランやマイコの元に行って三人で前後してた事や、アータがオイランの元に行ってもサユリ=サンが気にしない事も知ってるけど、この状況で行く!?」
ザクロと呼ばれたそのクイーンは、カウンター席の隣にかけたフマトニに顔を近づけた。
「アータ達が好き合ってるのは知ってるけどね、心配してもしょうがないからって、そういう所に行くのは正直どうかと思うわ!」
「アイツの心配はしてねェ。俺としては男相手に浮気をしてなければ別に構わねェよ」
「まったくもう!」
ザクロは芝居がかって再び頭を抱えた。
「関係ないと言われたら確かにそうだけど、あの娘が良いようにされてるみたいで落ち着かないわ!」
「あれでプラトニックにいちゃつく時は独占欲が強いんだぜ?それに〝誰と前後しようが、浮気されたら浮気相手ごと前後して上下するから気にしない〟とも言ってきたからな。アイツ、ある意味俺より男らしいんじゃないか?」
「アータたちったら、もう……」
呆れたザクロは手元のサケ・ボムを呷った。
「またヤモト=サンやワタナベ=サンから催促が来る前に帰りなさいよ」
「おう。あんまり遅くなるとコワイからな……」
フマトニはウイスキーのロックを飲み干してから出て行った。ザクロは呆れたままの表情で見送る。フマトニが去ると、ザクロはもう一度溜息をつき、サケとオツマミを洗い場に片付けた。
洗い物を済ませたザクロは軒先に立ち、陰鬱な雨を感じた。ネオカブキチョの一角、ニチョーム・ストリート。時刻はウシミツ・アワーだ。頭上のネオン看板「絵馴染」、その真ん中の「馴」のカンジが、雨を受けてバチバチと音を立てる。
「あら」
戸口に寄りかかったザクロは、こちらへ近づいてくる人影に目を留めた。雨除けのPVCコートのフードを目深に被った小男だ。ザクロのごく近くまで来ると、彼は略式にオジギした。
「……ドーモ。ネザークイーン=サン」
「ドーモ、キリシマ=サン」
ザクロの表情はやや険しくなった。
「急ぎ?」
「頼む」
キリシマは頷いた。
「店は『バナナ・ボンサイ』だ。客が暴れてる。ストーカーめいてやがる。立て籠もりで……」
「んもう、それなら走って教えに来なさいよ」
ザクロは叱り、後ろ手に店のドアをロックすると、駆け出し、店と店の隙間に身を滑り込ませ、レザージャケットの内ポケットのスイッチを操作した。
瞬時にジャケットは形態を変化させ、フェティッシュに彼の全身を包み込んだ。特殊な機構である。わずか三秒で、ザクロは黒光りするレザーニンジャ装束に頭からつま先まで身を包んでいた。そう、ニンジャだ。ザクロはニンジャ「ネザークイーン」であった。
━━━
ヘルプ要請を受け、トラブルを解決したザクロは店に戻るとサケ・ボムを作り、オツマミを出して晩酌を始めた。
ザクロはニチョームを護るたった独りの自警団であり、ヨージンボーであり、相談役であり、騎士である。 ザクロが相手取るのは今夜のような突発的なフリークアウト者ばかりではない。
半非合法なこの区域において、闇の勢力とギリギリの綱渡りを行い、侵害されることの無い自由を確立するために、ザクロのニンジャとしての力は今や不可欠な物だった。
ザクロはソウカイヤを相手に協定を結び、うまく立ち回ってきた。数ヶ月前、いきなりそれがキョートから進出してきたというザイバツなる組織に置き換わった。
謎だらけの不気味な集団ではあったが、協定は問題なく引き継がれた。 だがここ最近、新たな頭痛の種が生じつつある。
「アマクダリ・セクト」。ソウカイヤの残党組織が何時の間にか力をつけ、そんな名前の旗印を掲げるようになった。表社会の何者かの後ろ盾もあるに違いない。
彼らがザイバツと睨み合う場面もネオサイタマにおいて散見されるようになった。 アマクダリがこのニチョームに焦点を合わせれば、協定の行き場はどうなる?
ニチョームを舞台にザイバツとアマクダリの抗争が起こるという最悪の事態すらあるのだ。ザクロは憂鬱な思考と共に残りのサケ・ボムを一息に飲んだ。
ニチョームと居残り組三名の接点があまりにも作りにくかったので、クチュリエールの性癖に犠牲になって頂きました。