キョート・ワイルダネス。ガイオンから数十キロ東に広がる、西部劇めいた不毛の荒野。
人々の居住する集落は存在しているが、徒党を組んだ悪漢がモヒカンめいて跋扈するマッポー的光景も見られる地域である。
そんな荒野で二人のニンジャがスナイパースリケン投擲用ガントレットのスコープを覗いていた。スコープを向けた先では野盗の群れが死体となって転がっている。
「あの……ドローカット=サン?随分とお上手ですが、もしかしてシャーテック出身だったりしますか?」
「違いますよ、スワスティカ=サン」
「冗談はやめてくださいよ……ホーミングスリケンは一朝一夕で身に付く技術じゃないんです」
スコープから目を離したスワスティカが顔を真っ青にしながらドローカットを見た。ドローカットも同じくスワスティカを見つめ返す。
「カラテで扱う以上、できると思えばできるものなんです。カラテとはニンジャのエゴ。物理法則の一つや二つは捻じ曲げられます」
「あー……やっぱりクチュリエール=サンですよね?聖典にあったマスター・ガントレットにホーミングスリケンを授けた時のインストラクションほぼそのままじゃないですか」
「エッ!?ガントレット=サン、そんな事までシャーテックの教科書に書いたの!?」
正体を察したスワスティカの発言にドローカットことクチュリエールは驚いた。
「マスター・クチュリエールのお言葉はシャーテックの史書にドージョーの歴史やワザのインストラクションとして載ってます」
「あっ、そうかぁ……言われてみれば、インストラクションだからそのまま載せるでヤンスね」
「あの……正体を当ててしまい申し訳ありません。この事は内密に致しますので、私の事は見逃して頂けないでしょうか」
スワスティカはドゲザした。ドローカットが最後のシャドー・コンで準優勝した事はザイバツ内で知られているのだ。
「うーん……ニーズヘグ=サンの下に付いてくれるなら良いでヤンス。アッシからも口利きするでヤンス。今ならオマケでハクチョウ・カラテの基礎、言うなればブレイド・カラテをインストラクションするでヤンス」
「ヨ、ヨロコンデー!派閥に入りそこねて無所属だったんです!是非やらせてください!」
クチュリエールはスワスティカの返答を聞き、満足そうに頷いた。
「じゃあ折角だから、アッシのスナイプも見ると良いでヤンス。潜入中で長い事投げてなかったから、そろそろ勘を取り戻しておきたいでヤンス。今からやるのは新しく覚えた技術も組み込んだ最新版のツヨイ・タタミ・スリケン……見るのはスワスティカ=サンが初めてでヤンスよ」
「エッ」
クチュリエールが指差した方向をスワスティカがスコープで覗き込む。移動中の野盗の群れだ。様子から察するに野良のニンジャも混ざっている。
「スゥーッ!ハァーッ!」
クチュリエールの両手にフラフープ大のチャクラムスリケンが生成され、引っかけた両手首を支点に猛回転を始める。荒野に風切り音を響かせながらチャドー呼吸で内なるカラテを高めると、回転するチャクラムスリケンが桜色の光を纏った。
「!?」
クチュリエールは困惑したが、自分が生み出したエンハンス光である事を悟ると投擲準備をそのまま進めた。上半身が極限まで捻じれ、少女の上半身は真後ろを向き、ニンジャ装束の下の筋肉が縄めいて隆起する。狙いは既についている。
「ハイーッ!」
クチュリエールの上半身が霞み、勢い良くチャクラムスリケンが投擲される。チャクラムスリケンは軌道上に桜色の残光を残しながら地平線に消えて行った。
スコープの先では音を置き去りにした速さで飛翔した二つのチャクラムスリケンが野良ニンジャを斬り捨てると周囲を転がり、跳ね回って斬り刻み、野盗の群れをネギトロ死体に変えていく。遅れて野良ニンジャが爆発四散した。あまりの光景にスワスティカは声が出せなかった。
マスター・ガントレット曰く、Inter City Ballistic SURIKEN……都市間弾道スリケンを体現したワザ。あらゆる武力・カラテを蜂起前に皆殺しにできるスリケンとはこれの事。的が脆すぎて動画で見たスゴイ・タタミ・スリケンと同じような絵図になっているが、投げる様子やチャクラムスリケンの速度を見れば一目瞭然だ。
スワスティカの脳に、網膜に、内なるソウルに創始者が讃え、聖典に記載したワザの発展系が深く刻まれた。
