「さっすがオリジナル。ワザの引き出しが多いね」
「うむ。やはり咄嗟の判断力にも目を見張る物があるな」
「ドヤァ……もっと褒めてくれていいよ!……ってやっぱり、その帽子のブラックドラゴン=サン喋るんだ。ブレスも吐けるの?」
「うむ、当然吐けるぞ。強酸だがな。……しかし、私をブラックドラゴンと呼ぶのは問題だな。とりあえずドラゴンヘッドと名乗らせて頂こう」
シャドウドラゴンはブラックドラゴンとの手合わせの後、ドローカットとも手合わせを行った結果、ドローカットに少し及ばない程度のカラテを振るえるという事実が判明した。更に彼女の被る帽子であるドラゴンヘッドがブラックドラゴンのように喋る上にブレスまで吐くのだ。……この事実にシテンノとダークニンジャは驚愕した。
「ねぇ、シャドウウィーヴ=サン。シャドウドラゴン=サンを影から直接出せたりしない?今の出し方だと貴方の評判が酷い事になりそうなんだけど……」
「一応、できそうな手応えは感じてる。練習して早くできるようになるつもりだ……ドローカット=サンみたいに強くなりたかったんだがな、見た目までドローカット=サンになりたかった訳じゃないんだ。その、何というか……他意は無いぞ」
「別に好きに使って良いよ。シャドウウィーヴ=サンが編み出したジツなんだから。イメージの補強が必要なら、絵とかのモデルになってあげようか?」
「そこまではいい……」
パープルタコがシャドウドラゴンを抱え、感想戦中のドローカットとシャドウウィーヴの側に近寄った。
「ねェ、シャドウウィーヴ=サン。この娘って鎧の下の再現度はどれくらいなのかしら?アタシ、ちょっと気になるワァ……」
「パープルタコ=サン!?」
「……私もちょっと気になる」
「ドローカット=サン!?」
「「「ちょっとやめないか」」」
センシティブな質問にシャドウウィーヴは狼狽える。ドラゴンヘッド、ブラックドラゴン、アイボリーイーグルが二人を制止した。
━━━
絵馴染のドアが開き、小男……キリシマが入店した。サケ・ボムを飲み干した直後のザクロの視線が彼の方を向く。
「アラ、またなの?」
「そうなんだが、今度は急ぎようが無いヤツだ」
キリシマは茶封筒をテーブルに置き、複数枚の写真を取り出して広げる。写真を見たザクロの眉間に皺が寄った。猟奇的なオイラン惨殺体の写真を挟んで、二人は向き合う。
「この娘たち、ニチョームの娘じゃないわよね?」
「いかにも」
ザクロは写真の一枚を手に取り、キリシマは顔をしかめて答えた。
「あのな、ニチョームは今回な……やった側なんだよ。ウチから容疑者があげられてな」
「ンマ!」
ザクロは口を手で押さえ驚いた。
「やった側? ブッダ! そんな事!」
「ああ、正確には、容疑をかけられて収監されたって事だ。証拠は何もねえ」
「ちょっと……クソマッポのいつものアレ? 誰が引っ張られたの」
「マジロ=サンだ」
「マジロ=サン? ブッダアスホール!」
ザクロは激昂して腰を浮かせた。
「あのウニも割れないベイビーキャットが猟奇殺人!? そんな度胸あるわけないじゃないのよ!」
「そう、そうなんだ。当たり前だがアリバイもあるんだ。あいつはその時カブキチョのホテルでボーイフレンドとよろしくやってたんだが、マッポはアリバイを認めるどころか、それなら共犯だ、ってよ。カップルごと、二人まとめて逮捕されちまったんだよ」
「ザッケンナコラー!」
KRAASH! ザクロはテーブルを両手で殴り、バネじかけめいて立ち上がった後、息を吐いて座り直した。
「まあ、マッポは現状、そんな有様でよ」
「きっと留置場で泣いてるわ、マジロ=サン」
「俺たちとしちゃ、潔白を証明する動かぬ証拠ってやつをアホどもに突きつけてやらにゃいかんのだ」
「証拠」
キリシマは腕組みして思案しながら答えた。
「要するにその真犯人のクソサイコ野郎を捕まえて、締め上げてやりゃあイイってんでしょ」
「ま、そうなるわい」
「後はどうクソ野郎を探すかって事だけど……被害者は、この娘たちで全部?」
「そうだ。一週間で十人」
ザクロは写真をボンボリの明かりにかざした。
「派手ねぇ」
「被害者はみな女だ。サービスオイランやマッサージ嬢を路地裏で狙うのさ。で、見ての通り、内臓を引き摺り出して殺すってわけだ」
「……このまま放っとけば、そのうち大人しくなると思う?」
「ありえねぇ」
「ありえないわよねぇ」
ザクロは椅子に寄りかかった。
BEEP!BEEP!BEEP!
