「そういえば、発信機をサイバネされた可哀想なニュービーがいるって話がIRC上で流れているんですけど、アレって本当なんですか?」
「何を言ってるんだドローカット=サン!」
センシティブな話から話題を変える為にドローカットが振った話題に驚いたシャドウウィーヴは信じられないといった顔でドローカットが見せたノート型UNIXを掴んだ。
モニターにはカタオキ=サンという鍼灸院を営むニュービーニンジャにスカウトのついでに発信機をインプラントした、施術したサージョン=サンが爆発四散した、もうブラックドラゴン=サンは懲罰騎士じゃないから怖くない、面倒だからシテンノに情報を漏らすな等の内容のログが流れている。
「シャドウウィーヴ=サン、俺にも見せろ」
シャドウウィーヴは底冷えするような声を聞いて、思わずUNIXを差し出した。ブラックドラゴンがUNIXを受け取り、画面をスクロールする。他のシテンノ達の目がドローカットに向いた。
「数日前からザイバツネットの一部で盛り上がっていたんです。やっぱりザイバツの思想的にヤバイ案件だったんですね」
「ドローカット=サン……お前はこのままUNIXでこの件について情報を集めろ。俺の方でも情報を集めてくる。ダークニンジャ=サン、裏が取れ次第、連絡致します」
「ヨロコンデー!」
「わかった」
トレーニングルームにドローカットの声が響き、ブラックドラゴンが席を外した。足音が遠ざかるとレッドゴリラがドローカットの肩を掴む。
「話題を変えるなら、もっとマシな話題を選べ!」
「ンアーッ!もう知ってると思ってたんですよぉ!」
「ブラックドラゴン=サンが懲罰騎士を辞めたからって、ここまでブレーキを外す事ってあるかしら?」
「サージョン=サンの悪癖は有名だからな……ブラックドラゴン=サンが現役でもやったんじゃないか?」
レッドゴリラにゲンコツされたドローカットは半泣きになった。
━━━
「アイエエエエエ!」
悲鳴がカブキチョの路地裏に反響した。叫んでいるのは、血まみれのコートを着た妙齢の女性。たった今フラフラと通りかかった市民だ。
「アイエエエエ! ニンジャ! ニンジャ!」
狂ったように悲鳴を上げ、座り込む。ネザークイーンはニンジャ洞察力を働かせた。コートの血は彼女自身のものではない。返り血? 少なくともこの女性に深刻な負傷は無いのだ。
「このケダモノ!この人を襲ってから早速犯行? 節操無さすぎるわ!」
「アバーッ……」
ネザークイーンは通り魔に指を突きつけた。通り魔は四肢をへし折られ、顔にくっきりとヤモトの拳の痕が残り、歯も全て折れている。まともな返答は望めないだろう。
「ダメよ、こんな時間にウロウロしたら。アータ、このケダモノに……」
「アイエエエ! ニンジャ! ニンジャ!」
「アーン!」
ネザークイーンは被害女性に屈み込んだ。ネザークイーンは目を白黒させて耳を押さえた。
「ニンジャに慣れて! お願い、今慣れて! もう通り魔はこのザマなの!」「アイエエエエ!」
女性は耳をふさぎ絶叫した。更に、ボロ雑巾のような有様で横たわる凶悪なニンジャに目をやり、一瞬黙りこむ……その後、何かに思い至ったかのように、二倍のラウドさで絶叫!