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キョート城、サウザンド・オジゾウズの間。決して狭くはないが、薄暗く息苦しい空間である。
長方形の部屋の壁を埋め尽くす不気味なオジゾウを、無数のロウソクが照らし出す。ロウソクは奴隷オイランが定期的に巡回し、火を絶やす事はない。 部屋の中央には真鍮の台座が備えられている。
台座のこちら側にはフジオ・カタクラ……ダークニンジャ。向こう側には二人。一人はニーズヘグ。もう一人はパーガトリーである。ともにグランドマスター位階の強大な力を持つニンジャだ。
二人のグランドマスターが無言で見守る中、フジオはまず手甲を外し、台座に載せた。次に、クナイ・ダートのベルトを外し、同様に台座へ載せる。パーガトリーが手を伸ばし、クナイのひとつひとつをあらためる。そして頷く。
次にフジオはワキザシ・ニンジャソードの帯をほどき、これも鞘ごと台座に載せる。そして、最後の武装……フジオと分かち難い凶運の刃、暗黒剣ベッピン。フジオは眉ひとつ動かさず、ためらい無しにこれをも手離した。彼の手が離れる時、微かな金属音の残響が部屋に木霊した。
「不安かね」
「いえ」
パーガトリーがうっそりと尋ね、フジオは首を振った。
「必要な事と理解しております。なにより私自身のカラテがありますれば」
「その通り」
パーガトリーは頷いた。ニーズヘグがフジオに目配せした。
「強制休暇中はこれを所持したまえ」
パーガトリーが別のニンジャソードを手渡し、フジオは恭しく受け取った。
強制休暇。一定以上の位階にあるザイバツ・ニンジャに等しく課されるシステムだ。休暇期間は六日間。この間、対象とされるニンジャは任を解かれ、己の邸宅に近づく事も許されない。六日間の抜き打ちの休暇期間は、叩いて埃の出るようなニンジャを炙り出すには十分だ。
偉大なるロードを除き、上位階級者の中でこのシステムから自由なのはパラゴンただ一人である。そしてパラゴンに私邸は無い。
ザイバツ・ニンジャには、ロードの目の届かぬプライバシーは存在しない……建前上は、そういう事になっているが、権謀術数に長けた者であれば、さまざまな抜け道を確保することは可能だろう。
パーガトリーが手渡したニンジャソードには発信機が仕込まれている。強制休暇中の私邸は預けた私邸の鍵を使ってギルドによって検められる。
だがフジオは問題視しなかった。疑いの種となるものなど、ありはしない。ニーズヘグの後ろ盾もある。強制休暇は叛意をでっち上げて失脚させるにはもってこいの場であるが、そのような短絡的行為に陥れられるフジオではない。
「せっかくの休暇だ。もとより貴公はロードの覚えもめでたき者。何も考えず、自由に羽を伸ばすとよい。自由にな」
最後にパーガトリーはフジオを空港エントランスめいてあらため、他の余剰装備が無い事を確認した後、言った。フジオが頷くと戸口にアデプトのニンジャが現れ、彼を送り出した。
このまま敢えてキョート城内に待機する事も不可能ではない。推奨はされないが、その程度の事であれば、ニーズヘグが押し通す事はできよう。
だがフジオにはガイオン地表で確かめておくべき事があった。ごく個人的な、他愛の無い理由と言ってよい。強制休暇もサイオーホースというものか……。
**サクラ・エンハンスメント・ジツ(見た目だけ)**
クチュリエールが転生者である事、ブロッサムのジツの練習の一環としてサクラ・エンハンスメント・ジツを身体に込めてもらった事、シャドー・コンでミラーシェードにモータルだったら試合のしばらく後に死ぬレベルでボコボコにされた事で体得してしまったジツ。
まだ慣れていない為、使うにはチャドー呼吸を行う必要がある。エンハンスメント・ジツと同様の使い方ができるが出力がかなり低い。現状ではほぼ見た目だけのジツ。
**ダブル・ヤバイ・タタミ・スリケン**
両手首でチャクラムスリケンを回転させる事でモーションを安定させ、本家のチャドー呼吸とツヨイ・スリケンの技術を組み合わせる事でツヨイ・タタミ・スリケンの威力を更に向上させたワザ。作中のサクラ・エンハンスメント・ジツの光はクチュリエールが全く熟練していない為、ただ光ってるだけだったりする。
元々オーバーキルだった威力が跳ね上がり、二枚同時投擲で更に実質倍になっている。最大チャージ時はラオモトでも全力で迎撃しようとする威力になる。