大雑把にニンジャスレイヤー側ではこんな事が起こってました。
茶室風の選手控え室、アイアンリングのセコンドであるモミジは、UNIX画面に映し出されたIRC中継映像に釘付けになっていた。
リアルタイムで彼が目撃したのは、優雅に宙を舞うドローカットの姿だ。これこそが優雅。これこそが雅。彼もまたドローカットが宙を舞う姿に白鳥の羽ばたきを幻視した。
「う、美しい……」
ミラーシェードが両手チョップで斬り伏せられ、ドローカットが勝ち名乗りを受ける。それを聞いてようやくアイアンリングが反応して画面に目を向けた。
「ドローカット?ミラーシェードではないのか?」
「一方的にやられてたんだがな……ドヒョー際まで吹っ飛ばされてから跳んで追撃を躱して、両手チョップで相手を斬って勝っちまったんだ……見てなかったのか?凄い身のこなしだったぞ」
アイアンリングの疑問にモミジが答えた。画面ではドローカットが限界を迎えて崩れ落ち、ドクターストップが入りアイアンリングの不戦勝が決まる。その様子を見てアイアンリングは納得して頷いた。
「そうか……彼女も参戦していたのか」
「知っているのか?」
「ああ、よく知っている。彼女ならカラテの差を覆してもおかしくはない」
「とんでもないお嬢ちゃんだな……」
画面では客席からの決勝戦が無い事に対するブーイングを受けて、サラマンダーが自身とアイアンリングのエキシビションマッチを行う事を宣言した。リアルタイムで変動するオッズ表はとてつもない差になっている。
「ところで……お前は俺の事をどこで知った?……食い詰めたドージョー経営者で、たまたま空きができちまった奴がいるなんて話をよ」
「報せを得た……ある相手から。これは私にとって賭けだった。垂らされた蜘蛛の糸めいて」
「俺は蜘蛛の糸かい。へへへへ」
モミジは笑った。
「お前も俺にとってはそうさ。悪魔どの。カネも賭けてる。お互い、蜘蛛の糸よな」
「そういう事になるな」
アイアンリングは頷いた。
「……で、サラマンダーの手の内にある相手ってのは?」
「……恩人に託された娘だ。私はそれを……今の彼女は私を必要としていない。そのはずだった。そう強いて考え、己を安心させていたとすら言える。そんな私の未熟とウカツが、今の彼女の状況を作り出した」
アイアンリングの目に苦悩の色が滲んだ。
「私のせいで彼女は今、苦境に」
「要らぬ事を聞いちまったな……要するにお前が勝てばいいわけよ。今は」
アイアンリングは頷く。
「ああ。そうだ」
「……サラマンダー。ザイバツのグランドマスターニンジャだ。何かジツを隠してるかもしれんが、わからん」
「何も問題無い」
画面の中では賭け等の為のインターバルを取る旨のアナウンスが流れていた。
━━━
「スゥーッ!ハァーッ!」
(((クチュリエール……いや、サユリ=サンにはここまで助けられてばかりだな……)))
エネルギー補給の為のスシを食べ終えたアイアンリングは控え室から動かず、万全の態勢でサラマンダー戦に臨む為、アグラ・メディテーションの姿勢を取りチャドー呼吸でここまでのイクサで受けたダメージの回復を図った。
アイアンリングの脳内にネオサイタマが燃えるきっかけとなったラオモト=カンとの戦いからここまでの記憶がソーマト・リコールめいて流れる。思わぬ所で恩人の姿を見た事が彼に想起させたのだ。
━━━
トコロザワ・ピラー天守閣。黄金カワラ屋根の一角が吹き飛び、二人のニンジャが飛び出す。ニンジャスレイヤーとラオモト=カンだ。二人のニンジャがぶつかり合い、至近距離でカラテの応酬を繰り広げる。上空の凧に乗ったニンジャがレーザーを撃ち込む。
戦いはより激しくなり、ラオモトが身の内に秘めた七つのニンジャソウルを開放する。
ラオモトがビッグニンジャ・クランの力を使えばニンジャスレイヤーは速さで対抗し、ラオモトがイタミニンジャ・クランの力を使えばニンジャスレイヤーは無痛で斬り裂く。ニンジャスレイヤーのウカツな飛び蹴りをラオモトがサソリニンジャ・クランの対空カラテで迎撃する。
「ヌウウウウーッ!」
そして、ニンジャスレイヤーが屋根に叩きつけられた隙にラオモトは両手を横に広げた新たな構えを取り、その場で小刻みな跳躍を始める!
