「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
トレーニングルームにドローカットのカラテシャウトが響く。型をなぞり終えて一息ついたタイミングで休憩中のシャドウウィーヴが近付いた。
「どうしてカラテのトレーニングを?お前にはイアイドーがあるだろう?ドローカット=サン」
「基礎練習だよ、シャドウウィーヴ=サン。シャドウドラゴン=サンやヨモギ=サンの一件で私もちょっと焦ってるから、一旦基礎に戻って落ち着こうと思ってね」
「そうか、またトバシ・キリの時みたいに新しいワザを思い付いたのかと思ったぞ。刃物みたいに当たると斬れるカラテとか、素手でトバシ・キリを撃つとか」
ドローカットの回答にシャドウウィーヴは意外そうな顔をした。彼にはドローカットが焦る姿を想像出来なかったのだ。
「イヤーッ!」
ドローカットの指を内側に少し折りたたんだ構造のクナイ・ダートめいた変形チョップ突きから衝撃波が飛び、少し離れたトレーニングルームの端に設置されているトバシ・キリ練習用の大型バイオ木材ブロックに深々と傷が付く!
「シャウゥッ!」
ダッシュでバイオ木材ブロックに近付いたドローカットが五指を軽く広げ、流麗な動きでブロックの角に右手を一閃すると、角がスライスされて綺麗な切断面の板4枚と木片と化した!
「ヒョーッ!シャオッ!」
更に板の一枚を掴んで高く放り投げると、舞うように高くジャンプして追いかけ、鋭い手刀で両断する!
「う、美しい……」
シャドウウィーヴはその動きにこれまでに見てきたカラテのような研ぎ澄ませたカタナや武器のようなアトモスフィアだけではない、荒削りながらも伝統的な舞踊や白鳥の羽ばたきに似た雅なアトモスフィアを感じた。
「さっき言ったワザやカラテなら、荒削りだけどこの前の〝三日間〟でできるようになったよ。でも、イアイドーとトバシ・キリがあるから、わざわざ素手でやらなくてもねぇ……」
「そんな……これ程華麗なカラテなら、トバシ・キリのようにブラッシュアップして洗練させるべきだ。俺にもそのカラテを教えてくれ、一緒にこのカラテを形にさせてくれ!」
「シャ、シャドウウィーヴ=サン!?」
シャドウウィーヴはドローカットの乗り気じゃ無さそうな発言を聞き、思わず食い気味にインストラクションを頼んだ。ドローカットはシャドウウィーヴのテンションに戸惑っている。
「……ほう、ドローカット=サンよ!貴公、素手のカラテもいけるのか!」
「アイエッ!ド、ドーモ、ニーズヘグ=サン。ドローカットです」
「ド、ドーモ、シャドウウィーヴです」
「ドーモ、ドローカット=サン。シャドウウィーヴ=サン。ニーズヘグです」
いつの間にかトレーニングルームの入口にいたニーズヘグから声をかけられたドローカットは、驚き慌ててオジギした。シャドウウィーヴも慌ててオジギする。この様子だとニーズヘグは素手でトバシ・キリを放ち、カラテで深々と木材ブロックを斬りつけたり、板を両断した様子も見ていたのだろう。
「貴公はヌンチャク奪還任務の時に面白い物を見せてくれたからの。良い刺激になると思ってシャドー・コンに招待しようと思ったのだがのう……イアイドーだけでなく、カラテも出来るなら選手として出て貰おうかのう」
「ニーズヘグ=サン!?お誘い頂いたのは嬉しいですが、編み出したばかりのカラテなので、正直言って御眼鏡に適うかどうか……」
「そう謙遜するな、ドローカット=サン。素晴らしいカラテであったぞ。未完成ならば、イクサの中で磨くべきだ。サラマンダー=サンとダークニンジャ=サンにはワシから伝えておこう」
「アッハイ」
ニーズヘグは楽しそうな表情でドローカットにシャドー・コンへ推薦する旨を伝える。ドローカットは引き攣った表情でなんとか答えた。
「……のう、ドローカット=サン。今見せて貰ったカラテなんだが、名前は付いておるのか?」
「編み出したばかりなので、まだ名付けていません」
「そうか、それならシャドー・コンまでには考えておくのだぞ、楽しみに待っておるからな!もし名前が決まらないならワシが名付けるぞ!」
ニーズヘグは愉快そうにトレーニングルームを出て行った。
「……なんか凄い事になったね」
「そうだな……」
(((ノリで挑戦した南斗水鳥拳の再現、成功したのはいいけど、なんか大変な事になっちゃったなぁ……)))
