「ワオオオー!」
「コロセー! コロセー!」
「コロセー!」
「処刑!」
「処刑重点!」
「スゴイニンジャ!」
「コロセー! コロセー!」
「ドーモ、アイアンリング=サン。サラマンダーです」
「ドーモ、サラマンダー=サン。アイアンリングです」
観客達の凶暴な叫びの中、両者は睨み合い、互いにオジギした。
「ユカノを返してもらう。貴様を殺す」
アイアンリングの物言いにサラマンダーは一笑する。
「お前が現れた事を知ってから、この瞬間を心待ちにしておった。わざわざこうして舞台を整えてやった事、お前は俺に感謝してもよい」
「ほざけ」
「しかし、どうやってユカノを追ってきた? ちと不思議だ。お前はネオサイタマにおった筈。俺のもとへユカノが到着したのと、お前が俺の膝元へ現れたのはさほど時が開かんな」
「アンバサダーとかいうニンジャにでも訊け。サンズのほとりでな」
「……ほう」
サラマンダーが眉を動かした。
「ポータルか」
「グダグダ喋ってねえで早アバーッ!?」
ヤジを飛ばした客席のモヒカンの眉間をスリケンが貫通し、即死した。スリケンを投げたのはバンシーである。客席は静まり返る。バンシーはドヒョーへ両手を向け、手の平の不可思議なサイバネ機構を働かせた。アリーナ外の群衆の耳からドヒョー上の一切の音が絶たれた。
「お前がユカノに執着する理由はようわかる。ダークニンジャ=サンから聞いておるぞ。ドラゴン・センセイの死のあらましはな」
サラマンダーは言葉を切り、ニンジャスレイヤーを見た。彼は無言である。
「……そしてお前のカラテを見て、実際この目で理解することができた。よくぞ現れた。わが弟弟子よ」
「……ドラゴン・ドージョー」
ニンジャスレイヤーは呟いた。サラマンダーは獰猛に目を見開いた。
「ドラゴン・ゲンドーソーがお前に託したワザマエに用がある……チャドーにな!」
「不肖の弟子か。オヌシの存在などセンセイからは聞いておらん」
「ハハハハハ!」
アイアンリングの冷たい物言いにサラマンダーは呵々大笑した。
「それはそうであろう! だが、見よ。わざわざお前を待ってやった。ローシ・ニンジャの忘れ形見を前に、俺がお前のワザマエを晒し、そして一滴残らず吸い上げる! ドラゴン・ドージョーを俺の中で生かし続けてやろう!」
アイアンリングはジュー・ジツを構えた。その瞳は琵琶湖の湖底から引き上げられた木炭めいて赤熱している。サラマンダーの両腕がゆっくりと円を描き、アイアンリングのそれと似通ったジュー・ジツの構えをとった。
「来い、アイアンリング……いや、ニンジャスレイヤー=サン。俺の礎となれ」
「イヤーッ!」
低空ジャンプパンチでニンジャスレイヤーが先手を打つ!
「イヤーッ!」
サラマンダーは身を沈め、手の甲でニンジャスレイヤーの腕先を易々と逸らす。
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
次の瞬間、サラマンダーの手の平がニンジャスレイヤーの腹部を直撃! ナムサン! これはダーカイ掌打! 回転しながら吹き飛んだニンジャスレイヤーはドヒョーに叩きつけられる!
「ダメージを逃したか。流石だ」
咄嗟の受け身で立ち上がったニンジャスレイヤーにサラマンダーが迫る。その両腕は後ろへ引き絞られ、中腰姿勢に!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
突き出される両腕! ナムサン! これはダブル・ポン・パンチ! ニンジャスレイヤーは両腕をクロスし、ブレーサーで受ける! あまりに重いその打撃にガードが弾かれる! おお、なんたるワザマエか? これは実際、過去に彼が戦闘したデスナイトのカラテそのもの……!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
ジゴクめいた回し蹴りがニンジャスレイヤーの首を刈りにゆく! ニンジャスレイヤーは危うく側転回避!
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
「ヌウーッ!」
回転の勢いを利用しサラマンダーは続けて飛び蹴り攻撃!ニンジャスレイヤーは上体を反らし回避! そこへ襲いかかる二段目の空中蹴り!ナムサン! これはアルマーダ・マテーロ! ニンジャスレイヤーは肩でこれを受けるが、ダメージが通った事は否めない!
「イヤーッ!」
ニンジャスレイヤーは左腕でショートフック! サラマンダーはガード!
「イヤーッ!」
ニンジャスレイヤーは右腕で肘打ち! サラマンダーはガード!
「イヤーッ!」
「ヌウーン!」
ニンジャスレイヤーは左腕でチョップを繰り出す!サラマンダーは中腰の奇妙な防御姿勢でガード!その時、ニンジャスレイヤーの意志がニューロンを走り、左腕に雪崩を打った。
左腕が微細な震動を放つ。これはクチュリエールからカラダチと共にインストラクションされたカラダチ破りのカラテである!