(((ナラクよ、あの構えは?)))
ニンジャスレイヤーが脂汗を滲ませながらニューロンの中で問う。
(((あの構えは見覚えがある……ツルニンジャ・クラン……? いや、トブニンジャ・クラン……? 不覚よ。思い出せぬ……だが、だがいずれにせよ足技には変わりない! 奴は左手を失ったがゆえ!)))
ラオモトは上空十数メートルの高さへ跳躍! そしてヘルカイトの胸板を蹴ると同時、遠方からのスナイパースリケンがラオモトの両足首を切断し、ヘルカイトの胸を貫いた!
「グワーッ!」
「サヨナラ!」
ヘルカイトを蹴りそこね、失速して墜落した上に足首から先を失った為、膝立ちの状態から未だ動けぬラオモト! ニンジャスレイヤーが迫る! 遂にラオモトを殺せる! ニンジャスレイヤーは疾走の勢いを乗せた必殺カラテを叩き込むべく、黒い炎と黒鉄のナックルに包まれた右腕を振りかぶった! ……だが!
(((フジキド! ならぬ! 後ろを振り向け!)))
「イヤーッ!」
ラオモトの瞳が細く鋭く……蛇のように変形する! 一瞬後、そこから致命的なフラッシュが放たれた! ナムアミダブツ! これはシックスゲイツの一人、ビホルダーが用いたのと同じ、コブラニンジャ・クランのフドウカナシバリ・ジツ!
「ムハハハハ! モズニンジャ・ソウルによる空中殺法は、いわばステゴマ!」
ラオモトは自らの作戦を強がりながら自画自賛した。足首から先を吹き飛ばされて尚、ラオモトの態度は変わらない。
「ニンジャスレイヤー=サン、貴様が油断し真正面から突っ込んでくるのを誘っておったのだ! どうれ、即死したか!?」
蛇目に変わっていたラオモトの瞳が元に戻り、ジツの反動による視界の白いもやも晴れてゆく……だが彼の目の前に現れたのは、ムーンウォークのまま進んでくるニンジャスレイヤーの後ろ姿!
「バカなー!?」
「イヤーッ!」
ガードも間に合わず、ヤリめいたバックキックがラオモトの顔面をとらえた!仰け反ったラオモトの両目にニンジャスレイヤーの指が突き立てられる!サミング!ラオモトの両目を潰す!そのままの勢いで命乞いすら許さずに一方的に殴り続け、最後は天守閣から蹴り落とした!
「ヌウウウウウーッ! おのれーッ! ニンジャスレイヤー=サン! このワシが! このワシがーッ!?」
ごく短い浮遊感の後、悪の牙城トコロザワ・ピラーの頂きから、デモリッション・ニンジャの体は仰向けで落下した。
━━━
「ニンジャスレイヤー=サン!……shit、このままじゃ……許してよね。これしかない」
首筋に針の痛み。瞬時に歪んだ活力が血中を駆け巡り、ニューロンを激しく刺激する。
「ヌウッ!」
ニンジャスレイヤーはバネじかけめいてジャンプしながら覚醒した!