グランドマスターからの急な無茶振りに、しばらく二人は放心していた。
━━━
「到着ドスエ」
エレベータが開き、ボンボリで照らされた短い廊下を渡る。護衛ニンジャが深々とオジギするのを横目に見ながら、ザイバツ・グランドマスターの一人、サラマンダーはフスマを開き入室した。
ゼンめいたタタミ敷きの間がサラマンダーを出迎える。四方の壁は黒く、中央にイロリがある。正座したキモノ姿の女が一人。
「ドーモ」
黒髪の女は三つ指をつき、頭を下げた。これはドゲザではない。奥ゆかしいチャドー作法である。女は顔を上げ、曇りガラスめいた、死んだ目でサラマンダーを見た。
「……サラマンダー=サン」
「ドーモ。ユカノ=サン」
サラマンダーは尊大にアイサツを返した。
「まことの名には慣れたか」
「……」
ユカノと呼ばれた女は無表情にサラマンダーを見返す。彼女は日本美に肉体を与えたかのような奥ゆかしい美貌の持ち主であり、着物の上からも、その胸は豊満であった。サラマンダーは言った。
「ところでイッキ・ウチコワシのアンサラー=サンは知らぬ男ではない。奴は元気にしておるかね」
「アンサラー=サン」
「そうだ。奴はドラゴン・ドージョーでドラゴン・ゲンドーソーの……そして俺の教えを受けた男」
サラマンダーの目が光った。だが、ユカノの表情は動かない。
「俺はお前がネンネの小娘だった頃を知っているぞ、ユカノ=サン。あれから少しはカラテを積んだか?」
「……」
「やはり記憶無しか」
サラマンダーは笑うと、ユカノにまつわる話をいったん打ち切り、イロリの端に腰をおろした。
「チャをくれんか」
「ハイ」
ユカノは頭を下げ、チャの準備を始める。天井からこのゼン空間にそぐわぬモニターパネルが降りて点灯した。トーナメント出場枠を賭けて行われたヴォルトマン対ドローカット戦の録画映像だ。
サラマンダーは顎を摩りながら、映像を凝視する。……対角のゲートが開き、二人のニンジャが入場、オジギ。戦闘開始だ。オジギを戻すと同時にドローカットが踏み込み、ヴォルトマンをガードごとチョップで斬り捨てた。ヴォルトマンはオジギを終えており、シツレイには当たらない。
「見事だ。ニーズヘグ=サンから五体をカタナと化すカラテと聞いていたが、これ程の斬れ味だったとはな」
すぐさま係員が踏み込み、ドローカットのボディチェックを開始する。凶器が見つからなかった事とサラマンダーがドローカットに素手でカワラを斬るパフォーマンスを行わせた事により、純粋なカラテでこれを成した事が証明されて会場が盛り上がった。
ユカノはコメントを返さない。サラマンダーはそれについて言及せず、画面をファランクス対アイアンリング戦の録画映像に切り替えた。
**南斗水鳥拳モドキ**
カラテを研ぎ澄ませ、五体を指に至るまでカタナと化して振るう南斗水鳥拳を模したカラテ。〝ゼンめいたイアイ〟等、これまでに培ってきた技術が結構入っている。
気合い入れたチョップ等ならともかく、通常の一撃一撃がカタナと化すカラテなんてそうそう無い為、初見殺し性能が割と高い。トバシ・キリも可能。あくまでカタナめいた斬れ味のカラテなので、カラテ強者なら普通に対応可能。
未完成のため荒削りだが、忍殺世界の貴族出身者や風雅を解する人に刺さるカッコよさがある。北斗の拳における優美にして華麗な拳は伊達じゃないようだ。
ニンジャなら普通にできそうなカラテな気がしますが、Wikiを調べても南斗聖拳的なカラテはムカデ・カラテくらいしか無かった為、ニンジャ的には盲点な発想なのかもしれませんね。
Q.ヨモギ=サンとシャドウウィーヴ=サンはどうなりましたか?
A.無事、お楽しみできました。
ダークニンジャ=サンの元にはヨモギ=サンが無限復活できるスゴイ級ハッカーであるという情報が届いてます。
Q.ヴォルトマン=サンはどうなりましたか?
A.すぐに治療を受けた為、爆発四散せずに済みました。
両腕を斬り落とされましたが斬り口が綺麗だった為、医療チームに繋げて貰えました。
Q.シャドウウィーヴ=サンのテンションがおかしくないですか?
A.「俺自身が詠われるべき存在となれば良いのだ! 師父の如く!」ってキョート・ヘル・オン・アースでモノローグとして語ってたり、ナイト・エニグマティック・ナイトで悪質なスカウト詐欺に引っかかったりしてたシーンを見てると、刺さる物を見ておかしなテンションになるくらいは普通にありそうな気がします。