(((カラダチで全身からカラテ振動波を出す感覚さえ掴めれば、相手のカラダチに逆位相のカラテ振動波をぶつけるカラダチ破りも全身でできるでヤンス。
でもこれ、試しに軽くやってみたら打ち消した時に凄い衝撃が来たから、使っても互いの腕が折れるとか割に合わない結果になりそうでヤンス。使うなら当たると死ぬヒサツ・ワザから逃げる時とかそういう時に使うのをおすすめするでヤンス。
そうそうザムラ・カラテの使い手とぶつかる機会は無いと思うけど、それでも世の中何が起きるかわからないから覚えておいて損はないでヤンス)))
絶対防御カラダチ。敵のカラテを吸い付け、あるいは弾いて身体の自由を奪うムテキ・アティチュード。インターラプターとサラマンダーのカラダチは吸い付け捕らえる作用を持ち、一方、クチュリエールとニンジャスレイヤーのカラダチは逆に拒絶して封じる作用を持っていた。いわばそれはプラスとマイナス!コインの裏表!正と負!作用と反作用!
二者のカラダチの作用は真逆であるが同じ原理にもとづいている。カラテ震動だ!サラマンダーの防御姿勢は微細なカラテ震動下にある。その振動周波数と逆位相の……即ちニンジャスレイヤー自身のカラテ震動をぶつけ、そのカラテノイズをキャンセルすべし!チョップがカラダチを打ち砕く!
「イイイヤアーッ!」
「「グワーッ!」」
ナムサン!破砕!サラマンダーの右腕が……へし折れた!
一方ニンジャスレイヤーもまた、左腕からおびただしい量の血を迸らせ、歯を食いしばってたたらを踏んだ。
「バカな……?俺のカラダチを……破る!?」
「ヌウウーッ……!」
目を見開いて驚くサラマンダーにニンジャスレイヤーが踏み込んだ!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
サラマンダーは再び驚愕! いかなる打撃が彼を襲ったのか? それは……チョップ! 肩に叩き込まれたのは、何の変哲も無いチョップだ!
「何ッ」
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
さらにニンジャスレイヤーの腕が閃き、サラマンダーの肩に叩き込まれる! またしてもチョップ!
(((よいかフジキド。いかに敵のワザが多彩で圧倒的であろうと、揺るがぬカラテがオヌシに満ちておれば恐るるに足らず。相手がワザマエで勝るならば肉を捨て骨となれ。骨のオヌシには何が残る? 問うべし。そしてチョップし、チョップせよ)))
ここまでのイクサでサラマンダーを自分以上のワザマエの持ち主であると認めたニンジャスレイヤーのニューロンには、故ドラゴン・ゲンドーソーのインストラクションが想起されていた。
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
三撃目のチョップがサラマンダーの肩、全く同じ場所に叩き込まれる! サラマンダーはガードを
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
ハヤイ! 四撃目! サラマンダーは腕を
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
ハヤイ! 五撃目! サラマンダーは側
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
ハヤイ! 六撃目!
「まだだ……チャドーを」
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
ハヤイ! 七撃目! サラマンダーは捨
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
ハヤイ! 八撃目!
(((何も……できぬ!)))
サラマンダーの時間感覚が研ぎ澄まされた。彼のニューロンに刻み込まれたワザマエのライブラリーが高速で検索され、この窮地を抜け出す手段を狂おしく探し求める。
だが! チョップが! ハヤイ!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
ただのチョップ! 基本の中の基本のカラテが!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
ハヤイ!チョップにチョップを重ねるニンジャスレイヤーは今やチョップという概念存在そのものであり、ただ一筋のチャドーの炎の軌跡であった! ニンジャスレイヤーはチョップであり、チョップがニンジャスレイヤーだ!
「イヤーッ!」ハヤイ! 「グワーッ!」 「イヤーッ!」ハヤイ! 「グワーッ!」
「イヤーッ!」ハヤイ! 「グワーッ!」「イヤーッ!」ハヤイ! 「グワーッ!」
「イヤーッ!」ハヤイ! 「グワーッ!」「イヤーッ!」ハヤイ! 「グワーッ!」
「イヤーッ!」ハヤイ! 「グワーッ!」「イヤーッ!」ハヤイ! 「グワーッ!」
「フジキド! ……フジキドーッ!」
ユカノが泣き叫んだ。バンシーはあまりの事に呆然自失の状態であり、ユカノはその抑制を振り払った。
「フジキド!」
「ドッソーイ!」「ンアーッ!」
ナムサン!試合を観戦する為の立体座敷から飛び降りようとするが、エリートスモトリが壁めいて立ちはだかり、阻む!