「ナンシー=サン!?」
ニンジャスレイヤーはナンシーを見た。ナンシーは注射針を捨て、肩をすくめた。
「オハヨ」
「ここは……天守閣だな。そのままか。そうか」
ニンジャスレイヤーは素早く状況判断した。どうやら復讐を果たした事で気が抜けて意識を失っていたらしい。
「今打ったのはZBRアドレナリン……あなた、インプラントも無いし、ナチュラリストか何かだったら申し訳なかったけど。非常時だからね」
「いや、助かった。感謝する」
「時間は?」
「もうすぐ夜が明ける……悪いけど、もうひと頑張り要るわ。ここから逃げなきゃいけない」
「……」
「デッカーがこのトコロザワ・ピラーを制圧にかかっている」
「デッカーか」
「色々とイタズラさせてもらったし、そのせいかしらね?あと……」
「あと?」
「クチュリエール=サンから通信が来たわ。〝一発だけ援護射撃させて貰ったでヤンス〟ですって」
「……後で礼をしなければならないな」
「ええ、ここから逃げた後でね」
「……ナンシー=サン……私は……やったのか」
一瞬の沈黙。ナンシーは天守閣の屋根のへりを示す。踏み砕かれた黄金カワラが道めいて、ラオモトを蹴り落とすまでの道筋を無言で示唆している。ニンジャスレイヤーはそこを歩き、はるか下を見下ろした。
フジキドのニンジャ視力は確かに認めた。爆散したミヤモト・マサシ像。そして、それらに紛れて散乱する、惨たらしく四散した人体を。ラオモトの死のしるしを。
「……インガオホー」
同時に、周囲に展開する武装デッカーや漢字サーチライト、ヤブサメ、ケンドー機動隊のボンボリ……
「成る程な」
「そう。感慨に浸る時間はないってわけ」
ナンシーが隣に立った。ニンジャスレイヤーは答えようと口を開きかけた……その時だ。 遠方の空が光った。マルノウチ? ニンジャスレイヤーは目を凝らした。
スゴイタカイ・ビル! 炎につつまれている。高層階が爆発炎上したのだ。松明めいて燃え上がるスゴイタカイ・ビルに己の体験をフラッシュバックさせる時間もなく、今度はカスガ区で爆発炎上の火柱! KABOOOM!
「何が!?」
次は……トコシマ区! KABOOOM! ノビドメ! リョウゴク! KABOOM! KABOOM! まるで狼煙めいて、方々で次々に上がってゆく爆発炎上の火柱と黒煙! ナムアミダブツ! 一体この古事記アポカリプスめいた光景は!?
「わかっていると思うけど、私の計画じゃないわよ」
冗談めかして言ったナンシーの声は震えていた。するうち、さらにまた遠方で爆発炎上!
(((ザイバツ……ザイバツ・シャドーギルドはキョート共和国を牛耳るニンジャ組織だ。ザイバツニンジャはザイバツ所属のニンジャの事だ。ソウカイヤを遥かに超える規模を誇り、ソウカイヤと敵対していて、絶えずネオサイタマに攻撃を仕掛けている。ソウカイヤでは強くて有能なニンジャは大体、対ザイバツに当てられるな)))
炎上するネオサイタマを見るフジキドのニューロンにワタナベの言葉がよぎった。
━━━
トコロザワ・ピラーからの逃走。デスナイトとのイクサ。ナンシーを守る為の撤退戦。クチュリエールと共闘した武装新幹線。難民に紛れる為、クチュリエールと互いにインストラクションし合いながら身体を休めつつガイオンに潜伏した一週間……
フジキドの脳内にさらなる回想が流れる。
「オイオイオイオイ! どこの惑星から来たんだ!?」
「ドーモ、タカギ・ガンドー=サン。モリタ・イチローです」
「ドーモ、ガンドーです」
難民達に紛れたフジキド……モリタ・イチローはナンシー・リーの紹介でガンドー探偵事務所の門を叩いた。土地勘の無いガイオンでザイバツに迫る為、腕利きの探偵に助力を依頼したのだ。
それ以降、モリタはガンドーの助手として働きながら共にザイバツの足取りを追跡した。
「ガンドー=サン、いつものやつなんだが……もしかしたら、これが最後になるかもしれない」
「オイオイオイ……アナカ=サン、仕入れ元が捕まっちまったのか?」
「いなくなったんだ……取り巻き含めて。ソイツは同じリキシャードライバーだったんだが、もう三日も無断欠勤している。申し訳ないが、ヤクを仕入れようにも俺にはソイツ以外アテが無いんだ。」