IRCが鳴り、ザクロが応答する。
『もしもしザクロ=サン?ヤモトです』
「アラ、どうしたのよヤモト=サン。フマトニ=サンならさっき店を出たわよ?」
『そうだったの?入れ違いになっちゃったかな……』
「入れ違い?アータ、こんな時間にどこにいるの?」
『ニチョームの近く。近道の為に裏路地を通ってるとこ』
「なんですって!?今すぐそこを離れなさい!表通りに出て家に帰るの!ハヤク!」
『エッ?わかったよザクロ=サ『イヤーッ!』』
虫歯治療に使うドリルめいた音と共に通信が途絶える。キリシマの顔が青くなり、血相を変えたザクロが外に飛び出した。
━━━
「ハイーッ!」
「アバーッ!」
弾けるような衝撃音にいくつも重なるような衝撃音が続き、路地裏の壁を跳ね回りながら一人の男が突き当たりの壁に衝突した。
男の右腕はサイバネ改造されており、その右手首には鉤爪状の武器が接続されており、衝突までの間に全身を打ち付けたせいか、全身の関節があらぬ方向に曲がり、サイバネ腕もひしゃげてスクラップになっていた。
「ニンジャ、ニンジャ、ニンジャが一杯だ! ネオサイタマってのは、こうなのかい?」
「ア、アバーッ……」
衝突した壁の近くにいた銀色のニンジャは情けない声で驚き、一緒にいる赤黒のニンジャは冷静にニンジャ判定を受けた男を観察している。
少し遅れて男が吹き飛んで来た路地裏を小柄な少女が駆けて来る。その胸は平坦であった。
「ドーモ、ブロッサムです」
「ドーモ、ブロッサム=サン。ニンジャスレイヤーです」
「ドーモ、シルバーキーです。そっちの若いお嬢さんもニンジャかよ。参ったね」
ブロッサムはニンジャスレイヤーとシルバーキーを見て驚いた。
「ニンジャスレイヤー=サン……!?」
「ドーモ……奇遇なことだ」
ニンジャスレイヤーは再度オジギした。
「ヤモト=サン!アータ、大丈夫!?怪我はない!?」
「ザクロ=サン!?うん、アタイは大丈夫!」
その時、上からザクロの声が響く。上から覗き込みながらヤモトの事を探していたようだ。ヤモトの返事を聞くと屋上から飛び降り、少し離れた場所に着地してからヤモトの事を抱き締めた。
「良かった……急に切れたから、どうなるかと思ってたのよ……」
ひとしきり抱き締めてからザクロはニンジャスレイヤーとシルバーキーに気付いた。
「ザクロ=サン」
「……」
ヤモトはネザークイーンに小声で呟き、アイサツを促すがネザークイーンの答えはない。ヤモトは訝しく思い、ネザークイーンの横顔を見た。
「ザクロ=サン?」
ゴウランガ! ネザークイーンがおかしい。なかば呆然として、アイサツも忘れて直立している。心なしか震えてもいるのだ。ヤモトは眉根を寄せた。因縁でもあるのかと心配した。
「ザクロ=サン」
「ええ、わかってる。わかってるの」
ネザークイーンは懐からテヌギー・ハンケチーフを取り出し、素早く額の汗を拭った。ハンケチーフには果物のザクロのウキヨエ刺繡がされている。ネザークイーンはチーフをしまった。
「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」
「ドーモ。ネザークイーンです、ニンジャスレイヤー=サン。噂は聞いて……聞いてるわ」
「ニンジャスレイヤー=サン。ネザークイーン=サンはニチョームのゲイバーのクイーンです。攻撃しないで……。……ザクロ=サン?」
ヤモトはなんとかアイサツを返したネザークイーンの腕を引いた。ネザークイーンは頷いた。
「ええ、ええ、大丈夫。ちょっとね、ビリッと来ただけ。ビリッとね」
見たことがないザクロの様子にヤモトは困惑した。
「ニンジャ? ニンジャ……ニンジャナンデ?」
そんな四人の元に呆然とした様子の血まみれのコートを着た妙齢の女性がフラフラとした足取りで現れた。