「アイエエエエエエエ! アイエエエエエ! アイエエエエエ! 嫌! 嫌ァー!」
「ちょっとアータ!」
「コワイ! コワイ! 今度こそ殺される! アイツだ! アイツだった! アイツなんだ! アーッ!」
「ナムサン!」
ネザークイーンはたくましい胸で女性をかき抱いた。
「大丈夫! 大丈夫だから」
「アイエエエ! アイエエ……」
「大丈夫。ね。大丈夫よ。ダイジョブ」
「アイ……エエエ……」
「もうダイジョブ」
ネザークイーンは女性の頭をやさしく撫でながらささやいた。
「ダイジョブ。もうあんな奴やっつけちゃったから。守るから。平気よ。ね」
「ア……ア……」
女性の背中をさすりながら、ネザークイーンは推察した。この返り血、どこか上の空だった佇まい。そして通り魔を目撃した途端に爆発した恐慌。重篤なニンジャリアリティショックのフラッシュバックだ。
おそらく彼女は一度通り魔に襲われた事があるのだ。それも、ごく近い時間に。服の血は彼女自身のものではない。彼女は殺人現場に居あわせたに違いない……。ニンジャスレイヤーは通り魔にトドメを刺しに近づく。ネザークイーンは我に返ったように叫んだ。
「あ、ダメッ! 拘束してちょうだいッ! 殺しちゃダメ!」
「……何だと?」
「そいつ、殺人鬼なの! 警察に突き出さないといけないの! 事情があンのよ!」
ニンジャスレイヤーは通り魔の頭を踏み砕かず、かわりに背中を踏みつけ、押さえつけた。
「野良ニンジャの類いか、オヌシは」
ニンジャスレイヤーは踏みつけながら通り魔を尋問した。
「アバーッ……」
「慈悲はない。マッポへ突き出すにあたり、オヌシの脊椎を……既に破壊されているな」
通り魔が呻く。ネザークイーンはニンジャスレイヤーに近づいた。
「感謝……その……身内が冤罪に巻き込まれてるの、ソイツのせいで。身柄が必要なのよ!」
「終わったんだよな! よし!」
別の声が飛んだ。シルバーキーだ。
「アンタらちょっといいかな、あのさ、人を探してるもんで。多分そこでノビてる阿呆に襲われたんじゃないかっていう、行方不明の人がいて……その人、バシダ=サンってんだが。サイバネ医師なんだけどさ……」
「ドーモ……バシダです」
被害女性が不意に名乗り返した。ニンジャリアリティショックから鎮静し、虚脱状態である。
「私がバシダです……」
「ブッダシット!」
シルバーキーは感極まって叫んだ。
「やったぜ! ツイてる! こんな話があるかい!? なあニンジャスレイヤー=サン!」
「……そうだな」
通り魔を踏みつけたまま、ニンジャスレイヤーは同意する。
「なあバシダ=サン。あのな、仕事を頼みたい。カネはある」
シルバーキーはバシダの前まで歩いて行く。
「ちょっと! いきなり何? ぶしつけよアータ、いたわりなさい!」
「必死なんだよォ」
ネザークイーンがシルバーキーの胸をドンと押し、シルバーキーが言い返した。
「……エート……」
バシダはぼんやりと問い返す。
「どんな用事で……」
「俺の脊髄に、サイバネで埋め込まれた発信器をだな……ウワーッ!」
シルバーキーは話し始めようとしたその時、シルバーキーの両腕にワイヤー付き手錠が嵌まり、勢い良く釣り上げられた!
「イヤーッ!」
「……ッ!」
釣り上げられたシルバーキーの顔に釣り上げたニンジャとは別のニンジャが顔を覆えるサイズの自撮りブロマイドを撃って貼り付け、口と鼻を塞ぐ!釣り上げたニンジャはブロマイドを剥がされないようワイヤーを上手に操ってシルバーキーに巻き付かせて拘束する!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
「ヌウッ!?イヤーッ!」
「イヤーッ!」
「ヌウッ!?」
ニンジャスレイヤーが跳び上がるが、更に別のニンジャがニンジャスレイヤーの行き先を読んでローションを噴射!ローションを踏んだニンジャスレイヤーが滑って落下!ドウグ社製フックロープを引っ掛けようとするも、これも読まれてローションで滑らされ失敗!
「確保出来たわよ!」
「撤退よ!撤退!」
「ニチョームのヨージンボーに見つかる前で良かったぁ!」
急な窒息によるパニックで気絶したシルバーキーを抱え、ブロマイドを分解した後、三人の女ニンジャは急いで逃げ出した。
滑って落ちたニンジャスレイヤーの身体は何かにぶつかり、落下途中で静止した。ニンジャスレイヤーは己の体を受け止めた存在を見上げた。
「怪我は無い?」
「大丈夫だ、ネザークイーン=サン。私に怪我は無いから降ろしてくれ」
「もうちょっと堪能したかったけど、しょうがないわね……」
降ろされたニンジャスレイヤーは黒炎で足裏にこびりついたローションを焼くと、誘拐犯を追って走り出した。
レッドゴリラの代わりにぶつけるニンジャの選定で悩みました。