「そういう事か……まあ、俺の方でも調べてみよう。ソイツの名前は?」
「タジモト=サンだ」
アジトで惨殺されたリキシャーギャング達をきっかけとした追跡調査の末、二人はヨロシサン製薬のバイオ鹿計画に辿り着く。
「何!?マツタケが……無い!」
「何を企んでいたのかは知らぬが、貴様はここで殺す。覚悟しろスカベンジャー=サン」
「ヌウウウーッ!」
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。フフフ……ここで会ったが百年目と言いたいところだが、俺には任務がある!」
「ニィイイイーッ……ドーモ、セントール……です……」
「ドーモ。ニンジャスレイヤーです。生きていたか、薄汚いジャングルの油虫め!」
「死んだと思ったか! 俺と俺のグエン・ニンジャのソウルは、あの程度の攻撃でへこたれはせぬ!……そして、悪いが貴様より一足早く救援物資はいただいたぞ……これだけのマツタケとバイオインゴットがあれば、俺の軍はあと三年は戦える」
「私をオヌシのごとき火事場泥棒のコソ泥と同じに見ないでもらおう。不快だ」
ニンジャスレイヤーはスカベンジャーを仕留めてバイオ鹿計画を失敗させる事に成功したが、同じく潜入していたフォレスト・サワタリとサワタリの下についたセントールを取り逃す。
ヨロシサン製薬関係者連続ケジメ事件、第十三階層のシリンダーハンマー施設による第十四階層以下の崩落を経て、ニンジャスレイヤーとタカギ・ガンドーはウミノ・スドという考古学者に辿り着く。
同じくウミノ・スドを追うザイバツ・グランドマスターのイグゾーションとガイオン中央拘置所でニンジャスレイヤーが衝突するが敗北し、バトルフィールド・セキバハラでスシ・トーチャリングを受ける。
ガンドーにより助けられたニンジャスレイヤーはバトルフィールド・セキバハラで再度イグゾーションと戦う。激闘の末、カラダチで麻痺したイグゾーションをガンドーの49マグナムが撃ち抜き爆発四散させた。
しかし、その代償は大きかった。ラオモト戦で無理をさせたせいで弱っていたナラクニンジャがイグゾーション戦での酷使により力を使い果し、休眠状態になったのだ。
その後、ダークニンジャからの襲撃で川に落ちて流され、流された先でサワタリ、ジェノサイドとの共闘、コフーン遺跡での聖なるヌンチャク強奪を経て発信機を無理矢理サイバネされた憐れなニンジャ、シルバーキーと出会い、ナラクの力を取り戻す為にネオサイタマに帰還する。
帰還したネオサイタマでシルバーキーにサイバネされた発信機の除去に成功し、ニンジャスレイヤー、ひいてはナラクのルーツであるマルノウチ・スゴイタカイビル地下でシルバーキーの助力を受け、銀のオベリスクを利用してナラクの力を呼び戻すことに成功する。だが、シルバーキーは「銀の鍵」を残して消滅してしまった。
力を取り戻したニンジャスレイヤーは聖なるヌンチャクの力もあってザイバツ・グランドマスターのダークドメインとワイルドハント率いるザイバツのネオサイタマ侵攻・駐留部隊を叩き潰し、ノビドメを救ったボンズにカイシャクを施し、新たな協力者ディープスロートの助力を受けてザイバツを裏切ろうとするニンジャ、アンバサダーの手を借りてガイオンに帰還した。
そして今、ドージョー「グリズリー穴」のニンジャ、アイアンリングの替え玉としてニンジャスレイヤーはサラマンダーとのイクサに臨もうとしていた。
ここまでにニンジャスレイヤー=サンがどういう戦いをこなしたのか一切描写してなかったので、大雑把に解説しました。
**カラダチ**
ニンジャスレイヤーがクチュリエールからインストラクションされたザムラ・カラテの凄いワザ。カラテでムテキ・アティチュードできる。クチュリエールと同じ反発のカラテ振動波を使用しているので相手を麻痺させられる。
イグゾーション戦ではバリキ・ジツによる人間爆弾や動物爆弾の飽和爆撃に耐える為にも使用されたが、物量の前に耐えられなかった。しかし、イグゾーションのカラテは余裕で受けきれる為、イグゾーションを麻痺させてガンドーの49マグナムが命中するきっかけを作った。