「イヤーッ!」ハヤイ! 「グワァァーッ!」
サラマンダーが膝をついた! その肩は鎖骨が割れ、斜めに裂けて、縦の傷が胸まで達せんばかりであった。サラマンダーは死力を振り絞り、見上げた。
右手を天高くかざすニンジャスレイヤーがサラマンダーを見下ろし、仁王立ちしていた。 今やチョップの嵐は去り、そこにいるのは最後の一撃を打ち下ろす鉄槌と化したニンジャスレイヤーであった。
そして、敗れたサラマンダー。無念さを顔に滲ませ、諦めきれずに立ち上がろうとするも身体が言う事を聞かない。ここまで来たのに目的のチャドー奥義を何一つ見ること叶わず、基本中の基本であるチョップ連打で殺されるのだ。納得いく筈がない。
「……イヤーッ!」
ニンジャスレイヤーは一撃を打ち下ろし、サラマンダーは爆発四散した。
━━━
「バカな。なんという事だ」
パラゴンはUNIXモニタに映るIRC秘密中継映像を前に呻いた。
「カラテでサラマンダー=サンを……しかも、チョップの連打で……バカな。バカな」
「これで、グランドマスターが三人やられた事になるわい。あのアイアンリングとやらの正体がニンジャスレイヤー=サンなら、唯一人のニンジャにここまでしてやられた事になるのう」
パラゴンはメンポを掌で覆い、繰り返す。同席者のニーズヘグが淡々と言った。
「それも、ギルドが此奴に対する警戒レベルを設定するを待たず、まるで嘲笑うかのように、ごく短時間のうちにな。大惨事よ」
「バカな……」
「インターラプター=サンが使っていたカラダチを破り、動揺した所をチョップ連打でサラマンダー=サンを仕留めて爆発四散……実物を見なければ信じられんのう」
「正体が誰であれ、これは大問題だ」
パラゴンは苦々しく呟き、頭を抱えた。
「まさか、あのニンジャの正体はニンジャスレイヤー=サンなのでは?」
「だが、チャドーを使っている様子は見られん」
「ううむ、ニンジャスレイヤー=サンではないかもしれぬ」
「しかし、サラマンダー=サンを仕留めた以上、ニンジャスレイヤー=サンでない方が問題では?」
「そうだな……やはりニンジャスレイヤー=サン……ニンジャスレイヤー=サンなのか?」
パラゴンは眉間に血管を浮かび上がらせた。だが瞬時に無駄な感傷を排除し、ニーズヘグを見た。
「ユカノの確保は」
「向かった」
ニーズヘグは頷いた。
━━━
シャドー・コンの翌日、意識を取り戻してからスシを食べ、調子を取り戻したドローカットは茶室でダークニンジャから準決勝後の顛末を聞いていた。
決勝戦が中止になった為、代わりにサラマンダー対アイアンリングのエキシビションマッチが組まれ、アイアンリングが勝利し、サラマンダーが爆発四散した所にダークニンジャ率いるレッドゴリラ以外のシテンノとシャドウウィーヴが突入。
ユカノを確保しつつ、サラマンダー派閥のニンジャ達をムーホン容疑で拘束。興奮で暴徒と化した観客達が暴れる中、アイアンリングの正体がニンジャスレイヤーと判明したが、取り逃した。ちなみに暴徒は全て殺害済みである。
「私、よく生きてましたね。トーナメント表がズレてたら死んでましたよ」
「そうか?まあ、そういう事にしておこう」
「どこで誰が聞いているのかわからないんだから、怖い事言わないでくださいよ……」
ザイバツがテックに疎く、盗聴の心配がほぼ無いとはいえ、ムーホンを疑われかねない物言いにドローカットは顔を青くした。
「冗談はさておき、指令を言い渡す。明日からしばらくの間、確保したユカノの接待と監視をするように」
「あの……私、ワビチャの作法とかさっぱりなんですけど……」
「マナー本をやるから頑張って覚えろ」
「うう……ヨ、ヨロコンデー!」
ドローカットはげんなりした表情で承諾した。
クチュリエールならカラダチを教える時に破り方もセットで教えるだろうなと思って書いたら、サラマンダーが可哀想な事になりました。
Q.なんでサラマンダー=サンはアイアンリングの正体を観客にバラさなかったんですか?
A.興行なので、ニンジャスレイヤーとわかって賭けが出来なくなると、勝っても支払われない等と疑われかねないから黙ってました。
ニンジャスレイヤーであるとバレたのは試合終了後なので、賭け金はしっかり支払われました。
Q.あの……サラマンダー=サンはハクチョウ・カラテをお使いにならないのですか?
A.カラダチの後に手加減した飛翔白麗をするつもりでしたが、カラダチ破りで動揺した所にチョップ連打されて死にました。
ニンジャスレイヤーの体調面で余裕がある為、あっさりとドラゴン・ゲンドーソーのインストラクションに辿り着きました。